「プロマネのキャリア形成」について考える。

「プロマネのキャリア形成」について考える。

製薬企業において、マーケティングプランの立案と実行を担うのがプロマネの仕事です。プロマネの多くの方がマーケティング部に所属し、仕事をされています。先日、営業からプロマネになったばかりの20代の方から「プロマネ経験後の次に目指すキャリアは?」といった質問をいただきました。本日はその質問に関連した「プロマネのキャリア形成」について独自の意見も交えながら、おもに20~30代といった若手向けの内容を解説していきます。

(外資系製薬企業 経営企画室勤務/製薬キャリア3.0運営 こういち)

プロマネ経験後の次に目指すキャリア

製薬企業でプロマネを経験された方が次のステップを目指す場合、以下のようなキャリアが考えられると思います。それぞれのポジションの業務内容や特徴について紹介します。

  1. マーケティング部
  2. 営業部
  3. コマーシャルエクセレンス/オペレーション部
  4. メディカルアフェアーズ部
  5. 事業開発部
  6. 経営企画部
  7. 新製品戦略/ライフサイクルマネジメント部
  8. 医療政策部
  9. Global ポジション(主にマーケティング関連)
  10. 独立

①マーケティング部

最も多いパターンが、プロマネのままマーケティング部に所属し、マーケティングの専門性を高め、部の中でキャリア形成をしていくステップです。プロマネになり立ての頃は、資材の作成やスライドレビューの調整、全国規模の講演会のロジ周りを担当するなど、オペレーション業務が中心となることが多いですが、職位が上がるにつれ製品全体の戦略立案、売上予測作成、経営陣への戦略説明対応などの業務の比率が徐々に高まってきます。
※物流や兵站を表すロジスティクス(logistics)から派生した表現で、広義に会場の手配、備品の手配といった後方支援を指す。

②営業部

「現場のマネジメント経験を積むため」「現場で顧客対応をするほうが好きだから」など、人それぞれ理由はありますが、プロマネから営業所長として現場に赴く方も一定数います。MRからプロマネになり、その後営業所長となることで、現場と本社のどちらの視点も持ち合わせることになります。チーム員にあたるMRに対しても、本社と現場の視点を持ち合わせていることになるので、キャリア形成を上手にサポートしている印象を持っています。

③コマーシャルエクセレンス/オペレーション部

研修部、データアナリティクス部、オペレーション統括部(営業企画)など、会社によって多種多様な部門を設置する傾向にあるのがコマーシャルエクセレンス/オペレーション部になります。コマーシャルエクセレンス部もしくはコマーシャルオペレーション部という名称が使われることが多いです。プロマネ経験後、研修部に異動して、MRへの教育研修を担当される方や、データアナリティクス部に異動し、各種データを分析して、マーケティング部を支援する業務に就かれる方もいます。統計知識やExcelスキルなどの専門知識に長けた方が多い印象です。

④メディカルアフェアーズ部

KOLとのコミュニケーションに長けており、学術情報を好むプロマネの方は、プロマネ経験後、メディカルアフェアーズ(MA)に異動することもあります。おもにKOLなどの顧客対応を行うMSL(メディカル・サイエンス・リエゾン)やメディカルプランを立案する疾患領域リードのポジションに就かれる方が多い印象です。最近は学位を重視する傾向にあるMAですが、プロマネ経験を持って活躍されているMSLやリードの方は数多くいらっしゃいます。

⑤事業開発部

プロマネとしてコプロモーション(他社との販売提携)を経験した後、アライアンスマネージャーとして、事業開発のキャリアを歩まれる方も一定数おられます。最初は、良好なアライアンス(提携)関係を維持する所から始まり、徐々に新規アライアンス先の獲得、薬剤の導入や導出に関わる業務に関わっていくキャリアの築き方になります。さまざまな企業の事業開発担当者とのコネクションを形成していく仕事の面白みがあります。

⑥経営企画部

プロマネ経験後、経営企画部に入り、おもに経営陣の意思決定のサポート業務を執り行う仕事に就かれる方もいます。経営戦略会議の準備、全社会議のプロジェクトマネジメント、中期・長期経営計画資料作成の取りまとめなど、その業務は多岐に渡ります。経営陣の意思を汲み取り資料を作成したり、時には提言も行う業務を担当することで、会社全体の意思決定に携わることができます。

⑦新製品戦略/ライフサイクルマネジメント部

新製品戦略部は製品の上市後を見据え、製品発売の2〜4年前から疾患領域の市場調査やKOLインタビューなどを行い、最適な形で製品が上市されるように各部門にコマーシャルニーズをインプットする業務を担います。ライフサイクルマネジメント部はそれに加えて、製品のLOE(Loss of Exclusive:独占期間の満了)後を見据えて、新剤型や新投与経路の検討、小児適応追加、オーソライズドジェネリック、バイオセイムの可能性の模索などを行います。会社により、これらの機能はマーケティング部に集約されていることもありますが、比較的従業員数の多い規模の大きい製薬企業の場合は、別部門として独立させている場合が多いです。

