【プロマネTips.2】医薬品のマーケティング戦略はどう考える?ポジショニング志向のススメ/コラム

「自分の担当製品が、もっと楽に売れたらなぁ…」と思うプロダクトマネージャー(以下プロマネ)は、非常に多いと思います。しかし、なかなか思うようにいかないことも事実です。
例えば、議論の際にプロマネから「医療用医薬品のマーケティングは、一般消費財のそれとは違うから…」「製品戦略は問題ないと思うんだけど、どうやら実行がうまくいっていないかもしれない…」などの声が出ることもあります。
なぜその製品は、楽して売れないのでしょうか?今回は、この課題の解決方法を探ります。

製薬業界の主な製品戦略2つの特徴

製薬業界の製品戦略は、主に2つに分けられます。
1つ目は、生活習慣病治療薬のようにコール数・ディテール数を高めることで売上も上げていこうとするShare of Voice(以下SoV)戦略です。
2つ目は、希少疾患、がんや精神疾患などのスペシャリティ領域の治療薬のように、医師に伝える情報の内容や正確さ、効果と安全性のインパクトなどで売上を伸ばしていこうとするポジショニング戦略です。
それぞれの戦略には、どのような違い、特徴があるのでしょうか?

SoV戦略とポジショニング戦略を比較する

 SoV戦略ポジショニング戦略
長所 ・コール数と売上の相関が前提なので、プランが作りやすい

・医師とMRの関係が良ければ、早期に採用され処方を獲得しやすい可能性がある

・KPIをコール数とすることで、プランの進捗のモニタリングがしやすい
(医師の処方上の位置づけがどうなっているかは別問題)

・効果と安全性が競合製品と同等の場合、MRの活動量や医師との関係の優劣によって処方獲得につながる可能性がある                                  
・第一選択薬のポジションを獲得できれば、処方も獲得しやすい

・医師とMRの関係に関わらず、処方獲得が期待できる、どのMRが担当しても売上が安定する
(臨床上価値があるデータなどでポジションを獲得するため、医師の理解やMRのディテーリング力などに依存しない)

・ガイドラインや治療レジメンに自社製品が組み込まれれば、自動的に処方が出やすくなる
短所・プランの成果がMRの活動量やディテーリングの質に依存する

・プラン作成時や分析時、現場から得られたデータの信ぴょう性に不安がある
(MRによる日報入力の精度が不明)

・医師に伝える新しいデータや製品メッセージがないと、MRが活動しにくい

・MRのセリングスキルによって売れる場合、売上が安定しないことがある
(例: MRの転勤、医師の異動など)
・自社製品のポジションが医師ごとに異なると臨床上の自社製品の位置づけが把握しにくい、把握まで時間がかかる、医師ごとに異なるアクションプランが必要になる、全国一律の製品メッセージが作りにくい

・効果と安全性が競合製品と同等の場合、ポジショニングが獲得しにくい

・デジタルチャネルでの情報提供を除き、成果や実績がMRのディテーリングスキルに依存する

このようにSoV戦略とポジショニング戦略では、

  • プランニングに必要な時間と手間、リサーチの費用の多寡
  • 処方獲得の安定性
  • 医薬品を処方する医師の意思決定に対しての関与の度合い(学術的な見地からの判断か?MRとの人間関係による判断か?使い勝手の良さか?薬価が安いなどの患者負担重視か?など)
  • MR活動のしやすさ

などに違いが出てきます。

これまでの製品戦略を振り返ってみると…

これまで医療用医薬品の製品戦略は、生活習慣病治療薬であればSoV戦略の傾向がありました。一方、スペシャリティ領域の治療薬ではポジショニング戦略が基本戦略でした。

しかし、生活習慣病治療薬であっても、スペシャリティ領域の治療薬であっても、新しいデータが発表されず売上も伸び悩む時期(例:プロダクトライフサイクルの成熟期)に差し掛かってくると、いずれコール数を追うプランに変わっていくようです。

伝えるべき新たな製品メッセージがなく、新たな安全性情報の伝達の必要がない場合、できることは

  • 従来の製品メッセージの浸透を図る
  • 新規処方患者さんの有無を確認する
  • 講演会などの企画を提案する
  • 表敬訪問する

くらいしか、MR活動のオプションはなくなってくるのではないでしょうか。

製品のネタが枯渇した時、プロマネはどうする?

