例えば、臨床試験の論文では同じ“Dysgeusia”なのに、解説資材の安全性の項では、資材によって味覚「異常」の場合と味覚「不全」の場合がある。結膜炎の分類が「感染症および寄生虫症」と「眼障害」で異なっている。そんな違和感を持ったことはありませんか?有害事象の用語は、一定の基準に基づいて表記されます。本記事では、その基準のひとつである有害事象共通用語規準「CTCAE」について簡単に解説します。
有害事象共通用語規準「CTCAE」について
CTCAEは、Common Terminology Criteria for Adverse Eventsの頭文字をとったもので、米国国立がん研究所(NCI)が策定している有害事象の用語規準です。この邦訳版が、日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)のサイトに公開されており( http://www.jcog.jp/doctor/tool/ctcaev5.html )、2022年12月現在、version 5.0 が最新版です。もともと、医療に関する国際的な共通用語集として「MedDRA」(メドラ)という用語規準(辞書)があり、2000年代後半からはCTCAEに示される有害事象の用語は、MedDRAに対応しています。ちなみに、MedDRAは、有害事象だけでなく、医療に関する用語の国際標準で、その邦訳版(MedDRA/J)は、一般財団法人医薬品医療機器レギュラトリーサイエンス財団が運営しています。 CTCAE version 5.0は、MedDRA MedDRA/J version 22.1に対応しています。
*NCI: National Cancer Institute、JCOG: Japan Clinical Oncology Group、
MedDRA: Medical Dictionary for Regulatory Activities Terminology
有害事象の用語が異なる理由
簡単に言えば、バージョン違いによる用語の違いということになります。
冒頭で述べた“Dysgeusia”は、従来「味覚不全」だったのがCTCAE 最新版では「味覚異常」に変更されました。結膜炎の分類は、CTCAE version 4.0では「眼障害」に結膜炎が、「感染症および寄生虫症」に感染性結膜炎がありましたが、CTCAE version 5.0では結膜炎として「感染症および寄生虫症」に分類されています。 下のイメージのように、臨床試験論文では、安全性の評価をどの基準に従ったのかが記載されています。すべての論文に記載されているわけではありませんが、この臨床試験論文では、有害事象をCTCAE version 4.0をもとに集計していることがわかります。
有害事象の用語や分類変更が影響を与える可能性
用語や分類の改訂は、CTCAEがバージョンアップされるたびにマイナーチェンジ的に繰り返されています。新バージョンが公開されたとき、新旧のCTCAEを横に並べて、すべてのページについてじっくり吟味する必要はないでしょう。ですが、臨床試験での安全性結果を眺めるときには、少なくとも当該製品に関連する代表的な有害事象(副作用)については、確認しておく必要があると考えます。仮に、上述した結膜炎が代表的かつ重篤な副作用であったとして、分類が刷新されていることを知らないまま安全性情報の「眼障害」の項を見て、前回の試験では副作用が出たが今回は出なかった!と思ってしまうと厄介なことになりかねません。
まとめ
本記事では、臨床試験の有害事象用語規準「CTCAE」について簡単に解説しました。 成人病は、さまざまな分野の研究が進んだ結果、主因が加齢から生活習慣とされ、生活習慣病に変更されました。高脂血症は、HDLコレステロールが低い場合をこう呼ぶのは適切ではないとの理由から脂質異常症に変更されました。有害事象の用語や分類も同様に、改訂には理由があります。当該製品に関係のある有害事象の変更内容であればなおさらのこと、その根拠になった科学的知見や背景を知るのは、安全性情報の提供ならびにプロモーションの観点からとても大事なことだと思います。