SWOT分析の手順を解説!医薬品マーケティングに使える課題やチャンスの見つけ方

SWOT分析の手順を解説!医薬品マーケティングに使える課題やチャンスの見つけ方

医療用医薬品の売上アップのためには、適切なマーケティングプランが欠かせません。製薬マーケティングプランの立案の際に汎用されるフレームワークの一つがSWOT分析です。SWOT分析は広く知られていますが、実は奥が深く、得られる結果に大きな影響を及ぼすなど、マーケターのスキルや情報への感度などが出やすいフレームワークの一つでもあります。本記事ではSWOT分析の概略を踏まえ、実効性があるプラン立案におけるSWOT分析の重要なポイントを解説します。

なぜ製薬企業にもマーケティングプランが必要なのか?

医薬品の売上の最大化を図る際、予算もMR数もプロモーションの手法も無尽蔵にあるなら、SWOT分析やマーケティングプランは不要といえます。全てのリソースを市場に投下すれば済むからです。しかし現実には、限られた予算とMR数で、利用可能なメディアやツールを駆使して、効率よく売上の最大化を図るしかありません。そのためには、戦うべき相手、勝てる場所、勝てる戦い方を知る必要があります。

これらを検討し、製薬マーケティングの意思決定に必要な情報を与えてくれるのが、以前Medinewでも紹介した PEST分析 3C分析 やニーズ分析、そして今回のSWOT分析です。これらを駆使し導き出されたマーケティングプランが合理的であれば、自社医薬品の売上最大化の成功確率も高まるでしょう。

SWOT分析とは?

マーケティングプランの立案は、どこでどのように戦うかを吟味し、自社と競合の強みと弱みを明確にするために、PEST分析、3C分析、SWOT分析を活用して、現時点における自社及び自社医薬品が置かれている状況を把握することから始まります。

PEST分析は、自社を取り巻くビジネス環境を広範に俯瞰して、さまざまな情報を下記の表に従って整理し、課題を見える化するフレームワークです。一方、SWOT分析は、下記の表の4つの視点で、PEST分析や自社内から収集した全ての情報を整理・統合し、プランを決定するための手法です。

PEST分析とSWOT分析の比較

SWOT分析の目的は?

SWOT分析の最終目的は、自社の製薬マーケティングにおいて採用するプランを決定することです。そのためにPEST分析で得られた外部環境の情報や収集した自社内のさまざまな情報を、SWOT分析を用いて整理していきます。強みと弱みは自社の内部環境(コントロール可能なもの)の分析で、機会と脅威は外部環境(コントロール不能なもの)の分析です。

外部環境をPEST分析で深堀りできているほど、SWOT分析の機会と脅威にもたくさんの情報がもたらされます。すなわち、精緻で情報がリッチなPEST分析は、精緻なSWOT分析を可能にしてくれるといえます。
これが、SWOT分析が製薬マーケターのスキルや情報への感度、マーケティングプランのクオリティの差として出やすい理由の一つでもあります。

SWOT分析のやり方

SWOT分析は、3つのプロセスを経て分析を深めます。まず「目的を決める」。次に「収集した情報を強み/弱み/機会/脅威に整理」します。そして「クロスSWOT分析」を行い、具体的な製薬マーケティングプランへと落とし込んでいきます。それぞれのプロセスについて詳しく紹介します。

1. 目的を決める

SWOT分析は明確な目的に沿って進めることで、適切な分析ができます。

例えば、
「新薬の上市を成功させる」
という目標では、具体的なプランが描きにくいでしょう。なぜなら、上市成功と判断する基準が不明確だからです。
このような時は、効率よくSWOT分析するために
「新薬の上市後、期末までに〇〇億円の売上を達成するために、シェアを獲得する市場を特定する」
などと、見つけたいものをあらかじめ明確にしておきます。

市場だけでなく、自社医薬品の売上最大化のための重要な因子(市場特性、施設属性、医師属性、競合品との相対的な比較、患者さんのニーズ、医師のニーズなど)を踏まえて、SWOT分析で個々の項目を網羅していきましょう。

2. 収集した情報を強み/弱み/機会/脅威に整理する

これまでに収集した情報を、SWOT分析の強み、弱み、機会、脅威の4つに当てはまるように整理していきます。

▷SWOT分析

外部環境の分析は、PEST分析で得られた情報を整理していきましょう。
この時、それぞれの情報のタイミング、実現可能性、インパクトも加味して評価してみましょう。この評価は、SWOT分析を進めていく際、優先すべき情報の選択の際に役に立ちます。

◆基準
【タイミング】
6ヶ月以内:+3/6~12ヵ月:+2/12カ月以上:+1

【実現可能性】
100%:+5/80~90%:+4/60~80%未満:+3/30~60%未満:+2/30%未満:+1

【インパクト】
非常に有益:+5/特になし:+1/非常に損失:-5

ここで重要なことは、スコアを正確につけることではありません。具体的事例のそれぞれに差をつけるように、スコアをつけることが大切です。この時点でのスコアの正確さにあまり意味はなく、このスコアが正しかったかどうかは、その期の売上やマーケティングプランのKPIの結果を振り返ることで初めて分かります。
また、プランニングした後にコロナ禍のような急激な社会の変化が起こることもあります。ですから、ここでは各項目の重み付けをして、項目間の差をつけることを意識しましょう。

