現役医師の本音と不満。製薬企業へ求める6つの提言/MDMD2023Summerレポート
2023年6月に開催したMedinew Digital Marketing Day(MDMD) 2023 Summer。株式会社医薬情報ネットの笹木がモデレーターを務め、3名の現役医師をゲストとして迎えたセッションでは、医師の情報収集の現状を伺いました。本記事では、情報源の使い分けや製薬企業のWebサイトについて感じていること、MRとの関係性などについて本音を伺う中で得た6つのfindingsについて紹介します。
- パネラー
- 1. 医師は限られた時間の中で、欲しい情報をピンポイントに収集したい
- ――オンライン、オフライン問わず、診療や薬剤に関する情報を調べる方法はたくさんありますが、どのように情報源を使い分けていますか?
- ――薬剤師とはどのように情報交換をしていますか?
- 2. 製薬企業のWebサイトは欲しい情報までのアクセスを簡便にする工夫を
- ――製薬企業のWebサイトは、どういった目的で利用しますか? また、利用する際に重視する要素を教えてください。
- 3. 見たいコンテンツがあればポイントの有無は関係ない
- ――医師向けメディアはポイントが付くものもありますが、製薬企業のWebサイトはポイントが付けられません。どうすれば、それでも見たいと思われますか?
- 4. メールでの情報提供はパーソナライズと一目でメリットがわかる工夫が必要
- ――製薬企業からのメールでの情報提供についてはどのように思われますか?
- ――製薬企業のWeb講演会は、どのような案内から登録することが多いですか?
- 5. 自社製品だけでなく、情報に精通したMRとは積極的に関わりたい
- ――どのようなときに、MRとの面談の必要性を感じますか?関係を継続的に構築したいと考えるMRとその理由について教えてください。
- ――二極化しているということですね。MRには特にどういった情報を把握しておいてほしいと思いますか。
- 6. 患者に良い治療を提供するために、医師と製薬企業はパートナーであるべき
- ――もしMRがいなくなったら、情報収集にはどのように影響がありますか?また、製薬企業へのメッセージをお願いいたします。
パネラー
京都大学医学部附属病院 呼吸器外科 講師 濱路 政嗣 先生
イデリアスキンクリニック代官山 院長 佐治 なぎさ 先生
青梅市立総合病院 呼吸器内科 日下 祐 先生
1. 医師は限られた時間の中で、欲しい情報をピンポイントに収集したい
――オンライン、オフライン問わず、診療や薬剤に関する情報を調べる方法はたくさんありますが、どのように情報源を使い分けていますか?
濱路先生:私は外科なので薬剤に関する情報を調べることは少ないですが、手術手技や手術デバイスに関することを調べることがあり、主に先輩や同僚の医師から情報を得ています。薬剤に関しては、処方経験が豊富な呼吸器内科の医師から実際に薬剤をどのように使うのか、注意点を聞くことが多いです。
同僚や知人医師からの情報収集は、その場で疑問を聞いて返答があるため、情報のやり取りが一方向ではない点がメリットだと思います。
佐治先生:同感です。知人経由の情報収集は双方向性があり、新たな発見やディスカッションができるため非常に有意義だと思います。薬剤の患者への使用感に関しても知人医師から情報を得ています。
一方で、網羅的な情報収集をする場合は、エムスリーやケアネットなどの医師向けメディアを利用しています。情報がテキストベースでまとまっていて、好きな時間に見られるので便利です。動画も見ますが、時間の制約があるため、テキストでまとまっているのはありがたいと感じます。
このように、最新の治療や薬剤の基本的な情報はオンラインで収集し、実際に薬剤を処方したときの使用感は知人に尋ねるなど、情報収集の方法を使い分けています。
処方する際には薬剤のメリット、デメリットを総合的に見て判断する必要がありますが、製薬企業は他社薬剤との比較については情報提供できないので、同業者からの生の声に頼らざるを得ないと思います。
日下先生:呼吸器領域では、特に肺がん領域で新薬が毎年登場しているため情報収集が重要です。使用経験がない薬剤について同僚に聞くこともありますが、自分が相談される立場になってくると情報源に困ることがあります。
情報を迅速にキャッチするため、医師向けメディアのメールマガジンなどで肺がんの情報を積極的に収集しています。ガイドラインなどの臨床にすぐ役立つ情報、今後新薬として出てくる臨床試験の情報もチェックしています。
――薬剤師とはどのように情報交換をしていますか?
