セミナーレポート/医療用医薬品のデジタル&データマーケティングの始め方

ファーマITデジタルマーケティングセミナーレポート

DX化が進む昨今、製薬業界でも、デジタルマーケティングの重要性が説かれています。これからデジタルマーケティングについて導入ツールややり方を検討する方へ向け、2021年4月開催「ファーマ IT & デジタルヘルス エキスポ 2021」内で、株式会社メディクト代表取締役 下山直紀氏と株式会社医薬情報ネット代表取締役 金子剛章が「医療用医薬品のデジタル&データマーケティングの始め方」をテーマに講演しました。

新型コロナウイルスで製薬企業にもDX化の追い風

2004年創業、製薬企業・医療機器企業向けにコンテンツを作成してきたメディクトは、ここ数年デジタルマーケティングやデータ連携、DX(デジタルトランスフォーメーション)のコンサルティングに力を入れています。2019年には、製薬企業向けマーケティングオートメーション「B to Dr」をリリースしました。セミナーでは、トップクラスの製薬企業向けデジタルコンテンツ制作実績を誇るメディクトの下山氏が、デジタル市場の現状やトレンドについて話しました。

【メディクト社の実績】
・WEBサイト制作:約1,000サイト
・eディテーリング用映像制作:約4,000動画
・Drインタビュー:のべ約2,000人
・iPadコンテンツ制作:約8,000スライド

製薬業界でも、2020年以降は新型コロナウイルスにより環境や情報提供活動に多くの変化が見られました。MR活動は対面での活動に大きく制限がかかり、変化に対応した情報提供活動の再構築が求められています。また学会やイベントはリアルな場での開催は困難となり、オンライン開催が主流となりつつあります。一方製薬企業側だけでなく、医師側にも変化が現れてきました。デジタルチャネルが充実してきたことで、デジタル活用機会が増加し、医師が能動的にデジタルチャネルへアクセスするようになっています。

医師のデジタル利用の高まり

下図は、医薬情報ネットが運営するサイト「Medinew(メディニュー)」内の製薬企業オウンドメディア定期レポートから作成したものです。製薬企業のオウンドメディアの月間訪問者数は、2020年10月から2021年3月の半年で増加が見られます。他にもメディクトがサポートするある医師向けサイトのここ1年のログデータを見ても、ページビューは2.56倍、新規ユーザー数は4.2倍に増加しており、医師のデジタル利用の高まりが分かります。

オウンドメディアの利用状況(4社推移)

これらの状況を踏まえ、「製薬企業のDXは急加速せざるを得ない」と下山氏は指摘します。デジタルマーケティング強化に向けた組織編制も各社活発になっており、デジタルやDXの部署を新設する企業が増えてきています。その流れの中で、医師向けサイトのリニューアルも活発化。会員化の導入・WEBセミナーのプッシュ・動画コンテンツの充実・おすすめ表示追加やプッシュ型機能の強化などのリニューアルを各社実施しています。

多くの製薬企業がデジタルマーケティングに力を入れる中、差別化するためには

では、リニューアルや機能が充実した医師向けサイト、増え続けるWEBセミナーやメルマガといった製薬企業のデジタルマーケティングの流れの中で、これから困ることは何なのでしょうか。下山氏は「医師の奪い合い戦争」と話します。膨大なデジタルチャネルやコンテンツによる情報提供が増え続けることで、医師の取り合いが起こる、または既に起こっていると考えられるのです。

顧客視点でデジタルマーケティングの提供価値を考える

医師の奪い合い戦争に負けないためには、「基本に立ち返り、顧客視点を持つことが大事」と下山氏。これまではMRが担ってきた顧客理解・個別対応・おもてなし・フォローをいかにデジタルにシフトしていくか、が今後の製薬業界でのDXのテーマとなります。これまでのMR活動をデジタルで行うためには、医師を理解・分析する必要があり、あらゆるタッチポイントのデータを収集し、一元管理しなくてはなりません。そのためには、「BIツールやAIツールなど、医師を理解・分析し、それを高速化するためのツールやサービスの活用が必須である」と下山氏は話しました。

製薬企業のデジタルマーケティングの始め方

では優れたデジタルツールを活用すれば、デジタルマーケティングが成功するのか。一概にそうではない、と医薬情報ネットの金子は話します。「デジタルマーケティングを行っている企業でも、一部の機能しか活用できていない、全体のデータ連携ができていない企業が多い」と指摘。製薬業界のマーケティングは、MRが中心のシングルチャネルから、デジタルコンテンツやメルマガなど複数のチャネルを用いたマルチチャネルへと変化してきました。さらに現在は、各チャネルが連動し、顧客に最適なおもてなしをするオムニチャネルが主流となっています。

