10月はピンクリボン月間 − 製薬企業の乳がん啓発サイトを調査【2024年9月版】

10月はピンクリボン月間 − 製薬企業の乳がん啓発サイトを調査【2024年9月版】

10月のピンクリボン月間にちなみ、製薬企業の乳がんの疾患啓発サイトを調査しました。3年ぶりの調査となりますが、3年間でページ内容の更新やコンテンツの変更などが行われたサイトもありました。各社のテーマを絞ったサイト作りやコンテンツの工夫、各社のSNS活用などについてご紹介します。

乳がんの疾患啓発サイトを運営している製薬企業一覧

生涯で2人に1人ががんに罹患する1)と言われており、特に女性では乳がんの罹患率が最も高く、2020年のデータによると9人に1人が生涯のうちに乳がんに罹患すると推算されて1)います。さらに、乳がんの罹患数は増加の一途をたどっています2)。対象患者数が多い乳がんの疾患啓発活動の重要性は極めて高いといえるでしょう。また5年相対生存率は92.3%、10年相対生存率は79.3%1)と治療後の生存率が高いことから、生活面や治療費のサポート情報も求められていそうです。

2021年にMedinewで実施した調査では、乳がんの疾患啓発サイトを運営していた製薬企業は、10社12サイトでした。3年ぶりの今回の調査では対象企業を数社変更していますが、19社中9社14サイトとなりました。同じサイトでも前回の調査から、ガイドラインの情報やページ内容を更新していたり、コンテンツを変更していたりするサイトが見受けられました。
※2024年5月にIQVIAより公開された23年度販売会社ベース企業売上ランキング(期間:2023年4月~2024年3月)より抜粋した19社

乳がん啓発オウンドメディア調査対象9社14サイト

各製薬企業の乳がん疾患啓発サイトが取り上げるテーマは、乳がん全体、骨転移、再発・転移、がんゲノムなどさまざまでした。またがん総合サイトを別に運営する企業が多くありました。疾患啓発サイトでは各種がんの特徴を取り上げ、がん総合サイトで治療費や生活など共通するテーマを掲載することで、各種がん疾患啓発サイト内のボリュームを抑え閲覧しやすくなっています。

仕事や子育てに忙しい40代から患者数が急速に増える2)ことも、乳がんの特徴です。そのため、患者自身へのサポート情報に加え、家族へのサポート情報を充実させているサイトもありました。また再発・転移を取り上げ、生活の質の向上に関するコンテンツも多く見られました。

これまでの疾患啓発サイトの調査で取り上げたことがある特徴的なサイトも、いくつかあります。たとえば、アストラゼネカの「乳がん.jp」、ファイザーの「転移乳がん MY CHOICE PROGRAM」は、LINEアカウントを配信していることを紹介しました。

ここではこれまで取り上げていないサイトから、特徴的な3サイトをご紹介します。その他のサイトを含めた調査結果はダウンロード資料を用意していますので、ページ下部よりダウンロードください。

MSD がんを生きる「乳がん」

トップページには各コンテンツの概要をまとめて掲載しており、気になるコンテンツから読み進めやすいサイトです。各コンテンツは1ページに集約され、目次を冒頭に配置しています。コンテンツ「乳がんとは」では、発生部位や罹患率についてデータを使って視覚的にわかりやすく解説しています。

さらに転移・再発乳がん患者へ向けたコンテンツ「ひとりじゃないよ―ABCの輪-」を用意。3つの診断期に分け、心のケアや治療費、医師・患者・家族からのメッセージなどの情報を提供しています。膨大な情報を診断期ごとに分けることで、要点がまとまり理解しやすい印象を受けました。

同社が運営するがん総合サイト「がんを生きる」では、その他のがんについても取り上げ、疾患啓発を行っています。各がんのサイトは、同じコンテンツ構成を基本としており、サイト作成を効率よくする工夫がなされていました。治療費や仕事、食事、心のケアなど共通項目は「がんを生きる」内にて解説しています。

また同社ではSNSでの配信が盛んです。Facebook公式アカウントでは、3月「AYA(アヤ) week」、3/3「トリプルネガティブ乳がんの日」、5月「母の日」、6/21「がん支えあいの日」、10月「乳がん月間」「スポーツの日」、「米国臨床腫瘍学会」開催に合わせて情報を発信していました。また2024年4月にはInstagram公式アカウントを解説。Instagramでも情報発信を行っています。

がんを生きる「乳がん」
https://www.msdoncology.jp/breast-cancer/

サイトディスクリプション

乳がんの特徴や症状、種類、検査/診断、治療、治療後の生活について、わかりやすく解説するサイトです。

キーワード

コンテンツ一覧

・乳がんとは
病態と早期発見の重要性についてイラストを用いて紹介
・検査と診断
検査と診断の流れ、分類について図を用いて解説
・治療について
治療の考え方の大まかな紹介と、手術・放射線療法・薬物療法の詳細な解説
・治療後の生活をよりよく過ごすために
術後のリハビリ方法をイラストで紹介。術後の生活や治療中の生活・妊娠などについても紹介
・遺伝性乳がんとは
HBOC(遺伝性乳がん卵巣がん症候群)についてデータを用いて解説
・再発/転移性の乳がん患者さんへ(ひとりじゃないよ―ABCの輪-)
3つの診断期ステージに分け、患者のメッセージを交えながら心のケアや治療費などについてアドバイス

ノバルティスファーマ 患者さんと家族のための乳がん羅針盤

乳がんとどう向き合っていくか、をテーマに作成しているサイトです。治療や診断後の生活についての解説をQ&Aやマンガで行っているところが特徴的です。マンガは全14話で構成されており、診断から治療、乳房再建、生活や仕事、遺伝など多岐に渡るテーマを取り上げています。各話冒頭では、前回のあらすじと登場人物を紹介しているため、気になる話から読み進めることが可能です。1話ごとのページ数が多く、患者や家族が自分事に捉えやすい内容にまとめられています。

