時代を牽引するリーダーシップ:持続可能な社会貢献と自己成長/MDMD2023Summerレポート
「マーケティングトレンドをリアルに掴む」をテーマに、2023年6月に開催された「Medinew Digital Marketing Day(MDMD)2023 Summer」。リープ株式会社の堀貴史氏がモデレーターを務め、一般社団法人新時代戦略研究所理事長(ファイザー株式会社 元代表取締役社長)の梅田一郎氏と、リープ株式会社 顧問の永田寿夫氏を講演者として迎えたセッション「時代を牽引するリーダーシップ:持続可能な社会貢献と自己成長」の対談内容をレポートします。
企業を牽引するリーダーシップと、今注目されるリスキリングの意義
昨今、「リスキリング(Reskilling)」という言葉が大変注目されています。これは、新しいスキルを習得する取り組みのことで、政府も企業のリスキリング推進を奨励しています。
経済産業省が示すリスキリングの定義は「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること」です1)。つまり、時代の変革と共に必要なスキルの学び直しが求められている、ということになります。
ビジネスパーソンもこのリスキリングに非常に高い関心を持っています。ロイヤリティ マーケティングが2023年3月に行ったインターネット調査2)によると、20代〜50代のビジネスパーソンの62%が「リスキリングに関心がある」と答えました。一方で、実践されている方は13%となっており、関心と実践の間に大きな乖離があります。
堀氏は、「この乖離は私たちがビジネスをする上で、大きな課題であると認識している」と話します。
そこで、リスキリングを推進していくために、企業を牽引するリーダーに求められる学びの姿勢はどのようなものか、部下指導や育成において大切なことは何か、といったテーマについて、5つのクエスチョンから梅田氏と永田氏にお話を伺いました。
変わり続ける環境とキャリアの中で必要とされる学びとは
堀:梅田さんは、キャリアチェンジをしながら、代表取締役になられていますが、その間どのような観点で「学び」を実践されてきたのでしょうか。
梅田:まず、リスキリングというのは最近の言葉かもしれませんが、学び続けなければならないというのは、昔から同じだと思います。ただ、最近は技術進歩や企業、産業の環境が大きく変わっていく中で、個人の自己啓発の努力だけでは間に合わず、社会として進めていかないといけないということだろうと思っています。
私が入社した頃は終身雇用が当たり前でしたけれど、最近は定年退職まで1つの会社で勤め続ける人の方が稀です。また、長い期間勤めている間に会社がずっと元気であり続ける、ということも稀になってきています。1つの会社が40年も50年も元気であるなら、その会社がやっている事業そのものの中身が大きく変わっているかもしれないと思います。例えば、富士フイルムという会社は、写真フィルムで培ったノウハウを活かして、今やヘルスケア企業です。
そうなると、社員に必要とされる能力も事業とともに変わっていきます。我々は常に変わっていく環境に備えて、自分自身がどういう能力を加えていくべきかを考えていかなければならないのです。
人生100年時代はマルチステージへ
梅田:2016年に、ロンドンビジネススクールのリンダ・グラットン氏が講演や著作『ライフ・シフト(東洋経済新報社, 2016)』の中で100年時代ということを提唱し始めました。今、先進国では2007年生まれの2人に1人が103歳まで生きる3)と。そうなったら、大学卒業までの「学ぶ期間」、その後の「働く期間」さらにその後の「リタイア後」の3ステップだけでは足りなくなるかもしれない。その間あいだにもう1つ、人によっては2つ3つかもしれない「学びの期間」が加わる「マルチステージ」になるはずだと述べていました。
本当にそういう時代になってきていると感じます。それぞれ自分ごととして取り組んでいかないとキャリアをより良く生き抜いていくことが難しいと思いますし、会社もそういう学び続ける人を期待しています。会社が期待する能力を持って、あるいは期待以上のものを持ち込んでくれないとお互いに困ると思うのです。私は現役時代からこのように考えてきました。
リスキリングに必要なのはきっかけを掴む力と学びへの覚悟
堀:梅田さんご自身、社会人として変化するキャリアの異なるステージで、1つは慶應のビジネススクール、もう1つは最近、東京大学公共政策大学院で学ばれていらっしゃいます。現役時代の学びについて、もし振り返ってあの時代に戻れるのであれば、あらためてどんな学びを目指されるのか、お聞かせください。
