新型コロナウイルス感染症の影響もあり、この1年半で製薬業界のデジタル化は大きく進みました。Medinewでは、2021年7月に製薬企業向けにアンケートを実施し、製薬業界のセールス・マーケティングにおけるデジタル利活用の実態と課題を調査。本記事ではその調査結果から、製薬企業のデータ利活用の状況・課題についてまとめます。
製薬業界におけるデータの利活用アンケート結果サマリー
- 製薬業界では 自社収集データ、外部データなどさまざまなデータ活用が進んでいる 。
- 順調と回答したグループでは、 「オウンドメディアのユーザーログ」「学会情報」「論文情報」「地域医療情報」を積極的に活用している 姿勢が浮かび上った。
- 「医師や施設のターゲティング」「情報提供チャネルの最適化」競合企業分析」「コンテンツ制作」など、幅広い業務でデータ活用が行われている。
- 一方で、 「人材・体制不足」「社内データの統合・連携不足」「医師個人の客観データ不足」が主要な課題 として抽出された。
- 顧客へのセールス・マーケティングを推進するために、 データを運用・活用する人材・体制の整備、目的に応じたデータ収集への対応が求められている 。
製薬企業デジタル&データ活用実態調査 実施概要
昨今の製薬業界におけるデジタル利活用の動きを受け、Medinewでは2021年7月に業界調査アンケートを実施。COVID-19流行から1年半、デジタル化推進の追い風を受け、製薬業界はデジタルの利活用においてどのような状況に立っているのかを調査しました。
(調査期間:2021年7月7日~21日、調査対象:Medinewメルマガ登録者のうち、製薬企業勤務の方(デジタルマーケティング部門、営業企画部門、プロダクトチーム、メディカル部門など)、回答者数:126名、調査方法:ウェブによるアンケート形式)
「全体のデジタル利活用状況」とともに、「デジタルチャネルの利活用」「ツールの利活用」「データの利活用」の3つのテーマで現状・課題を調査。本記事では、アンケート結果よりデータ利活用の実態と課題を考察します。
【DL資料あり】製薬企業デジタル&データ活用 実態調査2021レポート – チャネル編
▼製薬業界のツール利活用に関する調査レポートはこちら
【DL資料あり】製薬企業デジタル&データ活用 実態調査2021レポート – ツール編
製薬企業の過半数が複数データを積極的に活用
「所属部署では現在どのようなデータを活用しているか」を問う設問では、製薬業界全体で実消化データ、自社収集データ、外部データなどさまざまなデータを活用している実態が分かりました。
最も活用率が高かったのは「納入実績(実消化データ)」の74.6%で、次いで「本社主導のWeb講演会の参加・視聴ログ情報」73/8%、「MRによって得られた情報(医師の処方動向、安全性情報など)」68.3%と自社収集データが続きます。MRによるリアルの情報提供活動が重要視されていると同時に、Web講演会などオンラインでの情報提供活動による顧客ログ情報にも注力していることがうかがえます。
外部データの活用にも積極的な姿勢が見えます。「施設の売上情報」66.7%、「レセプトデータなどのリアルワールドデータ」57.9%と半数以上が活用しており、客観的なデータから顧客情報を適切に分析し、セールス・マーケティングに活かしているようです。
順調群では「オウンドメディア内のユーザーログ」「学会情報」「論文情報」「地域医療情報」の活用が進む
回答者全員に向けた「顧客へのセールス・マーケティングにおいてデジタルの利活用は順調に進んでいるか」という設問の結果から、順調群(「順調に進んでいる」と回答)と非順調群(「あまり順調に進んでいない」「全く順調に進んでいない」と回答)に回答者を分類(n=114)し、データ活用状況を比較しました。
※順調群・非順調群の詳細は
前回記事
を参照
順調群が非順調群よりも5ポイント以上活用率が高かったツールは「自社会員制Webサイト内のユーザー行動ログ情報」(順調群62.5%、非順調群51.5%)、「医師の学会発表情報」(順調群50.0%、非順調群42.4%)、「医師の論文発表情報」(順調群50.0%、非順調群36.4%)、「地域医療情報」(順調群31.3%、非順調群21.2%)でした。オウンドメディアでのユーザー行動ログや、医師の学会発表、論文発表情報からターゲット医師を選定したり、MRの情報提供活動のための顧客の興味関心を分析したりといった活動にも重点を置いていることが見受けられます。
データの活用目的はターゲティングと情報提供チャネル最適化
