新型コロナウイルスの感染拡大は、製薬マーケティングのデジタル化を一気に加速させました。今後どのように医師に対してプロモーションを行っていくのか、各社試行錯誤をしています。そんな中、製薬企業のマーケティング手法としてメールマーケティングが注目を集めています。本記事では、メールマーケティングの基本や改善のポイントについて解説します。
製薬企業がメールマーケティングに注目する理由
メールマーケティングとは、メールを活用してサービスの購入や集客、ブランド認知の拡大などを達成するための手法です。以前からよく使われているメールマガジンは、メールマーケティングの一種です。
近年、製薬企業で再びこのメールマーケティングが注目されています。その理由は、年々厳しくなる医療機関での訪問規制により、従来の対面営業が難しくなってきているからだと考えられます。新型コロナウイルス感染症による影響で訪問規制の流れはさらに強化され、今後それが緩和されるかどうかは未知数です。それにより、製薬企業では直接営業を主体とするMRを介さないデジタルマーケティングに力を入れるようになりました。
デジタルツールが数多くリリースされている今でも、やはりメールは医師や医療従事者にとって最も身近なツールです。そのため、さまざまなデジタルマーケティングの手法がある中でも、メールマーケティングは医療従事者にリーチできる可能性が高いと考えられ注目されているのではないでしょうか。
製薬企業がメールマーケティングを行う4つのメリット
メールマーケティングにはどのような効果があるのでしょうか。ここでは、4つのメリットを紹介します。
直接会いにくい医師にもアプローチできる
医療機関の医師や医療従事者は非常に多忙なため、なかなか直接対面で会う時間を作れず、MRが面会依頼をしても断られてしまうケースが多々あります。中には、そもそもMRに直接会いたがらない医師や医療従事者もいます。
メールマーケティングであれば、このような直接面会が難しい医師や医療従事者に対してもアプローチすることが可能です。配信されたメールは読み手側が好きなタイミングで見ることができるため、時間の制約に縛られないというメリットがあります。
医師の属性に合わせて配信内容を変えられる
メールマーケティングでは、医師の属性に合わせて配信内容やタイミングを変えられます。医師のニーズに合わせた情報を提供できるため、興味を持ってもらえる可能性は高くなります。
紙の資材やダイレクトメールよりも低単価でできる
紙の資材やダイレクトメールを作成するには専門業者への依頼費や印刷代等含めて多大なコストがかかります。その点、メールマーケティングでは紙媒体でかかる費用の大部分を抑えることができるため、結果として紙の資材やダイレクトメールと比べて低単価で配信することができます。 特に製薬企業では医師の多様なニーズに応えるため、非常に多くの種類のパンフレットを紙媒体で用意しています。メールマーケティングを活用すれば、紙媒体を減らし、マーケティングコストを削減できる可能性があります。
効果測定と改善がスピーディーにできる
メールマーケティングでは効果測定と改善がスピーディーに行えます。紙の資材やダイレクトメールでは、「これだけ資料を配ったからこれだけ効果がでた」というような効果測定が非常に難しいです。
メールマーケティングではさまざまな効果検証ツールがリリースされており、メールの開封率やコンバージョン率なども測定が可能です。効果測定がしやすいため、マーケティングの課題点も把握しやすく改善を効率的に行えます。
メールマーケティングの種類
メールマーケティングには、4つの種類があります。それぞれ特徴がありますので、配信する目的に合わせて使い分けることが大切です
1. メールマガジン
メールマガジンは、もっともよく知られているメールマーケティングの手法です。登録ユーザーに対して一斉にメールを送信します。定期的に情報を配信することで、ユーザーと接点を持ち続けることや自社のファン育成を目的としています。全員に向けて配信するため、ニーズの違う読者全てに対して価値あるコンテンツを提供するのは難しく、直接お問い合わせや採用に繋げることは難しいといわれています。
2. セグメントメール
セグメントメールとは、配信リスト内から対象となる見込み客を指定した条件で絞り込んだ上でメールを配信する手法です。
例えば「20代から30代の循環器内科の医師」というように、属性によって配信対象を限定してその対象者にプロモーションしたい内容をメール配信できます。また「WEBサイトからある資料をダウンロードした医師」のように特定のアクションでセグメントも可能です。
対象となる医師の属性、行動を絞って配信することができるため、ニーズに合致する場合が多くなるでしょう。一斉送信に比べて送付数は減りますが、メールの開封率やクリック率が上がりやすいといわれています。
3. ステップメール
ステップメールとは、指定したアクションを取ったユーザーに対して、あらかじめ設定したスケジュールに沿って事前に用意したメールを自動で配信する手法のことです。例えば、WEBサイトからある医師が医薬品に関する資料をダウンロードした場合、ステップメールを活用すれば下記のように複数回のメールを設定し、自動配信できます。
- 資料ダウンロード時:ダウンロードのお礼メール
- 2日後:医薬品資料に関連した事例記事
- 1週間後:医薬品資料に関連したセミナーの案内メール
- 1カ月後: 最新の医薬品関連資料を掲載したメール
ステップメールを活用することで、複数回に分けて企業側が伝えたい情報提供できるため、ユーザーの次のアクションに繋ぎやすくなります。
4. リターゲティングメール
リターゲティングメールとは、何らかの形で接点ができたユーザーに対して、事前に設定したアクションをユーザーが取った時にメールを配信する手法のことです。リターゲティングという手法はよくWEB広告で用いられています。
例えば、自社の情報サイトに会員登録をした医師が、WEBサイト上である自社医薬品の情報を閲覧するも、資料のダウンロードまでは行かずにWEBサイトから離脱したとします。リターゲティングメールを活用すれば、その1日後に自動的に該当する自社医薬品の関連資料をメールで配信することができます。
リターゲティングメールを活用することで、自社医薬品により関心の高い医師にメールを送信できるので、メールの開封率やクリック率の向上が見込めます。
製薬企業がメールマーケティングで効果を出すには?
