競合と差のつくオウンドメディアを作るWebトラフィックデータの活用法/MDMD2024Autumnレポート
2024年9月に開催した「Medinew Digital Marketing Day(MDMD)2024 Autumn」では、「ウェブのトラフィックデータを活用した医療業界における新しいデジタルマーケティング」と題したセッションで、小野薬品工業株式会社 営業管理部 営業情報戦略室 Webデザイン課の出口真也氏と、SimilarWeb Japan株式会社 Client Success Strategistの郡登貴夫氏が登壇しました。本記事では、Similarwebを活用した小野薬品工業の成功事例をもとに、デジタルマーケティングでの効果的なトラフィックデータ活用のポイントを紹介します。
企業のデジタルマーケティングを支えるSimilarweb
Similarwebとは、市場全体や競合の動向を把握するためのWebトラフィックデータ分析プラットフォームです。国内外のユーザーのオンライン行動を可視化し、企業が戦略を立案・実行する際に有益なデータを提供しています。
Similarwebと、Google Analyticsとの違い
一般的によく知られるWebのアクセス解析ツールには、Google AnalyticsやAdobe Analyticsがあります。これらのツールは、自社Webサイトのユーザー数、ページビュー、流入元などのデータを分析し、内部パフォーマンスを評価するのに適しています。
一方、Similarwebは自社サイトに加えて、市場全体や競合の動向を把握し、より広範囲な視点からデータ分析を行える点に特徴を持ちます。このような特徴から、自社、市場/顧客、競合の視点からマーケティング活動の分析を行うには、Similarwebの活用が有用だといえます。
SEOの戦略策定に役立つSimilarweb
Similarwebを用いることで、具体的にどのような効果を期待できるのでしょうか。Similarwebの主要なメリットには以下の4つがあります。
1. 自社と市場変化の定点観測
複数のドメインを横断してトラフィックの推移を追跡し、業界動向や各企業・サービスの成長状況を把握できます。
2. 流入キーワードや人気コンテンツの把握
社内外で人気のコンテンツや効果的なキーワードの分析、また、競合がどのランディングページやコンテンツでトラフィックを獲得しているかなどを把握できます。それによって、SEOやウェブ広告戦略の最適化を期待できます。
3. メディアからの流入状況の可視化
リファラル元や競合の広告出稿先を可視化することができ、出稿先のトラフィック予測が可能です。また、SEOや有料広告が難しい場合の判断や、リファラル流入を増やす手段の検討にも活用できます。
4. 製薬業界の複雑なサイト構造に対応した分析が可能
製薬企業の多くは、患者向けや医療従事者向けの異なるコンテンツを展開しており、サイト構造が複雑です。Similarwebはディレクトリやページ、サブドメインを柔軟に含めたり除外したりして分析できるため、より正確なデータに基づいて競合プロダクトとの比較が可能です。
Similarwebを活用した小野薬品工業のデジタルマーケティング
こうしたSimilarwebの機能を活用し、広告効果の検証、人気コンテンツの評価、最新トレンドのモニタリングなど、多角的なデータ分析基盤を整え運用しているのが小野薬品工業です。
複数のデータソースを統合し、分析力を強化
同社では、Similarwebに加え、Google アナリティクスやGoogleサーチコンソールといったツールを併用し、さらにBIツールであるLooker Studioを用いて統合・可視化することで、多角的な視点からのサイトパフォーマンス分析や、インサイト理解につなげています。
具体的には、各ツールで以下のデータを計測・分析しています。
- Similarweb…市場のトレンドや競合サイトの推計値を計測
- Googleアナリティクス…オウンドメディアの実測値を計測(ユーザー数、PV、セッション数、流入先 など)
- Googleサーチコンソール…オウンドメディアがGoogleにどう評価されているかのサンプル値を計測(キーワード、CTR、表示順位 など)
- Looker Studio…上記のデータを統合してさまざまな切り口で分析
Similarwebから抽出したデータはExcel形式で出力し、スプレッドシートに統合、Looker Studioと連携して可視化し、月次で更新しています。モニタリング対象としているのは競合も含め15サイトに及びます。
異なるニーズに応じた3つのダッシュボードを導入
同社ではデータ分析を効率的に活用するために、ひとつのサイトに対して、マネージャー層向け、マーケティング・企画担当者向け、チームメンバー向けの3種類のダッシュボードを用意し、それぞれのニーズに応じたデータを提供しています。
また、サイト全体のパフォーマンスやエラーポイントを把握するための細やかな工夫も実施。複数のドメインを横断してデータを分析し問題箇所の特定につなげたり、Googleサーチコンソールのデータを読み解きやすくするため、他のツールと組み合わせてキーワードやブランドクエリを視覚化したりしています。
製薬業界の特性を反映した、データアプローチの重要性
データの分析項目には、競合とのPV数の比較や、3カ月間の訪問者数の推移などがあります。
また、重要な要素として、競合の広告出稿状況の把握があります。例えば、Google広告やYahoo広告、リスティング広告といった一般的に使用される広告手法は、Similarwebを活用すれば一目で把握することが可能です。
しかし、製薬業界では上記のような広告手法はほとんど利用されません。m3.comやメドピアといった3rdPartyメディアが主な出稿先です。また、製薬業界のプロモーションは、季節性のキャンペーンや製品の上市があるなどで、数字が大きく変動する傾向にあります。そのため、「フィルター条件のカスタマイズや、月次データだけでは拾いきれない場合もあるため年単位で見て、競合の出稿状況を把握している」と小野薬品工業の出口氏は説明します。
データマーケティングで導いた、医師への効果的な情報発信
こうしたデータ分析基盤の確立は、戦略の実行と改善を促進し、マーケティング成果の大きな支えとなり得ます。
例えば、「医療版マルチメディア白書」の「医師が定期的に情報を取得している製薬企業」に関する調査では、出口氏が小野薬品工業に入社した2016年時点での同社の順位は19位でしたが、2023年、2024年には9位へと上昇。また、「オウンドメディアの役立ち度」においても、2016年の20位から、2023年には15位、2024年には12位と、着実に順位を上げています。
製薬業界では、販売情報提供活動ガイドラインなどの規制に従い、医師にとって価値のあるコンテンツを常に探求する必要があります。そのためには、データを有効に活用しなければなりません。
小野薬品工業のように、自社サイトのパフォーマンスだけでなく、競合との比較や市場動向を的確に把握できるデータ分析の基盤を築く。このアプローチこそが、マーケティングにおけるデータ活用の鍵を握るといえるでしょう。