セミナーレポート/希少疾患時代の医師起点のデジタルマーケティングアプローチ
2022年に薬価収載された新薬のうち、希少疾病用医薬品が約4割を占め1)、今後さらに市場占有率は増加すると見込まれています2)。こうした背景のもと、プライマリ領域を中心とした従来型のマスマーケティング的戦略から、希少疾患などのスペシャリティ領域を中心とした個別化戦略へと転換が求められています。2023年3月8日に開催されたオンラインセミナー「臨床医目線で提案する、希少疾患時代において製薬企業に求められる新たなデジタルストラテジー」では、製薬企業に求められる新たなデジタル戦略について、臨床医の視点からの考察が行われました。
本記事では、株式会社Medii代表取締役医師 山田裕揮氏、同COO 筒井亮介氏による講演「希少疾患時代の医師起点のデジタルマーケティングアプローチ」から、希少疾患を取り巻く課題や医師の情報収集の現状をレポートします。
希少疾患診療の課題は診断困難性と治療最適化
まず山田氏は、希少疾患を取り巻く大きな課題として診断困難性と治療最適化の2つがあると指摘しました。診断困難性の要因には「初期に誤診される患者の割合が40%と高い」「発病から確定診断までに数年~10年弱かかる」「診断までに10名弱の主治医変更がある」などが挙げられます。加えて、診断が確定しても、経験不足のために適切な薬剤処方が行われないという、治療最適化の問題があるとしています。
一方、希少疾患患者の視点からは、医療従事者の説明に「満足している」患者は30~40%、「満足できなかった」患者は20%前後でした。「どちらともいえない」は30~40%でしたが、山田氏はこの解釈として「患者の立場として考えると、実質的には不満寄りと考えるのが妥当」と語り、患者視点でも課題があることを指摘しました。さらに「医師側も、全ての希少疾患について専門性を得ることはできないため、全ての疾患に対する説明や治療選択を最適化するのは現実的に難しい」とも述べています。
希少疾患の診療に従事する医師にとって、診断や治療方針を決めることは極めて困難な課題であることが分かっています。これは、希少疾患が新しい概念や未知の領域が多く、医師たちが学ぶ機会が限定的であることが背景にあるためです。山田氏は、「10年前の教科書には載っていなかった疾患が現在はたくさんあり、しかも医学部や卒後教育で希少疾患について学ぶ機会は極めて限定的」と、学ぶ機会の問題について懸念を示しました。
そもそも希少疾患の患者数は限られるため、医師が患者に接する機会が少ないのは当然のことなのですが、経験が浅いがゆえに、実際には希少疾患患者と接しているのに見逃してしまうということが起こっています。そして、そのことに医師自身が気付いていないという、さらに大きな問題がそこにはあります。また、仮にきちんと診断できたとしても、助言を求める専門医とのつながりがないため、その後の適切な治療に踏み切れないこともあります。例えば、希少疾患の新薬が上市されていても、処方経験不足や処方の特殊性に対する不安などから、導入を躊躇することもあるのです。
Medii会員医師へのアンケート調査によると、約6割は学びや情報収集に週に5時間以上費やしていた一方で、臨床疑問を解決できないという回答は約9割に上りました。山田氏は「そもそも希少疾患のデータは少ないので、いくら学ぶ機会があっても、このような結果になるのは当然のこと。それまで診たことがない、診断したことがない、検査手法は間違っていないか、その解釈は正しいのか、などさまざまな不安を抱えながら診療している中で『専門医に相談したい』というニーズが湧いてくる」と述べ、希少疾患の主治医は専門医とのつながり欲求が高いことを指摘しました。
従来、専門医への紹介は、知り合いの医師やMRを通じて、あるいは、学会や講演会で面会することが一般的でした。しかし、COVID-19禍でこうした機会も減ってしまいました。そこで、より簡便に主治医と専門医をつなぐツールとしてMediiが提供しているのが、「E-コンサル®」と呼ぶプラットフォームです。E-コンサル®には、指定難病 338疾患を中心に 800名(2023年2月末時点)もの専門医が在籍し、会員医師は臨床上の不安や疑問を専門医に無料で相談することができます。
早期診断・最適治療選択に必要な3ステップ
続いて筒井氏から、希少疾患領域の効率的な早期診断・最適治療選択の実現に必要な3ステップについて説明がありました。
ステップとは「リーチ」「トリガー」「受け皿」の3つです。対象疾患患者を持つ医師(主治医)への「リーチ」は、医師アプローチに必要な最初のステップです。それは、製薬企業が得意とする部分と思われますが、リーチした医師に単にアクセスしているだけでは、早期診断・最適治療への行動変容を生むことはできません。そこで必要なのが「もしかすると、この希少疾患かも?」といった気づきを与える「トリガー」です(トリガーの具体例は後述)。気づきを得た医師は、これまで経験したことがない疾患の患者を目の前にして、どのように対峙していくべきかを当然悩みます。そこで、その「受け皿」として問題解決に導く機能がE-コンサル®ということになります。
筒井氏は「リーチに強い製薬企業と、トリガー、受け皿に強いMediiとが協働すれば『リーチ』『トリガー』『受け皿』の3ステップが一気通貫で完結し、より確実なCall to Actionを促せるようになる」と強調します。
では、行動変容を起こすようなトリガーとして、どのような仕掛けが用意されているのでしょうか。1つは専門医グループに直結できる疾患情報提供サイトがあります。ここは、単なる希少疾患の情報提供サイトではなく、E-コンサル®経由でKOL医師グループに相談できる窓口が用意されています。このほか、評判の良いオンラインイベントとして「臨床推論カンファレンス」があります。「鑑別診断までのプロセスを参加医師が追体験することで『もっと知りたい!』という意欲をかき立ててから、専門医による疾患解説を行うことで、行動変容を促しやすくなる」と筒井氏は語ります。
その効果的な一例として、全国で数十例という超希少疾患を扱った臨床推論カンファレンスが挙げられました。カンファレンス前の疾患認知や臨床経験は非常に限定的なものでした。しかしカンファレンス後、疾患理解度が高まったのはもちろんのこと、「実際に想起するケースがあった」との回答が約3割も寄せられました。これは予想外のことでした。筒井氏は「このように、Mediiによる『トリガー』は医師の行動変容を促す起爆剤になり得るので、製薬企業とともに今後も積極的に取り組んでいきたい」とMediiのさらなる拡大と可能性を示しました。
希少疾患の早期診断・最適治療選択の実現に向けた、Mediiの今後の取り組みが期待されます。
<出典>※URL最終閲覧日2023.04.05
1)Answers News, 株式会社クイック, 2022.11.18, 今年の薬価収載、ピーク時売り上げ予測100億円超は13成分…全体の4割が希少疾病用医薬品(https://answers.ten-navi.com/pharmanews/24319/)
2)株式会社ケアネット「事業計画及び成長可能性に関する事項」2021年12月期第3四半期進捗報告(https://www.nikkei.com/nkd/disclosure/tdnr/d7fbdn/)