医療業界こそ5Gに注目!次世代通信は何を変えるのか

医療業界こそ5Gに注目!次世代通信は何を変えるのか

2020年春から国内での商用サービスがスタートした5G。次世代の通信インフラとして、あらゆる業種や日常生活に大きなインパクトを与えると期待されています。もちろん、医療業界も例外ではありません。むしろ、医療業界こそ大きな恩恵を受けるともいわれています。本記事では、5Gの基本、5Gのメリット、医療業界への影響などをお届けします。

技術の進化により約10年で世代交代が進む

5Gとは「第5世代移動通信システム」のことで、日本では2020年春から商用サービスがスタートしました。5Gの理解を深めるために、それ以前の世代について簡単に触れておきます。

  • 1G:音声通話のみのアナログ方式。1980年代に普及し、携帯電話もこの時期に登場する。
  • 2G:通信方式がアナログからデジタルに進化。1990年代に普及し、メールやインターネット利用が可能になる。
  • 3G:2Gに比べて通信速度が大幅に向上。2000年代に普及し、より大容量コンテンツが楽しめるようになる。
  • 4G:通信の高速大容量化に対応。2010年代に普及し、スマートフォンで高精細な動画視聴・モバイルゲームなどが可能になる。

通信技術・機器の進化により、約10年単位で世代交代が進んでいることがわかります。1980年から2010年までの30年間で、最大通信速度は約10万倍にも向上したといわれています。そして、2010年以降の5G実現に向けた研究開発、実証実験、5G技術の国際的な標準化活動や周波数割り当て検討などを経て、2020年春に5Gが実現したのです。

出典:第5世代移動通信システム(5G)の今と将来展望 2019年6月27日 総務省

5Gは社会を支えるための技術

5Gの特徴は「超高速」「超低遅延」「多数同時接続」で、これらを掛け合わせることで、従来不可能だったサービスが次々と実現できるようになり、社会をドラスティックに変えると期待されています。

具体的には、5Gは4Gに比べて通信速度は20倍(超高速)、遅延は10分の1(超低遅延)、同時接続台数は10倍(多数同時接続)になるといわれており、次のようなメリットが得られます。

通信がさらに快適になる

YouTubeなどの動画共有サイトや、Netflixなどの動画配信サービスを利用する人は年々増えています。通信速度が20倍に超高速化することで、4Kや8Kといった高画質の動画もスムーズに快適に閲覧できるようになります。

通信の信頼性が向上する

4Gも通信の高速大容量化に対応していましたが、使用環境によってはネットワークの遅延が度々発生していました。車の自動運転や遠隔操作による手術など人命に関わる分野では、課題も多く見られました。5Gになることで遅延が10分の1になるため、これらの分野でも信頼性を担保したリアルタイムな処理・対応が可能になります。

通信コストが削減できる

一度に接続できる台数が4Gの10倍になることで、中継装置などの導入コスト削減につながり、サービス・システムの普及・浸透を推進します。

このような進化・特徴から、4Gが「スマートフォンのための技術」ならば、5Gは「社会を支えるための技術」といわれています。

出典:第5世代移動通信システム(5G)の今と将来展望 2019年6月27日 総務省

5Gでオンライン診療、救急医療が進化

では、医療業界にはどのような影響があるのでしょうか。医療業界は5Gとの相性がとてもよく、その中でもとくにオンライン診療や救急医療での効果が期待できるといわれています。

5Gによるオンライン診療で医療の均てん化が期待

オンライン診療には大きく、医師-医師間でやり取りを行う「D to D」と医師-患者間でやり取りを行う「D to P」があります。

「D to D」では、離れた施設などにいる医師同士がCTやMRIなどの撮影画像を送受信して、遠隔診断などを行います。この仕組みは以前からありますが、CTなどの患者情報は1GBを超えることもあり、情報共有から診断まで時間を要していました。しかし、5Gにより高精細な画像伝送をタイムラグなく行えるようになることで、診断までのスピードが格段に向上し、かつ見落とし・見過ごしも防げるようになると期待されています(5Gでは20Gbpsの通信速度を実現できるため、2.5GBの大容量データを1秒で送受信可能となる。4Gでは20秒以上かかる。理論値をもとに算出)。