日下先生:院内の薬剤師経由で製薬企業からの情報を受け取ったりしています。また、外来で予期せぬ副作用などで困ったときに相談することもあります。すぐにドラックインフォメーション(DI)を調べてもらえるので、その間にほかの患者の診察ができ、とても助かっています。
濱路先生:病棟薬剤師は、特に外科病棟では大活躍です。一般的に外科医は薬剤の知識が不足しているので、薬剤師にレコメンデーションを聞いたりすることもよくあります。病棟薬剤師は入院中の患者の話もよく聞いてくれているため、その点でも貢献していただいていると実感します。
佐治先生:私も総合病院に勤務していた頃は、病棟の薬剤師と情報提供を含めディスカッションをしてもらっていました。現在はクリニックなので、情報提供の面での関わりは少なくなりましたが、COVID-19の影響などで薬剤供給の問題が大きいので、連携する機会は多いです。
2. 製薬企業のWebサイトは欲しい情報までのアクセスを簡便にする工夫を
――製薬企業のWebサイトは、どういった目的で利用しますか? また、利用する際に重視する要素を教えてください。
日下先生:正直なところ、製薬企業のWebサイトを見ることはあまりありません。調べたい薬剤があってDIを検索する過程で、製薬企業のサイトに行き着くこともありますが、会員登録まではしていません。会員登録してまで見たいと思えず、挫折してしまいます。MedPeerには登録しているので、同じIDを使えるmedパスが導入されていれば、そのまま利用することもありますが、1年間で数回見たかどうかくらいです。
濱路先生:外科医にとって製薬企業のWebサイトはあまり縁がなく、周りの外科医もほとんど利用していない印象です。
佐治先生:私も製薬企業のWebサイトをしっかり見ることはあまりないです。一つは会員登録が手間だからという理由です。大体3〜4社に登録していると思いますが、情報が多すぎて目的の情報を見つけるのに手間取ってしまいます。外来の合間に迅速にDI周りの情報を知りたいときは、結局はGoogleで検索して出てきた添付文書の情報で十分となりがちです。
日下先生:製薬企業が一生懸命にWebサイトを作っているのはわかりますが、情報がありすぎて本当に欲しい情報に辿り着くまでのクリックの回数がかなり多い。検索機能など情報を見やすくするための機能があると思いますが、各社ごとに異なるため、使い方を覚えるのも億劫に感じてしまう。
佐治先生:その点、医師向けメディアは情報がまとまっていて探しやすいと感じます。おそらくAIを使っているのでしょうか。欲しい情報が自然と流れてくるので、「そういえばこれ気になってた」という感じで昼休みや通勤中に見ることが多いです。臨床でどれだけ役に立つ情報か、臨床の合間に見られるかどうかというのが重要なポイントかなと思います。
3. 見たいコンテンツがあればポイントの有無は関係ない
――医師向けメディアはポイントが付くものもありますが、製薬企業のWebサイトはポイントが付けられません。どうすれば、それでも見たいと思われますか?
日下先生:製薬企業のWebサイトは、誰を対象にして作っているかという点が課題だと思います。あとは差別化ができてないと見るきっかけにはなりづらいです。
誰でもアクセスできるような環境を作るのも有効だと思います。大手の医師向けメディアにコンテンツを掲載し、登録してみたいという情報が出せれば登録のきっかけになるのかなと思います。
佐治先生:製薬企業の医療従事者向けサイトは立派だと思うのですが、実際に医師が見ると刺さらない部分が多い印象です。例えば妊娠授乳中に気をつけるべき薬剤の情報が横断的に出てくるなど、別の視点の情報が欲しいです。製品に関する情報は既に説明会で聞いていますので、製品パンフレットのような内容には惹かれません。
一方で、開業医としては患者用のリーフレットをよく使うので、製薬企業のWebサイトで患者向け資材をすぐにダウンロードできるのは便利だと感じます。サイトから資料の送付を依頼することもあります。
濱路先生:唯一登録している製薬企業のWebサイトは、手術手技の動画が充実しています。MRからの紹介で登録しました。手技動画がきっかけでサイトにアクセスし、それに関連して術後補助療法の薬剤について勉強したりもしますので、もし外科医を対象にするなら、手技動画はいいと思います。
あとアクセスしたいのは学会情報ですね。学会のサマリーが書いてあると一気に興味が湧くと思います。
日下先生:「良いコンテンツを作る」ことが一番大切だと思います。例えば、医師向けメディアで閲覧ランキングが上位の医師のコラム記事は読んでいて面白いですし、専門的な記事であれば、国際学会のレビュー記事もよく見ています。
佐治先生:学会情報は私も欲しいですね。学会では全ての演題を聞けず、同じ時間帯の演題をどちらも聞きたかったという場合もよくあるため、自社領域の学会であればぜひ作成してほしいです。
あとは、ブックマーク機能があると嬉しいです。疾患や薬剤の注意点など要点をブックマークして後から見返せるような、自分だけのまとめノートみたいなものが欲しいと常々思っています。先ほどの話にも繋がりますが、情報の量というよりも、コンテンツの質やシンプルさ、イージーアクセスという点が今後差別化の鍵になるのではないかと思います。
4. メールでの情報提供はパーソナライズと一目でメリットがわかる工夫が必要
――製薬企業からのメールでの情報提供についてはどのように思われますか?
