難病・希少疾患領域のマーケティング活動には、データの活用が欠かせない。そこで役立つのが、ミーカンパニー株式会社が提供する「SCUELデータベース」だ。2010年12月の創業来、難病・希少疾患を含むあらゆる疾患のオープンデータベース開発に携わってきた同社の代表取締役である前田氏に、多種多様な形態で散在しているオープンデータを活用したソリューションと今後の可能性を聞いた。
SCUELデータベースでペイシェントフローの作成や地域医療の実態を可視化
― SCUELデータベースの特徴とサービスメニューとは
ミーカンパニーは、創業来、難病・希少疾患領域の患者と医療機関の最適なマッチングのためのインフラ整備の一環として、オープンデータのSCUELデータベースの構築、データの蓄積に注力してきた。最近の医薬品業界が、急速に希少疾患領域へと、経営資源のシフトが進んでいく中で、ようやく弊社のビジョンに光が当たりつつあると実感している。弊社が収集・解析し、分析可能なデータベースとして提供しているのは、すべて誰もが閲覧可能なオープンデータだが、出典が紙のものや、取得のために都道府県に申請が必要なデータも存在する。オープンだが入手が困難なデータを経年で蓄積し、表記ゆれ等を減らし、企業が扱いやすい形として統合したデータベースとして提供している。
昨今では、レセプトや処方箋、電子カルテなどから収集された、リアルワールドデータ(RWD)にも注目が集まっているが、個人情報保護などの観点から、取り扱いには注意を要する。対してSCUELデータベースはオープンデータのため、広く一般的に開示できるものとして、様々な場面で活用されている。
弊社が提供しているサービスには、病院・診療所・歯科・薬局・介護・法人などの医療介護施設のデータを統合したデータベースである「SCUEL DATABASE」、医療機関や介護施設がホームページなどで発信したリリースやニュースのプラットフォーム「SCUEL NEWS」、患者・家族向けの病院・薬局検索サービス「SCUEL」、地域医療の状況を分析する「SCUEL BI」、希少疾病診療に関心のある医療機関を調査する「SCUEL RD RESEACH」などがある。これらは、単体で提供する場合もあれば、複数のサービスを組み合わせて、製薬企業を始めとしたヘルスケア企業各社からの問い合わせや要請に合わせて、SCUELデータサービスとして対応している。
― 製薬企業からはどのような問い合わせや要望があるのか?
オープンデータが集約されたSCUELのユニークさに着目し、患者がどこにいて、どういう治療を受けていて、どんなことに困っているのか、そうしたペイシェントフローを描くための基礎情報を探している製薬企業からの問い合わせが多い。また、地域や施設をある程度絞り込んで、経年の変化を見ながら、医師とのコミュニケーションを深めるためのBIツールやプレゼンテーションツールに資するソリューションに向けた要請も多い。その中にはもちろん、弊社が創業当時から手掛けてきた難病・希少疾患領域のものも含まれている。
また、地域医療の実態を分析し、MRの訪問管理に活用している製薬企業もある。ドクターターゲティングや営業アポイントの機会損失を防止し、最適なMR活動につなげるための取り組みだ。オープンデータの中には、医療機関の医師の構成や異動情報はもちろん、診療科目や手術件数など、多岐にわたる項目が公表されている。これらを患者数や医療証受給者数などの統計データと掛け合わせて分析すると、地域全体や各施設の実態が浮かび上がってくる。オープンデータのみで分析されたレポートは、各ドクターとの課題ヒヤリングなど日常のコミュニケーションには欠かせないツールとなっていると聞いている。
難病・希少疾患領域のデータマーケティングにおける地域医療データの重要性
― 難病・希少疾患領域での活用事例とは
難病・希少疾患領域では、難病診療を行っている医療機関のデータというのが公開されている。こうした施設のデータベースのみのニーズも高いが、一歩踏み込んだソリューションを要請されるパターンもある。難病・希少疾患領域の薬剤を開発・提供する製薬企業だ。彼らは、全国の施設を網羅的に把握するのではなく、特定の施設・医師をしっかりと把握したいというニーズが強い。ミクロで濃密なコミュニケーションに資するデータベースやドクターターゲティングができるサービスを求めている。
例えば、ドクターターゲティングでは、対象となる都市やエリアを絞り込み、地域医療の実態や推移を浮かび上がらせることが求められる。こうした分析に、経年で傾向推移が追跡できるSCUELデータベースが重宝されている。
希少疾患を診断していそうな医療機関の把握という視点では、「SCUEL RD RESEACH」への期待も大きい。医療機関のホームページの診療内容やトピックス、ドクターブログなど、難病・希少疾患領域に関する内容を分析してフラグ立てしてデータベース化が可能。これをMRがチェックし、その施設に想定する患者がいるかどうかを予測できる。ある製薬会社では、とある遺伝性の難病や、ベーチェット病の患者を、これまでターゲットとしていなかった施設から「SCUEL RD RESEACH」で発見できたと聞いている。
難病・希少疾患の場合、当然ながら従来の疾患と比較すると、圧倒的にn数が少なく、情報も少ない。情報収集のために製薬会社のマーケティングチームやMRが、マンパワーをかけて手作業で情報収集するしか手がなかった。弊社のサービスがこうした活動を大幅に軽減させる情報を分析・提供することで、経営資源を集中的にMR活動に投入できたと評価されている。
SCUELデータベースとCRMシステムを連携させ効率的なMR活動を展開
― 難病・希少疾患領域以外では、製薬企業は SCUELデータベースをどのように活用しているのか?
