2022年5月に開催したオンラインカンファレンス「Medinew Digital Marketing Day2022 Spring」。本セッションでは、ティーペック株式会社の椎名裕一氏が講演しました。患者の不安・悩みを解消するだけでなく、患者ニーズを知ることができる「リアルアプローチ」の重要性について解説します。
ティーペックが運営するメディカルコンタクトセンターとは
ティーペックは約30年間に渡り、主に電話による健康相談や医療関連サービスを提供してきました。適切な情報提供・適切な医療へつなぐことを目標に、「健康」と「医療」のインフラ作りを行っています。講演では、現在約1,600団体と契約しているティーペックの「メディカルコンタクトセンター」について紹介しました。
患者の悩みを医療有資格者に直接相談できる
メディカルコンタクトセンターは、医療・健康に特化したコンタクトセンターです。4拠点に合計250ブースを設け、多くの相談を受け付けています。医師・ヘルスカウンセラー・オペレーターの総勢380名超のスタッフが所属しています。
- 設立以来の累計相談件数:2,300万件
- 一日:約3,000件
- 年間:約100万件
健康・医療に特化したコンタクトセンターとしては、日本最大規模を誇り、ヘルスカウンセラーは総勢200名を超えます。ヘルスカウンセラーは、保健師・助産師・看護師・管理栄養士・ケアマネージャー・心理カウンセラーなど有資格者であること、臨床経験5年以上(心理カウンセラーは3年以上)であることが採用条件となり、入社後、200時間以上の研修を修了してから相談業務を行うようにすることで、ヘルスカウンセラーの質を担保しています。
また、24時間・365日、必ず医師がコンタクトセンターに常勤していることも、ティーペックのメディカルコンタクトセンターの強みです。
電話相談で多い内容は体の症状と治療に関すること
メディカルコンタクトセンターで受けている相談を内容別で集計すると、最も多いのは「気になる体の症状」で29%です。これは医療機関受診前の潜在患者からの相談であり、疾患啓発につながる内容であると考えられます。次点では「治療に関する相談」で、25%を占めます。こちらは医療機関受診後の患者からの相談で、服薬や治療のサポートにつながる内容だといえます。
上位二つの相談が半数以上を占めており、メディカルコンタクトセンターを上手に活用することは、製薬企業にとって、疾患啓発や治療・服薬の支援といった患者向け情報提供につながると考えられます。
メディカルコンタクトセンターの相談サービスの対象は、ティーペックと契約した企業・団体に属する従業員や会員となります。具体的には、商品・サービスへの付帯や会員組織での特典などといったお客様向け、健康保険組合の保健事業では被保険者向け、地方自治体では住民向けとして、健康相談を実施しています。
ティーペックではさまざまなマーケットで相談サービスを提供しており、幅広い年代・地域・症状の相談をこれまで受けてきました。「この実績や経験が、製薬企業向けのサービスで生かされたり、施策に役立てたりするのではないか」と椎名氏は話します。実際に、ティーペックのメディカルコンタクトセンターは、内科系や泌尿器系疾患などさまざまな疾患領域で活用されています。
患者への「リアル」なアプローチが必要な理由
製薬業界のマーケティング・プロモーション施策においてはデジタルが中心となりつつありますが、椎名氏は、コンタクトセンターのようなリアルなつながりが求められていると話します。
1. 患者ニーズを引き出し、次のアクションへつなげる
製薬企業が患者向け疾患啓発を行う際の課題として、発信した情報を患者さんが正しく理解しているかが不明である、という点が挙げられます。こういった課題を解決するのが、ティーペックのメディカルコンタクトセンターです。
メディカルコンタクトセンターは、ヘルスカウンセラーが相談者の不安・悩みに寄り添いニーズを引き出すだけでなく、依頼元である製薬企業へのフィードバックなども充実しています。
例えば、メディカルコンタクトセンターが相談者から受けた悩みを、データとして依頼元の製薬企業に提供。製薬企業は相談者の具体的な悩み・不安などのニーズをデータとして取得できます。
