今求められる、医師の期待に応える情報提供のための2つのコマーシャルモデルとは/ファーマIT&デジタルヘルス カンファレンス 2023レポート

今求められる、医師の期待に応える情報提供のための2つのコマーシャルモデルとは/ファーマIT&デジタルヘルス カンファレンス 2023レポート

2023年10月18日に開催された「ファーマIT&デジタルヘルス カンファレンス 2023」。コロナ禍を経て、医療従事者が製薬企業に期待する情報提供のレベルが上がっています。データ分析や生成AIなど、テクノロジーを活用した新しいコマーシャルモデル確立の重要性について解説された、アクセンチュア株式会社 ビジネスコンサルティング本部 ライフサイエンスプラクティス 日本統括 マネージングディレクター 濵田 晋太朗氏の講演をご紹介します。

大量の情報を受け取る医療従事者。製薬企業には患者に役立つ情報提供を期待

同社が2021年に6カ国(アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、中国、日本)で実施した、医療従事者を対象としたグローバル調査によると、コロナ禍を経て医療従事者のニーズや製薬企業への期待は変化してきていると言います。
※調査対象720名:総合診療医(25%)、腫瘍専門医(25%)、免疫専門医(25%)、循環器専門医(25%)。6カ国から各120名が参加

調査の結果、86%の医療従事者が、製薬企業が製品情報だけでなく「本当に役立つ情報」を提供するコミュニケーションに変化しつつあると感じていることがわかりました。
84%の医療従事者が、製薬企業から受け取るコンテンツがCOVID-19以前よりも適切であると回答しており、製薬企業がより有意義な医療従事者とのコミュニケーション実現に取り組んでいることが窺えます。

一方で次のような結果も出ており、医療従事者は大量のデジタルコンテンツを受け取ることで本当に役立つコンテンツを見失っている可能性が示唆されました。

  • 65%の医療従事者が、COVID-19の進展に伴い、少なくとも1社以上の製薬企業がデジタルコンテンツを「スパム」してきたと感じている
  • 77%の医療従事者が、COVID-19以前よりも製薬企業からの大量の情報を目にしている
  • 64%の医療従事者が、製薬企業から受け取るデジタルコミュニケーションの量が多すぎると感じている
  • 2/3の医療従事者が、招待される会議の量が自分の使える時間を上回っていると感じている


さらに10人に9人の医療従事者が「製薬企業からのコミュニケーションの質に差異が存在し、それが製品を選択するにあたっての意思決定に影響を与えた」と回答しました。このことから、医療従事者は最適なコミュニケーションを提供する製薬企業を評価していることもわかります。

この結果を鑑み「医療従事者は多様なニーズがあるので、ただデジタルを活用するだけでは足らず、真に求めているコミュニケーションやコンテンツを理解して情報を提供することが非常に重要」と濱田氏は話します。

プロダクトライフサイクルでプッシュ型、プル型に営業スタイルが分かれる

続いて、濱田氏は国内の製薬企業のコマーシャル領域の課題について3つ取り上げました。1つ目は「R&D費の高騰」です。コスト増により利益率が下降傾向にあり、次の創薬の費用を確保するには、コスト構造改革の必要があります。2つ目は「MR人員の減少」です。MRが減少する中、一人ひとりの生産性の向上が求められます。そして3つ目が「医療従事者とのコミュニケーションのデジタル化」です。

こうした課題を踏まえ、医療従事者のニーズに応じた情報提供と、効率的な営業活動を両立するコマーシャルモデルを再構築する必要があります。

濱田氏は、製薬業界が今後目指すべきコマーシャルモデルをプロダクトライフサイクルから考えるべきと提唱します。

「プロダクトライフサイクルを利益率、成長性でみると、ローンチしたばかりのアーリーステージの製品は利益率が低く成長性が高い、レイトステージの成熟した製品は利益率が高く成長性が低い傾向があります。成熟した製品は、MRを介さずデジタルを中心に効率的かつパーソナライズした情報提供で収益を最大化し、アーリーステージにある製品は、デジタルとMRのハイブリッドで情報提供することで生産性を最大化できます」と濱田氏は説明しました。