地域医療の実態把握のニーズは、難病・希少疾患領域にとどまるものではない、あらゆる領域でのMR活動の羅針盤になるようなものだ。製薬企業各社は、そこから得られた情報をMRの訪問管理やドクターとのコミュニケーション強化に活用している。
「SCUEL NEWS」では、各医療機関にて開催される勉強会や講演会などのイベント情報を配信している。導入企業のMRは、そうした情報を見て訪問やメールを送信するタイミングを調整している。イベント前後は、ターゲットとする医師とコミュニケーションできる可能性が高くなるからだ。コロナ前は、先回りして会場付近で待つことによって対面で会い、アポイント獲得につながったというエピソードを聞いた。以前は、個々人の情報収集に委ねられたものでしかなかったが、「SCUEL NEWS」によってこうした訪問活動を仕組み化できたという。
また、複数のサービスを組み合わせて、地域医療の実態、特に診療体制や医療機器の台数、手術件数、検査件数などのデータをもとにして、医療施設の医師のターゲティングやスコア付けを行い、営業活動に活かしているというのは、よく聞いている。例えば、薬の処方の変化を分析するキーファクターとして、何年にも及ぶ病院の医師の人数の推移をみている。常勤があまり増えていないのに対し、非常勤が増えている場合、何らかの診療方針の変化が起きている可能性も考えられる。医師の異動情報と役職情報、専門医などの人事や診療体制の推移、外来患者数や手術・検査件数などのオープンデータと掛け合わせてみると、病院およびその地域の状況や抱えている課題が顕在化してくる。
オープンデータとRWDを融合し製薬データマーケティングの新たな扉を開く
― JMDCグループにジョインしたことで、新たなサービス開発の可能性は?
JMDCグループ企業となったことで、弊社のオープンデータとJMDCグループのRWDを、ワンパッケージで製薬企業に提供し、様々な課題に答えるソリューションを展開できる体制が整備されたと感じている。今後、これまで以上に深度のある、地域や施設での医療課題が見えてくる可能性も高まる。レセプトデータと専門医のデータと掛け合わせて、専門医の処方傾向を分析するなどの取り組みも進んでいる。
弊社は、2010年12月の創業当時、難病・希少疾患患者が医療機関から診断が下るのに最低3年、平均して7年から10年という膨大な時間が必要となる状況に衝撃を受け、患者と医療機関をうまくつなげるためのインフラとして、誰もがアクセスできるオープンデータのデータベースの整備に着手した。2020年2月にJMDCグループのジョイン後、組織の成長に伴って、ビジョンの再策定を行い「人と人をつないで未来をつくる」を掲げ、JMDCグループのリアルワールドデータと融合した新次元のサービス提供の開発に注力している。
オープンデータのデータベース化とそこから浮かび上がってくる地域医療、難病・希少疾患の実態の精度を高める事業活動に磨きをかけ、医薬データマーケティングの新たな扉を開く一員でありたいと考えている。
<取材協力>
ミーカンパニー株式会社
代表取締役
前田 健太郎 氏
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