製薬企業のMRにとって、プロマネは憧れのキャリアの選択肢の一つです。その一方、MRはプロマネに対して誤った印象を持つこともあるようです。なぜ、プロマネはMRに誤解されてしまうのでしょうか。医師とMRに支持され、結果を出すために、プロマネに求められる能力について考えます。
MRにとってプロマネはチャレンジしたいキャリアの一つ
MRがキャリアアップを目指すとき、プロマネは花形キャリアの一つとみられていることが多いようです。その背景には、「プロマネは製品戦略を立案し、売上の責任を持つ、製薬企業の花形ポジション」とみられていることがあります。実際プロマネは、MRと並び、製薬企業の成長の原動力の一つです。
プロマネが立案する戦略とは、他社製品との違いを明確に作り出す取り組みです。
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どこで戦うか?
【疾患領域、医療機関の施設基準(急性期病院/慢性期病院/診療所 など)、専門医/非専門医、売上の大小、SWOT分析による強みの最大化と弱みの最小化、セグメンテーション など】 -
誰と戦うか?
【SWOT分析やセグメンテーション、ターゲティング】 -
どのように戦うか?
【自社製品が提供する価値(メッセージ)、ポジショニング、MRやデジタルチャネル等のマーケティングミックス】 -
勝敗はどのように確認するか?
【MRからの日報、社内外の売上データ、マーケットリサーチなど】 -
次の一手は何か?
【再度SWOT分析 など】
上記の5項目を考え、まとめ製品戦略を作ることもプロマネの重要な役割です。その製品戦略をもとに、現場の営業部隊が戦略を実現していきます。このように、プロマネの製品戦略は全社や市場に大きく影響を与えるため、責任もやりがいも大きい仕事です。そのため、大きな仕事で結果を出したいと考えるMRにとっては、プロマネは非常に魅力的なポジションの一つといえるでしょう。
一部のMRが持っている誤ったプロマネ像
プロマネの仕事にやりがいを見出しているMRがいる一方で、違う見方でプロマネを目指すMRもいるようです。
中には、「英語ができれば、自分でもプロマネをやれる」「自分もMBAを取得すればプロマネになれる」と考えているMRもいるかもしれません。
しかし、これは明らかに誤解です。プロマネも売上を求められますし、むしろプロマネの仕事の影響が及ぶ範囲は全国のため、責任は重大です。プロマネが英語力を求められる理由は、その企業のプロマネの上司やレポートラインが海外であり、日本の市場の状況や診療報酬改定、薬価改定の影響など、日本独自の状況を海外に発信し、議論する必要があるためです。単に英語ができればよいというものではありません。
これら全ての役割と責任を全うするために、プロマネはマーケティングや英語のスキルを駆使して業務を行なっています。さらに、それらのスキルを日々磨き続ける必要もあります。
プロマネへの誤解が生じる背景は何か?
