【NIKKEI BtoB マーケティングアワード 2022大賞受賞】Webサイトリニューアルから2年。見えてきたMRとの共創の形

【NIKKEI BtoB マーケティングアワード 2022大賞受賞】Webサイトリニューアルから2年。見えてきたMRとの共創の形

2021年7月に医療従事者向けメディア『Pharma DIGITAL(ファーマ デジタル)』をオープンした旭化成ファーマ株式会社が、「NIKKEI BtoB マーケティングアワード 2022」の大賞に輝きました。Webサイト刷新における、デジタルチャネルとMRの連携ポイントとは。リニューアルから約2年を経た現在の状況と今後の目標を、同社 デジタルマーケティングプロジェクト長の木村哲也氏、同プロジェクト内デジタルコミュニケーショングループ長の桐山泰明氏にお聞きします。

ステークホルダーが「つながる」メディアを目指して

―以前の「Medinew Digital Marketing Day(MDMD) 2022 Spring」の講演では、医療従事者向けサイトをそれまでのPull型サイトから『Pharma DIGITAL(ファーマ デジタル)』として会員制のPush型サイトへとリニューアルしたとお話しいただきました。Webサイトの改修では、どのようなことに取り組まれたのでしょうか。

桐山:PharmaDIGITALのコンセプトは「つながる」です。医療従事者と当社が提供する情報、そしてMRと「つながる」ことを目指しました。そして、コロナ禍においても必要な医療情報を届ける仕組みをつくること、デジタルをMRの新たなコミュニケーションチャネルとして確立することに取り組みました。

当社からの情報を届けるためには、そもそも医療従事者にサイトに訪問してもらわなければなりません。そのため、各医療従事者に興味を持ってもらえるようなコンテンツを用意することに注力しました。

また、当社の製品に興味関心を持っていただいた医療従事者に対しては、MRが把握し情報提供に活用できる仕組みも必要です。Webサイトのリニューアルを通じて、医療従事者とMRの非対面の接点を作ることも重要なポイントだと考えていました。

コンテンツの拡充とパーソナライズ表示で再訪を狙う

―コンテンツの見直しで実施された事柄について、具体的に教えてください。

木村:まずは、医療従事者に関心を持ってもらえるようなコンテンツの拡充に取り組みました。以前のサイトに掲載されていたコンテンツはほぼ製品情報であり、医療従事者にとっていわばカタログ的な位置づけでした。集客の目玉となるような「興味を惹く」コンテンツがなければ、定期的な訪問者やリピーターは増やせないと考えました。

そこで、市場調査をもとに医療従事者のニーズを分析し、施設インタビューや医局訪問、留学体験談など、新たな記事コンテンツを多数制作しました。その他、手術手技などの動画コンテンツも用意。一見、製品とは直接関連のないコンテンツばかりですが、導線の設計にも配慮し、ページを回遊してもらうことを狙いました。

また、各製品ページ、コンテンツの統一感も意識しました。リニューアル前はドメインさえ統一されていなかった当社の製品ページに「横串を刺す」ことに取り組みました。具体的にはデザインガイドラインを作成し、製品毎、疾患ページ間で差が出ないようにしました。

―コンテンツの表示方法についても、工夫を凝らされたと伺いました。

木村:各医療従事者のニーズに合わせたパーソナライズ表示ができるようにしました。特に医師は、診療科ごとに興味や関心を持つ領域が大きく異なります。例えば、骨粗鬆症の製品に関わるコンテンツは、救急科の医師にとっては大きなミスマッチ。自分に関連性の薄いコンテンツが表示され続けると、訪問者の満足度は下がる可能性が高いでしょう。

今回のリニューアルでは、会員制度の導入に合わせて、各医療従事者が興味のある領域を登録することで、それぞれに応じたコンテンツを表示できるようにしました。パーソナライズの第一段階といえると思います。

―会員化とコンテンツの拡充を行なったことで、どのような効果を感じていますか?

