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MDMD2022Autumnレポート/ペイシェント・セントリシティを実現するMRによる「問題解決型ディテーリング」とは

MDMD2022Autumnレポート/ペイシェント・セントリシティを実現するMRによる「問題解決型ディテーリング」とは


2022年9月に開催したオンラインカンファレンス「Medinew Digital Marketing Day(MDMD)」。本セッションでは、モデレーターにリープ株式会社の堀貴史氏、講演者に旭化成ファーマ株式会社の浦谷一平氏をお迎えし、旭化成ファーマが目指す患者中心志向のディテーリングを実現するためのMRトレーニング研修「A-SPEC DTL」について、導入の背景や研修のポイントを講演いただきました。

MRに求められる患者中心のディテール活動

多くの企業が持つMRに期待するスキルやその育成への考え方について、リープの堀氏より紹介がありました。
人材育成を行う目的は、組織が掲げるビジネス・ゴールを達成するためです。そのビジネス・ゴールと、社員のあるべき姿であるパフォーマンス・ゴールにギャップが生じた際に、そのギャップを埋めるための社内教育が必要になります。

昨今、MRに求められるディテールスキルは変化しています。従来であれば、自社製品のキーメッセージをたくさんの顧客(医師)に正確に伝えることが重視されていました。しかし、現在では患者視点に立って顧客のアンメットニーズを探掘し、課題の解決策として自社製品を提案する「ペイシェント・セントリシティのディテーリング」こそが求められているのです。これを実現するためには、新たな研修の導入や継続研修コンテンツの見直しといった表層的な改革では不十分であり、研修部門の関わり方、研修の仕組みそのものから変えていくことが必要だと堀氏は話します。

研修の仕組みを変えて成功した旭化成ファーマの事例

本講演では、実際にMR研修の仕組みを変えて成功した事例として、旭化成ファーマの浦谷氏が登壇。ディテールにどのような変化が生まれたのか紹介しました。

旭化成ファーマが目指す患者中心志向のディテーリング「A-SPEC DTL」導入の背景

旭化成ファーマでは、患者中心志向のディテーリングをA-SPEC(最上のスペック)で実現することを目指し、MRに対して「A-SPEC DTL (Asahi Kasei Patient centricity DTL)」と称したトレーニングを実施しています。トレーニングを実施するに至った背景として、企業理念のミッションの要素としても取り上げられている「患者さん一人ひとりに寄り添う」という考え方を現場で実践できないという課題がありました。同社のMR活動は従来から製品の特性を伝えることが中心であり、プライマリな疾患におけるディテールでは一定の成果も出していました。
一方で、個々の症例に対して向き合うことが求められる専門領域のヘテロジニアスな疾患においては、薬剤中心のディテールでは製品をなかなか浸透させることができず、苦戦を強いられてきました。

この課題を解決するために、A-SPEC DTLを実施することにしたと、浦谷氏は話します。

薬剤中心から患者中心へ、A-SPEC DTLの導入で変化したMRの姿勢

A-SPEC DTLの実施により大きく変化したのは、「薬剤中心のディテール」から「患者中心のディテール」になったことです。

従来は製品特性を医師に伝えることが中心となっていたため、対話の中で製品につながるキーワードが出た途端に製品紹介を始めるようなディテーリング活動になっていました。患者自体に興味を持って聞き取りが行えていなかったほか、患者情報の聞き取りが行えていたとしても、製品特性の紹介に結び付けられるかどうかという軸で考えていた、と言います。

一方、A-SPEC DTL実施後は、医師に対しチェックリストに沿うように淡々と質問をするのではなく、質問した後にもう一歩深堀することができるようになり、医師と具体的な患者さんを主語として対話ができるようになりました。また、共通認識として具体的な患者さんがイメージできるようになったことで、たとえ途中で話が終わった後でも、次回訪問時にどの患者さんのことを話しているのか、医師と通じ合うことが増えました。
さらに、今まではデータを提示するだけだったプロセスも見直し、患者さんのベネフィットになる情報をプラスして具体的な提案ができるようになった、と浦谷氏は話します。

ディテールにおいて目指すべきゴール

ではなぜ、患者中心のディテールが必要とされるのでしょうか。従来の薬剤中心のディテールにおいても、患者中心のディテールにおいても、最終的に目指すのはポジショニングの獲得です。しかし、ゴールに至るプロセスは同じではありません。

各ディテールの目指すところ
2022.9.30 旭化成ファーマ(株)/リープ(株)「ペイシェント・セントリシティを実現する 問題解決型ディテーリングとは」資料より抜粋


薬剤中心のディテールでは、医師の処方方針を確認して症例を積み重ねポジショニングの獲得を目指していました。一方、患者中心のディテールでは患者さんに対してどうすれば薬剤が役立つのかをしっかりと提案することで症例を積み重ね、処方方針に組み込んでもらいポジショニングの獲得を目指します。後者では医師に薬剤の効果を実感しながらポジショニングをつくってもらえるため、高い評価が得られているのではないかと浦谷氏は話します。

高いレベルのディテールと仮説思考が身につくA-SPEC DTL

A-SPEC DTLで目指したのは、高いレベルのディテールと患者さんの困りごとを想像する仮説思考を身につけることです。具体的なトレーニングとしては論証構造トレーニングとPOS(Problem Oriented System)トレーニングを実施し、フィードバックを行うことでMRの育成に努めています。