プロマネに対するMRの誤解が生じるのはなぜでしょうか。
背景1 売上への責任の追及がMRより厳しく見えない
MRがプロマネに抱くイメージには、「製品の売上が、毎年ほぼ計画通りに進行するから、プロマネは評価が下がらないのではないか」売上が未達成でも、その原因をプラン以外(例えばMRのディテーリングの量や質など)に求められるから、プロマネは売上が目標未達でも会社からの追及が厳しくないのではないか」などがあるようです。
背景2 分かりやすい戦略なら自分でも作れると考える
キックオフミーティングなどでプロマネが製品戦略を説明する際、プロマネの分析内容や戦略やメッセージがMRにとって分かりやすいものであり、かつ合理的な内容である場合、MRは自分でも戦略を作れると感じる場合があります。具体的で実現可能性が高くMRにとって分かりやすい戦略であるほど、プロマネの仕事を軽んじて考えてしまうMRが出てくるようです。
背景3 現場にフィットしない製品戦略に対する不信感
「現場にフィットしない製品戦略を作り、現場にその実行を求めた時」にも、MRのプロマネに対する誤解は生まれるようです。
プロマネが作ったマーケティングプランが、MRの視点では現場にフィットしないプランと認識された場合、その製品プランは実行されません。このような時、MRは独自に医師に対してMR自身が考える最適な活動を実行します。
本来マーケティングプランとは、全国にある程度画一的に展開する必要があります。
限りある人材や予算で売上を最大化するには、どうしても効率よく売上を最大化しなければなりません。そのため、製品戦略がMR個人の担当地域のニーズに合致しない可能性が出てきてしまいます。
MRから支持されるプロマネになるために
プロマネのプランをMRが理解し実行するためには、「従来のやり方」から「MRの現状に最適なやり方」に変えていく必要があるかもしれません。
例えば、プランでディテーリング数や説明会の回数など、MR活動の全てを規定していくのではなく、プランの一部を現場の裁量にゆだねるようなやり方が、今後結果を出しやすくするのではないでしょうか。具体的には、プロマネがセグメンテーションするのは市場全体だけとし、詳細な現場のセグメントやターゲティングはMRや所長の判断で変更してもよいとするやり方です。
製品や疾患領域、MRの実力によっては、最初は処方量が少ない施設も、MRの努力によって大口先に育成できることもあります。その可能性を最も知っているのはプロマネではなく、MRです。
大口先を1軒でも多く増やすためには、プロマネがマーケティングプランでセグメンテーション、ターゲティングするだけではなく、現場の裁量でセグメンテーションとターゲティングを調整して、大口先に育成することも有効なやり方の一つでしょう。
このような現場の意向を尊重したマーケティングプランは、本社と現場の連動や一体感の創出につながります。プロマネのマーケティングプランへの信頼獲得にもつながり、現場からのプロマネの評価も高まるでしょう。
プロマネに求められる能力は?
プロマネにはマーケティングスキルや英語力も大切です。また、前述のMRの誤解を防ぎ、MRの中から適切な人材がプロマネを志望してくれるようになるためには、そのほかに必要なスキルが明確であることが望ましいでしょう。
製薬企業にとってプロマネに必要なスキルや能力は多少異なりますが、具体的に共通する能力として、下記が挙げられます。
・ ロジカルシンキングやクリティカルシンキングのスキル
マーケティングプラン作成時に活用できるスキルです。プランが合理的か、「分析結果の解釈が正しいかなど、自分のプランを批判的に吟味できる思考を身につけるために役立ちます。
・データ分析能力
顧客のインサイトを知らずして、顧客のニーズに応えられません。医師や患者さんなどの顧客のインサイトを見極めるデータ分析スキルが求められます。また、データ分析のためのリサーチ方法などをプランニングするスキルも必要です。
・ 他者を巻き込む能力
プランは実行されて初めて結果を出せます。実行のためには、社内の上司や営業部隊をうまく巻き込む能力が必要です。
プロマネの最大の仕事は人の心を動かすこと
プロマネは、自分が創った製品メッセージによって、医師に対してその製品が提供する価値を伝え、理解と納得をしてもらい、医師がその製品を処方するという行動につなげていかなければなりません。これはすなわち、「人の心を動かす」ということです。したがって、プロマネには人の心を動かすための「人への理解と興味関心」が欠かせません。
人の心を動かすためには、さまざまな観点を持って物事を見ていく必要があります。例えば、人がどのような時に物事を認知し、興味を持つのかが分からなければ、製品メッセージがどのように医師に伝わるのかが想像できませんし、情報提供のために適切なチャネルを選択できません。AIDMAなどの購買の行動変容プロセスは、心理学や認知科学などの分野の研究などからうまれています。すなわち、人間への興味関心がなければビジネスは成り立たないということです。
製薬業界でいえば、医師の心を動かし、自社医薬品を処方いただくという行動にまで至らなければ、売上は上がりません。プロマネには、製品の差別化やKOLとの関係構築などの主たる重要な業務以外にも、人間そのものを探究するセンスも必要といえます。
結果は本社と現場が一緒になって作り上げるものです。MRの心を動かし、MRと一緒に、医師の心を動かし、結果を出していくために、前述の内容をヒントにしてみてください。