医薬品の有効期間を決める安定性試験とは?|上市準備や供給計画への影響

医薬品の有効期間を決める安定性試験とは?|上市準備や供給計画への影響

医薬品の安定性試験は、有効期間や貯法を設定するための試験です。データは承認申請や品質保証に用いられるだけでなく、上市準備、供給計画、在庫管理、製品ライフサイクル管理にも関わります。マーケティング担当者にとっても、安定性試験の基本を理解しておくと、担当製品の扱いやすさや情報提供のポイントを考えやすくなります。本記事では、試験の目的と種類、有効期間設定の考え方、製品戦略への影響を解説します。

安定性試験の目的と評価項目

医薬品の安定性試験は、有効期間と貯法を科学的に設定するために実施されます。ここでは、安定性試験の目的や評価項目を説明します。

有効期間と貯法を設定するための試験

安定性試験とは、温度・湿度・光などの環境因子の影響下で、医薬品の品質が時間経過とともにどのように変化するかを確認する試験です1)

得られたデータは、有効期間や貯法を設定する根拠として用いられます。例えば、電子添文に記載されている「有効期間:3年」「貯法:室温保存」といった情報は、試験の結果に基づいて設定されています。

添付文書-有効期間・貯法

医薬品の安定性試験では、ICH Q1のガイドラインが基本的な指針となり、得られたデータは品質保証や供給計画にも関わる情報となります。

ICH(International Council for Harmonisation of Technical Requirements for Pharmaceuticals for Human Use:医薬品規制調和国際会議)については、医薬品の国際開発の源泉「ICH」ってなに?もあわせてご覧ください。

安定性試験で評価する主な項目

安定性試験では、含量、純度、性状、溶出性、分解生成物、微生物学的品質などを確認します1)。評価項目は剤形や有効成分によって異なります。例えば、錠剤やカプセル剤では、有効成分の含量や純度に加え、溶出性も重要な評価項目です。

単に製品が劣化しているかを確認する試験ではなく、有効期間を通じて、含量、純度、性状、溶出性などが規格内に保たれるかを確認し、その結果をもとに有効期間と貯法を設定します。

安定性試験には、長期保存試験・加速試験・中間的試験・苛酷試験など複数の種類があります。試験ごとに保存条件や確認する内容が異なるため、目的に応じて使い分けられます。

長期保存試験と加速試験の違い

安定性試験には目的の異なる複数の試験があります。一般的な製剤における主な試験の条件や役割は、以下の通りです1)

試験の種類

主な目的

標準的な保存条件

期間の目安

長期保存試験

有効期間・貯法の設定根拠

25℃±2℃/60%RH±5%RHまたは30℃±2℃/65%RH±5%RH

12カ月以上

中間的試験

加速試験で変化が見られた場合の追加確認

30℃±2℃/65%RH±5%RH

6カ月以上

加速試験

品質変化の予測・温度逸脱時の参考評価

40℃±2℃/75%RH±5%RH

6カ月

苛酷試験

分解経路・分解生成物の確認

試験設計による

短期間

※長期保存試験を30℃±2℃/65%RH±5%RHで実施した場合は、中間的条件はなし

長期保存試験(長期安定性試験):有効期間の根拠となる中核データ

長期保存試験は、想定される条件下で医薬品を保存し、品質の経時変化を確認する試験です1)。有効期間や貯法を設定する際の根拠となるため、承認申請時にも重要なデータとして扱われます。

新薬の承認申請時には、12カ月以上のデータが求められます。

なお、「長期安定性試験」という表現が使われることもありますが、ICH Q1A(R2)では「長期保存試験」とされています。申請後も長期保存試験は継続され、蓄積されたデータが有効期間の設定や延長を検討する根拠になります。

安定性モニタリング(市販後に継続して品質を確認する試験)とは目的が異なり、長期保存試験は承認申請時の有効期間・貯法設定に必要なデータを得ることが主な目的です。

加速試験:品質変化の予測と温度逸脱リスクの評価

加速試験は、通常より高温・高湿な条件で6カ月間保存し、品質変化を確認する試験です。

長期保存時に起こりうる品質変化を短期間で予測するほか、輸送・保管中に温度逸脱が生じた際の品質への影響を検討する参考データにもなります。

加速試験の期間中に明確な品質変化が認められた場合は、中間的試験が実施されることがあります。中間的試験では、長期保存試験と加速試験の中間にあたる条件で、品質の変化を追加で確認します。

なお、苛酷試験は加速試験よりもさらに過酷な条件で実施され、主に開発段階で分解経路・分解生成物の確認や、光安定性試験(ICH Q1B)の評価に用いられます1)

