リアルワールドデータが解決する医師ターゲティングの3つの課題。客観的で効率的な重要医師の特定法とは/MDMD2024Autumnレポート
2024年9月に開催されたMedinew Digital Marketing Day(MDMD)2024 Autumn。セッション「重要医師と製薬企業をデータが繋ぐ! 古くも新しい世界観 ~リアルワールドデータを駆使して医師個人にどこまで迫れるか?~」では、株式会社JMDCの武者英介氏が登壇し、ミーカンパニー株式会社の山村奈津子氏、株式会社医薬情報ネットの芳賀瑞枝とともに、製薬企業が重要医師を特定する際に欠かせない、リアルワールドデータの活用について解説しました。
製薬企業のパートナーとなる重要医師は「Influencer」と「Prescriber」に分類される
製薬企業にとって、医師は重要なパートナーです。しかし、その関係性は一様ではありません。JMDCの武者氏は、製薬企業にとっての医師の役割タイプは下記の2つに分類できるといいます。
- Influencer:疾患や治療概念の形成、エビデンス創出、他医師への啓発活動を通じて、製品価値を広く普及させる役割
- Prescriber:しかるべき患者さんを見極め、治療・処方を通じて、製品価値を最大限に発揮させる役割
これらの役割は、企業の各部門や、製品ライフサイクルのフェーズによって、求められる比重が変化します。例えば、開発段階では疾患や製品のメッセージ形成に貢献できる医師が重要になりますが、承認後は実際に処方できる医師の特定が重要になります。
武者氏は、「『どの施設の先生か』に留まらず、その時々に応じて、パートナーとすべき医師は『どのような医師か』を、しっかりと言語化しながら丁寧に検討していく必要がある」と述べました。
重要医師を特定する手法とその課題
これまで、製薬企業はさまざまな方法で重要医師の特定を試みてきました。しかし、それぞれに課題があると武者氏は説明します。自力での調査や既存の関係性、手近なデータやMRからのヒアリングだけでは、満足のいく結果には至らないことが多いのが現実です。
医師特定の手法 | よくある現象 |
自力でWebや文献などを調べる |
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関係性や付き合いのある先生を候補にする |
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競合品・自社品の売り上げが多い施設を特定する |
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MRヒアリングにより地道に特定する |
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こういった現象が起きてしまうのは、以下の3つの課題が解決できていないからだと武者氏は指摘します。
課題1:重要医師の定義が曖昧
課題2:属人的で説明性が低い
課題3:手間と正確性のバランスが悪い
これらの課題を解決する手法が、リアルワールドデータ(以下、RWD)の活用です。
リアルワールドデータを活用して重要医師を特定する
RWDには、電子カルテや調剤レセプト、検査結果や疾患レジストリなどから得られる、医療ビッグデータが含まれます。RWDを活用することで、先述した3つの課題が以下のように解消されるといいます。
「課題1:重要医師が定義できていない」の解消
重要医師の特性を定量的なパラメータ(因子)に要素分解することで、「重要医師とはどのような医師か」が明確に定義されます。
それにより、医師に優先順位を付けることも可能に。定量的に、どの医師が求めるパートナー像に近いかを比較検討することができるようになります。
「課題2:属人的で説明性が低い」の解消
ファクトベースのデータを用いることで、主観的要素が除外され、人選の客観性がしっかりと担保されます。また、人力では及ばない網羅的な情報収集も可能です。
「課題3:手間と正確性のバランスが悪い」の解消
自力でWebや文献を調べる必要はありません。最新性と正確性が担保され、なおかつ必要な形に整えられたデータセットを用いることで、データ収集の効率性が飛躍的に向上します。
JMDCグループが保有するデータとその活用事例
RWDを活用して重要医師を特定していくためには、信頼できる、かつ有用性の高いデータの収集が必要になります。JMDCグループの医薬情報ネット・ミーカンパニー・JMDCは、3社それぞれが特色あるデータベースを保有しています。
論文・学会情報に精通する医薬情報ネット、豊富な医師専門データを有するミーカンパニー、各施設の特定セグメントの患者数・診療行為算定回数といったファクトデータを示せるJMDC。それぞれ芳賀・山村氏・武者氏が、自社のデータ活用事例を紹介しました。
医薬情報ネット:学会発表・論文データベース
医薬情報ネットの芳賀は、保有する2つのデータベースについて紹介しました。これらのデータは主に疾患や治療概念の形成、エビデンス創出に貢献する医師、つまりInfluencerを特定するのに適しています。
- 学会情報データベース:国内1,400学会の抄録集・プログラムをデータベース化
- 論文情報データベース:MEDLINE®︎内の日本人医師が執筆した論文情報を抽出
これらのデータベースの特徴として、以下の点が挙げられます。
- 学会事務局から直接情報を入手するため、網羅性が高い
- 人手による入力・確認により、データの精度が高い
- 独自の名寄せ技術により、同姓同名や表記揺れに対応
実際の活用事例として、製薬企業での KOL 特定に貢献した例も紹介されました。
ミーカンパニー:SCUEL医師データベース
ミーカンパニーの山村氏は、SCUEL医師データベースの特徴について説明しました。このデータベースは、InfluencerとPrescriber双方の特定に役立ちます。
- 約33万人の医師情報を格納し、カバレッジは94%
- 半年ごとの更新と目視確認により、最新の所属情報を維持
- 専門医・指導医など500以上の資格情報を収集
- 医師の専門領域をタグ化し、AI での活用も可能
活用事例として、婦人科領域の医師の専門性解像度向上や、ガイドラインに準拠した施設・医師の探索などが紹介されました。
JMDC:健康保険組合由来のレセプトデータベース
JMDCの武者氏は、同社が保有する健康保険組合由来のレセプトデータベースの特徴について説明しました。このデータは主に製品の価値を最大限に発揮させる可能性のある医師、つまりPrescriberを見つけるのに役立ちます。
- 累積母集団約1,700万人、直近1年間で約1,100万人をカバー
- 病院の90%以上、診療所の68%が出現
- 診断、薬剤、診療行為、材料などの詳細な情報を含む
このデータを活用することで、以下のような分析が可能になります。
- 施設ごとの患者数や治療実態の把握
- 新薬のアーリーアダプター施設の特定
- 摘要欄を活用した医師・患者背景の理解
データの組み合わせで多角的な分析も可能
また、3社のデータを組み合わせた、多角的な医師特定の方法も紹介されました。各医師の学術活動の活発さや専門医情報、最新の所属医療機関情報を一覧化し、用途に応じた医師の優先順位をつけることも可能になります。これらの要素に重み付けをすることで、企業のニーズに合わせたカスタマイズも可能です。
重要医師の選定にはデータの活用が不可欠
施設の訪問規制、医師の働き方改革、MR数の減少といった環境の変化により、製薬企業が医師と直接顔を合わせて会話することが難しくなっています。
より効率的、かつ効果的に重要医師を選定するためには、RWDの活用が欠かせません。
これからの製薬企業には、自社内のデータや医師との関係性から得られる情報だけでなく、必要に応じて外部からもデータセットを取り入れながら、客観的・網羅的に医師の特性を見極めていくことが求められるのではないでしょうか。