医薬品開発を加速させるDXソリューション -治験文書作成はAIと協働する時代へ-
「共に創る、これまでにない医薬品マーケティングの未来」と題して開催されたMedinew Digital Marketing Day(MDMD)2024 Autumn。株式会社ロゼッタの古谷祐一氏と松田太郎氏によるセッションでは、生成AIを活用した治験関連文書作成業務のDX化ソリューションについて解説されました。人とAIの協働による業務効率化の実現について、具体的な事例を交えながら紹介されました。
AI自動翻訳から製薬業界に特化した専門文書AIソリューションへ
20年以上にわたりAI自動翻訳の開発を行ってきたロゼッタ。2023年からは、これまで培ってきたAI技術を活用し、生成AI事業に乗り出しました。
特に最近では、製薬業界向けの生成AIソリューションとして医薬品情報チャットボットツール、文書間整合性チェックツール、治験関連文書の自動生成ツール開発を手掛けており、2024年には製薬業界特化型の専門文書AIソリューションとして受託開発版の「ラクヤクAI」をリリースしました。(※SaaS版は2024年冬リリース予定です)
松田氏らは、ラクヤクAIの機能概要と、同ツールが治験関連文書に対しどのような変革をもたらすのかを解説しました。
治験関連文書作成業務のDX。ラクヤクAIでできること
4つの主要ツールで医薬品開発や市場投入のスピード向上に貢献
治験関連文書の作成やQCには多大のリソースと手間を必要とします。この課題を解決するため、AI活用による文書処理の効率化が期待されてきました。
そのような中リリースされたのがラクヤクAIです。松田氏は「ラクヤクAIは、治験関連文書の作成やQC業務の時間を削減することで、医薬品開発や市場投入のスピード向上に貢献する」と強調します。
ラクヤクAIによるこうした効率化は、次の主要な4ツールに支えられていく予定です。
- 自動生成ツール
- 整合性チェックツール
- モニタリングツール
- 医薬品情報サーチツール
これらのツールは、治験関連文書だけでなく、製薬企業が必要とするさまざまな文書へも応用可能であると松田氏は説明しています。
治験関連文書作成の強力な味方:自動生成ツールと整合性チェックツール
4つのツールのうち、治験関連文書作成では「自動生成ツール」と「整合性チェックツール」が大きな役割を担います。
自動生成ツールは、治験総括報告書(Clinical Study Report:CSR)などの文書を、作成元となる参照資料に基づいてAIが自動生成する機能です。例えば、治験薬概要書、治験実施計画書、統計解析計画書、症例報告書など、CSR作成に必要な資料を登録し、「CSRの第1章を生成してください」と指示すれば、AIが関連資料を参照しながら、構造化された文書を論理的に自動生成してくれます。このツールには編集機能も搭載されていて、プロンプト(AIへの指示)を使って整合性を確認しながら、効率的に編集作業を進めることができます。
整合性チェックツールは、生成された文書の不整合を検出し、修正すべき箇所を具体的に指摘してくれます。特に重要な機能は、参照資料の具体的な引用箇所を明示できることです。引用元の表示機能自体は多くのチャットボットでも実装されていますが、参照資料が100ページに及ぶような場合は、その資料のどこを参照しているかまでは分かりません。ラクヤクAIでは文章レベルで引用元を表示する機能を開発中であり、容易に引用箇所を特定できる仕様を目指しています。さらに、エディター機能が搭載されていて、整合性チェック時にもQC、校正、編集が行える環境を提供しています。
治験関連以外のツール:モニタリングツールと医薬品情報サーチツール
ラクヤクAIの技術は治験関連文書にとどまらず、さまざまな文書に応用可能です。現時点では「モニタリングツール」と「医薬品情報サーチツール」によって、その機能が提供されています。
モニタリングツールでは、MRの業務記録や医師の講演会資料などの内容をモニタリングし、適切な情報提供かどうかをチェックできます。
医薬品情報サーチツールは、最新の医薬品情報をWeb上で収集するためのツールです。ラクヤクAIの4ツールを統合的に活用することで、製薬企業は文書作成から情報管理、さらにはコンプライアンス対応に至るまで、幅広い業務での支援を受けられるようになるでしょう。
2つの基盤アーキテクチャで精度の高い文書生成を可能に
ラクヤクAIで採用されている主要な技術には、RAG(Retrieval Augmented Generation:検索拡張生成)と「Metareal AI LLM 2」の2つがあります。
RAGとは、AIが回答を生成する前にナレッジデータを参照して、最適な出力を行うためのプロセスです。
Metareal AI LLM 2は、ロゼッタが開発した、複数の大規模言語モデル(Large Language Models:LLM)を組み合わせたプラットフォームです。治験関連文書の自動生成といった複雑で多様なタスクでは、複数のLLMがそれぞれの特性に応じたタスクを分担することで、単体では困難な高度な処理が実行可能となります。このしくみがMetareal AI LLM 2です。
ラクヤクAIでは、この2つの技術基盤がハルシネーション(AIによるもっともらしいうそ)を低減し、精度の高い文書生成を可能にしています。
AIとの協働による治験関連文書作成プロセスの展望
生成AIの活用は、今や製薬企業のあらゆるプロセスで行われています。本講演では、治験関連文書の作成やQC業務の効率化だけではなく、さまざまな文書作成プロセスにも大きな変革をもたらす可能性について示されました。
松田氏が「ラクヤクAIのゴールは、治験関連文書の業務効率化だけでなく、新薬の早期市場投入を通じて患者に利益をもたらすこと」と述べたように、AIの価値は今後さらに高まっていくでしょう。
ただし、AIはあくまでツールであり、現段階では100%の精度を持つわけではなく、完全な自動化は難しいのが現状です。そのため、煩雑な作業はAIに任せ、その出力結果を人が判断・修正するというかたちで、AIと人がうまく協働していくことが不可欠です。