YouTubeやSNSの浸透により、動画コンテンツはマーケティングの手法として欠かせないものになりました。視覚や聴覚にも訴えことができる動画コンテンツを活用すれば、より多くの情報を顧客に伝えることが可能です。製薬業界でも、今後、動画マーケティングの需要はますます高まっていくと考えられます。本記事では、動画マーケティングのメリットや他業界の事例、製薬企業での活用方法など、把握しておくべき基礎知識を解説します。
動画マーケティングとは?
「動画マーケティング」は、実施する企業が年々増加している施策のひとつで、動画を用いて自社商品やサービスなどを発信するマーケティング手法です。
近年のインターネット環境の整備やスマートフォンをはじめとするデジタルデバイスの普及により、一般ユーザーは手軽に動画を視聴できるようになりました。そうした時代背景もあり、短時間で多くの情報を届けられる動画マーケティングへの注目度は上昇し続けており、今後ますます市場拡大が見込まれています。
サイバーエージェントが2021年に公開したデータによると、動画広告市場は2022年には5,497億円、2025年には1兆465億円に達すると予想されています 1) 。
動画マーケティングのメリット
動画マーケティングのメリットとしては「短い時間で伝えられる情報量が多い」「気軽に視聴してもらいやすい」「SNSで拡散されやすい」といった点が挙げられます。
短い時間で伝えられる情報量が多い
動画マーケティングは、テキストコンテンツに比べて、短時間で伝えられる情報が多いのが特徴です。その理由は、動画媒体が「視覚情報」「聴覚情報」「言語情報」の3要素から情報伝達を行えられることに起因しています。
たとえば、楽器を売りたい場合、テキストのみでは「どういう音が鳴るのか」との情報を表現するのが難しい一方で、動画なら容易にそれが可能です。また、テキストと写真だけでは伝わらない手元の細かな動きを見せたい時なども、動画であれば視覚情報で伝えることができます。
気軽に視聴してもらいやすい
テキスト媒体は情報発信の対象者が「能動的」に読み進めなければなりません。しかし、動画なら再生し続ける限りは「受動的」に情報を受け取ることになります。そのため、テキスト媒体に比べて負担がかからず手軽に視聴してもらえることから、より多くのユーザーに情報を届けられる可能性が高まります。
SNSで拡散されやすい
視聴者にとって有益であったり、わかりやすくインパクトがあったりする動画を制作すれば、SNSでのシェアによる拡散も期待できます。イングランドの動画制作会社Wyzowlが発表している調査データによると、ユーザーは他のメディアと比較して2倍もSNSで動画コンテンツをシェアする傾向があるとのことです 2) 。
製薬企業としては、疾患啓発サイトなどと併用して、一般の患者さん向けの動画を制作し、SNSによる拡散を狙うといった戦略が考えられます。
動画マーケティングのデメリット
製薬企業にとっても有益な動画マーケティングですが、実施にあたっては「動画制作にかかる時間とコスト」「制作会社の選定」といった点がデメリットとなります。
動画制作に時間とコストがかかる
マーケティング用の動画を1本制作するためには「企画→全体構成→撮影→編集→ナレーション録り」と、多くの工程が必要です。そのため、動画マーケティングには長い制作期間と多くの予算が求められるケースが多々あります。
近年では手軽に動画撮影ができるツールも多数開発されています。しかし、製薬企業の動画マーケティングに求められるクオリティを勘案すれば、そういったツールの採用は現実的ではありません。
動画制作会社の選定が難しい
動画マーケティングにおいては、動画そのもののクオリティはもちろん、「動画をどうマーケティングに落とし込むのか」という戦略設計も重要です。依頼する制作会社を選ぶ際にはマーケティングに精通している企業に依頼するか、戦略を担当する広告代理店や自社マーケティングの担当者との連携体制を構築しなければなりません。
さらに、製薬企業の場合、制作する動画には薬機法やプロモーションコードが適用されますので、それらにも精通した信頼できる専門家であることが望ましいといえます。
他業界の動画マーケティング事例
他業界の動画マーケティングの事例を、製薬企業でも参考にできるポイントと合わせて2つ紹介します。
freee株式会社
freee株式会社はクラウド会計ソフトなどを提供する企業です。同社ではYouTubeチャンネルを開設し、積極的に発信しています。個人事業主や中小企業の経営者をメインターゲットとして、ビジネスに役立つ情報や自社製品に関する説明動画などを公開しています。
同社は、ターゲットが抱える課題背景に即した内容の動画を配信することによって、チャンネル登録者数増や認知拡大を実現しています。たとえば、「独立したら確定申告が必要?現役フリーランス美容師から学ぶ、知っておくべき会計業務」「会社設立の流れを4ステップで解説!設立費用が安くなる裏技も公開!」など、ターゲットごとの課題をきめ細やかにキャッチし、「自分ごと化」しやすい工夫がされています。顧客のニーズに応える動画マーケティング手法は、製薬企業でも参考になる事例です。
サイボウズ株式会社 kintone
ソフトウェア企業のサイボウズ株式会社は、自社製品であるクラウドサービス「kintone(キントーン)」をメインにしたYouTubeチャンネルを開設し、動画マーケティングを行なっています。
Kintoneは企業における業務改善をサポートするクラウドサービスです。YouTubeチャンネルでは同プロダクトの概要や基本的な使い方、導入事例、アップデート情報などの動画コンテンツを公開しています。
近年では、同社のようにBtoBにおける自社製品の導入事例を、テキストコンテンツだけでなく動画で制作する企業も増えています。動画にすることで、導入効果をより具体的にイメージしてもらいやすくなります。
従来テキストコンテンツで作成していたような内容を動画で制作する事例は、今後製薬企業でも増えてくるかもしれません。
製薬企業での代表的な動画活用方法5つ
