「働き方改革」で変わる医師の情報収集行動。デジタル戦略の見直しポイントは?/MDMD2024Summerレポート

「働き方改革」で変わる医師の情報収集行動。デジタル戦略の見直しポイントは?/MDMD2024Summerレポート

2024年4月、医師の働き方改革の新制度が施行されました。環境の変化によるMRとの面談時間、オウンドメディアやメールマガジンなどデジタルチャネルの利用時間や頻度への影響が懸念される中、医師に対し効果的な情報提供をするために製薬企業は何をすべきなのでしょうか。Medinew Digital Marketing Day(MDMD)2024 Summerに登壇した株式会社メディクト 代表取締役の下山直紀氏が、医師調査データをもとに今後のデジタル戦略について解説しました。

「働き方改革」で変わる医師の情報収集の在り方

新型コロナウイルス感染症の流行で医師のデジタルシフトが進み、製薬企業が運営するオウンドメディアのPV数や会員数は大きく伸びました。しかしアフターコロナの現在、PV数や会員の獲得は鈍化し、メールマガジンの開封率や流入も減少傾向にあります。その一方で、MRの医師訪問や面談機会はコロナ禍前の水準に回復しておらず、依然としてオウンドメディアやメールを活用した情報提供やコミュニケーションの重要性は高いと言えます。さらに2024年4月に「医師の働き方改革」の新制度が施行されたことを受けて、製薬企業が医師にアプローチするタッチポイントとして、デジタルチャネルの活用はますます重要となります。

「MRとの面談時間」減ると2割が回答。40代は働き方の改善意向が強い

働き方改革は、医師の意識や行動にどのような変化をもたらしているのでしょうか。メディクトが実施した医師向け調査(調査対象:日経メディカルOnline 医師会員、回答数:219件)によれば、「働き方改革」施行後も、情報収集の在り方は「現状と変わらない」と回答した医師が半数を占めました。その一方で、対面式のMRとの面談頻度が少なくなると答えた医師は2割、また、オンライン形式のMRとの面談頻度が少なくなると答えた医師が1割との結果が示されました。

医師の働き方改革以降、頻度が少なくなるもの
2024.6.5 (株)メディクト『オウンドメディアの有効活用とデータ活用 -医師向けサイト調査、医師アンケートから-』資料より抜粋


さらに回答について年代別の傾向を見たところ、「現状と変わらない」と答えた割合が最も高かったのは20代でした。一方、「現状と変わらない」と答えた割合が最も低かったのは40代という結果でした。また、40代はオンライン形式のMRとの面談の頻度が少なくなると答えた割合が最も高い結果となりました。このような結果が見られた理由について、下山氏は「40代医師は長時間労働や、休日の確保困難が常態化したピークの世代。働き方改革による変化、改善意向が現れた結果ではないか」と分析します。

医師の働き方改革以降、頻度が少なくなるもの 年齢別
2024.6.5 (株)メディクト『オウンドメディアの有効活用とデータ活用 -医師向けサイト調査、医師アンケートから-』資料より抜粋

情報収集のタイミングも変化。すき間時間に対応したコンテンツが鍵

デジタルチャネルの利用タイミングについても調査しています。「医師の働き方改革」以降のWebサイトやメールの利用タイミングでは、「勤務時間後」(21.5%)の回答が最も高く、「お昼休み」(15.2%)、「休憩時間」(13.6%)、「移動時間」(11.1%)と続きました。一方、「診療時間中」(5.2%)は最下位という調査結果でした。

Webサイトやメールの利用タイミング
2024.6.5 (株)メディクト『オウンドメディアの有効活用とデータ活用 -医師向けサイト調査、医師アンケートから-』資料より抜粋


この結果を受けて下山氏は、「今後、医師の労働時間が減る中で、診療・勤務時間中のWebサイトやメールの利用は、減っていく、あるいは減らしたいという意向が示されたものだと考えられる」と指摘しました。休憩中や昼休み、また移動時間などの回答割合が相対的に高いことから、「医師がすき間時間でサイトを利用する傾向が強まるとすれば、限られた時間の中で効率的に情報収集ができる、わかりやすいUI/UXや、視聴時間を考慮したコンテンツ量が重要になる」と話します。