梅田:現場にいた時期は、なかなか学ぶというところまで意識が向いていませんでした。勉強しなければ、と思っていましたが、忙しく働いているので教科書を広げると眠くなってしまう。まさに、リスキリングの興味と実践度の乖離です。
幸いにして、会社が1〜2週間の海外研修や海外大学の特別プログラムなどの機会を与えてくれ、その中で慶應のビジネススクールに行かせてもらったのはとてもありがたいことでした。そういったチャンスを逃さないのは大切なこととだと思います。
また、切れ端のような時間の効率的な活用というのももちろん大切ですが、効率だけではない、地道にやり続けるべき勉強というのは絶対にあって、そこは意識して取り組む必要があります。努力をする覚悟というのが必要だし大切です。
堀:東京大学の公共政策大学院は、キャリアのステージが変化する中で学ばれたと思いますが、どんな意識があったのでしょうか。
梅田:50代くらいから退職後のことを考えていました。元気である限りは働き続けたいとも思いましたし、新たな道をゼロから歩いてみたいなと。定年からでも10年かければ、なんらかのものができるんじゃないか、やはり何かもう一度学びから始めたい、退職後はもう一度大学にいきたいなと漠然と考えていました。しかし、何を学ぶのかというところまで決めきれないまま、退職を迎えてしまいました。
退職後に、今の所属の新時代戦略研究所というグループから手伝ってほしいと声がかかりました。いざ入ってみたらとても幅広いテーマを扱うものですから、これはもう一気に「勉強しなきゃだめだ、間に合わない」と。どうしたらいいかなとネットを色々見て回っていました。そうしましたら、東京大学公共政策大学院の入学説明会の日付が間に合うのがわかり、申し込んだのです。話を聞いたらまさに私が勉強しなければと思っていた法律、政治、経済、社会保障といったことを学べるというので受験し、なんとか合格し入学しました。修士課程を3年のつもりで修め、昨年の春卒業しました。
時代を牽引する医薬品業界のリーダーに不可欠なものとは
堀:昨年は衆議院の厚生労働委員会で薬事行政についてアドバイスされる立場にいらっしゃったと伺っています。薬事行政や医薬という産業のリーダーとして、多様な視点や視野を広げて学び続けることは重要な要素かと思います。
梅田:おっしゃる通りだと思います。それができていなかったというのが、現役から退職までの自分自身の反省です。そもそも、日本の医療はOTC医薬品を除けば、ほぼ100%が国の医療保険制度の中にあります。つまり、マーケットが社会保障制度の中だと、国の財政や税収など、いろいろなことが絡んでくるわけです。
そうなると製薬企業がいい製品を出しても、売上は全て医療保険制度の中から入ってくるのだから、あまりに売上が伸びたら国も大変ですし、いい薬価がついて自己負担が高ければ患者側も大変ということにもなります。こういう難しい状況の中でも元気よく企業が成長し、社会や患者側、そして医療従事者からも評価され、感謝され続けるには勉強が必要です。法律や政治、経済や社会保障について、ステークホルダーの皆さんにきちんと語れなければなりません。リーダーというのは、特に自社だけでなく、業界の立場でも動かなければならない状況にあります。視野の広さが不可欠ですね。
学ばないリーダーは人を育成できない
堀:リーダーが学ばずして人を育成できるのだろうかというところを深掘りしていきたいと思います。梅田さんご自身は、学びの姿勢をどうやって部下や周りに示されていたのでしょうか。
リーダーは「ナンバーワンリーダー」から学べ
梅田:私自身は示すことができていたとは思わないのですが、私が他のリーダーの方から無我夢中で学んだ話をします。
私はMRとして入社して、いろいろな部署を回りましたが、所長や支店長の経験がないまま突然営業担当役員になったのです。あのときは周りのみんなが心配そうな顔をしているのがよく見えていました。
当時のファイザーは営業部隊も業界一の大きさで、売上もほぼ1位。営業担当役員の私は、MRたちに「ナンバーワンMR」「ナンバーワン営業部隊」になって欲しいと望んでいるわけです。しかし営業担当役員である私自身はどうなんだろう?と自問しました。
そこで、広域に動いていらっしゃる卸の社長や営業責任者の方に「ナンバーワン営業本部長だと思う人は誰ですか?」と聞いて回りました。そうしたら、共通したお二人の名前が出てきましたので、会ったこともないのに直接電話をかけて、「最高の営業であるあなたに勉強させてください」と頼み込んで、お会いして学ばせてもらいました。
机の上の勉強だけではないですね。リーダーはナンバーワンリーダーから学ぶ、人から学ぶことを貪欲に求めていく必要があると思います。じっと待っていても学びのチャンスはやってこない、そんな思い出があります。