6割以上の製薬企業がデータを活用する目的として「医師や施設のターゲティング」(71,4%)、「医師へ情報提供する場の最適化」(63.5%)と回答しました。
一方で、「医師へ情報提供するタイミングの最適化」(44.4%)「ペイシェントジャーニーの分析」(40.5%)「医師同士の関係性・ネットワークの分析」(34.9%)はそれぞれ半数以下の回答率でした。
多くの製薬企業がターゲティングや情報提供する場の最適化に力を入れるものの、ターゲット医師とほかの医師、施設との関係性を把握し情報提供活動に活かしたり、情報提供の「タイミング」を図ったりといったデータ活用には踏み切れていないようです。これらの目的に、今後のデータ活用の拡大余地があると考えられます。
製薬企業のデータ活用の課題は「人材・体制不足」
データを活用する上での課題を問う設問では、6割以上が「データに精通した人材・体制が不足している」(63.5%)と回答。次いで、「社内外のデータ統合ができていない」(56.3%)となりました。複数のデータを収集するものの、データの管理・活用体制が人材・技術ともに整っていない可能性が示唆されます。
多くの製薬企業において、人材・体制の整備が十分でないことからデータ収集や前処理が効率化できずに、社内のデータ連携・共有、現場とのコミュニケーションに課題が生じている実態が浮かび上がりました。
現状、順調群vs非順調群でデータ活用の課題の大きな差がついている
順調群と非順調群でデータ活用の課題の設問回答を比べると、すべての課題で5ポイント以上、非順調群が順調群よりも回答率が高いという結果になりました。最も差が大きかったのは「十分な予算確保が難しい」(順調群14.6%、非順調群40.9%)で、その差は26.3%。順調群、非順調群では部署ごと、製薬企業ごとのデータの活用意向が大きく異なるようです。次いで、「医師個人に紐づいた客観的なデータが不足している」(順調群37.5%、非順調群60.6%)であり、予算確保の課題を抱えていることで、取得すべきデータを得られていない現状が見受けられます。
データ活用をすることのセールス・マーケティングにおける意義を製薬企業や部署単位で固め、予算、人材・体制を整備した上で、必要なデータ収集と複数のデータ連携を進めていく必要があるといえます。
多くの製薬企業が自社収集データの活用意向を見せる
今後、どのようなデータの活用を強化・推進していきたいかを問う設問では、自社収集データがいずれも「推進したい」の回答が優勢という結果になりました。最も「推進したい」の回答が多かったデータは「本社主導のWeb講演会の参加・視聴ログ情報」で54.8%、次いで「自社会員Webサイト内のユーザー行動ログ情報」が52.4%でした。
今回の項目での外部データの中では唯一「レセプトデータなどのリアルワールドデータ」が、49.2%と半数近くが推進したいという意向を示していました。自社収集データをまずは中心に活用していきながら、いかに客観的視点を持つ外部データを活用していけるかが、データ活用のカギを握るようです。
データの活用意義を見直し、自社目的に応じた複数データ活用が必須
本調査結果から、製薬業界におけるデータの利活用においては、順調群と非順調群で異なる現状を持つことが分かりました。非順調群では特に予算確保や人材・体制の整理が急務であり、そのためにはまず企業もしくは部署単位でのデータの活用意義を見直す必要がありそうです。データ活用を行う目的は何か、自社が必要とするデータは何かを見極め、体制構築、データ収集、データ連携を段階的に行うことが求められます。
ダウンロード資料「製薬企業におけるデジタル&データ活用 実態調査2021」
本記事で紹介したグラフを含む資料「製薬企業におけるデジタル&データ活用 実態調査2021」は、以下フォームよりダウンロードいただけます。
※資料の無断引用・転載はお断りいたします。
- 調査概要
- 主な調査結果
- デジタル利活用の順調度
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デジタルチャネル活用実態
– デジタルチャネルの活用
– デジタルチャネルの課題
– デジタルチャネルの活用意向 -
デジタルツール活用実態
– デジタルツールの活用
– デジタルツールの課題
– デジタルツールの活用意向 -
データ活用実態
– データの活用
– データの活用目的
– データ活用の課題
– データの活用意向 - 回答者属性
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その他集計データ
– 所属部門別集計
– 企業規模別集計