【コラム】第1回 MRの本質的な課題がコロナ禍で浮き彫りに。現場の声からMRの今を見直す

【コラム】第1回 MRの本質的な課題がコロナ禍で浮き彫りに。現場の声からMRの今を見直す

製薬企業もコロナ禍の影響を大きく受ける中、業界の変化に対応できるマインドと行動を兼ね備えたMRが求められています。時代に求められるMRを育成するためには、どのようなトレーニングが必要になるのか。本コラムでは、全3回の連載を通して、これからの製薬企業に求められるMRの姿と、その育成法を考えます。本記事では、実際のMR育成現場のお声を元に、課題を掘り下げます。
(ユームテクノロジージャパン株式会社 宮下雄介)

この1年間で多くのMR教育担当者との会話で見えた課題

コロナ禍において、MR教育の現場はどのような影響を受け、どのような問題が生じているのか、実際に現場の方々のお話を伺う中で、筆者は3つの課題を感じました。

1)ドクターとのコンタクト機会が減少した

訪問規制の強化により、ドクターとの面会の機会が減少している、との話はよく伺います。ただ、ドクターとの面会機会を増やせたとしても、課題の解決にはならない可能性があります。

新型コロナウイルス感染症の流行以前は、「ドクターと会うこと」を目的とした活動も多くあったように思います。もちろん、それによって実際に、より多くの患者さんに自社の医薬品を届けられた、という事実もありました。ところが、この活動には2つの問題点が生じると考えます。

  1. 医薬品を取り扱うことの本来の目的を見失ってしまう
  2. 1により、MRの内発的動機が醸成されない

これらの結果、ドクターと「会えない」ことが問題と捉えられてしまっています。

MRがドクターと会うだけでは本来果たすべき目的は達成できません。あるいは「会う」以外でも、より効果的な手段があるかもしれません。さまざまなパターンを検討した結果、目的の達成のために「会う」手段を選択し、そこから「ドクターと会うために何をすれば良いか?」と考える段階に入ります。「メールアドレスを取得しなさい」との指示の元、ただメールアドレスの取得に動くのではなく、「何のために会うのか」をよく考える必要があります。

本当に考えるべきことは何なのか。コロナ禍で頻繁にドクターと会えなくなった今、MRの深い思考力が、強く求められているように感じます。

情報提供の目的が曖昧なまま、医療関係者への情報提供の機会が失われてしまうと、これまでにない作用機序の新薬や、処方経験のない医薬品に関する情報提供も遅れてしまいます。その結果、患者さんへの処方機会も損失されている可能性があると考えると、これは社会課題の1つとも言うべき大きな課題ではないでしょうか。

2)リモート面談時に効果的なコミュニケーションができていない

リモート下において面会できたとしても、そこで効果的なコミュニケーションができていない、といったお声もよく聞きます。なぜ効果的なコミュニケーションができていないのかというと、「コミュニケーションの目的が不明確」だから、だと考えます。

MRのリモートコミュニケーションスキルの向上は、リモート面談を効果的にするための解決策の1つになりうるとは思いますが、スキルを身に付けるだけでは、根本的な解決策にはならないと感じています。

なぜコミュニケーションスキルが必要なのか、何のためにドクターとのコミュニケーションの機会を頂いているのか、そして、何のためにMR活動をしているのか。MR自身がその目的意識を常に持っていないと、環境の変化に振り回されるばかりです。

例えば、マイクや照明はリモート面談において気にするべきポイントですが、前提とした目的がない中で、マイクや照明を変えることで、その人の根本的なマインドや行動は変化するでしょうか。資料を見せるタイミングや、共有を解除するタイミングなども、リモート面談をスムーズに進行させる上では重要なスキルですが、それができるようになるだけでは、本質的な改善にまではつながりません。
ITの進化は非常に速く、ツールを使いこなすといったスキルだけを身に付けたとしても、すぐに使えなくなってしまう可能性をはらんでいます。

反対に「目的意識」を持っていれば、「その達成のためにはどうすれば良いか」と自然と思考が続きますので、しっかりと考えて活動するMRへと成長していきます。そうなれば、ドクターに会えないからと言って慌てず、次に何をすべきか自分で考えて、行動に移せます。

3)ドクターとの双方向のコミュニケーションができていない

リモート面談が盛んになったことで、リモート面談時の効果的なコミュニケーションができていないことが課題として浮かび上がってきていますが、これまで顕在化していなかっただけで、「ドクターとの双方向のコミュニケーションができない」という課題は、COVID-19流行前から大きな課題だったのではないかと感じています。

1)と2)では「目的意識」の見直しが1つの解決策になるのではないか、と述べましたが、3)は、その「目的意識」を具体的に行動に落とし込めているか?といった「課題意識」が重要です。

例えば、目的意識を持って双方向のコミュニケーションを実現するには、事前準備が必要になります。「会うこと」を目的とせず、面談する目的を明確に定めていれば、何を準備すべきか考える必要があります。例えば、「処方確約」を目的にするのであれば(もちろん処方確約を頂いた先の大きな目的も持った上で)、以下のような準備が必要です。

  • 「処方確約」に必要な要件、基準を伺う
  • スムーズに基準を伺うには、最初に何を話題にすれば良いか検討する
  • 想定される回答に対して、データや処方例など必要な情報を揃える
  • そのデータに対するオブジェクションを想定する など

他にも多くの準備すべき項目が出てくるかと思います。

「自社製品の特徴を伝える」だけで「処方確約」を頂けるのか?と考え始めると、なぜその情報を伝える必要があるのか、と考えます。次に、ドクターとどんな会話をすると良いか、想像が始まります。すると「双方向のコミュニケーション」をイメージできるようになります。

これはつまり、「双方向のコミュニケーションをすること」が目的ではありません。今回の例であれば「処方確約」を頂くことが目的であり、それを達成するには「双方向のコミュニケーションが必要」というように、後から双方向のコミュニケーションの必要性が浮上してきました。
「双方向のコミュニケーションができない」ために、トレーニングを実施し「双方向のコミュニケーションができる」ようになったからと言って、はたして上位目的が達成されるか、改めて考える必要もあると思います。

MRが抱える3つの課題を解決するために

ここで紹介したMRの抱える3つの課題について、総じて「なんのためにやるのか?」をしっかりと、改めて考え抜く必要性があると、私は思っています。
それはトレーニングを受けるMRだけでなく、トレーニングを提供する側も含め、です。
いかに日々の行動の中で、目的意識とそれに基づいた行動に落とし込む思考プロセスを定着していけるか。このポイントを日々の学習デザインに組み込み、現場で実践を繰り返しながら成長できる環境を構築することがとても重要です。

そしてその実現には、テクノロジーの力も必要になってくるかと思います。
次回以降、いかに学習の科学とテクノロジーを駆使しながら、マインドと行動に変革を起こす学習環境を構築していくのか、具体的な方法含め、お伝えしてまいります。

ユームテクノロジージャパン(株)提供の学習プラットフォーム 「UMU」の導入事例は こちら