また、手術での活用も進められており、広島大学とNTTドコモは2019年11月に、5Gで治療室と遠隔地にある医局を接続しリアルタイムで遠隔手術支援を行う実証実験を行い、成功したと発表しました。5Gにより遠隔でも手術の様子を瞬時に詳細に把握できるようになり、双方が同じ現場にいるような感覚で取り組めることが確認できました。これにより専門医がいない状況でも、執刀医は遠隔地の熟練医からアドバイスなどの適切な支援を受けられるようになります。

医師不足や地域による医師の偏在が大きな課題となっていますが、5Gを活用した「D to D」によって、地域の病院(診療所)から専門医がいる総合病院などに画像を瞬時に伝送できるようになることで、日本全国どこにいても質の高い医療を受けられるようになります。“医療の質を均てん化させる技術”としても、5Gは大きな価値があるといえます。

続いて、「D to P」です。現在は新型コロナウイルスの影響による時限的・特例的な措置として初診でのオンライン診療が認められていますが、オンライン診療に関してはつねに「触診・打診・聴診ができない」「対面診療でなければ気づかない症状がある」「画一的な診察で終わってしまう」といった指摘があがります。

5Gによって医師-患者間の通信環境が大幅に向上し、高精細な動画伝送が行えるようになれば、オンラインであっても対面診療に近い診察環境が実現できるようになります。診察中に専門医ともリアルタイムでつながり、その場で患者情報を共有し指示をもらうといった対応も可能になり、医師が総合病院の専門医を紹介し改めて患者に受診してもらうといった手間もなくなります。

京都府立医科大学・デジタルハリウッド大学院客員教授の加藤浩晃氏は、日本医学総会2019のシンポジウム『遠隔医療の現状と展望』の中で、「5GとVR(仮想現実)などの技術を使えば、患者の肌の質感なども感じられる診察環境が得られるだろう」と話し、5Gによってオンライン診療の課題解決が一気に進むことを示唆しました。

救急医療では指示・対応の精度を向上

1分1秒を争う救急医療の現場では、スピーディで的確な医師の判断が求められます。しかし、患者を搬送する救急車両と病院との間は電話(音声情報)のみでやり取りするのが主流のため、細かな準備は実際に患者が病院に到着してから行うケースが多いのが実情です。

こうした課題にも、5Gが力を発揮します。5G搭載の救急車両なら、搬送中に患者の高精細な動画や検査データ、マイナンバーカードに紐づく情報などを医師にリアルタイムで共有できるため、医師は適切な処置を救急隊員に指示したり、適切な準備をした状態で患者を迎え入れたりできるようになるのです。

NTTドコモが実施した救急医療の5G実証実験(※)に参加した医師は、「5Gによる映像伝送はあたかも目の前に患者さんがいるかのような状況を創り出すことができる。さらに、複数の情報を一度に伝送できることから的確な判断が行いやすい。5Gは救急医療の現場で有効だ」とコメント。5Gが救急医療にも有用であることを伝えています。

※救急指定病院に見立てた施設に5G基地局を設置し、救急車とドクターカーに5G移動局を搭載。救急車からの4K映像をドクターカー側で受信できる環境を整備し、医療シミュレーションを実施した。

5G、その可能性は計り知れない

このように5Gは、医療業界にも大きなインパクトを与えることが予想されます。

一方では、5Gならではの課題も見えてきます。新たに5G対応の通信機器やIoT関連機器を用意するためのコスト問題、多数同時接続が可能になることで起こるセキュリティリスク問題、新たな設備・技術を使えるようになるための知識習得の問題などです。

しかし、それ以上の価値があるのが5Gです。5Gが当たり前のように普及した医療現場は、近い将来現実になり、医師不足・医師偏在・医療機関不足といった医療格差を是正し、さらには、荷重労働といった医師・医療従事者の働き方にも好影響を与えることが期待できます。いまはその一歩目なのです。

(参考)

第5世代移動通信システム(5G)の今と将来展望 総務省
https://www.soumu.go.jp/main_content/000633132.pdf

5Gで変わる医療&ヘルスケア
https://special.nikkeibp.co.jp/atclh/ONB/19/5G_IMPACT/article07_1/

ドコモの5G
https://www.nttdocomo.co.jp/biz/special/5g/