医師ターゲティングの現状と課題を打破する、新時代のデータベース活用法/MDMD2024Autumnレポート
製薬企業の情報提供活動には、近年、さらなる効率化と確度向上が求められています。2024年9月開催のMedinew Digital Marketing Day(MDMD)2024 Autumnでは、ミーカンパニー株式会社 データベース事業部の中村澪奈氏が登壇。医師ターゲティングの現状や、足かせとなっている課題を紹介した上で、解決策を提案しました。
医師ターゲティングにおける4つの課題
近年、製薬企業のMRの活動にはますます効率性が求められるようになっており、確度の高い医師ターゲティングが不可欠となっています。ターゲティングにおける課題は大きく次の4つに分けられると中村氏は指摘します。
①属人的判断
MRが重要なターゲットを選ぶとき、個人の経験・能力に依存していると、客観的な根拠に欠けてしまいます。加えて、本当に適切なターゲットにアプローチできているのかを評価することもできません。
②粒度の低さ
データの種類によっては、例えば売上データが地域単位であり、施設に直接紐づけられないなどの制約が生じます。そのため、施設ごと、医師ごとの情報の深掘りに苦労します。
③収集難易度
データの種類によっては、まとまったデータソースがないことがあります。例えば、自治体のWebサイトに必要な情報が公開されていることを把握できていたとしても、全国1,700自治体のWebサイトを1件1件確認するのは現実的ではありません。
④リソース不足
客観的分析が必要だと理解していても、分析できる人材や予算、外部データの確保が難しいことがあります。
4つの課題をデータベースの活用で解決
「既述の医師ターゲティングの4つの課題はデータベースの活用で解決できる」と、中村氏は同社のSCUEL DATA SERVICEがそれぞれの課題に対応していることを示しました。
中村氏は、「SCUEL DATABASEは、常時1,000項目以上のデータを提供するデータベースであり、項目の幅の広さが強みです。Webや紙で散在しているデータを収集し、それをクレンジング、統合処理まで行ったものを利用できます」と説明しました。
続けて、同社がSCUEL DATABASEを核として複数展開している支援サービスの中から、医療機関が発信する情報を検知する「SCUEL RD RESEARCH」、そしてターゲット施設の属性分析をする「SCUEL ANALYTICS」の2つのサービスについて、製薬企業への導入事例が紹介されました。
医療機関Webサイトの掲載内容から訪問先を選定
1つ目のSCUEL RD RESEARCHは、医療機関Webサイトから特定のキーワードを解析する独自のサービスで、例えば難病診療、希少疾患などを診察している施設を発見するのに役立つと中村氏は話します。
SCUEL RD RESEARCHでは毎年、Webサイト保有の全医療機関のURL調査を行っており、2024年8月時点で全国66,000施設を把握しています。加えて、新規開設施設の追加や既存施設のエラー対応など、月次のメンテナンスを行なっていると、中村氏は調査対象施設の網羅性について言及しました。
収集可能な情報は、診療内容、検査内容、専門外来、診療実績、医療機器の保有などです。このデータサービスを活用すると以下のような分析が可能になります。
- 希少疾患の診療可能性がある、あるいは診断可能な施設の探索
- 診療科が複数にまたがる疾患の訪問先選定
- 専門外来や特定の検査を行っている施設リストの作成
特定の測定部位における検査実施施設を短期間で抽出した事例
ある製薬企業の代謝系疾患領域のコマーシャルエクセレンス部では下表のような目的や課題を抱えており、検査施設のリスト化についての相談がありました。
目的 | ターゲットの解像度を上げて営業効率化 (同じ検査方法でも測定部位によって実施施設が異なるため、部位レベルで施設の解像度を上げて営業効率を高めたい) |
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課題 | 検査施設の一覧が存在しない (各施設のWebサイトに記載されていることは把握できているが、最新の全URLを収集するリソースが社内にない) |