さらに、相談後、相談者へ追跡アンケートの実施も可能。製薬企業は相談者が医療機関を受診したかどうかなど、相談後の動きを知ることができます。
デジタルデバイスが普及した今、多くの人は疾患や治療についてインターネット経由で調べます。その一方で、病気や心身の不調については有識者から直接回答をもらいたいというニーズがあります。
「デジタルの次のアクションとして、リアルなアプローチ『人がつなぐ』がとても重要」と椎名氏は指摘します。相談者の不安や悩みに寄り添いながら、ニーズを引き出し、適切な次のアクションへつなげる。これが、製薬企業が患者へリアルなアプローチをすべき理由の一つです。
2. 患者のリアルの声を拾い上げ、施策へとつなげる
二つ目は、相談を通して患者の声を知ることができ、そのデータを疾患啓発や患者支援の施策、研究などへ活用できるという点です。
メディカルコンタクトセンターを通じて取得した相談者の属性や相談データは、個人情報を除いた匿名データとして依頼元である製薬企業に提供します。
具体的には、相談件数・性別・年代・受診の有無・流入媒体(何を見て電話したか)などの集計データと、相談内容やカウンセラーの回答内容などを提供しています。
さらに、相談後に医療機関に受診したかといった追跡アンケートを実施した場合には、そのアンケート結果も依頼元に提供しています。追跡アンケートは携帯電話のショートメッセージを用いて実施しており、設問内容は要望に応じてカスタマイズ可能です。受診確認の設問や、治療や服薬で困っていることを問う設問を入れることで、患者のリアルな声を拾い上げます。
メディカルコンタクトセンターの「価値」
患者が直接悩みを話せるメディカルコンタクトセンターは、デジタル施策と組み合わせて活用することで、より価値を生み出します。講演では、デジタル施策とメディカルコンタクトセンターを用いたリアルアプローチの活用タイミングを、ペイシェントジャーニーを用いて解説しました(下図)。
疾患の認知・興味の段階ではデジタル施策が有効
一般的に患者は健康診断などで体の異常に気づき、症状や疾患に関心を抱き始めます。その後、周囲に相談したり疾患や症状についてネット検索したりするようになります。行動変容ステージモデルにおける「無関心期」「関心期」「準備期」の患者へのアプローチには、デジタル施策が有効です。
その一方で、「『準備期』以降、医療機関へ受診する『実行期』に移行できているか、治療継続する維持期においてどのような患者ニーズがあるか、これらが見えにくいところがデジタル施策の課題となっているのではないか」と椎名氏は指摘します。
医療機関受診の高い壁をメディカルコンタクトセンターが後押し
椎名氏が指摘するように、患者が準備期から実行期へ移行するには、高い壁が存在します。無関心期から準備期にかけて患者がさまざまな情報を収集するなかで、ネガティブな情報も多く目にすることが要因の一つ。
自身に当てはまりそうな疾患は入院期間が長いという情報を目にし、「今は仕事が休めないから後でいいか」と理由をつけたり、「コロナ禍の受診は感染が怖い」と不安を感じたりし、医療機関への受診へ踏み切れない患者が多くいます。
このような患者を実行期へと後押しするのが、メディカルコンタクトセンターによる「相談」です。リアルな相談によって有識者による回答が得られることで、医療機関への受診に不安・疑問を持つ患者に寄り添い適切な回答を得られることで、準備期から実行期への壁を乗り越えられると考えられます。
メディカルコンタクトセンターを利用した患者からは、「丁寧に相談にのってくれて、治療できる可能性があることが分かった」「選択肢や情報をもらえたので、治療への不安がなくなった」「ネットなどで情報を調べたが、直接看護師と話すことで、より安心感が得られた」といった声が寄せられています。
メディカルコンタクトセンター活用で患者向けの施策を広げる
椎名氏は、「Patient Centricityいわゆる患者中心の施策として、デジタル施策の次のアクションとして、メディカルコンタクトセンターが製薬企業の役に立つのではないか」と話します。
今回紹介した疾患系発プロモーションや患者サポート支援の他にも、メディカルコンタクトセンターの協業の可能性はあります。研究段階での患者の状況把握、次世代ヘルスケアの仕組み構築など、各製薬企業の施策に応じた活用が期待されます。