日下先生:全てには対応できていませんが、Web講演会の案内をメールでいただければ興味あるものは登録しようと思いますし、この方とお話すれば勉強になるなというアポイントはお受けしています。
佐治先生:私はメールマガジンが苦手です…。メールマガジンに大事なメールが埋もれて気づかないことが増えてしまい、ルーチンで送られてくるメールマガジンは配信を解除しています。担当MRに直接メールで連絡するのは、レスポンスが早くていいので利用しています。
濱路先生:私もメールマガジンはたくさん来るのですが、どれを見ればいいのか分からず、ほとんど見ていません。担当MRとは基本的にメールでやり取りしています。
――製薬企業のWeb講演会は、どのような案内から登録することが多いですか?
佐治先生:Web講演会の案内はメールよりも郵送でくる紙媒体の方が便利だなと感じています。紙で見て、後で登録しようと取っておいて、そこから登録をすることが多いです。メールだと埋もれてしまいますし、直接サイトに行ってどんな講演会があるかなと探すまでの余裕はないです。
濱路先生:医師向けメディアやMRとの面談時に登録してもらうことが多いです。Web講演会の案内はたくさんいただくのですが、内容が分かりにくいなと感じています。「この講演会ではこれをやります」とパッと見てすぐに分かるような簡単な紹介があれば、登録数は全然違ってくるのではないでしょうか。
日下先生:あと、毎回同じようなタイトルなので、何を新しく伝えたいのかというメッセージが不足していると感じます。
5. 自社製品だけでなく、情報に精通したMRとは積極的に関わりたい
――どのようなときに、MRとの面談の必要性を感じますか?関係を継続的に構築したいと考えるMRとその理由について教えてください。
佐治先生:皮膚科領域はアトピー性皮膚炎の治療薬が多く出ているので、新薬が出てきたタイミングでの情報提供は非常に助かっています。
また、地域の保険診療の査定がどのぐらいなのかなど、あまり外に出ない情報は生の情報としてとても貴重です。あとはワクチン助成金がその自治体でどのぐらいなのかもタイミングによって変わってきますので、こうしたエリアに特化した情報は本当に助かっています。これはMRの強みだと思います。
日下先生:MRによって薬剤に関する知識にかなり差があるなと感じます。質問したときに、すぐにデータを示してくれるようなMRだと「何か新しい情報ないですか」と声をかけたくなります。周りの医師も、以前と比べると面談をする人としない人で分かれてきているような印象です。
――二極化しているということですね。MRには特にどういった情報を把握しておいてほしいと思いますか。
日下先生:自社の薬剤に関することは、他の人に絶対負けないというぐらい調べ尽くしておいてほしいですし、聞かれたときに対応してほしいなと思います。もちろん細かい情報まで全て暗記するのは難しいですが、どの論文にその情報があるかをちゃんと分かっていることは大切ですよね。例えばその場で答えられなくても「確かこの論文に書いてあったのでちょっと調べてみます」と返してくれたら、大きな差を感じます。
また、詳しい方は関連学会の主要な演題をきちんとチェックしていてディスカッションできたりする一方で、開催時期すら把握していない方もいます。そうすると自分で調べた方が早いので、時間をとってお話しするメリットはないと思ってしまいますね。
濱路先生:行けなかった学会での主要な発表などを教えてくれるMRは非常に助かります。ニーズを理解してくれているとありがたいですね。
6. 患者に良い治療を提供するために、医師と製薬企業はパートナーであるべき
――もしMRがいなくなったら、情報収集にはどのように影響がありますか?また、製薬企業へのメッセージをお願いいたします。
濱路先生:私は呼吸器内科の医師や薬剤師から多くの情報を得ているので、すぐには困らないかもしれません。ただ、MRがいなくなると内科の医師、薬剤師が情報を得られないことになるので、間接的に影響を受けるだろうと思います。
日下先生:欲しい情報を聞きたいときに聞ける人がいない状況になるので、実際困ります。今日はいろいろと厳しいコメントをしてしまったのですが、製薬企業と医師はWin-Winでやっていけるのが一番いい形だと思っています。
佐治先生:いつもMRにお世話になっているので、いなくなるのは困ります。在り方については変わる可能性があると思いますが、私はMRをはじめ製薬企業も医療に関わる同じチームの一員だと思っています。
薬剤を使うのは何のためかというと、患者に良い治療を提供するため。目的は製薬企業も医師も全く同じです。その目標をまず見据えて、お互いの新しい時代の良い関係性を構築できていけたらと思います。
笹木:今回のディスカッションでは、医師が限られた時間の中で効率的に情報収集をするために、メディアを使い分けていることが分かりました。一方で、製薬企業の情報提供ではいくつかの課題も浮き彫りになりました。医師に情報を届けるためには、「診療の合間に見やすい設計になっているか」「臨床に役立つ質の高いコンテンツを提供できているか」が今後の鍵になりそうです。
本日は貴重なご意見をいただき、ありがとうございました。