一般的に購買プロセスでは、認知からクロージングまでを対面で行ってきました。しかし、対面が占める割合は減ってきています。

特に顕著な例が、自動車産業です。これまでは何度も来店し試乗して購入していたものが、今は来店頻度が10分の1にまで減り、最後に試乗のために来店するそうです。購買プロセスは、顧客自身がデジタル上で比較検討を繰り返し、自ら情報を集めた上で、最終確認に来店し対面の営業を受けるという形に変化しているのです。製薬業界でもコロナ禍でこのような購買プロセスが加速してきており、認知から比較検討までデジタル上で自ら行う医師が増えています。実際にミクスの2021年2月の発表によると、医師に対する「有用であると考える医薬品の情報源」のアンケートでは、MRという回答がトップから陥落し、会員制医療情報WEBサイトがトップとなりました。

オムニチャネルを実現するための各チャネル連携

新型コロナウイルスの影響を受け、マーケティングにおけるチャネルの重要度は、デジタルへとよりシフトしています。では、どのようにデータを活用していけば、デジタルマーケティングは成功するのでしょうか。オムニチャネルを実現するデータ連携概念図を示します。

オムニチャネルを実現するデータ連携概念図例

MSLやMR、講演会などリアルコミュニケーション、またオウンドメディアやサードパーティなどデジタルコミュニケーションを通して、医師へ情報提供が行われ、かつ医師からの情報収集が行われます。金子によると、このさまざまなデータをまとめて管理できていない会社が多いそう。医師の属性情報に加え、リアルかつデジタル上での医師の行動情報はどんどん増加します。付随していく膨大な量の情報を集積できるツールが、DMP(データマネジメントプラットフォーム)やDWH(データウェアハウス)です。DMPやDWHで一元管理することで、より有用なデジタルマーケティングとなります。

では、どのように活用できるのか。DMPやDWHに集積されたデータを用いると、時間軸で可視化したカスタマージャーニーを作成できます。下図の処方変更に繋がった例によると、属性情報や行動情報を洗いざらい時間軸で並べ、処方意向が変化したタイミングを確認します。この医師と同じような属性で行動をとっている医師のセグメントを、DMPやDWHから抽出できます。
これまでは仮説のもと行うケースが多かったものの、データをまとめて管理することで、データありきの可視化された成功例をディテーリングやMR活動に活かしていけるのです。「ここにDMPやDWHを作っていく、大きなメリットがある」と金子は話します。

データから可視化できるカスタマージャーニー例

既にDMPを活用してきた企業も、コロナ前はデータをSFAに送りMR活動へと役立ててきました。しかし今後は下山氏からの指摘にもあったように、医師の奪い合い戦争に勝つためのオウンドメディア上での高いホスピタリティを目指す手段として、DMPに集積したデータの活用が求められます。カスタマイズした情報提供がデジタルでいかにできるか、そこがデジタルマーケティングの差として現れてきそうです。

MA(マーケティングオートメーション)ツールを導入し、データ集積を行っているためDMPは必要ない、という企業もあるかもしれません。しかしツール終了とともにデータがリセットされてしまうため、資産となるデータを自社内のDMPなどで構築しておく方が長期的に考えるとよいそうです。

製薬業界に適したデジタルマーケティングツールとは

現在、下図に示すデジタルツールが製薬業界で多く使われています。しかし、機能が充実したツールを導入すれば、デジタルマーケティングがうまくいくわけではありません。

会社ごとにデジタル予算やターゲット医師数、MR数など条件は異なります。「条件に応じて、適切なツールを選択することが必要だ」と金子。たとえばMarketoを使うには、1万以上のデータが揃わないと有効活用できないそうです。いくら優秀なツールを用いても、適材適所できなければ、宝の持ち腐れとなる可能性も考えられます。

製薬企業が多く導入しているマーケティングツール一覧

適したデジタルツールを導入して終わりではありません。下山氏によると、「シナリオを作って運用していくことが大事。導入後も少しずつ調整して、効果を上げていく必要がある」そうです。またオウンドメディア作成やリニューアルを予算や技術の問題で断念することもあるでしょう。経験豊富な企業をパートナーに、デジタルマーケティングに取り組むことも方法の一つと考えられます。


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