医療の現場では、住民の高齢化や疾患が多様化する中、地域の各医療機関の得意分野を共有し対応可能範囲を広げることで疾患構造の複雑化に対応できることから、地域医療連携の重要性はますます高まっています。例えば、データ連携手段の1つである電子カルテだと、普及の状況について平成29年は400床以上の病院で85.4%、200床以上400床未満では64.9%、200床未満では37%と電子カルテ導入の割合は年々高まりをみせています(厚生労働省「医療施設調査」より)。
しかし電子カルテの普及が進む一方で、実際のデータ連携においては、電子カルテ同士の互換性や情報セキュリティ、迅速性の面で課題があるのも事実です。
そこで、地域医療連携におけるデータ連携にあたっての課題を解決できる可能性がある連携アプリの例として、株式会社アルムの開発・運営する医療関係者間コミュニケーションアプリ「Join」を取り上げ、開発者にインタビューした内容を紹介していきます。(本記事は、開発側と使用側の前後編とし、今回は前編とします。後編は現場インタビューとなります)
地域医療連携におけるデータ連携課題とは
地域医療連携は、各施設の役割を明確化して(機能の分担と専門化)、その機能が最大発揮されることによって、地域などで患者さんが切れ目のない治療を受けられるような仕組みです。つまり、地域医療連携では、医療機関の円滑な利用者の診察データ連携、医療機関の体制や専門分野などを把握できる仕組みが必要となります。
医療におけるデータは以下のものが代表です。
- 検査情報
- 診察、調剤情報
- 介護、健康状態
しかし、こうした医療データの共有には以下の問題があります。
- 情報を管理する主体者がいない
- データの内容が標準化されていない
- セキュリティ対策に不安が残る
もちろん、課題をクリアできれば、今まで以上にスムーズな診療や治療が可能になるでしょう。感染力の強いインフルエンザウイルスや新型コロナウイルス(COVID-19)などの感染拡大を防ぐ手立ての1つとして期待することもできます。しかし、現状では、データ連携方法が医療機関で統一されておらず、データを受け取れない、プラットフォームとして医療機関の情報を参照できるシステムの不足などの課題があります。
そのため、こういった課題に対してアプリやネットワークでのサポートがより重要になるといえるでしょう。
医療関係者間コミュニケーションアプリ「Join」の開発に至った経緯と強み
上記のような課題をふまえたうえで、今回、病院内外のコミュニケーション・情報共有をサポートする医療関係者間コミュニケーションアプリ「 Join 」を開発・提供されているアルム社にお話を伺いました。アルム社では、病気の発症から回復までの急性期医療から、リハビリ、介護などの慢性期医療までを幅広くサポートするソリューションを展開しています。
アプリ開発のきっかけとして、担当者からは、「もともと弊社は、スキルアップジャパン株式会社という社名で動画配信プラットフォーム事業を行っていました。2014年の薬事法の改正によってソフトウェアが医療機器として取り扱えるようになったことをきっかけに、これまでの映像処理技術を活用した、医療関係者間コミュニケーションアプリ「Join」を開発しました。同年11月に医療機器プログラムとして認証を取得すると医療ICT事業へ本格参入し、2015年に商号を現在の株式会社アルムに変更しました。その翌年に、Joinは医療機器プログラムとして初めて保険診療の適用が認められました。
Joinの開発に際しては、臨床上で使えるスマホのメッセージアプリ開発に挑戦してみたいという代表の思いから、東京慈恵会医科大学附属病院の脳神経外科の医師の方々に協力をお願いし、共同開発へと至りました。」とのことでした。
アルム社の強みを聞いたところ、「アルムは、人類の死亡原因の上位であるストローク(脳卒中・急性期循環器疾患)、いわゆる時間との闘いと言われる疾患を中心に、新型コロナウイルス感染症を含めた幅広い疾患に対応するため、医療関係者がより早く情報にアクセスできるための製品開発を行っています」とのことで、アルム社は前述のJoinの他に多数の製品を提供しています。
- 救命・健康サポートアプリ「MySOS」
- 救急搬送トリアージアプリ「JoinTriage」
- 医療関係者間コミュニケーションアプリ「Join」
- 地域包括ケアシステム推進ソリューション「Team」
- 訪問介護・看護事業者向けタブレットアプリ「Kaigo」「Kango」
