製薬企業におけるメールマーケティングの重要性と活用方法|インタビュー
COVID-19の影響を受けて、製薬企業でもデジタルシフトの動きが活発に見られる中、注目されているのが、メールマーケティングです。そこで、今回は製薬企業向けSaaS「Shaperon(シャペロン)」を提供する株式会社フラジェリン 代表取締役CEOの阪本怜氏に、製薬企業におけるメールマーケティングの重要性や活用方法、成果を上げるための施策などを教えていただきました。
製薬企業におけるメールマーケティングの位置づけ
COVID-19の影響を受け、製薬業界全体でデジタルマーケティングの重要性が高まっており、メールマーケティングも例外ではありません。
今後ワクチンの普及や感染者数減少などで対面での情報提供活動が拡大したとしても、デジタルシフトの傾向は続くと考えられます。海外のドクターのケースですが、コンサルティングファームが実施したリサーチでは、診療科を問わず4割程度のドクターはリモートでの情報提供の維持を望み、2〜3割のドクターはさらなるオンライン化を望んでいる、というデータが出ています1)。
このようなデータから見ても、現在のデジタルシフトの傾向は、落ち着く可能性はあるにしろ基本的には続くと考えられます。
メールマーケティングの強みと課題
ハードルとコストの低さが強み
メールマーケティングの強みは、Web広告やSNS運用といったほかのデジタルマーケティング手法と比べ、導入のハードルとコストの低さにあります。
Web広告やSNS運用では、運用にあたって製薬企業がこれまで培っていないノウハウが必要であるほか、コンテンツの作り込みやコンプライアンス上のリスクなど、開始や運用にかなりの労力がかかります。その点メールマーケティングは、メール自体が多くの方にとってなじみのあるツールであり、取り組むハードルが低いといえます。
また、低コストで始められる点も特徴です。対面での情報提供活動の場合、1ディテールあたり数万円ほどが相場ですが、メールなら1開封あたり数円程度で済みます。コスト面から考えるとメールマーケティングのROI(Return On Investment) がかなり高いことが推測できます。
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製薬企業がメールマーケティングを進める上での3つの課題
一方、メールマーケティングにも課題があります。コンテンツ・データの使い方・カバレッジの3点です。
メールマーケティングでは、送付メールに「どのコンテンツを掲載するか」が重要です。コンテンツ自体はメール用に新たに作成する必要はあまりなく、オウンドメディア上の既存のコンテンツなどを流用することで効率的にメールを作成できます。しかし、効果的なメールマーケティング実行のためには、掲載コンテンツの内容の見直しや改善は欠かせません。
また、メールマーケティングで得たデータを有効活用できていないという課題も挙げられます。多くの製薬企業がとりあえずデータを集め、集めたデータを起点に「何かできないか」と模索している状態に陥っています。
しかし、データマーケティングにおいては、「仮説を立てて集めるデータを決めたうえで、必要なデータを取得していく」という流れが基本です。現状、製薬企業各社ではこのような仮説の検証を含めてメールマーケティングを実行できる人材が不足している、という悩みがあるようです。
さらに、メールアドレスを持っている相手にしかメールマーケティングを行えない、というカバレッジの限界もあります。
いくらコンテンツを整備しても、そもそもカバレッジが狭ければ十分な効果は上げられません。単に十分な数のメールアドレスを取得できていない場合もありますが、各MRがターゲットドクターのメールアドレスを持っているにもかかわらず、本社側で一括管理できていない場合も多く見受けられます。メールアドレスを集約するために専用のツールの導入を検討する企業もありますが、ツール導入に伴う管理コストや工数を考慮する必要があります。
これらの課題をクリアするために、メールマーケティングサービスにもさまざまな工夫が仕込まれています。例えば弊社では、コンテンツに関する提案や制作も引き受けており、製薬業界でのメールマーケティングの実績データをもとにした提案が可能です。また、データ解析のサポート体制も用意しています。
メールマーケティングの活用方法
対面での情報提供活動と使い分ける
メールマーケティングと対面での情報提供活動は、併用することが望ましいです。それぞれを上手に使い分けることで、リソースを割きたい部分により注力でき、効果的なマーケティングが実現できます。例えば、すでに関係性を築けているターゲット医師にはメールで対応をし、相手が求めている情報をピックアップし提供する一方、今後関係性を深めていきたい医師には対面で情報提供活動をする、などといった使い分けが可能です。
本社とMRの連携
