デジタルヘルスにおいて先⾏する⽶国では、現在AIや機械学習を利⽤した医療機器が343件 1) 承認されている (2022年1⽉時点)など、近年、AIを活⽤した医療機器が承認されるニュースを⽿にする機会が増えてきました。医療・製薬業界のDX事例の読み解き方を、デジタルが苦手な方にも分かりやすく解説する本シリーズ。第2回目となる今回は、「医療で活用されるAIの種類」を紹介します。
【初心者向け】医療・製薬業界DX事例の読み解き方#1:AIの仕組みがわかる5つの視点
今後、医療で活用されるAIは主に5種類
AIを活用した医療機器(医療AI)には、どんな種類があり、どのようなことができるのでしょうか。現在の医療AIを理解するために、厚労省や米国食品医薬品局(FDA)で承認、欧州のCEマークを取得など、規制当局から承認された医療AIの事例等が参考になります。
実臨床に導入済、今後導入される可能性のある医療AIは、診断から治療、経過観察と、実臨床のフェーズに沿って大きく5種類に分かれます。この5種類を知っておくと、医療AIのイメージを理解しやすいでしょう。
医療AIの実例を知る
次に、国内、海外含めて実臨床に導入済、今後導入される可能性のある医療AIについて、製品の実例を見てみましょう。前述の5種類に分けて下表にまとめました。本記事では、分類ごとに1つずつ紹介します。
①罹患/発症リスク予測の事例:心電図から心房細動/粗動の罹患リスク予測AI
アメリカのTempus社では、心房細動・粗動の発症リスクが高い患者を予測するAIを開発中です
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重篤な転帰につながる脳卒中の主な原因の1つに心房細動があります。心房細動は症候がないことや、軽度のことが多いため、放置されているケースが多いと指摘されています。
12誘導心電図(ECG)データから12か月以内に心房細動・粗動の発症するリスク予測するAIは、FDAのBreakthrough Device Designation(画期的医療機器指定:BDD)を取得しました。
このAIについて、後ろ向き臨床試験の結果が発表されています。43万例、160万のECGデータから構築された心房細動・粗動の予測AIが、1年以内の心房細動・粗動を高精度に予測できました(AUC=0.85)。高リスク患者に対しては、抗凝固療法などの予防的介入を行うことで、脳卒中を防ぎ、予後を改善することが期待されます。
②早期診断支援の事例:血液から早期肺がんの診断支援AI
血液検体から肺がんを診断するAIは、アメリカのDelfi Diagnostics社が開発中です
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肺がんは、いまだ治療成績が不良で、アメリカでの5年生存率は21.7%です(2011-2017年)
4)
。肺がんの診断時には、大半がすでに進行期であり
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、早期発見が課題とされています。血液中のcell free DNAの断片化プロファイルから、早期肺がんを診断するAIを開発し、FDAからBDDを取得しました。
このAIについて、いくつかの臨床研究の結果が発表されていますが、ステージI / IIの早期肺がんであっても検出できる可能性が示されています。より早期に肺がんを検出し、早期に治療を開始することで、予後を改善することが期待されます。
③病理診断支援の事例:前立腺がん病理診断支援 AI
世界初の前立腺がん病理診断支援AIをアメリカのPaige.AI社が開発。FDAのde novo承認を受けました
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このAIに前立腺がんの生検検体の画像データを読み込ませると、腫瘍部位を特定し、悪性度スコアであるグリソン・スコアの算出と可視化、腫瘍径や腫瘍量の定量化を自動で行うことができます。
16人の病理医がそれぞれAI支援を受けない場合と、支援を受けた場合の診断結果を比較したところ、AI支援ありの病理診断はがんの検出精度を平均7.3%向上しました(偽陰性は70%減少、偽陽性は24%減少)。このことより、診断の正確性向上、臨床医、病理医の負担軽減、予後を改善することが期待されます。
④治療効果予測/治療選択支援の事例:乳がんの病理検体画像からホルモン受容体(ER/PR)とHER2のステータスを診断するAI
イギリスのPanakeia Technologie社では、乳がんの病理検体画像からホルモン受容体(ER/PR)とHER2のステータスを診断するAIを開発し、欧州のCEマークを取得しました 6) 。
乳がんでは、薬物治療を実施する前に、免疫染色等でER/PRとHER2の検査が必須とされています。ただし、検査の精度や手間やコストなど、課題が多く存在します。
このAIは、がんの病理診断をする際に行われるHE染色の画像データから、15分程度で既存の検査と同等の精度でER/PRとHER2のステータスを予測できます。数日~数週間かかることもある既存検査に代わって、素早く安価に結果を得ることができます。
⑤経過モニタリングの事例:Apple Watch搭載された「家庭用心電計プログラム」「家庭用心拍数モニタプログラム」
Apple社のApple Watch搭載された「家庭用心電計プログラム」「家庭用心拍数モニタプログラム」が日本においても管理医療機器として承認されています
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Apple Watch自体は医療機器として承認されておらず、あくまで「アプリ」が家庭用の医療機器プログラムとして承認されている点は押さえておく必要があります。
