住友ファーマに聞く|ノンブランドコンテンツで実現した会員獲得とユーザーエンゲージメント向上/MDMD2024Summerレポート

住友ファーマに聞く|ノンブランドコンテンツで実現した会員獲得とユーザーエンゲージメント向上/MDMD2024Summerレポート

2024年6月に開催されたMedinew Digital Marketing Day(MDMD)2024 Summer。住友ファーマ株式会社の田中友幸氏をゲストとして迎え、株式会社医薬情報ネットの小川彰吾がモデレーターを務めたセッションでは、住友ファーマの医療関係者向けサイトにて展開されているノンブランドコンテンツ「偉人を診る」の現状と今後の展望が共有されました。本記事では、ノンブランドコンテンツの意義や活用方法、効果についてご紹介します。

ノンブランドコンテンツの役割は、周辺情報による潜在層の興味喚起

製薬企業のオウンドメディアにおいて、製品に紐づかない、いわゆる「ノンブランドコンテンツ」はどのような位置付けになるのでしょうか。はじめに、弊社小川がノンブラントコンテンツの役割について整理しました。

ノンブランドコンテンツの読者像

オウンドメディアのコンテンツは、「興味関心」「情報収集」「比較検討」「購入(処方)」というユーザーの検討フェーズに沿って制作することが重要です。その中でノンブランドコンテンツは、「興味関心」「情報収集」の段階にあるユーザー、つまり処方見込みは低いものの母数が多い潜在層を読者として想定します。

ノンブランドコンテンツの役割について①
2024.6.5 住友ファーマ(株)、(株)医薬情報ネット『ノンブランドコンテンツ「偉人を診る」を運用して4年。コンテンツの現在地と今後について』資料より抜粋

ノンブランドコンテンツの役割

次に小川が示した、オウンドメディアコンテンツのプロット図では、横軸に「興味喚起・認知」から「説明的」「購入意欲」へと至るコンテンツの方向性、縦軸に「周辺情報」から「疾患情報」「製品情報」に至るコンテンツの内容が記されています。

小川は、オウンドメディアのコンテンツは、左上(「興味喚起・認知」を引き起こす「周辺情報」)から右下(「購入意欲」を刺激する「製品情報」)まで網羅することが理想だとした上で、通常は中央から右下にコンテンツが集中する傾向にあると指摘。左上に属する「ノンブランドコンテンツ」の重要性を示唆しました。

ノンブランドコンテンツの役割について②
2024.6.5 住友ファーマ(株)、(株)医薬情報ネット『ノンブランドコンテンツ「偉人を診る」を運用して4年。コンテンツの現在地と今後について』資料より抜粋

続いて小川は、住友ファーマの田中氏との対談に移り、同社のノンブランドコンテンツ「偉人を診る」について、当初の課題や目的、リリース後の反響、今後の展望を聞きました。

製品プロモーションを入れないことを条件に、社内合意に至る

――「偉人を診る」の制作に取り組むことになったきっかけや、目的を教えてください。

田中氏:きっかけとしては、医療機関の訪問規制でタッチポイントが減少していたことや、デジタル志向の高い医師が増加していたことなどが挙げられます。何よりも大きかったのは、作成要領の変更により、もともとオウンドメディアで精力的に展開していた文献コンテンツを前面に押し出せなくなったことでした。

そこで、会員登録や再訪のきっかけを作り、医師との継続的なタッチポイントを確保すること、医療関係者に当社製品の関連疾患や当社製品の特性を理解してもらうことを目的に、代替コンテンツを制作しようと考えました。コンテンツ制作をサポートしてもらっている医薬情報ネットからいくつか案を提示してもらい、「偉人を診る」というコンテンツに決定しました。

同コンテンツは、病にかかっていたと伝えられる偉人をさまざまな切り口から紐解くものです。1テーマは動画2本と記事2本で構成されており、最初の動画でバーチャルMRから偉人の概要が紹介された後、記事の前後編で医師との対談が行われ、最後の動画でバーチャルMRが対談を振り返って解説するという流れになっています。偉人にまつわるイベントや、体格・性格・生活習慣、病歴など、徹底した時代考証のもとに制作しています。

偉人を診る全体構成について
2024.6.5 住友ファーマ(株)、(株)医薬情報ネット『ノンブランドコンテンツ「偉人を診る」を運用して4年。コンテンツの現在地と今後について』資料より抜粋

――制作に当たって、どのように社内の合意を取り付けたのでしょうか?