桐山:サードパーティーによる広告やMRによるプロモーションに、取り組みやすくなったと思います。広告などからの遷移先であるオウンドメディアが充実したことで、マーケティング施策全般を効果的に実践できるようになったといえます。

MRと作り上げた新たなコミュニケーションチャネル

―リニューアルでは、コンテンツの見直しと並行して、MRの新たなコミュニケーションチャネルの確立に取り組んだとのことですが、具体的にどのような取り組みを行なったのか教えてください。

桐山:まず、医療従事者から直接MRにコンタクトができる機能を追加しました。会員としてログインすると、担当MRが表示され、サイト上で直接連絡できるようになります。このコンタクト機能は、毎月安定したペースで利用されており、それまでMRが接点を持てていなかった医療従事者とも、新たにつながるきっかけとなっています。

また、MRから医療従事者に対して情報提供できる手段も用意しました。メールプロモーションツール『Shaperon』を用いて、メール送付を許諾いただいた会員の医療従事者に連絡することができる仕組みとしました。このメールプロモーションは、製品ごとのテンプレートを活用することで、作成の手間を最小限に抑えられるのも特徴です。

―MRによるメールプロモーションは、いわゆるメールマガジンとは異なるのでしょうか。

桐山:メールマガジンは、同じタイミングに、同じ内容を、全員に対して発信するものです。一方メールプロモーションは、MRの情報を活かし、相手の興味・関心に合わせて、送る時期や中身を変えることができます。しかもMRの個人名で発信されるので、医療従事者の信頼度や関心度も高まる傾向にあります。実際、MRのメールプロモーションは、メールマガジンと比べて開封率が倍になっているのです。

―従来とは、大きく異なるコミュニケーションチャネルです。MR側では、導入に戸惑いの声などはなかったのでしょうか。

桐山:確かに最初は戸惑いもあっただろうと思います。コンタクト機能もメールプロモーションも、対面での面談がメインだったMRにとっては、馴染みのないものだったと思います。しかし、コロナ禍が落ち着いた今でも、病院の面談はかつての水準には戻っていないという現状を鑑みれば、面談以外の手段の強化も、やはり必要だと考えています。

―MRに機能を利用してもらうために、心がけたことは何ですか。

桐山:施策の目的を伝え、具体的な使用場面を例示することです。「こういう機能がある」と紹介するだけでは、なかなか実際の使用にはつながりません。どういった思いでこの機能を作ったのか、どの営業プロセスでどのように使えるのかを丁寧に説明しました。そのような取り組みに加え、製品部から戦略に沿った活用方法を推進したこと、MRからの成功事例の発表などを通じで活用事例が増えていきました。
今ではMRからのメールプロモーションの数も増えました。

―MRが感じているメリットとは、具体的にはどのようなものでしょうか

桐山:各医療従事者が、いつサイトを訪問し、どのようなページを閲覧していたかという情報も、SFA(Sales Force Automation:営業支援システム)上には表示されますから、MRにとっても面談前の準備に活用できると考えています。

木村:さらに、MRのオウンドメディアに対する理解度が高まってきたことで、MRからオウンドメディアへ顧客を誘導するという流れもできつつあります。その逆に、Web上で製品に関心を持っていると考えられる医療従事者に対し、MRへフィードバックすることでより効率的かつ効果的な営業活動が実現しつつあるといえます。

―リニューアルから2年が経ち、MRにもオウンドメディアが浸透してきた現在の課題はありますか?

木村:さまざまなマーケティングチャネルをオムニ化し、メッセージの方向性を統一することです。現在は同じ製品でも、紙資材やMRの説明といったリアルコンテンツと、オウンドメディア上のWebコンテンツで、アピールしているポイントが異なることがしばしばあります。今後はそれらを揃え、全てのチャネルで同じメッセージを発信できるようにする予定です。

桐山:そのために重要なのが「チャネル設計」です。製品ごとのゴールイメージを定めた後、各チャネルにおけるメッセージの打ち出し方も含めて、初期の段階から全体のマーケティング施策を設計していきたいと考えています。

機械学習を活用し、営業活動のさらなる効率化を図る

―今後の目標を教えてください。

木村:「より適切な情報を、より適切なタイミングで、より適切な顧客に届ける」ことを目指しています。属性などの静的な情報では限界があるので、今後は機械学習を活用しながら、サイト上の回遊率やMRとのコンタクト数、メールの開封率といったWeb上の動的な情報をもとに、戦略を立てていきたいと考えています。

その狙いは、MRによる営業活動のさらなる効率化です。面談の数が減っている以上、面談の成功率を上げなければなりません。そのためには、その時々で確度の高い顧客を特定して優先的にリソースを配分し、各顧客に対して刺さる提案を用意する必要があります。

そこで、Web上のダイナミックデータから顧客の関心の度合いを算出し、意欲的な顧客に対してカスタマイズした提案ができるようにしたいと考えています。

桐山:ゆくゆくはさらに踏み込み、MRに面談対象となる医療従事者のリコメンド機能を追加したいと思っています。面談対象を選定する際の、1つの目安として機能するようになれば、より効率的に面談の成功率を上げることができるはずです。