5月に開催したオンラインカンファレンス「Medinew Digital Marketing Day(MDMD)2022 Spring」で、ヤフー株式会社の新庄匠氏が講演した本セッション。ヤフーのビックデータから可視化できるペイシェントジャーニーの紹介とともに、直近の製薬業界において、ヤフーがどのように患者インサイトの理解に貢献できるのか解説しました。
人々の欲求や悩みが顕著にあらわれるヤフーの検索数
セッションの冒頭、ヤフーが持つ検索データについて解説しました。「ヤフーで検索されたターゲットキーワードの検索人数の推移」と「PCR検査陽性者の人数の推移」を示すグラフを並べると、新型コロナウイルスに関するキーワードとPCR検査陽性者数の相関性が非常に高いことが分かります。全国的に陽性者が増えるにつれて、新型コロナウイルスに関連するキーワードの検索数も上昇。ヤフーの検索データは、人々の興味関心をリアルタイムに反映していると考えられます。
ペイシェントジャーニー分析にヤフーの検索ビッグデータを活用
人々の興味関心がリアルタイムに反映されるヤフーの検索ビッグデータは、製薬企業における以下のような課題解決に役立ちます。
- 従来のリサーチ手法では得られない患者インサイトの獲得
- 患者に対するより効果的なコミュニケーション方法の模索
- コロナ禍における人々の健康ニーズ変化の把握
- MR活動の制限による医者とのコミュニケーション不足
中でも「患者インサイトの獲得」と「効果的なコミュニケーション」に関する課題を解決するために、ヤフーは自社が保有する検索ビッグデータを基にしたペイシェントジャーニー分析を活用し、製薬企業各社にソリューションを提供しています。なお、ヤフーが提供するデータは個人が特定できない統計データです。
ヤフーの検索データを使ったペイシェントジャーニー分析は、主に3手順で行われます。
- 検索データなどから、特定の疾患患者だと思われるユーザーをスクリーニング
- 1のユーザーが起点前後に検索したワードをカテゴライズし、検索数の時系列変化や検索順パターンを可視化
- 検索後アクセス先URLの情報も加味してジャーニーを作成
手順1.検索データなどから、特定の疾患患者だと思われるユーザーを絞り込む
まずは月間5,000万人にものぼるヤフーユーザーの中から特定の疾患患者と思われるユーザーを絞り込みます。
例えば、〇〇疾患の患者を見つけたい時には「〇〇(疾患名) 東京 病院」「〇〇(疾患名) 病院 薬剤名」など、「このキーワードを検索する人=〇〇(疾患名)の可能性がある」のような定義をかなり細かく設定します。検索キーワード以外にも、検索数や検索頻度も加味しながらスクリーニングを行っていきます。
手順2.対象ユーザーの検索ワードをカテゴライズし、検索数の時系列変化や検索順パターンを可視化
手順1で対象に絞り込んだユーザーが、どのような検索行動をとっているのかを検索データを用いて可視化します。ペイシェントジャーニーを描くために起点を任意に設定し、その起点前後でどのような行動を取っているのかを分析します。
例えば病院名を検索した日を起点とした場合、「どのような検索をしてから疾患名に辿り着くのか」「疾患名にたどり着いた後どのようなキーワードを検索するのか」を検索データから分析します。
しかし症状名を検索してから病院の検索にたどり着くパターンや、病名を検索してから病院の検索にたどり着くパターンなど、検索キーワードや検索の順序は患者ごとにさまざまです。そのため、検索されたキーワードを「薬剤名」や「治療法」などのカテゴリに分け、患者がどのような順番で検索していくかをパターン化・定量化していきます。
手順3.検索後のアクセスURL情報も加味してジャーニーを作成
ヤフーでは検索データだけでなく、検索後にどのサイトを閲覧しているかのデータも保有しています。とある疾患名に辿り着くまでに閲覧するサイトの例としては「病気全般を症状から探せるサイト」や「製薬企業などの特集サイト」などが挙げられますが、それらも加味した上でどんな情報を取得しながら疾患名に辿り着いたのかを分析し、ペイシェントジャーニーを作成します。