以前、ある製薬企業のプロマネとビジネスディスカッションをしていた時のことです。

そのプロマネが担当している製品は、発売後ちょうど10年が経過し、ジェネリック医薬品が追補される時期もおおよそ見当がついていました。会社としては、ジェネリック医薬品に市場を侵食される前に製品を売れるだけ売りたいと考えており、プロマネはその実現のために製品メッセージを練らなければならない状況です。

そのビジネスディスカッションの際、プロマネは「この製品は今月で発売10年なので、今月の製品メッセージは『発売10周年』にします」と話しました。しかし、「製品メッセージが発売10周年ということ」と、「その製品が医師や患者さんに提供する価値」の関連は見えません。
そこで、「その製品の『発売10周年』が、医師や患者さんにどのような臨床上の価値を提供するのですか?」と尋ねたところ、プロマネから明快な回答はありませんでした。

おそらくその時のプロマネは、製品に関する新しいネタ、MRが言いやすいネタを探しているにすぎず、タイミング良く発売10周年になったため、それを製品のメッセージにしようと思いついただけだったのではないでしょうか。その一方で、製品の発売10周年が医師や患者さんにどのような価値を提供するのかを考えていなかったようです。

製品メッセージは、「ユーザーに提供する価値」

前述のような思考やプランニングの傾向は、製薬企業の規模やプロマネの経験年数に関わらず、意外と散見されます。

しかし、現場はシビアに見ています。プロマネから「今月の製品メッセージは○○です」と言われても、MRによっては意図的に自分のMR活動に落とし込まないこともあります。MRから見て「このメッセージでは医師に伝わらないだろう。アポイントの時間をもらってこの話では、医師が怒ってしまうのでは」と考えるかもしれません。プロマネが考えた製品メッセージがMRに伝わらない、MRが活動してくれないという場合、その製品メッセージにも課題があるのではないでしょうか。

「発売10周年」を製品メッセージに仕上げるには?

前述の「発売10周年」は、製品メッセージとしては非常に弱いと考えられます。薬価収載されている医薬品は、発売後10年以上経過しているものが圧倒的に多いので、ある製品が発売10周年を迎えたところで、医師から見れば「だから何?」で終わってしまうでしょう。

このような時は、製品が発売10周年を迎えたことを会話の糸口として、医師とMRのディスカッションに展開するストーリーのアイディアを提示した方が、MRは動きやすくなります。

以下にMRのトーク事例をお示ししてみます。

ストーリーの展開例 第1案

MR :先生、この度うちの製品の□□が発売10周年を迎えました。
医師 :へえ、そうなの。
MR :発売10周年を迎えられたのも、これまで先生に弊社の□□をご処方いただいたおかげです。ありがとうございました!
医師 :いえいえ。
MR :先生、この□□がここまで多くの先生方にご処方いただけたのには、弊社としては大規模臨床試験の結果や市販後臨床試験などで良好な結果をお示しできたからではないかと思っています。
医師 :うん、まあ、確かにそれはあるかもしれないね。
MR :先生がお考えになる、この□□が患者さんに提供できている価値は、何だと思いますか?
医師 :う~ん…、やっぱり一番は心血管系のリスクを大きく下げているところかな?試験でも良い結果が出てるしね。
MR :ありがとうございます。その試験では…(と、ここから試験内容を再度紹介し、製品□□が持つ臨床上の価値を医師に再認識いただくディテーリングストーリーに展開する)