メルマガ受信数は3通以下がボリュームゾーン、利用しない層も増加中

この1年で利用に大きな変化が現れているのがメールマガジンです。医師調査では「1日に何通、製薬企業のメールマガジンを受信しているか」の回答は、昨年(23年4月)までは、3通まで受信していると答えた割合が約6割だったのに対し、今年(24年3月)は4割弱にまで減少しました。さらに「メールマガジンは受け取っていない」と答えた割合は3割弱から4割強に増える結果となりました。

何通のメルマガを開いて読んでいるか
2024.6.5 (株)メディクト『オウンドメディアの有効活用とデータ活用 -医師向けサイト調査、医師アンケートから-』資料より抜粋


さらに、24年4月の結果では、「メールマガジンは受け取ってない」に加え、「メールの仕分けフォルダに入るので見ていない」「すべて開封しない」との回答が半数に達しており、全体の約半数の医師はメールマガジンの利用に積極的ではない状況が浮かび上がってきました。この現状を踏まえれば、「今後さらにメールマガジンの開封、流入のハードルが上がることや、利用者の受信停止設定が進むことが想定される」と下山氏は考えています。

ターゲット・コンテンツの最適化が今後のデジタル戦略の鍵を握る

では、これからの製薬企業のオウンドメディアやデジタル戦略に求められることは何なのでしょうか。下山氏は、ターゲット・目的・製品ライフサイクルをふまえた再定義と再設計が重要だと語ります。
従来、製薬企業のオウンドメディアは、認知~処方に至るまでのカスタマージャーニーに関係なく、全てのターゲット医師に満足のいく情報提供を理想として運用するケースがほとんどでした。しかし、オウンドメディアへの訪問者数が減少する中で、全ての医師を対象に、求められるコンテンツを提供することは現実的ではなく、費用対効果も非効率的だと考えられます。

そうした中で、今後のオウンドメディアの方向性の1つが、潜在的なターゲット医師と、処方検討の医師の会員化と定期訪問の獲得に特化して運用する方法だと下山氏は話します。オウンドメディアでは広く医師を集客し製品の認知を獲得、その後、マーケティングオートメーションツールを用いてナーチャリングを行い、処方可能性が高い医師を抽出しMRに対応を任せる。母数の多い潜在的なターゲット医師や処方検討医師のアプローチはデジタル、その後はMRにと役割分担することは、オウンドメディアの効果的な運用はもちろん、MRという既存資産の有効活用になります。情報提供の効率化を図ることができ、MRの面談機会の創出、また、面談精度の向上にも寄与するものだと下山氏は語りました。

ターゲットを絞り、最適なコンテンツを掲載
2024.6.5 (株)メディクト『オウンドメディアの有効活用とデータ活用 -医師向けサイト調査、医師アンケートから-』資料より抜粋


さらに、オウンドメディアの継続利用を促す上では、ユーザーである医師一人ひとりに合った情報表示やレコメンドが有効だといいます。「実際に弊社では、ユーザー属性や視聴行動といったデータをもとに、その方に最適なコンテンツを表示したサイトを提供しているが、トップページのレコメンド利用率は20%と高い。そのサイトでは自分に必要な情報がスムーズに得られると認知されれば、ユーザーが積極的に利用するサイトとなり、満足度も高めることができる」(下山氏)。

今後は、ターゲットを絞ったコンテンツの最適化とMRとの連携が鍵

医師調査から浮き彫りになる、アフターコロナの医師の情報収集行動の変化。この変化にいち早く適応すべく、今後のデジタル戦略では、①ターゲットの明確化とコンテンツの最適化、②訪問者の高い満足度を得られる情報提供、③マーケティングオートメーションを活用したMRとの連携といった3つのポイントが重要になります。最後に下山氏は、「デジタル戦略では、各種ツールを活用し、継続的にオウンドメディアの利用価値や満足度の向上に努める視点が欠かせない。デジタルを活用して、ターゲット医師に適した情報提供を行い、それをMRの面談機会やクロージングにつなげていくこと。デジタルとMR双方の強みを活かし、連携していくことが、今後ますます重要な戦略となるだろう」と語り、講演を締めくくりました。