本社とMR個人間でメールの送信元や送信内容を使い分けることも重要です。そのためには、MRと本社の連携が欠かせません。例えば、MRがすでに対面で情報提供活動を行っており関係性を構築している相手に対して、本社から一斉配信のようなメールマガジンを送っても十分な効果は期待できないかもしれません。
本社のマーケティング部門主体でメールマガジンを送り、反応がなかったターゲット医師に絞ってMRが個別にパーソナライズしたメールを送る、というように、双方が連携し、アプローチ方法を上手に使い分けていく必要があります。
ただし、このような使い分けを実行するには、全体設計とコミュニケーションツールのポジショニングを整理する調整役が必要です。この調整を担える人材がいるかが、メールマーケティングの成否を分けるポイントになります。
自社に適したメールマーケティングツールの選び方とは
自社に適したメールマーケティングツールを選ぶ際は、いくつかポイントがあります。主に挙げられるのが以下の5点です。
- サービスの要件充足度と使いやすさ
- 安定的な稼働
- 妥当な費用
- サポート体制の手厚さ
- サービスの拡張性
例えば、設定があまりにも複雑なツールなら、MR全員が使うことは難しく、ツールを活用しきれません。また、稼働後のサポートの手厚さもポイントです。前述の通り、メールマーケティングツールを使いこなすためにはデータ分析や顧客情報の管理、全体の調整などが必要になります。こうした利用推進は骨の折れる作業なため、どれだけツール提供会社にサポートしてもらえるかが重要です。
その他、メール配信や管理に特化したサービスなのか、今後新しい機能が増えるのかなど、サービスの拡張性にも着目するのが好ましいといえます。
コンプライアンスへの対応も重要
製薬企業の情報提供活動においてはコンプライアンスの遵守が非常に重要ですが、ツールの中にはコンプライアンス対応をサポートしてくれるものもあります。
例えば、当社のプロダクト「Shaperon Email」では、全メールを検索し、コンプライアンス上の問題がある部分を抽出したり、特定の用語を登録し、その用語が含まれているメールを送信できないようにしたりも可能です。
また、自由記述部分やローカルファイルについては上長の承認がないと送れないようになっており、コンプライアンスの遵守を確認するフィルターとして活用できます。実際、1カ月に 3〜4%程度のメールが上長承認が下りずに差し戻されているというデータがあります。
メールマーケティングの効果を上げるためのポイント
メールマーケティングの効果を上げるためには、さまざまな施策が考えられます。基本となるのが、全体設計やコンテンツの見直しです。さらに、開封率などのデータを見ながら改善すべき点を考え、試行錯誤していくプロセスも必要です。
細かいテクニック面でいうと、件名は30文字未満にする、モバイルの見え方も確認する、送信頻度は1週間に1回程度にする、ダークモードを考慮してコンテンツを作成する、などのポイントが挙げられます。
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メールマーケティングの成功の可否は、誰がイニシアチブを取るか
メールマーケティングに限った話ではありませんが、デジタルシフトの成功において最も大切なのは、誰がイニシアチブを取るかだと考えます。
メールマーケティングを実行する場合、利害関係者が多いため、全体の調整が不可欠です。この調整を担い、全体設計とコミュニケーションツールのポジショニングを整備できる人材がいるかが、メールマーケティングの成否に大きく関わっています。製薬企業ではDX推進者やマーケティング担当者が行っているケースが多いですが、経営層のように、トップダウンでイニシアチブを握れる人材が担当できるとベストです。
ただし、1人の担当に任せていると、その人材が異動や退職で役職を離れた際、取り組み全体がストップしてしまいます。本来望ましいのは、メールマーケティングを実行できる体制を仕組み化し、組織のカルチャーとして浸透させていくことです。今後メールマーケティングを導入する場合、もしくは導入しているがなかなか成果をあげられていない場合は、一度全体設計とコミュニケーションツールのポジショニングを見直してみてもよいかもしれません。
製薬企業がメールマーケティングを活用する重要性
製薬企業がメールマーケティングを活用することは、情報提供活動の強化や補助につながります。1対1の細かいデータを取得でき、そのデータをほかのデジタルマーケティングに活用も可能です。なじみのあるメールを利用したメールマーケティングは気軽に始めやすく、コストも抑えられます。デジタルマーケティングを推進する第一歩として、メールを活用してみてください。
<出典>※URL最終閲覧日 2022.12.6
1) BCG, Doctors’ Changing Expectations of Pharma Are Here to Stay, 2021.9.9(https://www.bcg.com/ja-jp/publications/2021/pharma-industry-changing-doctor-expectations)