スコアの例

▷外部環境(機会と脅威)の例

上記のPEST分析の情報の中から、機会はスコアが高かった情報を優先して、脅威はスコアが低かった情報を優先して取り上げました。

外部環境のスコア例

PEST分析以外では、ファイブフォース分析で得られた情報もSWOT分析に活用できます。

▷内部環境(自社の強み、弱み)の例

内部環境のスコア例

今回の事例では、強み、弱みで差がつきにくい項目が多い結果でした。強みや弱みは自社の内部の分析であり、今現在すでに取り組んでいることや分かっていることが多いため、タイミングと実現可能性が同じスコアになりやすくなります。
実際には、その企業ごとの経営戦略や置かれている状況は異なり、スコアはその影響を受けます。

3. クロスSWOT分析を行う

ここまで整理してきたSWOT分析の4項目を組み合わせて、クロスSWOT分析をします。クロスSWOT分析は、目標達成までの具体的な製薬マーケティングプランを立てるために行います。4項目を組み合わせると以下の4通りになります。

製薬マーケティング例

SWOT分析の具体例

これまでの医薬品のSWOT分析のプロセスを踏まえ、ある架空の抗がん剤製品Xのマーケティングプランを考えてみましょう。SWOT分析のために収集した情報は前述の通りとします。新薬であるため、製薬企業としては早急に市場のシェアを獲得したいと考えています。その観点で、クロスSWOTの4つの組み合わせごとに考えられるプランを見てみましょう。

【①強み × 機会】

  1. ガイドラインの改訂で製品Xが採用されたら、直ちにターゲット医師に情報提供し、施設の治療レジメンの見直しを提案する。
  2. リアルワールドデータを導入し、プロモーション後の市場シェアの変化を随時モニタリングする。トレンドに変化が見られない場合は、バックアッププランを発動する。
  3. リキッドバイオプシーが保険収載された際、その検査会社と協業して従来よりも早いタイミングで患者さんの採血と検査を実施し、早期のスクリーニング体制を確立する。その結果、患者さんのがんの早期発見・早期治療から、製品Xの処方につなげる。

【②強み × 脅威】

  1. 医師の働き方改革においても、新薬の新たな情報提供を理由に、MRと医師との面談機会を創出する。その面談時にMRが使いやすい動画コンテンツとリーフレットも準備する。
  2. 医師の働き方改革を支援するために、医師のタスクシフティング・タスクシェアリングを推進すべく、がん専門薬剤師やがん専門看護師、地域医療連携室のメディカルソ-シャルワーカーの業務支援のリーフレット等のツールを充実させる。

【③弱み × 機会】

  1. 安全性や使用実態下の併用薬等のデータ不足を補うために、リアルワールドデータを導入する。そのデータを分析することで、製品Xの使用実態を明らかにし、さらに市販直後調査や使用成績調査のデータを随時医師に提供する。
  2. MRの説明よって医師に製品Xの価値を伝えるため、適宜MR向けに研修を企画、実施する。併せてオムニチャネルでの情報提供で医師に製品Xに関する情報を提供できる体制も構築しておく。そのことで製品Xの安全性について医師の理解を獲得する。

【④弱み × 脅威】

  1. 医師の働き方改革でMRが医師と会えない状況になる前に、医師からのMRの評価を高めるための研修を企画立案する。
  2. 医師の働き方改革での製品X関連の情報提供が実行できるよう、医師からオプトインを取得し、オムニチャネルで情報提供ができる体制を構築しておく。

これらのプランはいずれも重要ですが、新薬ということを踏まえ、会社として早急に売上アップとシェア獲得を図りたいならば、【①強み × 機会】にフォーカスするプランを選択することになるでしょう。なぜなら、脅威や弱みへの対策はマイナスの被害を最小化するために行われるものであり、その対策そのものが直接売上アップに良い影響を及ぼすことは限定的であることが多いからです。

SWOT分析を駆使して、最適な製薬マーケティングの打ち手を考えよう

このようにSWOT分析は非常によく知られているものの、実際にやってみると思った以上に検討すべき点が多いことがお分かりいただけると思います。また、PEST分析や強み・弱みの分析の際に同僚等の複数人でスコアをつけると、自分とは違うポイントに重み付けがなされ、そこから自分ひとりでプランニングしていては気が付かなかった新たな見方や評価が生まれることもあります。同じデータを駆使しても異なるプランが生まれるのは、モノの見方の多様性が背景にあることも一因です。

SWOT分析を適切に行えるかどうかは、プロマネの腕の見せ所です。PEST分析等の多く情報とSWOT分析を組み合わせて、実効性がある製薬マーケティングプランを立案していきましょう。