2020年9月2日、ファーマIT&デジタルヘルス ウェビナーの中で「コロナで加速 脱MRデジタルトランスフォーメーションの未来」と題して、ディスカッション形式による講演が行われました。
本記事では、3部に分けてその内容を紹介します。第1部の株式会社医薬情報ネット代表取締役の金子剛章氏による「オムニチャネルマーケティング」、第2部の株式会社メディクト代表取締役の下山直紀氏による「コロナ禍での医師のオウンドメディア訪問の変化」に続き、第3部では、本セミナーの中でディスカッションされた内容をまとめ、コロナにより変化するデジタル活用の今後について紹介します。
これからのMR機能とデジタルトランスフォーメーションについて
笹木) 新型コロナウイルスの感染拡大による外出自粛期間中は、オウンドメディアのアクセス数が多くなりましたが、再訪者は現在減少傾向です。その対策として講演内でも、コンテンツの更新頻度や人気コンテンツを増やす・MAのようなツールで最適化を図る・MRと連携する、が挙げられました。医師の行動が変わってきた中で、MRの機能はどう変わっていくでしょうか。
金子) これまでMRは製品認知からクロージングまで行う何でも屋のような役割で、医師とコミュニケーションを取ってきました。今後オーファンドラッグやバイオ医薬品が中心となっていく中で、デジタル上でマスマーケティングを行いターゲティングした上で、MRをベストなタイミングで起用させる、というパフォーマンスに変わってくるのではないでしょうか。
下山) 従来、オウンドメディアとMRは、個々の動きで医師にアプローチしてきました。オウンドメディアの内容を知らないMRもいるほどですが、今後MRが独自に活動することが難しい中で、オウンドメディアとMRの連携や役割分担を明確にしていくことが必要となってくると思います。連携の面では、金子さんが興味深い施策をされていると聞いています。
金子) 製薬企業ではオウンドメディアを運営する組織と営業本部が分かれているケースもあり、組織形態として連携できていないことが課題の一つと言えます。そこでひとつの施策として、エリアごとにデジタルやオウンドメディア担当をつくり、顧客全体向けに作成されたメールテンプレートに枕詞などを入れ医師ごとにカスタマイズする、といった取り組みを行っています。エリアのMRの情報と掛け合わせるローカライズという形で、オウンドメディアとMRの連携が今後行われるようになってくるのではないでしょうか。将来的には、各エリアにデジタルMR担当を配置したり、全員がデジタルを使いこなしたりと移行していくと思います。
下山) MRにも参加してもらい、自分たちの資産を理解した上で、それを最適に使う施策は大変おもしろいですね。
学会情報データを元に先生の行動を予測する
笹木) ここで学会情報を用いた医師へのアプローチについて、「MRが自社品の有効性を他社品と比較していく中で、学会情報の効果的な提供方法はありますか」と質問がきました。いかがでしょうか。
金子) MRに関連深い医薬品の販売情報提供活動ガイドラインや、各社のコンプライアンス強化により、学会情報をそのまま医師にお伝えするのは難しいと思います。学会情報は、医師の演題発表予測や発表に向けての準備行動予測に役立てることが大切です。先生が不在や多忙となる時期を予測する、情報提供のタイミングを計画する、発表演題から興味がある情報を推測するといったことに活用可能です。コンプライアンスの観点はデジタル化により非常に厳しくなっており、デジタル化とコンプライアンス強化をより密に行う必要があると感じています。
笹木) 「学会発表の予測はどのようにするのか」と質問がきていますが、学会のファクトデータから、先生は次にこのような発表をするだろうと予測していく形でよいでしょうか。
金子) そうですね。学会情報をログとして使い行動予測することが、有効な手段のひとつだと思います。特に現状ではMRの面会が難しいので、先生の行動や考えといった情報の取得は今後減っていくと考えられます。MRに情報武装させるという意味でも、学会情報の活用は必要ではないでしょうか。
下山) これまではMRや学会、セミナーなどリアルでの医師へのインプットの機会がたくさんありました。しかしコロナ禍で情報提供の在り方が変化した現在、医師の考えや課題を知る手段として唯一残されているのが、デジタルだと思います。デジタルを医師へのインプット手段としてどのように生かしていくか、が今後注目される仕掛けになるのではないでしょうか。
医師が求めている情報とは?
笹木) 「医師への情報提供では、医師がどのような情報を求めているかがポイントになるのでは」との質問があるのですが、各社オウンドメディアで情報提供している中で、どのような情報を医師が求めているか、これまでの経験でお分かりになることがあれば、お教えください。
下山) コロナ禍でのアクセスでは、「e-Learning」コンテンツが非常に伸びました。MRからの情報提供がない状況下で、製薬企業のサイトを見て勉強したいと考えた医師が多かったのだと思います。コンテンツの内容は疾患や製品の情報などこれまでと変わらない内容ですが、より参考にできるコンテンツを医師が探していることがコロナ禍でのアクセスログから見て取れました。
笹木) 医師の学びたい気持ちに対して、プッシュ型ではなくプル型で情報を出していくことが大事なのですね。
最後に
笹木) 最後に、お二人からお言葉をいただきたいと思います。
金子) デジタルなら魔法のようにどんなことでもできる、わけではありません。デジタルでできることを考慮した上で戦略を練り、マスマーケティングはデジタルに任せるなど、切り分けて使っていくことが重要です。MRだけでも成立しないし、デジタルだけでも成立しない。これはこの先も変わらないでしょう。ガイドライン厳格化の中で作成できるコンテンツには限りがあるので、試行錯誤していくことが大事だと思います。
下山) 最近感じているのは、これまで感じられなかった医療業界のスピード感が、コロナ禍で一気に高まっているということです。医師の行動変化も早いサイクルで周り始めているので、デジタル化やインフラ整備にもスピードが求められる時代になっていると感じています。
笹木)
リソースの問題など大変な部分もあるかと思います。我々のようなベンダーの活用や社内での人材育成、コンサルの導入などで、変化に対応していく必要がありそうです。
本日はどうもありがとうございました。
セミナーレポート/コロナで加速 脱MR デジタルトランスフォーメーションの未来【第1部】 セミナーレポート/コロナで加速 脱MR デジタルトランスフォーメーションの未来【第2部】