「家庭用心電計プログラム」は、約600例の臨床研究で有用性が検証されました。Apple Watchが記録した心電図のリズム分類と、同時に測定した12誘導心電図から医師が行ったリズム分類を比較しました。心房細動の分類、洞調律の分類いずれにおいても高精度で検出することが確認されています(感度98.3%、特異度99.6%)。
「家庭用心拍数モニタプログラム」は、スタンフォード大学医学部と連携して行われた大規模非盲検前向き単群試験「Apple Heart Study」の結果が承認の根拠となっています。心房細動の既往のある症例を除く40万例以上が参加し、0.52%が不規則な心拍の通知を検出しました。また、パッチ型心電計を併用していた症例において、Apple Watchによる心房細動の検出と、パッチ型心電計の検出の大部分は一致していました(84%)。
近年、身近になったウェアラブルデバイスで、心疾患の異常や疾患の兆候を検知できれば、早期に介入することで予後の改善が期待されます。
医療AIを5つの視点で読み解く
医療AIの仕組みを整理したい時には、シリーズ第1回で紹介した「AIを読み解く5つの視点」が役立つでしょう。5つの視点では、AIは①データ、②機械学習、③予測、分類、④ハードウェア・ソフトウェアの4つがパッケージ化されたもので、⑤なんらかの価値をもたらすものと考えます。
今回紹介した5種類の分類ごとにまとめると以下の図の通りです。「5つの視点」を使って読み解けば、医療AIの仕組みを整理して理解しやすくなります。
製薬企業は5つの種類の医療AIに注目しておこう
イメージの湧きづらい医療AIは、本記事で紹介した通り、大まかに5種類あると覚えておくと把握しやすくなります。そして医療AIの事例を見たときは、5種類のうちどれに分類されるのか、あるいはこれまでとは違う種類なのかを考えてみてください。5種類に当てはまらないなら、新しいカテゴリの医療AIで新規性が高いと言えます。
そして、大事なことは「医療AIによってどんな医療課題が解決できるのか」という点です。医療AIの価値を見極めるには、この点が最も重要です。
これから医療AIに関連するニュースを見たら、まずは本記事で紹介した5種類のどれに当てはまるかを考え、さらに前回の記事で紹介した5つの視点で医療AIの中を読み解いてみてはいかがでしょうか。
<参考>
※URL2022年1月12日最終閲覧
1)”Artificial Intelligence and Machine Learning (AI/ML)-Enabled Medical Devices”,FDA.
https://www.fda.gov/medical-devices/software-medical-device-samd/artificial-intelligence-and-machine-learning-aiml-enabled-medical-devices
2)”FDA Grants Breakthrough Device Designation To Tempus’ Atrial Fibrillation ECG Analysis Platform, Developed in Collaboration With Geisinger”,Tempus.
https://www.tempus.com/fda-grants-breakthrough-device-designation-to-tempus-atrial-fibrillation-ecg-analysis-platform-developed-in-collaboration-with-geisinger/
3)”Delfi Diagnostics Begins Enrollment for Prospective Lung Cancer Screening Trial ahead of Planned Commercial Test”,Delfi Diagnostics.
https://www.prnewswire.com/news-releases/delfi-diagnostics-begins-enrollment-for-prospective-lung-cancer-screening-trial-ahead-of-planned-commercial-test-301259187.html?tc=eml_cleartime
4)”Cancer Stat Facts: lung and bronchus cancer. National Cancer Institute”.
https://seer.cancer.gov/statfacts/html/lungb.html
5)”FDA Authorizes Software that Can Help Identify Prostate Cancer”,FDA.
https://www.fda.gov/news-events/press-announcements/fda-authorizes-software-can-help-identify-prostate-cancer
6)”Panakeia PANProfiler Breast receives CE mark”,Panakeia Technologies.
https://www.panakeia.ai/post/panakeia-panprofiler-breast-receives-ce-mark
7)”「家庭用心電計プログラム」及び「家庭用心拍数モニタプログラム」の適正使用について”,厚生労働省医薬・生活衛生局医療機器審査管理課長.
https://www.mhlw.go.jp/hourei/doc/tsuchi/T210129I0010.pdf
8)”Apple Watchに心電図アプリケーションと不規則な心拍の通知機能が登場”,Apple.
https://www.apple.com/jp/newsroom/2021/01/ecg-app-and-irregular-rhythm-notification-coming-to-apple-watch/
【初心者向け】医療・製薬業界DX事例の読み解き方#1:AIの仕組みがわかる5つの視点