医療用医薬品関連の資材(以下、資材)を制作する際に、切っても切れない事柄に「引用」があります。皆さんは「引用」のこと、きちんとご存じですか? 実はよく分からないままやり過ごしたりしていませんか?
本記事では、資材制作に関わる方なら絶対に押さえておきたい「引用」の知識についてご紹介します。
著作物は著作権法で保護されている
- でも「引用」なら他人の著作物を利用できる-
自分の考えや感情を創作的に表現したものを「著作物」といいます(著作権法 第2条第1項第1号)。著作物は著作権法で保護されているので、他人が利用したいときには許諾を得るのが原則です。しかし、こうした制限を厳しくしすぎると、作品の感想や評価もできなくなり、自由な創作活動が妨げられかねません。一方で、制限なく誰でも自由に利用できるようにすると、元の著作物の価値を著しく下げてしまうかもしれません。
そこで著作権法では、創作活動の発展と著作権保護の両立を図るため、一定の条件を満たせば他人の著作物を使ってもいいですよ、といういくつかの例外を設けています。その一つが「引用」です。「引用」以外にも個人使用の番組録画やコピーなどいくつかのケースがありますが、ここでは省きます(ご興味のある方は こちら を参照ください(公益社団法人著作権情報センター 著作物が自由に使える場合は?)。
「引用」できる条件とは
文化庁によると「引用」とは、
「自分の著作物の中に、公表された他人の著作物を掲載する行為」 [1]
とされています(文章だけではなく、図・表・写真。絵画などが引用されることもあります)。また、「引用」できる条件として、次の点を挙げています[2]。
- 引用する「必然性」があること
- 報道、批評、研究などの正当な目的であること
- 自分の論文が中心で、引用する論文はその一部であるということがはっきりしていること
- 引用した部分を「 」でくくるなど、自分の文と、引用した文とをはっきりと区別すること
- 引用してきた論文の題名・著作者名・出版社名・引用した部分が掲載されているページ数などをしめすこと
さらに「引用」は、出典の記載通りに行う必要があるとされ、文化庁は「要約して引用することはできない(ただし翻訳は可能)」[3]という見解を示しています。つまり「引用」する文章がどんなに長くても、また、誤字・脱字があっても、そのまま抜き書きするのが「引用」の原則なのです。
2つの「引用」:直接引用と間接引用
しかし、資材や医学論文で、引用文が長々と抜き書きされていることは、ガイドラインに関する論文などを除けばほとんど目にしません。実は、「引用」には「直接引用」と「間接引用(要約引用)」の2種類があるのです。
-
直接引用
先ほど触れた「出典の表記通りに書く」という方法です。(前項『「引用」できる条件とは』の方法はまさしく「直接引用」です)。 -
間接引用
著作者の意図を変えないようにしながら、自身の言葉で「要約」して引用するという方法です。資材や医学論文で主に用いられています。
そうすると「間接引用」って、「要約して引用できない」という話と矛盾していない?と思ったあなた。はい、その通りです。しかし実際のところ、間接引用は医薬・医療関連領域では広く浸透していますし、大学のレポート・論文作成ガイドなどでも取り上げられいます[4, 5]。さらに、ジャーナルによっては、引用の字数や語数を制限していることがあるため、間接引用しか選択できないこともあります。
早稲田大学 知的財産法制研究所の末宗は、間接引用が著作権法上認められることは難しいが、原文の特徴が分からない程度まで表現の抽象度を高めれば、間接引用が許容される可能性はあるとの見解を示しています[6](ちなみにこれは、間接引用ですね)。
現時点では「間接引用」の違法/適法について、明確な法律上の解釈・判断基準は出ていないようですから、今後の検討が待たれます。
果たして図表の引用は可能なのか?
図表の引用は可能だと思いますか? 図表であっても、条件を満たせば引用は可能だと考えられます。 具体的に 「図1、2点程度であれば、一般に引用の範囲と見なされるようです」と説明している資料[7, 8]もありますが、その根拠は明確ではありません。結局のところ、裁判にならないと違法/適法を判断できないのが実情です。また、ジャーナルの出版社は、一般に図表の引用を認めておらず、許諾を求めています(ジャーナルでの許諾については各投稿規定を参照ください)。
こうした点を踏まえると、資材制作を行っている立場としては、(争いごとを避けるためにも)図表については使用許諾処理を行うことが無難であると考えられ、日常的にもそのように対応しています。
一方、研究目的での引用については、政府が推進する知的財産推進計画で、利用できる範囲の明確化や拡大が検討されているようです[9]。
まとめ
- 著作物は著作権法で保護されているが、「引用」であれば自由に利用できる。
- 「引用」の条件(文化庁の見解)として、「必然性」「正当な目的」「自説が中心で引用は一部」「引用部分を明確に区別」「出典の明示」「引用の要約不可」が挙げられる。
- 「引用」には「直接引用」と「間接引用」があり、資材・医学論文では主に「間接引用」が用いられる。
- 図表の引用は本来可能と考えられるが資材では難しい。
以上、引用についてご紹介してきました。今後の資材制作に、少しでも活用いただける点があれば幸いに思います。
本記事の内容は、一つの見解を述べたものです。法律上の解釈については、法律関連部署ならびに法律専門家等のアドバイスに基づきご判断いただくようお願い致します。
[1] 著作権なるほど質問箱 関連用語
https://pf.bunka.go.jp/chosaku/chosakuken/naruhodo/ref.asp#10 最終閲覧日 2020年6月10日
[2] みんなのための著作権教室 学ぼう著作権 ③著作物を自由に使える場合とは?
http://kids.cric.or.jp/intro/03.html#point1 最終閲覧日 2020年6月10日
[3] 著作権なるほど質問箱 著作権Q&A
https://pf.bunka.go.jp/chosaku/chosakuken/naruhodo/answer.asp?Q_ID=0000353 最終閲覧日 2020年6月9日
[4] 立教大学|図書館ホームページ 5.引用・著作権
http://library.rikkyo.ac.jp/learning/reportguide/citation/ 最終閲覧日 2020年6月9日
[5] 看護学科講義「アカデミック・スキル」 学術的引用の作法
https://www.shiga-med.ac.jp/library/support/materials/2019/2019academicskill.pdf 最終閲覧日 2020年6月9日
[6] 早稲田大学 知的財産法制研究所ホームページ 学術論文における「引用」と著作権法における「引用」(末宗達行)
https://rclip.jp/2018/07/30/201808column/ 最終閲覧日 2020年6月9日
[7] 一般社団法人 情報処理学会ホームページ よくある質問
https://www.ipsj.or.jp/faq/chosakuken-faq.html 最終閲覧日 2020年6月9日
[8] 聖心女子大学図書館.-大学院学生のための-著作権ガイドブック
https://library.u-sacred-heart.ac.jp/display_collection/daigakuinseichosakuken2016.5.pdf 最終閲覧日 2020年6月9日
[9] 首相官邸ホームページ 知的財産戦略本部
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/ 最終閲覧日2020年6月9日