田中氏:営業部門においては、私の所属するマーテック戦略推進室がオウンドメディア運営を一任されていたため、比較的スムーズに合意形成ができました。審査部門にも、文献コンテンツに代わるコンテンツの必要性を訴えかけたところ理解してもらえたのですが、「文献コンテンツと同じく、製品のプロモーション情報は入れないように」という条件を提示されました。つまり、最初からノンブランドコンテンツを意図していたわけではなく、結果的にノンブランドコンテンツになったのです。

――医師への出演交渉の際、医師たちはどのような反応でしたか?

田中氏:異色な企画にもかかわらず、積極的に引き受けてくれる医師がほとんどでした。医師は研究者ですから、好奇心旺盛な方が多いのでしょう。出演交渉の場からすでに本格的な話を展開する医師もいて、実際の対談も和やかな雰囲気の中で進み、終了後は「今までの取材で一番楽しかった」「次も呼んで欲しい」といった言葉も聞かれました。非常に好意的な反応で、担当MRとのリレーションの向上にも寄与したと感じています。

ノンブランドコンテンツで会員登録が増加し、別コンテンツへの遷移率も向上

2024.6.5 住友ファーマ(株)、(株)医薬情報ネット『ノンブランドコンテンツ「偉人を診る」を運用して4年。コンテンツの現在地と今後について』講演会場の様子
2024.6.5 住友ファーマ(株)、(株)医薬情報ネット『ノンブランドコンテンツ「偉人を診る」を運用して4年。コンテンツの現在地と今後について』講演会場の様子

――「偉人を診る」の開始から約4年が経過しましたが、目的の達成状況を教えてください。

田中氏:まず、会員登録・再訪のきっかけづくりや、医師との継続的なタッチポイント確保という点では、一定の効果を感じています。特に会員登録数については、各テーマにおける2つ目以降のコンテンツ閲覧に会員登録を必須としたこともあり、着実に増加しました。

また、医療関係者に当社製品の関連疾患や当社製品の特性を理解してもらうという点では、「偉人を診る」の各ページに関連する疾患や製品ページのリンクを設置したり、グローバルナビゲーションに工夫を施したりしたことで、閲覧者の7割以上が別のページに遷移する結果となりました。

先ほどもお伝えしたように、当初からノンブランドコンテンツを意図していたわけではありませんが、中立的な立場を保つことで読者の没入感を損なわずに済み、それがこのような成果につながったのではないかと考えています。

――記事だけでなく、動画も加えたコンテンツ構成でしたが、どのような手応えを感じていますか?

田中氏:まず、CGキャラクターの活用により、表現の幅が広がりました。「偉人を診る」を開始した当時、製薬企業としてCGキャラクターを活用している事例はまずなかったはずです。当社は現在、説明会動画や講演会の前座にもCGキャラクターを活用し、以前よりもさらにわかりやすいコンテンツ制作ができるようになりました。

タイムパフォーマンスが重視される現代では、動画コンテンツの重要性は高まり続ける一方だと予測しています。当社は今後も、コンテンツは可能な限り動画化していく方針です。

――「偉人を診る」を活用した広告戦略はいかがでしょうか。

田中氏:サードパーティへの広告出稿を行っています。製薬企業のオウンドメディアへの流入は、約7〜8割がペイドメディア経由といわれているため、広告出稿は必要不可欠だと考えています。

対象疾患を広げ、コンテンツ拡充を目指す

本講演では、自社製品のプロモーションを含まないノンブランドコンテンツで会員登録を促し、オウンドメディア回遊にまでつなげている住友ファーマの取り組みが共有されました。現時点でコンテンツの対象疾患は、歴史監修を担当する医師の専門分野と自社の注力対象がマッチした「糖尿病」に絞っているものの、「今後は時代考証を尽くし、信憑性を見極めながら、糖尿病以外の疾患にまつわる偉人コンテンツも拡充していきたい」と田中氏は締めくくりました。