【座談会レポート】医薬品ライフサイクルにおけるデータ活用の実践とこれから(前編)

JMDCでは、医療機関から収集しているデータベースを田辺三菱製薬(株)と協業し、およそ半年かけて活用事例を創出する取り組みを進めてきました。今回の分析事例から得られた数字とともに、データベースの活用方法や今後期待されることなどについて、ファーマコビジランス部門に所属されているお二人を招いて座談会形式で紹介します。

▷参加者

(株)JMDC 寺島 玄氏:Navigator
(株)JMDC 但馬 匠氏(データ解析担当)
田辺三菱製薬(株) 島﨑 稔氏
田辺三菱製薬(株) 広木俊介氏

医療機関由来のデータベースの強みと弱み

寺島:冒頭、私の方から簡単にJMDCを含めて医療機関のデータベースについて解説いたします。

JMDCは、これまで健康保険組合由来のデータベースを匿名加工情報として製薬企業やアカデミアなどに提供してきました。最近は医療機関から収集しているデータベースの提供も始めています。
日本で利活用ができる商用データベースには、3つのカテゴリーがあります。まず健康保険組合から収集する保険者ベースのデータ、次に医療機関から、最後に調剤薬局から収集しているデータベースがそれぞれあります。こうしたデータベースは、すべてのリサーチクエスチョンの解決は難しいといえます。本来はリサーチクエスチョンから適切なデータベースを選択するのが正しいアプローチといえるでしょう。

今日はこのうちの、医療機関から収集できるデータベースについて、「データから何ができるのか」という点についてお話していきたいと思います。

利活用できるデータベース

医療機関のデータベースの強みは、レセプトデータだけではなくて、DPC調査データなどのデータも収集していること、収集対象としている医療機関内の情報であれば全受診患者のデータが取得可能であり、年齢に制限がないことが特徴です。JMDCでは、約440病院(患者数1,400万人)分の医療機関データをカバーしています。

一方で、最大の弱みは患者の追跡性です。医療機関を変更すると追跡できなくなるのが、残念ながら医療機関データベースの特徴のひとつです。疫学研究では、有病や発生の検討が難しい点もあります。

医療機関データ利活用の検討に向けてまず着手したこと

寺島:ここからは医療機関データの利活用の事例をご紹介します。田辺三菱の広木さんと島﨑さんを交えてお話ができればと思います。

島﨑:はい。まずJMDCさんからお話をいただいて、クリニカルクエスチョンをどうするかといった点について、ブレインストーミングをしながら検討していきました。

まずどの疾患領域の検討を行うか、どのようなクリニカルクエスチョンがあるかの案を出し、当該疾患領域の患者データがあるのか、アウトカムが取得できるのか等のフィージビリティを確認し、リサーチクエスチョンを固めた後、最終的に本検討としてモックアップをすり合わせながら出力結果をチェックした、という流れです。

研究の3ステップ

寺島:今回の検討ではどのようなことをポイントにして進められましたか?

島﨑:3つの視点から絞り込みました。第一に、医療機関データの特徴を活かせること。第二に、製薬企業の視点から関心のあるクリニカルクエスチョンであること。第三として、JMDCさんの医療機関データで実施可能であること。今回は第一の「医療機関データの特徴を活かせること」を絶対条件として考えていきました。

寺島:普段は「データからテーマを考えないでください」とよく話をしますが、今回は自分でもどうしようと思いながら進めましたね。あくまでも事例ということでお話ができればと思います。では、実際の研究領域のご説明をお願いします。

島﨑:対象疾患として、再燃と緩解を繰り返す炎症性腸疾患(IBD)を選ばせていただきました。DPCデータは、病院が変わらなければ外来データや再燃後の再入院中の詳細な情報が取得できます。

対象集団はUCに絞り込み、研究全体をデザイン

寺島:対象の絞り込みなど詳細をお話いただけますか。

島﨑:IBDの中でも症例数の多い潰瘍性大腸炎(UC)に対象集団を絞りました。クリニカルクエスチョンの候補としては薬物療法の効果比較や予後予測因子の評価等、その際に使用するアウトカムの候補としては例えば退院後の再入院の有無や再入院までの日数等を考えました。そのため、予備調査としては、入退院に関する情報や退院前後の薬剤投与情報を出力していただきました。

寺島:広木さん、他の研究や調査で応用できそうですが、プロセスとしていかがでしょう?

広木:そうですね。そもそもデータベースに見たいデータがあるのかどうかという部分がそのデータを掘っていくかどうかの最初の入口になります。これは他の研究や調査も同じですね。

寺島:但馬さんはいかがですか。

但馬:研究や調査デザインをどうするかがポイントで、そのために必要な定義の情報をあらゆる角度から出す感じかと。対象集団を一般化できるような形で定義することからデザインを固めていきます。

寺島:どこまで何をやるのか、とよく聞かれますが、やってみないとわからないことが多いですね。このプロジェクトでも何回もそういう壁がありました。データベース研究をやろうと思われる方は、どこまでやるか、というのは悩まれる部分かもしれません。

予備調査の取り組みとデータの限界点

寺島:予備調査で取り組んだことを、ご紹介いただきたいと思います。

島﨑:まずは患者さんの入院回数ですね。ぱっと見てわかるのが入院回数1回の患者さんが一番多いのですが、一方で少数ですが入退院を繰り返しているデータもあります。

患者当たりの入院回数

寺島:健康保険組合のデータベースでは、こういうデータの拾い方はできませんね。

但馬:DPCデータだから可能なことですね。病院データの項目を使った強みでしょう。

寺島:「病院が変わったらデータを拾えないのでは?」と悩んだこともありましたが、今回は再入院を追いたいということもあり、転院はひとまずおいておき、データの限界の中で調べましたね。