説得力のあるディテールが身につく論証構造トレーニング

医師としっかりと対話が必要なヘテロジニアスな領域ですがCOVID-19禍により面談機会は減少し、オンラインでしか対話できない状況に。そのような中で医師を納得させて合意を得るには、製品の知識のみならず正しい論証構造を持った説得力のあるディテールが必要だと浦谷氏は考えました。

そこで取り入れたのが、論証構造トレーニングです。相手を納得させるためには事実を伝えるだけではなく、事実を裏づける理由も必要です。例えば、貧血の症状に対して自社製品が適していると伝えるだけでなく、「自社製品にはこのような特性があるため貧血の原因を改善できます」という製品を勧める理由が必要です。しかし、浦谷氏は「医師ならばわかってくれるだろうというMRの解釈のもと、ただその理由を並べるばかりで、そもそも議論の前提にある、患者さんや医師の臨床での困りごとなどの必要な対話が行われていないことが多かった」と振り返ります。

論証構造トレーニングでは、ロールプレイングから文字起こしされたシナリオをもとに、各自課題を抽出し、自分のディテールの改善点を考え、再度ロールプレイングに臨むというサイクルを3回繰り返します。トレーニング中のワークでは、評価結果のフィードバックだけでなく、自分自身のディテーリング内容が文字となって可視化されているため、受講者であるMR本人が自身の課題に気づくことができ、また、第三者によるスキル評価の結果をもとに、指導者側も各自に合わせてバイアスのないフィードバックが可能です。

「仮説思考」を養うPOSトレーニングを導入

論証構造のトレーニングを行う中で見えてきたのが、患者さんの困りごとを想像する「仮説思考」の弱さでした。患者さんの困りごとを表面的に理解するのではなく、心理的・社会的な背景も踏まえて想像できるように、論証構造トレーニングのネクストステップとしてPOSトレーニングを取り入れています。

ゴールを明示して評価とフィードバックを行う

ロールプレイング中の評価には、MRディテールのパフォーマンス測定に特化したリープのルーブリックを用いています。

A-SPEC DTLの概要
2022.9.30 旭化成ファーマ(株)/リープ(株)「ペイシェント・セントリシティを実現する 問題解決型ディテーリングとは」資料より抜粋


このルーブリックの利点として、聞き手の受け取り方に基づいた点数化が可能であること、そして各項目においてMRに必要とされるスキルが目標と合わせて明記されているためフィードバックがしやすいことが挙げられます。受講者であるMRからも、わかりやすい評価システムだと好評を得ていると浦谷氏。トレーニング後には修了証を渡すことで、その後のMR活動への自信につなげています。

インストラクショナルデザインの観点からA-SPEC DTLのポイントを解説

講演の最後に、A-SPEC DTLの取り組みについて、インストラクショナルデザインの観点から押さえておくべきポイントを堀氏が解説しました。

医療従事者と同じ視点で患者問題を考える

ペイシェント・セントリシティを実現するための論証構造では、事実・事実情報として「患者さんの困りごとは何か」をテーマに医師と対話を進めていきます。重要なのは患者さんが抱える問題を先生と一緒になって、どう解決するかです。

成果が出ているMRのディテールの特徴として、事実・事実情報である患者さんの困りごとを医療者と同じような視点で捉えることができていると分かりました。患者さんの問題を、疾患などの身体的な側面だけでなく、心理的・社会的な側面を含めた全人的な患者問題として捉えていく必要があるのです。
この、患者問題に着目しながら物事をとらえ考えていくシステムのことをPOS(Problem Oriented System)といいます。POSは、医療従事者が患者さんを診る際に、治療・ケアすべき問題の仮説を立て、情報収集を行い、問題を特定し、治療計画を立てるといった1つのストーリーのようなプロセスで進められます。 

患者問題を解決するための思考プロセス
2022.9.30 旭化成ファーマ(株)/リープ(株)「ペイシェント・セントリシティを実現する 問題解決型ディテーリングとは」資料より抜粋


このような医療従事者の思考プロセスをMRが理解することで、医療従事者視点での臨床の問題の捉え方が想像できるようになり、医師に対する質問の内容、ひいてはディテールが変わってきます。A-SPEC DTLでは、それをふまえて自分たちが見るべきスコープがどこなのかというところにまでしっかりとフォーカスされているのではないかと堀氏は話します。

評価とフィードバックの連続が成長を生む

旭化成ファーマでは、期待されるビジネス・ゴールに対してのパフォーマンス・ゴールがA-SPECという形で表現されていますが、重要なポイントは評価とフィードバックのシステムをどう作っていくかというところにありました。それを実現するためにルーブリックが採用されていましたが、本来ルーブリックは評価を行うためではなく、どこまで自分が学んできたかの到達度を確認し、次の学習目標が見えてくるといったスキルマップのようなものだといいます。

評価とフィードバックの連続図式
2022.9.30 旭化成ファーマ(株)/リープ(株)「ペイシェント・セントリシティを実現する 問題解決型ディテーリングとは」資料より抜粋


成長する過程には評価とフィードバックがセットであることが効果的ですが、ルーブリックを使いこなし、最適な評価とフィードバックのプロセスを実現できていることがA-SPECの成功要因なのではないかと、堀氏は分析し、講演を終えました。

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