デジタル中心の情報提供はプル型、デジタルとMRハイブリッドの情報提供はプッシュ型の営業モデルと分類できます。

3つのアルゴリズムを用いて、最適なプッシュ型営業モデルを導く

プッシュ型営業モデルにおいて生産性を最大化するには、以下3つのアルゴリズムを使ったデータ分析により最適なチャネルを選択し情報提供することが必要だと言います。

①訪問効果
訪問によるディテールで処方意向が変わる施設や医師を特定する。過去の売上と訪問の有無、医師の特性をデータから分析する。

②リスク検知
競合の登場など競争環境が変わった時、売上減少リスクが高い施設や医師を特定する。約3ヶ月のスパンで、売上を時系列で予測し、ダウントレンドにあるものを発見する。

③mROI(Marketing Return On Investment)
投資対効果を最大化するマーケティング施策を特定する。自社、競合の過去データと処方枚数、投資額などから分析し、売上のベースラインと投資によるアップセルの見込みから、チャネルの予算やディテールの回数を求める。

「アルゴリズムで得られた結果から、効率的な営業活動の絞り込みができます。例えば、売上額が大きく訪問効果が高い医師や病院(①)には従来どおり訪問する、売上額が大きいが訪問効果が少ない場合(①)は、リスク検知した場合(②)のみ訪問するという方針です。そしてどのチャネルでの情報提供が適切なのか(③)、リソース配分の最適化をあわせて考えます」と濱田氏は説明しました。

プル型営業モデルでは、生成AIの活用が競争優位性を築くポイントに

プル型営業モデルでは、医療従事者向けサービスポータルや生成AIを利用したチャットボットを活用し、コールセンターなどを介さず、医療従事者自身で情報を取得し解決できるようにします。

講演では、製薬業界での生成AIの活用可能性について触れられました。 同社の調査によると、製薬業界では、業務プロセスに生成AIを活用することで、サイエンス分野は価値が高まり、営業やバックオフィス業務は自動化により効率化でき、競争優位性を確保できる可能性があるとのことです。営業、マーケティング領域での生成AIの活用は、医師からの問い合わせの自動化、リサーチ、資料作成の自動化などが見込まれます。

濱田氏は生成AIの可能性を踏まえ、データおよびデジタルテクノロジーを活用したプル型営業モデルのあり方について紹介しました。

「医療従事者向けサイトでパーソナライズしたコンテンツを提供する、チャットを介して必要な情報を提供するといった活用があります。チャットボットのエンジンは生成AIを活用し、バックエンドに医療情報、安全性情報、論文データベース、SRD(質問への模範解答)などを連携させておきます。これにより、医師の問い合わせに対する即時回答率は80%と試算されており、メディカルコールセンターへの電話問い合わせと比較して約2倍の向上が期待できます」

さらに、MRの業務のうち日報などの管理業務や質問回答の準備などノンコア業務をAIプラットフォームに任せることで、MRは医師とのコミュニケーションなどのコア業務に注力できるようになると濱田氏は期待しています。

新しいコマーシャルモデルを作る3つのステップと4つのケイパビリティ

講演では、医療従事者の情報取得に関する期待の変化にあわせて求められる製薬企業のコマーシャルモデルの変革として、2つの営業モデルが取り上げられました。

濱田氏は、新しいコマーシャルモデルを作るステップは、「まず自社の状況をデータを用いて把握すること、将来に向けたビジョンを作ること、変革ロードマップを策定しファーストステップを踏み出すことの3ステップだ」と述べました。

そして、製薬企業のケイパビリティとして求められることとしては「データに基づく医療従事者/競争環境の理解と戦略立案、それを医師の体験に落とし込むエクスペリエンスデザインとコンテンツ提案力、アジャイルかつ最適なチャネルでのオペレーション、統合されたテクノロジープラットフォームの4つ」と話し、講演を締めくくりました。