なぜ今ブランドストーリーが重要なのか?医薬品マーケティングにもブランドストーリーが必要な理由

近年、製薬業界でも企業ブランドや製品ブランドのストーリーをウェブサイトやソーシャルメディアを使って発信する企業が増加してきています。それにはどのような理由があるのでしょうか。
この記事では、なぜ医薬品業界でもブランドストーリーの価値が高まってきているのか、ブランドの基礎概念から説明します。

ブランドは、差別化が難しい業態で必須

日頃マーケティングに携わっている読者の皆様は、ブランディングについてよくご存知だと思います。しかし日常業務の中でブランドの育成を大事に考え、マーケティング戦略を実施できている方は少数ではないでしょうか。

そもそも製薬企業にとってブランドは必要なのでしょうか?医師を相手とする医薬品業界にとっては、ブランドはあまり関係ないと感じるかもしれません。

ブランド戦略の実施にはさまざまな効果があります。その代表的かつ重要と考えられる効果は、企業や製品の「認知度が高まる」企業や製品に「愛着が湧く」といった効果です。この効果がマーケティングでなぜ重要かというと、製品選択に影響を及ぼしているからです。

ブランド戦略は、企業価値に大きく2つの効果をもたらします。

1. スペック競争で差がつかない場合の差別化要素として

パソコンや家電製品や加工食品など、スペックで大きく差別化できない製品群を販売するような成熟した産業では、製品の本質的な機能メリット以外の部分に他社製品との差別化要素を求める必要があります。すなわち、デザイン、パッケージ、 広告、ウェブサイト、店舗の雰囲気などといったブランドを形成する要素で差別化することが、消費者に製品を選択してもらうために重要です。

2. 価格競争に飲み込まれないために

スペックや消費者が享受するメリットに差がない製品(「同質財」といいます)を複数企業が販売する場合、その業界では価格競争が起こります。
ちょうど最近、携帯電話キャリア大手3社が低価格の新プランを発表し、他社の価格を見てさらに値下げするということがありました。3社の通信網は速度や品質において大差がなく、サービス内容も差を付けづらいため、価格競争に陥っています。こういった業態では、その他の要素での差別化が必要で、各社趣向を凝らしたテレビCMでイメージ戦略を活用しています。これもまさにブランド戦略の一環です。

医薬品は薬価制度が存在するため、熾烈な価格競争というのは起こりませんが、同じようなスペックの製品である後発医薬品との価格差が存在し、しかもその選択権は患者にあります。患者から見れば先発医薬品との機能差は分からないか極小であるため、同質財に匹敵すると考えられます。

このようにブランドは、特定の業界のものではなく、市場競争においてなくてはならないものなのです。

ブランドストーリーの実例

近年、ブランド戦略で特に重視されているものの一つがブランドストーリーです。ブランドストーリーとは、例えば製品や企業が生まれたバックグラウンドストーリーや、どのような顧客に愛されているか、どのような人が生産に関わっているかといった情報などを体系的に語ったものです。

ここで、インターネット上に掲げられているブランドストーリーの実例をみてみましょう。

星野リゾート「星のや」のブランドストーリー

星のやは、日常から遠く離れています。
訪れた人が、今日までいた世界を忘れ、
星のやの住人となって、心ゆくまで休める場所。

(抜粋)

https://hoshinoya.com/about/

スターバックス「チルドカップ」のブランドストーリー

チルドカップのはじまり
コンビニやスーパーで気軽に買って楽しめる、
スターバックス® チルドカップのはじまりの物語を紹介します。

(抜粋)

https://enjoystarbuckschilled.jp/brandstory.html

スターバックスコーヒーはブランディングの雄として有名ですが、企業ブランドだけでなく、一つの製品においてもブランドストーリーに気を遣っていることがみてとれます。

このように、ブランドストーリーはあまり気づかないぐらいのレベルで、数ある情報の中に溶け込んで展開されています。ストーリーですから、可視化されない場合もあります。そのブランドのファンでも覚えていないかもしれません。しかしこのストーリーが繰り返し語られることによって、気づけば製品選択に影響を与えているかもしれないのです。

あの有名な松下幸之助の創業ストーリーも、パナソニックのブランドストーリーの一環といえるでしょうし、ラーメン店の壁に掲げてある達筆で書かれた能書きもブランドストーリーの一つだといえます。つまりブランドの周辺にあるコンテクスト情報はすべてブランドを形成するブランドストーリーになるというわけです。

なぜそれが今重視されているのでしょうか?