以下は、最終的なペイシェントジャーニーのサマリー(イメージ)です。
「とある疾患名に辿り着いて実際に検索するまでに時間がかかっているのでは」という仮説を検証するため、「とある疾患の検索に辿り着く前に、患者がどのような検索行動をとっていたのか」を可視化しています。
ターゲットキーワードとする「とある疾患名」の検索に患者がたどりつくまで、「他の疾患名」を検索していたり、「自覚症状」から検索していたりと検索フローは患者ごとにさまざまです。また、いずれの患者もターゲットキーワードを検索するまでに2週間~1カ月の時間を要していることがペイシェントジャーニーから分かります。
患者の課題を解決するためには、製薬企業や病院などがもう少し早めの段階で疾患に辿り着くような情報をオウンドメディアで発信すべきだという提案が導き出されます。
すでにペイシェントジャーニーを作成している製薬企業でも、ペイシェントジャーニーとなる患者数のサンプル数は決して多くないのではないでしょうか。多くのペイシェントジャーニーは患者への直接のインタビューをもとに作成しており、患者は発言しづらさを感じたり記憶が曖昧だったりし、正確なデータが収集できていない可能性があります。対して、検索データは患者の確実な行動履歴です。ヤフーの検索ビッグデータを生かすことで、より正確なペイシェントジャーニーを描いていくことが可能になります。
なお、希少疾患領域の場合でも、サンプル数次第で分析可能です。
医療従事者の検索データの除外も可能
ヤフーの検索データの中には医療従事者も含めたすべての人のデータが含まれていますが、医療従事者の検索データの除外も可能です。
方法は、ペイシェントジャーニーの作成フローと同様に医療従事者の行動を分析、ジャーニーを作成したうえで、ペイシェントジャーニー上の指標から除外します。
ヤフーの検索ビッグデータからペイシェントジャーニーを作成・分析することで、ターゲットとする患者がどのような検索行動を行うのかが統計的に把握できます。患者のニーズを掴み、患者向けサイトのコンテンツに患者が求めるキーワードが含まれているかを見直したり、患者に情報提供を行うチャネルが適しているかを再検討したりと、患者コミュニケーションの課題把握と改善に役立てることができます。
ヤフーデータを活用した医療従事者のペルソナ分析
新庄氏はヤフーが提供するソリューションの一つとして、医療従事者のペルソナ分析についても解説しました。
ヤフーの検索ビッグデータは患者だけでなく医療従事者の検索行動も分析できます。
医療従事者の検索行動データから上図のような医師のペルソナを作成し、医療従事者向けのコンテンツ制作に役立てることが可能です。
ヤフーが提供する二つのサービス
ヤフーは、「DS.ANALYSIS」と「DS.INSIGHT」の二つのソリューションを製薬企業に提供しています。本講演で解説したペイシェントジャーニー分析やペルソナ作成は「DS.ANALYSIS」が提供する機能を用いており、企業の課題にあわせてヤフーがオーダーメイドで運用・レポートを作成します。
「DS.INSIGHT」は、ヤフーのデータをSaaSとして提供します。ヤフーが持つデータの一部を可視化しやすいようにまとめているツールや、時系列別のキーワードの抽出などを用いて、製薬企業各社に必要な形でデータを抽出・表示し、分析に活用できます。
製薬業界におけるデータ活用の重要性
誰でもWeb検索が気軽に行える今、「検索して調べる」という行動が人々に根付いており、それは患者でも医療従事者でも同様です。製薬企業がターゲットとする患者、医療従事者が日々どのような悩みを抱え、どのタイミングでどんなキーワードで検索しているのか。ヤフーの持つ検索ビッグデータを活用することで、患者や医療従事者のWeb上の行動を正しく把握・理解でき、製薬マーケティングを行う上でのヒントとなり得るでしょう。