第1回
では、MR育成における3つの課題から、どこに本質的な問題があるのか考察しました。その結果「なんのためにやるのか?」という目的をしっかり考えて行動に移す思考プロセス、マインドを定着させる必要性があるのではないか、との結論に至りました。今回は、MRトレーニングの考案など、MR育成に携わっている皆様に向けて、「MRに目的意識と思考プロセスを定着させ、成果に繋げるために必要な要素とは何か」というテーマについて考えます。
(ユームテクノロジージャパン株式会社 宮下雄介)
成果につなげるための3要素
自社製品の適正な処方を伸ばし、医療に貢献できるMRを育成するにはどうすればよいのか。まずはMRの目的を意識し、思考プロセスを定着させる必要があります。MR育成に欠かせない要素は、大きく分けて以下の3つがあると考えます。
- 問い
- マネージャー
- テクノロジー
これらはいずれも、成果に繋げるためには欠かすことのできない要素です。それでは、1つずつ考えてみます。
1)効果的な「問い」を組み込む
1つ目は、「問い」の有効活用です。「問い」は人の思考プロセスに大きな影響を与えます。
例えば、
「なぜMRをやっているのですか?」
「製薬企業はなんのために存在していますか?」
「医療用医薬品の存在価値は?」
などの根本的な「問い」は、MRのマインドセットに変化を起こします。
営業組織を強化するには、なぜ営業をしているのか考えることが重要である、とよく言われます。目先の利益ではなく、自身の営業活動によってどのような社会貢献が果たせるのか、会社のビジョンの実現に貢献できるのか、などを言語化することによって提案の質の向上やモチベーションの維持に繋がり、結果として営業組織の強化にも繋がります。
それでもなかなか「問い」が浸透、定着しないのは、習慣的に考えられるようになるまで「問い」が実施できていないから、そして「問い」とそれに対するMR自身の答えが言語化できていないから、ということが要因として考えられます。
ここで、2つ目の要素である「マネージャー」の役割が非常に重要になると考えます。具体的には、マネージャーからMRに対して以下のような対応を行います。
- 同行時や1on1の際に5分だけでもMRとマネージャーが一緒に考える時間を持つ
- オンライントレーニングの前後に、「問い」についてアウトプットできる場を設定する
- 日報などの共有項目に「問い」を設けるなど、MR自身が「問い」を考える機会を創出する
マネージャーには、本質的な問いや、発想を転換させる問いなど、MRに向けて継続的に質の高い問いかけをし続けていただく必要があります。MRに問いかけを行う機会は、日々のさまざまな場面にあると考えられます。
そして、MRが現場でマネージャーと対話を通して日々アップデートできるよう、本社側では効果的な問いを組み込めるように全体をファシリテーションする必要があります。
なお、「問い」は決してMR向けだけではなく、どのような立場の人に対しても有効です。
2)マネージャートレーニング
先述の通り、MRに目的意識と思考プロセスを定着させるためにはマネージャーの役割がとても重要です。マネージャーがその役割を果たせるよう、しっかりとトレーニングを実施し、パフォーマンスを発揮できる状態にする必要があります。
本社側は、そのトレーニングが不十分なまま、マネージャーにMR教育を丸投げしてしまっていないでしょうか。
必要なデータや情報をマネージャーに渡し、やって欲しいことを伝えるだけでは、当然マネージャーのMR指導内容やスタイルにばらつきが出てしまいます。指導のばらつきをなくし、MRの成果を一定以上のレベルにするには、やはりマネージャーを育成しなければなりません。
- マネージャー間の情報共有
- 実際のシナリオに基づいたケーススタディ
- 基本スキル
このほか、マネージャーが学習できるコンテンツはさまざまあるかと思います。特に重視していただきたいのは、2つ目の「実際のシナリオに基づいたケーススタディ」です。
例えば、各マネージャーが、実際にあったMR教育におけるケーススタディについて、自分ならどのような問いかけやフォローアップをするのか、また具体的にはどのような言葉を使うのか考える場を作ります。教育担当の方々は彼らのアウトプットを促し、そしてマネージャー同士でも共有することによって、マネージャーの目線が統一され、MRへのフォローアップの質が向上します。一過性のイベントにするのではなく、継続的に実施するとさらに効果が出てきます。
つまり、最初はある程度固定されたフォーマットもあると思いますが(場合によってはそれさえも、まずはマネージャーの現時点のアウトプットベースで作成することも有効です)、一方的にその通りの実施を強いるのではなく、あくまでもそれをベースとして、継続的にアップデートする仕組みの構築が重要と考えています。
このトレーニングにより、以下のような効果が期待できます。
- マネージャーのエンゲージメントを高める
- 継続的にマネージャーによるMR教育の質をアップデートできる
- 本質的な「問い」に対する回答を言語化する習慣を身に付けられる
マネージャーに任せるだけはなく、全体におけるマネージャーの役割を再定義し、どのようにファシリテーションするか、今一度検討しなおしてみてはいかがでしょうか。
3)テクノロジーの活用
最後に、欠かせないのがテクノロジーの活用です。テクノロジーの活用におけるメリットは、特に以下が挙げられると考えています。
- 効果、効率、コスト削減の3つのメリットを同時に享受できる
- データの取得、分析、活用ができる
世界的にも成功している企業はテクノロジーを最大限活用しています。
そして成功している企業は、いずれも自らが新しい取り組みを推進し、どの効果を出すにはどのデータが必要なのか、など、さまざまなトライアル&エラーを繰り返して、自社に合った活用方法を模索しています。
これは非常に重要な観点であると感じています。
昨今、研究開発においても「アジャイル」という考え方を取り入れる企業が増加傾向にありますが、製薬企業におけるMRの学習設計でも、この考え方は重要です。アジャイルとは、完璧なアウトプットを求めるのではなく、スピーディーにアウトプットと修正を繰り返しながら、継続的に改善をしていくことを意味しています。変化の激しいVUCAの時代、常に検証と改善を続ける必要がありますので、アジャイルな対応が求められています。
各製薬企業は、既存の知恵は取り入れつつ、自社に合った方法を継続的に見つける必要があります。
データを収集しながら、アジャイルに改善を繰り返すためには、テクノロジーが不可欠であり、収益を向上し企業の成長につながるデジタルトランスフォーメーションが実現できます。
3要素を効果的に組み合わせることがMR教育に重要
冒頭でも申し上げました通り、これら3つはいずれも時代が求めるMR育成には欠かせない要素であり、有機的に組み合わせて、効果を最大化させていく必要があります。MRの学習環境を構築する際、構築に関わる方は「学習者の目線」にも立って、全体を「設計」し、継続的に効果を出すための環境を構築していきます。
効果的な「問い」によってMRの思考プロセスに訴えかけ、それをマネージャーがしっかりとフォローアップし、そしてテクノロジーがアジャイルな成長を支える。この環境の構築によって本質的な課題解決に近付き、必要とされるMRが創出されると考えています。
最終回である次回は、本記事でご紹介した3要素の中でも基盤とも言うべきテクノロジーの活用について、さらに深掘りして結びとさせていただきます。
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【コラム】第1回 MRの本質的な課題がコロナ禍で浮き彫りに。現場の声からMRの今を見直す