そして、それぞれが連携できるなかで、主力製品のJoinは、医師間の情報連携を加速することで価値を発揮してきました。Joinでは、MRI・CTなどの医用画像を手元のスマートフォンで見ることができ、夜間・休日や、地方の病院など専門医が院内にいない場合でも、チャットやビデオ通話、医用画像でやり取りすることにより、医師間のコンサルテーションや診療が可能になっています。
とくに医師と医師の相互コミュニケーション・データ連携に強みを持つことで、在宅時のサービス利用者の状態とこれまでのデータを比較するなど、幅広い治療の実施に貢献していることが特徴的です。前述のデータ連携における課題の殆どをJoinでクリアできているといえます。加えて、Joinにいたっては国内では既に、ナショナルセンターを含む約300施設、その内約40施設の大学病院に導入済みです。
また、海外では20ヶ国の医療機関で採用されている状況であり、医療機関における情報共有がどれだけこれまでに必要とされていたのかを物語っているといえるでしょう。
医療関係者間コミュニケーションアプリ「Join」の導入における障壁
ここも医療関係者間コミュニケーションアプリ「Join」の提供を行っているアルム社へ、導入において障壁になったことについても聞いてみました。
実際にJoinは院内のPACS(Picture Archiving and Communication Systems:医療用画像管理システムのことで、CTやMRIなどの撮影データをネットワークを通じて受信し、保管・管理するシステム)と連携させて医用画像をクラウドに上げることで閲覧ができます。しかし、医療情報を病院内のシステムからクラウドへ出すことについては、セキュリティの点で多くのご質問や懸念する声をいただくことがあります。
Joinは医療機器プログラムとして、厚生労働省、経済産業省、総務省が定める医療情報ガイドラインに対応するように開発されているため、各種のセキュリティ対策を丁寧に説明することで、導入先の医療機関の不安を取り除けるように対応しています。
医療機関における情報共有方法は統一されていません。もちろん、それで情報をカバーできる時代であれば、問題はなかったものの、現状ではネットワークに頼らない情報共有には限界があります。そのなかで、Joinはその機能性と安心性で医療機関の不安を取り除いているといえるでしょう。
アルム社としての今後のアプリ展開や今後の医療について
今後の展開について、次のように話します。「新型コロナウイルス感染症の流行により、感染症をターゲット領域に追加しました。今回実感したことは、先例や経験がないものに対して診断ができないということです。
しかし、今回実感したことは、Joinのような医療データ連携アプリなどを活用することにより世界中で情報共有が可能ということです。そのため、未知の病気に対していかに早く医療関係者や行政に対して情報を共有できるかが今後の鍵になると考えています」とのことでした。
実際にアルム社では4月に、新型コロナウイルス感染症の症例集を教育用途で全世界の医療機関や医療関係者に無償で提供する取り組みを行っています。また、今後は、医療機関・公的機関・個人と連携することで、さらなる医療情報連携・活用の中心地となることを目指します。
まとめ
現在、データ連携の手段は多様化し、施設同士のデータ連携が上手くいっている医療機関では、利用者は適切な治療を受けられる可能性が高まったといえます。実際に地域医療連携医師間・施設間のデータ連携によって治療後の状態の把握など、医療全体のロスを軽減することが可能です。
今回、アルム社へのインタビューを通して、システムへの不安や医療現場と病院の経営陣の意思統一などの課題もはっきりしつつあります。そして、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)などの新しい病気に対する迅速かつセキュアな情報共有の需要が浮き彫りになったといえるでしょう。
データ連携が進むほど、発症から治療後までの経過の把握など、利用者に合わせた治療がしやすくなります。アルム社が提供している医療関係者間コミュニケーションアプリ「Join」もそのサポートが可能です。今後、アルム社のJoinは、さらに医療データ連携やコミュニケーション手段の在り方を変えていく可能性があるといえるでしょう。
(取材協力)株式会社アルム
https://www.allm.net/