「リアルワールドデータが臨床・治療実態を可視化する」医薬品デジタルマーケの新たな主役がマーケティングと営業活動をナビゲート

医薬品デジタルマーケティングへの提言

2020年にプライマリーリサーチ担当とセカンダリーデータ分析担当を統合したグラクソ・スミスクライン。同社のコマーシャルエクセレンス ビジネスインサイトチームに所属する西垣直彦氏と戸津玲(とつ あきら)氏は、リアルワールドデータ(RWD)を駆使したビジネスインテリジェンス(BI)レポートを社内に提供し、効果的なマーケティングや営業活動に貢献している。両氏に医薬品デジタルマーケティングの新たな主役として注目を集める、RWDの可能性を聞いた。

臨床・治療実態の解像度を高める、RWD

− RWDの導入を決断した理由と背景とは

以前は得られるデータに限りがあり、売上データの分析を中心にプロモーションやマーケティング方法を検討していた。しかし、自社内や3rdパーティーから提供される売上データでは、単純に売れた・売れないという事実がわかるだけで、その売上の背景や中身までは把握できなかった。

売上データだけでは、対象患者に必要な医薬品が、既に十分行き渡っているかなど、市場動向の精緻な分析や予測ができない。売上の増減の理由や背景も、患者や医師に対するアンケートなど費用と手間のかかるプライマリー調査をしてみないと把握できなかった。RWDによる市場分析が可能になった現在からみると、売上ベースで市場規模の推計しかできなかった時代は、非効率なプロモーションに費用をかけていた可能性がある。あらゆる産業でビッグデータの活用が叫ばれている昨今、製薬業界も適切なマーケティング・プロモーションを実施するためには、RWDなどのデータ活用は避けられないだろう。

− RWDを活用するメリットとは何か?

RWDは、様々な角度から、臨床実態を知ることができる。患者の年齢性別はもちろん、診療科や処方された医薬品の用量・用法、さらに受診頻度や1回当たりの処方日数、一回でどのくらいの日数分処方されているのか。こうした背景を組み合わせることで、月次の処方量を推計し、それらをベースとした売上予測など、臨床実態を分析・把握できる。

昨今のコロナウイルス感染拡大による患者の受診傾向の分析では、既存治療患者においては受診頻度が2週間に一度から月に1回と減ったものの、処方量は2週間分から1月分に変更され、しっかりと維持されている実態がみえてくる。一方で、新規治療(処方)患者の減少や、患者や医師の判断で服薬を中止した実態も把握可能だ。弊社が注力してきた継続服薬の重要性、アドヒアランスの向上を目的として実施した情報提供活動の効果検証も分析できる。

セカンダリーデータを使用した分析には、大きく分けて3つのデータソースがある。売上データとRWD、そして、自社と競合他社のプロモーションデータだ。これらを掛け合わせ、プライマリー調査で深堀したデータ分析によるBIレポートには、臨床・治療実態の解像度を飛躍的に高めた分析結果をコンテンツとして掲載できた。チーム全体のケーパビリティも高まったことで、社内でのレピュテーションも上がってきたと、肌で感じている。

RWDを活用し、喘息のマーケットを可視化

− RWDを活用された事例とは?

弊社の主要領域の1つである、喘息の症例について分析した事例を挙げる。
RWDを重層的に組み合わせて、症例別に患者の治療実態をみてみると、弊社が販売している喘息を対象とした医薬品を処方されるべき患者かどうかといった、各々の患者の症状を判断できる。経口ステロイドを処方されている、体調が悪くなって入院する頻度が高い、など、各患者の治療実態や背景情報を細かくフォローしていけば、弊社が想定している喘息患者数を拡大推計でき、その中での弊社製品のポジションも把握できた。
さらに、セグメンテーション別にみてみると、推計値の1/3程度しか治療されていないカテゴリーもあれば、これ以上処方が広がる可能性が少ないカテゴリーもあった。RWDを使って分析したことで、市場の実態が細かく見え、社内各部に適切なマーケティング活動を提案できるようになった。

これは、n数の少ない希少疾患のマーケットモデルを抽出する際にも応用可能な分析手法だ。治療実態をマクロでテクニカルに見ることで、新薬の治療対象の選定にも使える。市場規模・患者数を推計し、治療や処方に携わる医師の人数を割り出せば、準備すべきMRの人数も算出可能だ。このようなシミュレーションに欠かせないのが、RWDを活用した市場分析である。

− 市場実態の把握以外の、応用された事例はあるか?

売上データだけでは判別できない弊社製品の処方実態も、RWDを併用し、患者データの精度を上げることで、解像度を高め、処方実態を細かく判別できた。
弊社のCOPD (慢性閉塞性肺疾患)治療薬が処方されている患者の処方実態を、RWDで分析してみたところ、製品カテゴリーのみでしか把握できなかった売上データの中身を、細かく把握できるようになった。競合他社製品の売上データなどと合わせて、これらの売上実態の推移を追ってみると、新規処方やスイッチングされた患者の規模などの類推も可能だ。

このようなRWDを中心としたデータ分析を定点的に積み重ねることによって、治療薬を処方されている患者データの精度を上げ、それをトラッキングしていけば、さらに精度の高い製品売上の中身の推移を、細かく把握することもできると考えている。新規処方や他社製品へのスイッチなど、患者の処方機会を継続的にウォッチしていけば、その背景にある要因を仮説として抽出し、適切なマーケティング活動に資するBIツールの基礎データとして有効活用もできると期待している。これは、患者に正しく薬を届けるという、製薬会社としての最も基本的な社会的使命を果たすことにもつながると確信している。

RWDの可能性と未来への期待

− 今後、どのようなRWDを活用していきたいか?

RWDといっても、各々データソースや提供会社によって強み・弱みがあるので、分析目的によって様々なデータを採用し、組み合わせて示唆を抽出することが肝要だ。

スペシャリティケア領域など病院治療が主流となる疾患の場合は、病院データで分析している。市場を概観する場合は、診療科や疾患などでセグメンテーションができる社保系のデータが使い勝手がよい。但し、レセプト系のデータでは、タイムラグが発生するので、月々の患者数などのトラッキングをする場合は、調剤薬局の処方箋データを採用している。

一方、希少疾患に関わるデータは、まだまだ不足している。この分野は、各提供会社でもデータ収集に注力されているので、今後の展開に期待したい。さらに検査情報や電子カルテといった、新たなデータソースのサービスが開始されると聞いている。例えば、電子カルテでは、RWDでは見えない、服薬を中止した理由やその背景などを読み取れる可能性が高い。

各産業でビッグデータの活用が進む中、医薬品業界も例外ではない。RWD、オープンデータなど、様々なデータを駆使し、効果的なマーケティングや営業活動を展開していく。

<取材協力>
グラクソ・スミスクライン株式会社
コマーシャルエクセレンス
ビジネスインサイト
シニアエキスパート
西垣 直彦 氏

グラクソ・スミスクライン株式会社
コマーシャルエクセレンス 
ビジネスインサイト
エキスパート
戸津 玲 氏


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