⑧医療政策部

医療政策(診療報酬、医療費助成、医療制度改革など)の動向を分析し、社内にインプット、および動向を踏まえた対策を社外にアウトプットすることをリードする役目を担うのが医療政策部になります。業界活動として製薬協(日本製薬工業協会、JPMA)や欧州製薬団体連合会(EFPIA)、米国研究製薬工業協会(PhRMA)に所属し、提言をまとめるといった業務も担います。プロマネとして、医療政策に課題感を感じる方が異動されている印象を持っています。

⑨Global ポジション(主にマーケティング関連)

日本でプロマネとして一定期間経験を積んだ後、Globalポジションの機会を掴む方も数は多くないですがいらっしゃいます。外資系製薬企業であれば欧州や米国の本社に赴任するケースもあります。また内資系製薬企業であれば日本にいながらGlobal Marketingのポジションに就任することもありますし、他の国で現地のマーケティング担当者として赴任するケースもあります。

⑩独立

こちらも数は多くないですが、プロマネ経験後、その経験とネットワークを活かして独立する方もいらっしゃいます。マーケティングコンサルタントのような形で独立する方や、企業のマーケティング研修業務を請け負っている方、海外の商材の代理店販売を営むようになった方など、プロマネ時代の経験を活かして事業を営む形です。その他、大学発のヘルスケアベンチャーを研究者と共同創業するようなケースも最近では見聞きします。

キャリア形成における計画的偶発性理論

ここまで10の選択肢について簡単に解説してきました。もちろん、これ以外のキャリアの選択肢もありますが、代表的な例を紹介しました。
大事なことはプロマネ経験を軸に、今後どのようなキャリアを描いていきたいかをご自身なりにしっかりと考えていくことです。

でもどうやって?、、、と思う方も中にはいらっしゃるかもしれません。
そんな中で参考になりそうな考え方を一つご紹介します。

みなさんはキャリア開発における「計画的偶発性理論」という考え方をご存じでしょうか?
この理論は、スタンフォード大学の心理学者クランボルツ教授が20世紀末に提案したキャリア理論になります。
ポイントは以下の3点です。

  • 予期せぬ出来事や出会いがキャリアを左右する
  • 偶然の出来事を、行動や努力によって引き寄せキャリアに繋げる
  • 待つのではなく、意図的に行動することでチャンスを引き寄せる


プロマネとして経験を積んでいくと、多様な部署の方と関わることになります。また社外のステークホルダーとの協業も多くなります。プロマネは関わるステークホルダーの数が非常に多いことも特徴の一つです。この特徴はキャリアを模索するという観点では、絶好の機会を提供してくれます。ご自身の興味のある業務に就かれている方に話を聞く機会を作り、ぜひご自身のキャリアと向き合う時間を上手にデザインされてみてください。

この「計画的偶発性理論」を実行に移す上で重要な5つの心構えがクランボルツ教授から提唱されているので、そちらもご紹介します。若手の方や、固定された概念や集団の中で仕事をしていると感じている方には有用な考え方かと思います。

  1. 好奇心[Curiosity] :新しいことに興味を持つ
  2. 持続性[Persistence] :諦めずに努力する
  3. 柔軟性[Flexibility]: こだわり過ぎない
  4. 楽観性[Optimism] :何事もポジティブに
  5. 冒険心[Risk Taking] :リスクを取って挑戦する


上記のような行動特性、マインドセットを持っている方は計画的偶発性理論を実践に移しやすいと言われているそうです。
「理想とするキャリアを歩んでいる人や、理想の仕事をしている人に、意識的に繋がりを求めにいく」
この意識を持ちながら、日々のプロマネ業務にあたることで、多くの気付きが得られるかもしれません。

プロマネ経験を軸に据えたキャリア形成を

今回のこの記事ではプロマネ後のキャリアとして10個の事例を取り上げました。そして「計画的偶発性理論」について解説をさせていただきました。冒頭でご紹介した20代の方はまだプロマネになられたばかりということなので、これからプロマネの経験を積んでいく中で多くの選択肢に出会うと思います。その際に、上記に書いたようなことを意識しながら業務にあたっていただきたいと願っています。
本記事の内容が皆さまの日々の業務に役立てば幸いです。運営しているブログでは、製薬企業で勤務する上で役に立つ情報やマインドセットについても発信しています。ぜひご覧ください。なお本記事で取り上げた所属部署および例は特定の企業に関する内容ではなく、製薬企業に一般的に存在する部署を取り上げて紹介しております。