月間150万PV。「治験」と「患者さん」をつなぐがん情報サイト 『オンコロ』

月間150万PV。「治験」と「患者さん」をつなぐがん情報サイト 『オンコロ』
がん情報サイト「オンコロ」は、オンコロジー(腫瘍学)をテーマにして、最良のがん医療に繋がる研究、治験や臨床試験、がんに関する様々な診療・治療情報などを配信するがん情報ポータルサイト。

https://oncolo.jp/

2019年5月で5年目を迎えたがん情報サイト「オンコロ」。今回はこのサイトの立ち上げに携わった、3Hメディソリューションの可知健太さんにお話をうかがいました。

患者目線に立ったオンコロジー情報を幅広く提供するこのサイトは、患者さんやご家族、医療従事者や製薬企業などを中心に、月に150万PVを超えるなど高い知名度を誇っています。セミナーなども数多く手がけ、がん患者さんやドクターとの関わりも深いなど、独自の展開を見せています。今回、サイト設立の背景やこれまでの軌跡をうかがうと、「オンコロ」が多くの患者さんに評価されている理由が、明らかになりました。

『オンコロ』は、ひとつの「活動体」だと感じています。

まずは、がん情報サイト「オンコロ」がどのようなサイトなのか教えていただけますか?

可知  「オンコロ」は3Hメディソリューションが運営するWebサイトで、おもに患者さんやご家族の方に向けて、がん医療情報を発信しています。サイトには、治験や臨床試験を中心とした情報を掲載し、治験について相談できる「治験お問合せ窓口」という役割も担っています。

サイトを拝見すると、Webメディアでありながらリアルでのイベントも豊富であることに驚きました。どのくらいのペースで、セミナーなどを開催されているのですか?

可知  がん患者さんに向けたセミナーを毎週のように行っていますね。年間で考えると相当数のイベントをやっています。「がん患者さんが集まる」というのもこのサイトの特徴です。こういったセミナーを行うことで、患者さんからサイト運営に関する貴重な意見を得られるという大きなメリットが生まれます。

また、「オンコロ」にはコンタクトセンターもあり、そこでも患者さんをはじめご家族の方の声を聞くことができます。さらに、これに加えドクターやメーカーの声も聞きながらさまざまな活動を行っているため、私は「オンコロ」をただ一方的に情報発信するだけのウェブサイトとは思っていません。がんに関する課題を解決するひとつの「活動体」だと考えています。

がんに関する課題を解決するひとつの活動体
Webメディアでのがん医療情報の発信をはじめ、リアルイベントやコールセンターなどでも各種情報を提供。他に類を見ない体制(ひとつの活動体)を構築。

それでは、このサイトができた背景を教えていただけますか?

可知  3Hメディソリューションの前身、株式会社クリニカル・トライアル(以下、クリニカル・トライアル)はもともと「フェーズ1」の治験プロモーションから始まった会社でした。2005年に設立した当社は、おもに健常者への治験の紹介を行っていたわけですが、次第にクライアントから高血圧など、実際の患者さんに対する治験の紹介に関してもご要望をいただくようになりました。それが2010年代になると、がんや希少疾患などの治験の要望も増えていきました。

可知さんは当時からこちらで働かれていたのですか?

可知  いえ、私は2014年までCROで臨床開発の仕事を行っていました。当時は「臨床研究・治験活性化5か年計画 2012」というものがあり、ドラッグラグを解消させるべく、治験を活性化させようという動きが盛んだった時代でした。それは、5本の柱で5か年という計画だったのですが、「治験者の募集の促進」もひとつの柱でした。けれど、当時の日本は治験の検索や、治験の紹介機能のようなものが遅れていたため、開発担当としては「効率の良い被験者登録がほかにも必要だろうな」と感じていました。

先ほど、2010年代にがんや希少疾患の治験が増えていったというお話がありましたが、治験が増える中でも、被験者の確保が十分ではなかったわけですね。

可知  そうなんです。2010年代から新薬の開発トレンドががんや希少疾患に移り始め、さらに、医療の進化により、特にがん治療では薬物治療を始める前に遺伝子検査を行い、対象となる遺伝子を持つ患者さんのみが登録対象となる、といった傾向になってきています。そのため、とにかく治験の参加条件に適格する被験者が集まりにくいのです。私自身、国が治験活性化を促進しようとしても、うまくいっていないことを肌で感じていたし、がんの治験に参加できる被験者が少ないことを実感していました。そのタイミングでクリニカル・トライアルと出会うことになったのです。

たまたまなのですが、小学校の同級生がこの会社で働いていまして、話を聞いて企業が被験者をリクルートしているという実情を知り、「そりゃすごいことだ」と思いましたね。

被験者を集めるクリニカル・トライアルと、開発者としてがん治験に関わってきた可知さんが出会ったわけですね。そこからすぐに「オンコロ」の形ができあがったのですか?