広木:そうですね。追跡ができないというリミテーションがある中での解析だったかとは思います。

寺島:転院については、健康保険組合の情報から参考データを取得してバリデートが必要かな、とも感じました。

但馬:入院日数は、疾患の治療を受けている方は長い日数で、短い日数は検査入院の患者さんが多いのかな、という印象があります。

島:潰瘍性大腸炎自体がこういう感じですかね。

広木:これまで潰瘍性大腸炎の治療薬の臨床開発に関わる機会がありましたが、診断後の自然歴を詳しく理解できていませんでした。再燃と緩解を繰り返しながら症状が重い時に入院するということは知識としてありますが、緩解後に再入院するまでの期間やどのくらい繰り返すのかは、今回JMDCさんに出していただいたおかげで初めて傾向がわかりました。

寺島:なるほど。このあとさらに予備調査ですね。

島﨑:再入院までの期間の平均では、入院が繰り返されるほどに次の入院までの期間が短くなる傾向が見えています。クリニカルクエスチョン候補として、維持療法の違いによりアウトカムに違いが出るかというものがあり、退院前後の投与薬剤の見えるかをしていただきました。ただ、やはりDPCデータということもあり、退院後のデータはまばらですね。

寺島:退院後は薬剤情報が突然なくなったり、病院が変わってしまったりといった可能性がありそうです。このあたりはデータの限界点であり、違うデータソースで補う検討が必要かもしれません。

本調査は生物学製剤とUCの再入院をテーマに

島﨑:予備調査の結果をふまえて本調査は、「生物学的製剤を投与することによりUCの再入院は減少するのか」と設定しました。

  • CQ:生物学的製剤を投与することにより、潰瘍性大腸炎(UC)の再入院は減少するのか?
  • RQ
    -P:潰瘍性大腸炎(UC)により入院した患者
    -E:入院中に生物学的製剤を使用
    -C:入院中に生物学的製剤を非使用
    -O:再入院

寺島:ここからは、分析を担当した但馬さんに、ご紹介いただきましょう。

但馬:はい。まず患者数を確認しながら、2018年から2019年に期間を設定しています。対象は入院の契機となった疾病にUCを含む患者、暴露は入院中の生物学的製剤、アウトカムは再入院としました。新規の患者さんを極力取るようにし、明らかに初回入院ではない患者さんを除外条件に設定しています。また、中等症以上からバイオ治療に入る傾向を考慮して組み入れ条件を考えました。
症例構成として最初は1,200例でしたが、「治療のために入院している」を条件とするとどんどん人数が減っていき、最終的に200名ぐらいになりました。

Figure1症例構成

寺島:医療機関からのデータを使うと追跡ができない、数カ月でガクッと落ちる話をよく聞きます。このぐらいの減少はよくある話かなと感じますが。

但馬:あまり病院を転々とする疾患ではなかったのかなと思っていて、2割から3割の脱落率を考えると適切ではないでしょうか。

広木:最初に約1,200例あったのが第1段階で約700例に落ちましたが、なぜだろうと。

島﨑:計画入院ですね。DPCデータは入院理由が取れるので、治療以外の目的で入院されている患者さんを除いた結果、ガクッと減りました。計画入院に該当する場合や明らかに初回入院ではない病名の場合や、24時間以内の死亡を除外条件に設定しています。

医療機関データベースの活用事例を振り返って

寺島:今回の事例作りについて、島﨑さんと広木さんから、ご感想をお聞かせください。

島﨑:データの切り出しや加工・集計・統計解析をJMDCさんに全部やっていただいたので製薬企業側の時間的な負担をかなり減らすことができました。統計ソフトのプログラムのスキルがなくても、実施は可能かと感じています。症例数等のフィージビリティや評価に必要な情報を出していただけるので、リサーチクエスチョンさえあればデータベース研究を始められそうです。

ただ、自分たちでデータを触らないと、データベース構造の理解は深まりにくいと思います。自分たちで勉強していかなきゃいけないのかなと。
最低限DPCやレセプトにどのような情報が入っているのか理解が必要ですね。入院データは充実しているが、転院後の追跡ができない医療機関データの特性を踏まえておく必要もあります。

広木:どういうデータが利用できるかある程度知っていないと、実際の仕事で問題に直面した時に使ってみようという行動に繋がりませんね。データベースの構造と入っているデータの特性は事前知識として必要かなと感じました。

寺島:データ分析の立場にいると、奥が深いと感じます。レセプトに記載されている項目ひとつとっても、保険の請求になった際に一般的に呼ばれている手術名・検査名ではなく別の名称になっていることもあります。調べたり聞いたりするプロセスを経ると情報を整理しやすくなりそうです。

広木:製薬企業の立場では、医療データの理解を深めるのは壮大なテーマであり、自分たちで行うのは難しい領域になりますね。

寺島:はい、まずは基本的なデータ知識が重要です。どういうデータが入っていて、リミテーションはどうなのかなどデータの特性は最低限押さえておく必要性があります。
また、調査テーマもとても重要ですね。データがどんどん出てくると新しいことを知りたくなり当初のテーマからずれてしまうことがあります。コンセプトを逸脱しない進め方が重要ですね。
データの構造や解析はJMDCで処理できるので、どんなことを知りたいかということと、両者でうまく役割分担をしてやっていけるかなと思います。

ありがとうございました。この事例は、どこかで発表できればと思っております。