Q&Aは治療チャートとテーマから探せる仕様になっており、自分の状況に合った疑問を簡単に見つけられます。また回答にはサイト外のリンクも多く掲載しており、知識を深めたり視野を広げたりできる工夫がなされていました。転移・再発のコンテンツでは、患者と家族や周囲の支える人に分け、アドバイスを掲載。医師やソーシャルワーカーの動画も配信しています。

同社では他にも、がん経験者へ向けた情報発信サイト「Cライフプラス」や、子供にがんについて説明する際に役立つ冊子の配信などを行っています。

患者さんと家族のための乳がん羅針盤
https://www.gan-kisho.novartis.co.jp/nyuganrashinban

サイトディスクリプション

大切な家族が乳がんになってしまったら…。乳がん羅針盤は実際のそんな患者さんの家族の声にお答えしているサイトです。みんなで乳がんと向かい合っていくためのヒントになりますように。

キーワード

コンテンツ一覧

・ごあいさつ
閲覧者へ向けたメッセージとサイトについての紹介文
・乳がんQ&A
治療チャートやテーマから質問を探すことが可能
・マンガでわかる乳がんと家族
マンガで疾患の治療内容や治療費、家族の気持ちなどを解説
・リンク集
企業サイトと関連する外部サイトを紹介
・乳がんが転移・再発したときに
再発や転移性乳がん患者、支える人への心のケアに関するコンテンツ。動画メッセージもあり
・最良の医療を受けるためのコミュニケーション法
医療関係者とのコミュニケーションや治療法の情報収集に関するアドバイスを9つ掲載
・お知らせ
サイト更新情報を掲載
・監修のことば 山内英子先生
患者とその家族へ向けた監修医からのメッセージを掲載

中外製薬 AYA Life

15~39歳の年齢層を意味するAYA世代を対象とし、体験談、経験者や医師からのアドバイスなどを掲載しているサイトです。乳がんに限ってはおらず、がん患者全般を対象としています。体験談は、治療費・仕事・外見などのテーマ別・発症年齢・性別で絞り込みできる仕様です。またQ&Aも相談場所・気持ち・お金などテーマ別に絞り込みができるようになっており、情報を探しやすい工夫がなされているサイトといえます。

体験談は写真とともに掲載。内容は患者ごとにさまざまですが、乳がん患者の体験談では診断から仕事や生活での悩み、患者同士のつながりへ向けた活動などを紹介しています。座談会は、過去に開催したものを記事化しています。オンライン開催のものありました。がん種の異なる患者間での率直な意見交換が掲載されており、「女性同士の本音トーク」は一歩踏み込んだ女性特有の悩みについても取り上げています。Q&Aは、医師やソーシャルワーカーが質問に回答するスタイルで、一部患者からの体験エピソードも合わせて掲載していました。

同社では他に、「おしえて 乳がんのコト」「おしえて がんゲノム医療」でも乳がんについて取り上げています。また、がん総合サイト「がんwith」を運営し、仕事・お金・暮らしなどがん患者の生活に関する情報を配信しています。

AYA Life
https://aya-life.jp/index.html

サイトディスクリプション

AYA世代のがん患者さんと周囲のみなさんが抱える、がんに関わる不安や悩みを少しでも軽減できる場所になればという思いで、体験談、AYA世代支援・関連団体、そして患者さんと一緒にがんと闘う専門家と考えたAYA世代のQ&Aを掲載しています。

キーワード

AYA,AYA世代,がん,体験談,若年,思春期,不安,悩み,支援,AYA Life,あやらいふ,アヤライフ,中外製薬

コンテンツ一覧

・体験談
がん患者の体験談を紹介。テーマ・発症年齢・性別から検索可能
・座談会
リアル・オンライン開催の座談会4つを記事化
・Q&A
3人の専門家が質問に回答。一部患者からのエピソードもあり。テーマ別に検索可能
・AYAボイス
AYA世代の患者が当時抱えていた悩みや気持ちの変化についてのリアルな意見を掲載
・支援・関連団体
地域別に支援団体や関連団体を紹介。団体からのコメントもあり

テーマを絞ったサイト作りで理解しやすい内容にまとめる

疾患啓発サイトでは病態や診断、治療法についてイラストを用いて解説するサイトが多くあります。しかし乳がんのように診断期や再発・転移によって知りたい内容が異なると、情報量が多くなりがちです。そのような場合には、今回紹介したようなAYA世代や疾患との向き合い方、再発・転移などテーマを絞ったサイト作りが有効かもしれません。

また、何年も前に作成したサイトでは情報の更新も忘れてはなりません。ガイドラインの改訂やリンク設定先の変更などは、定期的に見直したいポイントです。ページの公開日や更新日を記しておくことで、最新情報であることを示すことができます。常に最新の情報を提供することで、患者やその家族にとって本当に必要な、信頼できる情報源となることができるのです。

このような取り組みが、疾患への理解を深め、適切な医療選択や心理的サポートにつながり、最終的には患者さんのQOL向上に寄与することでしょう。

<出典>※URL最終閲覧日2024. 9.24
1)がん情報サービス 最新がん統計
https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/summary.html
2)がん情報サービス がん種別統計情報 乳房
https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/cancer/14_breast.html#anchor1

ダウンロード資料「製薬企業の乳がん啓発サイトを調査【2024年9月版】」
・乳がん 14サイト
(各サイトのディスクリプション/キーワード/コンテンツ一覧/特徴/SNS)