最近ではメールマガジンのサービスも非常に多くなっており、医師は毎日たくさんのメールを受け取っています。メールの受信ボックスに埋もれ、読まれずに終わってしまうケースもあるでしょう。そのため、メールマーケティングの運用で成果を出すためには、KPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)の設定と、それを達成するための施策の繰り返しが必要です。
メールマーケティングで効果測定や改善を行う指標として、以下のKPIがよく用いられています。
- 不達率:メールアドレスが間違っていたなどの理由によりメールが届かなかった割合
- 開封率:配信されたメールの開封された割合
- クリック率:届いたメールのうち本文中のリンクがクリックされた割合
- 反応率:開封されたメールの中で本文中のリンクがクリックされた割合
- 配信解除率:届いたメールのうち配信解除された割合
これらのKPIを定期的に確認しPDCAのサイクルを回しましょう。KPIが達成できないときには、改善のために以下の点について検討します。
1. ターゲットにあわせ配信時間と頻度を見直す
メールを読んでもらい、自社製品やサービスの利用に繋げやすくするためには、配信先のターゲットにあった配信時間と頻度が重要なポイントです。
メールが配信される時間帯や頻度などによって、メールが読まれる確率も変わります。あまり頻度を増やし過ぎて鬱陶しいと思われてしまうと、メール配信の登録解除に繋がります。また、忙しい時間帯にメールを送れば、開封率が下がってしまうでしょう。日中の診療などが忙しい時間帯を避け、朝もしくは夕方から夜にかけて配信時間を設定するなどの工夫が考えられます。
2. コンテンツを見直し、開封率・クリック率を高める
開封率・クリック率を高める工夫を積極的に行っていきましょう。効果を上げるための工夫として、以下のような施策が考えられます。
・件名を最適化する
件名は、開封率に大きく影響します。読者は、件名を見ただけで瞬時にそのメールを読むかどうかが判断しています。「名前を入れる」「興味をひく単語を入れる」などの工夫が考えられます。
・本文の内容や構成を見直す
クリック率が低い場合は、本文の内容や構成に問題があるかもしれません。「冒頭の挨拶文を簡潔にする」「CTAボタンをファーストビューに設置する」といった方法で改善する可能性があります。一般的に、メールの下にいけばいくほどクリック率は低くなると言われています。一番見せたい情報は、ファーストビューに載せると良いでしょう。
・画像や動画による視覚的なインパクトで興味を惹きつける
HTMLメールを利用する場合、画像や動画など視覚的なインパクトで興味を惹き、クリック率を上げる方法もあります。「どの画像を使うか」「どこに画像を配置するか」「動きのあるGIFアニメーションや動画等を使用するか」といった画像の内容や数、動きの有無などが改善点に挙げられます。
A/Bテストで効果測定と改善を繰り返す
メールマーケティングを効率的に改善していく方法として、A/Bテストは非常に有効な手段です。A/Bテストとは、文章や画像等をAパターンとBパターンの2種類を用意し、どちらがユーザーの反応が良いかを検証するものです。A/Bテストは、以下の流れで行います。
①計画を立てる
検証したい課題を明確にし、何をテストするのかを決定します。具体的には、上記で挙げた改善点も含めて、以下のような点がテスト項目として考えられます。どの要因で効果が上がったのかが判断できるように、テスト項目は1つに絞ることがポイントです。
配信タイミング | 曜日、時間 |
件名 | 宛先または差出人の名前の有無、内容、長さ |
冒頭文 | 宛先の有無、リード文の有無、内容、長さ |
本文 | 訴求ポイント、コンテンツの数、文字の量、CTAボタンの色・大きさ、マイクロコピー |
バナー | 画像の内容・大きさ・配置、動きの有無(GIFアニメ、動画) |
②配信
マーケティングオートメーションツールやメール配信システムの機能を利用しA/Bテストのメールを配信します。まず配信リストからランダムに一部の配信先を抽出し、用意した2パターンのメールを送信。その結果、効果が高かった方を残りの配信先に送付します。設定方法はツールによって異なりますので、使っているツールをご確認ください。
③検証結果をふまえて改善を繰り返す
A/Bテストは、すぐに結果を得ることができます。その結果を分析し、次の検証に生かしていくことが大切です。1回だけのテストで終わりではなく、何度もテストを繰り返して少しずつ改善していきましょう。
製薬企業のマーケティングにメールを活用しよう
製薬企業の多くは、医療従事者向けにメールマガジンを配信していますが、なかなか効果検証まで実施するのは難しいかもしれません。しかし、オウンドメディアへの流入やセミナーの申し込みなど、メールマーケティングは大きな可能性を持っています。A/Bテストを実施したり、メール配信後にKPIを定期的に確認し改善することで、メールマーケティングの効果を最大限に高めていきましょう。