ストーリーの展開例 第2案

MR :先生、この度うちの製品の△△が発売10周年を迎えました。
医師 :へえ、そうなの。
MR :発売10周年を迎えられたのも、これまで先生に弊社の△△をご処方いただいたおかげです。ありがとうございました!
医師 :いえいえ。
MR :先生、この10年間で、弊社の△△をご処方いただいた患者さんの中で、印象に残っている患者さんはおられますか?
医師 :う~ん、そうだなぁ…、糖尿病を合併する患者さんの場合だと、△△だけでは治療が難渋する患者さんが結構多くてね、そういった患者さんはいつも苦労するよね。
MR :そうでいらっしゃるんですね。例えばそのような場合、先生は…(と、ここから複数の疾患を併発している患者さんに対する医師の治療方針を確認したり、他の医師との治療の議論場の提案をしたりするストーリーに展開する)

このようなストーリーは、営業所長やマネージャーがMRに指導する製薬企業もありますが、場合によってはMRに適切に指導できないこともあります。そのような時は、プロマネから営業所長やマネージャーに前述のようなストーリーの展開案をヒントとして提示すると、効果が出るかもしれません。

「発売10周年」であっても、臨床では患者さんに価値を提供できる

前述のとおり、製品メッセージが「発売10周年」だけでは、医師から見たとき「?」となってしまいますが、「発売10周年」を支えてくれたエビデンスや医師の処方の印象(例:切れ味が鋭い、患者さんが早期に自覚症状を改善出来て喜んでくれる など)、製品への信頼感(例:服薬コンプライアンスが良好で、医師が処方しやすく、患者さんも服用しやすい など)を深堀りするディテーリングに展開できれば、「発売10周年」は、非常に良い「会話のフック」になり得ます。

多くのプロマネは、「何とかして競合製品と差別化しなければ」と考え、製品メッセージを練っています。これも必要な取り組みですが、差別化だけがプロモーションやマーケティングではありません。

医薬品は生命関連製品なので、医師や患者さんに対し、「痛みなどの自覚症状を改善する」、「検査結果の数値を改善する」、「無再発期間や生存期間を延長する」、「QOLを改善する」などの価値を提供しなければなりません。医師や患者さんにとって、最も大切なポイントは、この「価値」です。その点を明確にせず競合製品との違いを説明するだけの活動は、製品の価値を正しく市場に浸透させるためのマーケティングプランやプロモーションとはいえないのではないでしょうか。

SoV戦略とポジショニング戦略、どちらが優れているのか?

結論としては、「プロマネが望む良い結果が出ているのであれば、その戦略は優れていた」ということです。しかし、それよりも大切なことは、「良い結果が出たのであれば、その戦略の何がうまくいったのかをしっかり分析して明確にしておく」ことです。

「製品のメッセージが医師に受け入れられた」、「良いエビデンスが出て、それを医師に確実に伝えることができた」、「安全性情報が蓄積され、主な副作用への対処法が確立されたことで、医師が処方しやすくなった」など、プロマネが立てた戦略の中で「うまくいった理由」が明確になれば、その次も再現性があるマーケティングプランを作れるようになるでしょう。

結局のところ、楽して売れるマーケティングプランとは?

楽して売れる製品は、「第一選択薬のポジションを獲得できていて、新患が来たら自動的に自社製品が処方される仕組みになっている製品」です。この第1選択薬のポジションを獲得するために、SoV戦略とポジショニング戦略のどちらが有効かを考えて実行するべきでしょう。

ただし、医師から見て分かりやすく、心地よく、その製品のメッセージや価値が伝わる戦略をとる必要があります。そのためにはどちらの戦略をとるか?それは、ポジショニング戦略ではないでしょうか。医師に何度も「処方をお願いします」というクロージングをするSoV戦略が、医師にとって心地よいとは考えにくいからです。

「製品の価値を伝えるポジショニング戦略」を取り、医師に「この製品をぜひ使ってみたい!」と思ってもらうまで、自社製品が提供できるあらゆる価値を、あらゆるチャネルや手法を駆使して伝えます。そうして自社製品のファンを一人でも多く増やしていくことで、第一選択薬と位置付けてくれる医師を一人ずつ生み出していけるからです。その後、そのポジションを一層強固にできれば、結果として楽して売れる仕組みが完成するでしょう。