6割が「誤情報混入」を不安視。製薬企業の生成AI活用促進の壁とは
生成AIの活用は、R&Dだけでなく、製薬マーケターの日々の業務効率化や新たな価値創造といった分野でも、さらなる変革をもたらすことが期待できます。Medinewでは2024年11月、製薬企業での文章生成AI活用の実態やニーズを把握し、今後の活用への課題を探るべく、アンケート調査を実施しました。
本記事ではその結果から、文章生成AIを使用していない製薬マーケターが感じている活用の課題や、活用の有無問わずに多くの製薬マーケターが感じている生成AIのリスクとその対策についてまとめます。
調査概要
- 調査期間:2024年11月17日~21日
- 調査対象:製薬企業勤務の方(デジタルマーケティング部門、営業企画部門、プロダクト部門、メディカル部門など)
- 回答者数:97名(途中離脱者含む)
- 調査方法:Webによるアンケート形式
▼アンケート結果資料をダウンロードする
サマリー
- 非活用群も生成AI活用のメリットはありそうだと感じているが、その半数は使い方が分からないために活用できていない
- 自身非活用群で活用意向の高い業務は「資料作成(67%)」「データ分析・サマリーの作成(58%)」であり、これらは自身活用群でも活用意向は高いが活用できていない業務であったため、業界全体で知識・スキル不足やリスク懸念から活用したい業務で生成AIを使えていない
- 活用の妨げとなっているリスクへの不安の払拭のためにリサーチをしたことがある人は全体の約3割にとどまる
- 製薬企業の約7割は、使用できるツールを制限することでリスクを回避する対策をとっている
生成AIを活用していない製薬マーケターは約3割。その理由は?
本アンケートでは、製薬業界全体の生成AIの推進・活用状況について、特に文章生成AIに絞って調査を実施しました。
Medinew読者の製薬企業勤務者に対し「自身の生成AIの活用状況」をうかがったところ、全体のうち27%が「自身は生成AIを業務に活用していない」と回答。そのうちの9割(全体の24%)が、「自社(所属企業)は生成AIの活用を推進しているものの、自身は活用していない」(自身非活用群)という結果が得られました。
生成AIのメリットは知っているが「使い方が分からない」
この自身非活用群に対して「なぜ生成AIを活用していないのか」をうかがったところ、「どの業務に使えるのかが分からない(48%)」、次いで「プロンプトの書き方が分からない」「なんとなく難しそう」(いずれも33%)と、生成AIを使用するための知識やスキルが不足していることが分かりました。
一方で、「活用をしても特にメリットがなさそう」と回答した人はわずか5%と、非活用群であっても生成AIを用いることのメリットは認識していることがうかがえます。
さらに、自身の知識やスキルという課題がクリアされたら、どのような業務に対して生成AIを使いたいと思っているのかを調査しました。その結果、「資料作成(67%)」と「データ分析・サマリーの作成(58%)」がいずれも50%超に。
前回の記事でお伝えしたように、これら2つの業務は、生成AIを既に自身で活用している群でも活用意向が高く、しかし同時に「活用意向」と「実際に活用しているかどうか」のギャップが大きく見られた業務でもありました。
つまり、活用・非活用の現状にかかわらず、製薬マーケターにとって「資料作成」「データ分析・サマリーの作成」といった業務は、生成AIを活用したい意向はあるものの、プロンプトの書き方が分からなかったり、後述するようなリスクへの懸念があったりするために、現時点では十分に活用できていない状況であることが分かります。
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懸念される生成AIリスクにどう対処する?
前回の記事では、生成AIへのプロンプトの書き方といった個人レベルのスキル向上の課題については、企業側からも研修やマニュアル化などでサポートする必要があると言及しました。
では、誤情報混入や情報漏えいといった技術的なリスクに対しては、個人や企業はどのように向き合っていけばよいのでしょうか。
「生成AI活用の際の不安について、リスクを回避する方法を自身で積極的にリサーチしたか」とうかがったところ、リスク回避の方法を調べたことがあると回答したのは、全体のわずか27%にとどまりました。特に非活用群に絞ってみると、リスク回避法を調べたことがあるのはわずか13%であり、活用群と20ポイントの差があることが分かります。
アンケートでは、情報漏えい、誤情報混入、使用許可の管理負担、権利侵害のリスクといった4つの生成AI活用時のリスクに対して、不安の度合いを0点〜100点の間の値(不安スコア)で回答していただきました。以下は、リスクごとに不安スコアの割合を帯グラフで示したものです。
4つのリスクのうち最も不安スコアが高いのは「誤情報の混入リスク(平均60.9)」であり、次いで「権利侵害のリスク(平均51.6)」「情報漏えいのリスク(平均48.3)」という結果に。活用群と非活用群では、全てのリスクで非活用群の方が不安スコアが高い結果となり、リスクへの不安が活用を妨げている可能性が示唆されます。
また、各リスクへの不安スコアを「リスク回避のためのリサーチの有無」で比べてみたところ、差は見られませんでした。よって、リサーチをしても、有用なリスク回避法は得られていないと考えられます。
企業の対策は「使用ツールの制限」
これらのリスクに対して、企業側はどのような対策を講じているのでしょうか。所属企業の生成AIのレギュレーションについてうかがう設問では、「使用できる生成AIツールに制限がある」への回答が74%と、群を抜いて高い結果でした。
つまり現時点では、使用できる生成AIツールを制限することで、情報漏えいや誤情報混入のリスクを低減させている企業が多いといえます。
「使用ツールの制限」は企業によってさまざまで、OpenAI社によるChatGPTは使用できないもののMicrosoft社が提供するCopilotなら使用OKであったり、社内限定仕様の古いバージョンの生成AIであれば使用OKであったり、自社で独自の生成AIツールを開発したり。業界全体のルールや傾向はなく、企業ごとに厳しいレギュレーションを敷き、その中で最大限に生成AIを活かせる方法を模索している段階にあるようです。
しかし、前回の記事でも示したとおり、特に活用群からは企業に対して規制の軟化が求められています。
リスク回避に対して、製薬業界でブレイクスルーは起こるのか。Medinewは、今後の業界動向に注目してまいります。
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