期待 | 対象となる複数の部位の検査を行っている施設を1カ月以内に網羅的に調査してリスト化する |
そこでミーカンパニーは、全国66,000施設のWebサイトから検査名を検知し、検知ページ内に各部位の記載があるかを判定する方法を提案しました。テストレポートを経て、本番調査は1カ月という短期間で実施。全体でのヒット施設数と各施設の情報を、深掘りしやすいフォーマットにまとめました。
中村氏は、「コストを大幅に削減し、短期間で当初の期待以上のリスト作成が実現できた」という製薬企業の担当者の声を紹介し、「他領域でも同様の調査を検討いただいており、特定の検査や外来への調査を今後も高い精度で実施、提供していきます」と説明しました。
対象施設の属性の群間比較から新規ターゲティング軸を発見
2つ目のSCUEL ANALYTICSは、ターゲット施設の属性を分析するサービスです。分析したい対象施設を2群に分け、データベースの各項目を用いて比較検証することで、対象施設が他の施設と比較してどのような特徴を持っているのかをあらゆる角度から調査が可能です。さらに将来予測や新たなターゲティング軸の発見まで行えます。
各群の設定は「自社製品が採用されている施設と、採用されていない施設の属性・特徴を知りたい」など要望に基づいた変更が可能です。
定型分析では、ミーカンパニーであらかじめ組んでいる項目と分析方法で2群を比較しますが、より個別の要望にあわせたアドホック分析も可能となっています。
調査結果レポートには、データカテゴリごとにA群とB群の差が大きかった項目、A群とB群の施設実数が含まれ、ターゲットに設定した施設群が他の施設群と比べてどんな特徴を有するのかを多角的に確認可能です。特徴が把握できたら、類似した属性のターゲット施設リストをデータベースから出力して作成し、自社製品と相性が良いと予想される施設への営業に注力することができます。
経験知を裏付ける根拠、そして相反する気づきを得た導入事例
ある医療機器メーカーの診断機器マーケティング部では、下表のような目的や課題を有していました。業界経験の長い企業で長年の経験にもとづいた勘は社内に蓄積されていましたが、主観を入れずにターゲット像を明らかにするためのデータを揃えるべく、ミーカンパニーが支援に入りました。
目的 | ターゲット施設の選定 (新製品の早期導入施設をもとに、製品と相性の良いターゲット施設を定義し、営業リソース配分を最適化する) |
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課題 | 経験に基づく勘はあるが、根拠を示せない (客観的に分析ができる人的リソースやデータがない。膨大なデータを購入する予算がない) |
期待 | 自社製品導入施設との特徴を、主観を入れずに特定する 本当に必要なデータだけに絞ってリストを購入する |
まず、メーカーの保有する製品導入施設リストを同社のデータベースと突合し、未導入施設の中からランダムサンプリングを実施した施設と比較するアプローチを、ミーカンパニーが提案。有償のレポート報告において、製品採用群とランダム対照群の各100施設を抽出した定型分析を実施しました。
その結果、メーカーの有する経験知からの勘とは異なる結果にもかかわらず、納得のいく属性条件が明らかになりました。メーカーは、属性条件に当てはまる施設リストの購入を決断。
中村氏は「残市場がまだ大きいことを知ることができた」「社内を説得できる確度の高い施設リストを入手できた」と、メーカーからの声を紹介しました。
ターゲティングの属人的判断を脱却する新時代へ
本講演では、医師ターゲティングにおいて、散在した収集の難しいデータを統合した新たなデータベースの分析を用いるアプローチが提示されました。同社には、製薬企業の営業の効率化を目指したデータベース利活用に取り組むメーカーの事例が蓄積しつつあります。
経験知や主観に頼る属人的判断を脱却し、データドリブンでの医師・医療機関ターゲティングを進めることにより、ターゲティングの確度向上や新たなマーケティング軸の発見につながることが期待されます。