加速試験と有効期間設定の考え方

加速試験は、有効期間を単独で決める試験ではありません。有効期間は、長期保存試験や加速試験の結果、統計的な評価などを踏まえて設定されます。

「6カ月で3年相当」とされる背景

「加速試験6カ月で3年相当」と表現される場合がありますが、これは6カ月の試験を行えば全ての医薬品で3年の有効期間が保証される、という意味ではありません。

後発医薬品では、先発医薬品が3年以上安定である場合に、加速試験で6カ月間以上の安定性が確認されると、長期保存でも3年以上安定であると推定される考え方があります。実際に日本ジェネリック製薬協会の資料では、先発医薬品が3年以上安定である場合、後発医薬品は長期保存試験ではなく、加速試験6カ月の成績をもって3年間以上安定であることが推定され、承認申請が行われていると説明されています3)

一方で新薬では、長期保存試験の実測データや加速試験の結果を踏まえ、品目ごとに有効期間を設定します。そのため、「加速試験6カ月で3年相当」という説明は、主に後発医薬品について述べる場合に用いられます。

外挿による有効期間設定の考え方

新薬では、ICH Q1Eに基づく外挿の考え方を用いて、有効期間を設定する場合があります。外挿とは、長期保存試験のデータや加速試験の結果をもとに、実測期間を超えた有効期間を推定する手法です。

ただし、外挿は全ての品目で認められるわけではありません。長期保存試験や加速試験で品質の変化が小さく、今後も規格内に収まると判断できる場合に、実測期間を超えた有効期間の推定が検討されます2)

上市準備に影響する安定性試験の期間

安定性試験は承認申請の前から開始され、申請後も継続されます。

新薬の承認申請時には、長期保存試験12カ月以上、加速試験6カ月以上のデータが求められますが、承認時点で有効期間全体に相当する実測データがそろっているとは限りません。

そのため、上市時には取得済みのデータに基づいて有効期間が設定され、その後、長期保存試験データが蓄積すると、それを根拠に一部変更承認申請(一変)を行い、有効期間を延長できる場合があります。有効期間の延長は添付文書やインタビューフォームの改訂を伴うため、MR活動や販促資材の更新時期にも関わります。

マーケティング担当者は、担当製品の有効期間が現時点でどのデータに基づくものか、今後延長の見込みがあるかを薬事・品質部門と事前に共有しておくことで、発売準備や情報提供の計画を立てやすくなるでしょう。

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安定性データが供給・在庫管理に与える影響

安定性試験の結果は、承認申請にとどまらず、上市後の供給体制や在庫管理にも関わります。

例えば、有効期間が短い製品では、卸や医療機関が在庫を抱えにくく、発注量や納入頻度の調整が必要になる場合があります。期限切れによる返品・廃棄リスクが高まれば、流通コストや収益性にも影響し、期限管理の負担が大きい製品では医療機関での採用・継続採用に影響することもあります。

貯法の違いも、製品の流通設計に直結します。冷所保存が必要な製品では、輸送時の温度管理や保管スペースの確保が必要になります。一方、室温保存が可能な製品では、医療機関や薬局での保管負担を抑えやすくなります。

インタビューフォームには安定性試験の結果が記載されており、無包装時の安定性データは、一包化の可否を判断する際の根拠として薬剤師への情報提供に活用されることがあります。特に高齢者医療など一包化や粉砕の機会が多い現場では、こうしたデータの有無が現場での採用や使い続けやすさを左右する要素になり得ます。

安定性試験の理解が、上市後の動きを支える

安定性試験は、製造・薬事部門だけが関わる試験ではありません。有効期間と貯法の設定を通じて、上市準備のスケジュールや供給体制、在庫管理、医療現場への情報提供まで、マーケティング担当者の業務と幅広く接点があります。

担当製品の安定性試験の状況を薬事・品質部門と共有しておくことで、製品戦略や上市後の対応を考える際の判断材料になります。有効期間の延長見込みや貯法の変更の可能性も含め、開発・薬事の進捗を早い段階で把握しておくことで、上市後の情報提供や供給面の対応を検討しやすくなります。



<出典>※URL最終閲覧日2026.06.15

1)厚生労働省医薬局審査管理課長通知 医薬審発第0603001号,2003.06.03,安定性試験ガイドラインの改定について(https://www.pmda.go.jp/files/000156844.pdf

2)厚生労働省医薬局審査管理課長通知 医薬審発第0603004号,2003.06.03,安定性データの評価に関するガイドラインについて(https://www.pmda.go.jp/files/000156086.pdf

3)JGApedia, 日本ジェネリック製薬協会,2019.02.01,安定性試験(https://www.jga.gr.jp/jgapedia/column/09.html

4)国際関係業務,独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA),ICH-Q1 安定性試験法(https://www.pmda.go.jp/int-activities/int-harmony/ich/0038.html