製薬企業でも、さまざまなシーンで動画が活用されています。代表的な活用シーンを5つ紹介します。
1. Web講演会
製薬企業の動画活用として、まず医師を対象としたWeb講演会が挙げられます。KOL(Key Opinion Leader)による製品関連の講演会、疾患関連の講演会は、医師が医薬品の有効性、安全性、治療の最新情報などを入手する重要な役割を果たすとともに、製薬企業にとっても自社製品の適正使用、認知を拡大させる重要な手段です。コロナ禍によってWeb講演会の需要が増え、今後は配信本数だけでなく、質の向上、ストレスなく参加できる仕組み、バーチャル空間の活用といった新しい試みなどが求められています。
2. オウンドメディアのお役立ちコンテンツ
製薬企業が運営する医療従事者向けオウンドメディアでも、動画が活用されています。例えば、医師向けに日常診療に役立つコンテンツを載せることで、オウンドメディアの集客が期待できます。動画であれば、テキストでは伝えにくい手術手技などもわかりやすく伝えることが可能です。また他にも、コンテンツ紹介や会員登録方法などオウンドメディアの紹介や、チャットボットなどオウンドメディア内の機能の使い方解説にも活用されています。
3. 製品紹介
自社医薬品の認知拡大、適正使用を促進するため、製品紹介にも動画が活用されています。特に新薬が発売されるタイミングには、医薬品の作用機序や効果などを解説した動画制作が考えられます。新しい作用機序の医薬品の場合、CGで見せることで医師に理解してもらいやすくするなど、動画ならではのさまざまな工夫が見られます。
4. 患者さん向け情報提供
動画マーケティングは、患者さんの治療支援や一般の方に向けた疾患啓発にも効果的です。診断された患者さん向けの動画には、疾患説明、治療説明動画(自己投与の手順、薬剤管理/廃棄方法など)が挙げられます。こうした説明は専門用語が多く、複雑な解説になりがちですが、動画にすることで患者さんの理解を促すことができます。一方、疾患啓発では、ドラマ風、アニメーション、医師の説明など、患者さんの興味を惹くさまざまな方法が考えられます。
5. ブランディング
製薬企業に限らず、企業ブランディングに動画が活用されることも多々あります。企業や製品に良い印象を持ってもらい認知度を向上させるために、「視覚情報」「聴覚情報」「言語情報」の3要素を用いて世界観を表現しやすい動画は、とても有効な手段です。製薬業界でも、公式 YouTubeチャンネルやTwitterで自社CMを公開している企業が多く見られます。
動画マーケティングを成功させるためのポイント
動画マーケティングでは、他のコンテンツマーケティングと同じように、ターゲティングや戦略設計を行い、公開後は施策の効果を分析し改善していくことが重要です。動画マーケティングを成功させるために求められる取り組みについて解説します。
目的に応じたKPI 設定・ターゲティングを明確に行う
製薬企業で動画マーケティングを実施する目的は主に「認知拡大」「商品紹介」「ブランディング」の3種類です。効果的な動画コンテンツを作成するためには、それぞれの目的に応じたKPI設定が必要となります。
例えば、認知拡大を目的するなら「視覚性が高く、動画時間が短い動画」、商品紹介やブランディングがKPIなら「自社の強みや他社との差別化ポイントを丁寧に解説する動画」などです。
Medinewでは、製薬企業のオウンドメディア運用におけるKPI設定の方法についても解説しています。KPIについて理解を深めたい方は、以下の記事もご覧ください。
オウンドメディアに不可欠なKPI/KGIとは?成果を上げる目標設定のコツ配信媒体を決める
動画マーケティングのKPI設定完了後、次は「どの媒体で動画を配信するのか」について決定します。
オウンドメディアへの掲載のほか、自社で活用しているならYouTubeやTwitter、さらにサードパーティでの活用も考えられます。
例えば、YouTubeやTwitterで一般の方や患者さんのインサイトを押さえた動画を配信すれば、拡散が期待でき、さらなる疾患の認知拡大に繋がります。サードパーティを活用した医師向けの動画配信は費用がかかるものの、より正確なターゲティング配信が可能です。
動画クリエイティブは「作って終わり」にしない
オウンドメディアの運営など他のマーケティング施策と同様、動画マーケティングにおいては、施策の初期段階で制作した動画がそのままでは成果に繋がらないケースも多々あります。動画を作って終わりにするのではなく、短期でデータ分析を行い、クオリティを改善していかなければなりません。分析すべきデータには主に以下の項目があります。
- 再生回数
- 再生時間
- クリック率
- 再生完了率
- 総再生時間
- 視聴したユーザーの属性
動画の制作会社選びの難しさについてはすでに述べましたが、自社で効果測定が難しい場合、分析項目を定期的にチェックし施策効果測定や改善まで含めて提案してくれる制作会社が望ましいと言えます。
動画マーケティングを活用して、自社製品の認知拡大・適正使用を図る
動画を活用したマーケティング手法は、今後も更なる発展が見込まれ、製薬企業でもその重要性は増していくと考えられます。動画マーケティングは文章や画像だけのコンテンツにはないさまざまなメリットがあり、適切に実施すれば自社製品の更なる認知拡大や適正使用の促進など大きな効果が期待できます。
本記事で紹介した動画マーケティングの基礎知識や事例、活用シーンを参考に、今の段階から取り組み始めましょう。
<参考>※URL最終閲覧2022.8.5
1) サイバーエージェント, サイバーエージェント、2021年国内動画広告の市場調査を発表, 2022.1.19,(
https://www.cyberagent.co.jp/news/detail/id=27195
)
2) Wyzowl, Video Marketing Statistics 2022,(
https://www.wyzowl.com/video-marketing-statistics/?past_survey
)