リーダーに見る学びへの貪欲さが部下の意欲に火を点ける
堀:ありがとうございます。梅田さんと永田さんは以前、同じ会社にいました。永田さんから見て、梅田さんがリーダーとしてどのように学びの姿勢を持たれていたのかをお聞かせください。
永田:梅田さんと同じ会社に勤務していたとき、私が営業責任者になり、梅田さんは3代か4代前の営業本部長でした。その頃は、正直に言えば忙しくて、梅田さんのなさっていること、学びの姿勢というものをほとんど知らなかったのです。ただ、退職してからのお付き合いの中でそういう話を車の中などで聴くことができました。
私が現在所属するリープでは、ファーストラインマネージャーのコーチング指導もしています。コーチングってなんだろうと考えた時に思い出したのが梅田さんの学ぶ姿勢でした。
リーダーって忙しくて、なかなかお互いを見ることができないものですけれど、少し引いてみると、その人がやっている努力や学びが見えてきます。そうすると私たち下にいる部下たちは、やっぱり自分も何か努力をしていかなきゃいけないという、そういう想いに駆られるものです。今年は一からコーチングを学ぼうと、教室に入ったところです。私も学び始めて3カ月。私の学びはこれからが本番だと感じています。
学び続ける組織のリーダーに必要なものとは
堀:時間が迫ってきました。最後に、組織として、学び続ける組織、学ばせていく組織を作っていかなくてはならない中で、リーダーはどんな役割を担うべきでしょうか。
梅田:自分が良いリーダーであったとは全く思わないので、自分の言葉では語れません。以前、私のところへアメリカの営業支店長が半年ほど研修に来ていたことがありました。彼女の言葉を借りたいと思います。
彼女が日本を去る前に、私は「ストロングリーダーとはどう言う人間だと思う」と尋ねました。私は営業リーダーである以上、強いリーダーでありたいと強く思っていたのです。そうしたら、彼女は「方向を理解させ、それに向かってモチベートできるコミュニケーション能力のある人」だと答えたのです。私はこの言葉をずっと大切にしています。リーダーは高いコミュニケーション能力を持たねばならないのです。
堀:梅田さん、永田さん、本当にありがとうございました。
現場における学びの効果と難しさにコーチングの力を
梅田氏、永田氏が語ったように、現場の中で学んでいくことは、これからの部下指導、育成において重要な要素であると堀氏は話します。さらに、実務経験の中で成長に繋げていく学びは以下の「コルブの経験学習モデル」を用いると現状や課題を把握しやすくなると示されました。
特に若いメンバーや部下は内省と教訓を引き出す段階に苦手がある、そこにコーチングの要素が重要であると堀氏は述べます。しかし、同社で行ったファーストラインマネージャーへの調査によると、半数近くがうまくコーチングを行えていないと回答しています。工程や要素、仕事などを構造的に整理しながら部下を指導する、コンセプチュアルスキルを持ったコーチングができる方はさらに10%ほどになってしまうこともわかっています。
リープではデータによるパフォーマンスの可視化で戦略的な教育設計を支援しており、マネージャーのコーチングスキル向上もサポートしています。
コーチングに特化したサービスが、HRアワード2023プロフェッショナル部門 人材開発・育成部門で入賞するなど、高く評価されています。(https://www.leapkk.co.jp/news/hr2023/)
変化が激しい時代の中で、リスキリングやコーチングの重要性が高まっています。リーダー自らが学ぶ姿勢を忘れず新しいスキルを身に付け、そしてコーチングにより部下のリスキリングも促していく。そうした循環が、これからの製薬企業、そして業界成長のカギになると言えそうです。
<出典>※URL最終閲覧日2023.06.23
1) リスキリングとは -DX時代の人材戦略と世界の潮流-, 2021年2月26日, リクルートワークス研究所(https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_jinzai/pdf/002_02_02.pdf)
2) PR TIMES, 2023.03.20, 注目のリスキリングに関する調査を実施/リスキリングへの興味・関心は62%と、注目度が高い 興味・関心のある内容は「情報」「プログラミング」「語学」「データ分析」が上位(https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000603.000004376.html)
3) WORK SIGHT, 人生100年時代、働き方はマルチステージへ(https://www.worksight.jp/issues/863.html)