可知  いえいえ、がんの治験に参加する被験者を集めるには多くの問題を抱えていました。まず、当時からクリニカル・トライアルが運営していた治験情報サイト「生活向上WEB」には、50万人程度の方が会員登録していたのですが、がん患者さんは1000人程度と少なかったのです。まずは、がん患者さんに会員になってもらう必要がありました。

そこで、がんに特化したメディアを立ち上げようと考えました。自分自身が開発者としてがんに関わってきて、わかっていたことがひとつあったんです。それは、がんの患者さんは「よく調べる」ということ。みなさん、がん診断後や治療を検討するときに、ご自分の病気についてよく調べられるんですよね。そういうときに、見てもらえるメディアがあれば、もしかしたらうまく人を集められるのではと考えました。

なるほど、そこから「がんの情報サイト」という発想が生まれたのですね。まずはどのようなことから始められましたか。

可知  ほかのサイトを見ることから始めました。当時、がんの基本情報を掲載しているサイトは多かったんです。ただ、最新の情報が掲載されていても治験の紹介を行っているところはありませんでした。なので、とにかく最新の情報を出して患者さんに見てもらい、かつあまり出ていなかった治験の情報をたくさん出そうというのを、最初の軸にしました。

私は臨床開発担当だったので、昔から関連する論文やニュースをよく読んでいました。だから、情報収集自体はそれまでも習慣的に行っていたんです。また「ClinicalTrials.gov」など海外のサイトからも情報を拾うことで、治験の情報を漏れなく紹介できるようにしていきました。

患者課題ということを中心にいろいろなソリューションを生み出すことを目指しています。

自分たちで調べた治験情報を掲載するという形で始められたわけですが、今現在はどのような形で治験のお話が動いているのでしょうか?

可知  今は、メーカーさんや医療機関から依頼を受けて行っています。情報を掲載するだけでなく、コンタクトセンターで専門のスタッフがフォローアップするなどの窓口として、患者さんと治験をつないでいます。

その中で、スタッフには2つ伝えていることがあります。1つ目は、治験に誘導しすぎないでほしいということ。治験は治療ではないので、患者さんにしっかり検討してもらうことが大切です。2つ目は、ほかの治験も検討してもらうということ。患者さんにとって該当する治験はひとつではないはずなので、さまざまな視点で考えてもらうことも重要です。

「オンコロ」は、患者さんのためのサイトであり続けることで、信用性の高いサイトとして評価をいただいているとも思っています。これは会社全体のテーマでもあるのですが、患者課題ということを中心にいろいろなソリューションを生み出すことを目指しています。「オンコロ」では、まさにそういうことを体感できていますね。

ここまでお話をうかがい「がんと・ひとを・つなぐ」というオンコロさんのキャッチコピーを、まさに体現されていると感じました。このキャッチコピーはどこから来ているのですか?

可知  実は会社のキャッチコピーが「ヒトと健康を“つなぐ”」だったんです。そこから派生したダジャレのようなものなんですね(笑)。ただ、やはり患者さんやご家族の方からは、感謝の言葉をいただけることが多いのでうれしいです。治験に参加した人から「ありがとう」という言葉をよくいただけます。会員の方からはネガティブなコメントはなく、基本的に感謝のコメントばかりで、ありがたいですね。

また実は今、「領域を広げる」ことにも挑戦しています。がんだけでなく希少疾患領域でも、という考えから「RareS.」*1というサイトを立ち上げるとともに、既存メディアである「生活向上WEB」でも各疾患に特化したコンテンツの提供を開始しています。こちらもただの情報サイトにとどまらず、「オンコロ」のノウハウを活かして、「活動体」としてさまざまな展開をしていきたいと考えています。

貴重なお話、本当にありがとうございました。ひとつのサイトからあらゆるソリューションを作り出し、多くの患者さんやご家族に貢献しているということがよくわかりました。今後のさらなる展開に期待しております!

*1 難病・希少疾患情報サイト「RareS.」 https://raresnet.com/

取材・写真 Medinew編集部

今回の取材先  3Hメディソリューション株式会社

臨床試験・治験の被験者募集を中心に医療とテクノロジーを融合したヘルステックを用いて患者さんと企業をつなぐコミュニケーションサービスを提供し、医療・医薬の発展に貢献している。