ブランドストーリーが重視される時代背景

情報が氾濫する混沌とした社会となり、生活においてもビジネスにおいても、情報を選び取ることや、正しい解を導き出すことが難しくなりました。その結果エビデンスよりも、信頼を感じられる伝わりやすいビジョンのようなものが求められています。ブランドについても、単純に名前を知っているだけでなく、納得感をもって理解されることが必要です。

情報を点ではなく線で理解する時代

以前は広告会社によるキャンペーン広告で認知度を上げれば、十分に企業や製品について消費者は理解できていました。それは情報発信する主体が少なかったからです。しかし、個人も企業も自ら情報を発信し、多様な情報が氾濫する昨今では、過性の情報はユーザーの記憶に残りません。

情報が発信される媒体も、テレビや新聞だけでなくPC向けウェブサイト、メール、アプリ、ソーシャルメディア(Twitter、YouTube、Instagram、LINE)など多岐に渡り、媒体ごとに発信する情報の密度や量も異なります。ユーザーは1本のブランドストーリーから断片的なサブストーリーを少しずつ獲得していく体験を毎日繰り返しています。それが一貫して繋がっていると感じられれば、ブランド体験として強固なものになっていくのです。(モノ消費ではなく、コト消費・体験価値と言い換えてもいいでしょう。)

現代は、嘘がつけない時代

また同時に、企業には透明性が求められるようになりました。情報発信することが当たり前となり、今では発信しないことは何かを裏に隠していることと同義のようにさえ感じられます。そのため、企業自ら即時的な情報をあらゆる媒体で出していくことが求められています。

ここで重要なことは、即時的に情報を複数媒体で出し続けるということは、嘘がバレやすいということです。「あっちとこっちで言っていることが違う」となればユーザーの信頼はあっという間に凋落します。

一貫した情報を常に発信し続けるには、その場を取り繕ったプロモーションではなく、嘘のないありのままの姿を発信していくしかありません。確固たるストーリーが社内やブランド自体に浸透していなければならないのです。単純に文章として書かれた「ストーリー」が重要なのではなく、その精神やバックグラウンドを含む核になる「ストーリー」が重要となります。

医薬品マーケティングにもブランドストーリーは必要か?

ところで医療用医薬品のユーザーとは誰なのか。それは紛れもなく患者です。しかし医師が処方する薬を選んでいるというのも事実としてあります。医師はガイドラインに沿って、決まった薬を患者に処方し、患者は言われるがままに薬を服用しているだけなのでしょうか?

患者が治療・処方に対して間接的な意思決定者に

今では患者も医師や病院を選び、医師には説明責任が求められる時代です。自分の担当医がどの薬を処方したのか、なぜその薬を処方されたのか、ということを患者は見ています。実際、新型コロナウイルス感染症のワクチンに関するニュースでも「●●●製の『■■■』というワクチン」という表現が使われるように、患者は自分が服用する薬を気にしますし、気になったらすぐにネットで調べて確認します。

患者は医薬品メーカーの名前や薬の名前、そのメーカーの企業体質や薬の成分、効果効能・安全性まで徹底的に調べます。患者は自ら薬を購入しませんが、選択権は明らかに強まっているのです。これはまさに医薬品の選択を含めて、医療を受けること自体がコト消費であり、体験価値となっているといえます。医療用医薬品もブランド価値とは無縁ではありません。

だからこそ、医薬品メーカーは医師向けに正しく適切なメッセージを出すとともに、患者向けに分かりやすく信頼できるメッセージを出す必要があり、ターゲットによって伝える情報の中身は異なっているにしろ、その根本ではブランドストーリーとして繋がっていることが、重要になっているというわけです。

ブランドストーリーを意識し、先を見据えた医薬品マーケティングを

以上のように、エンドユーザーが製品を直接選択していない医療用医薬品であっても、ブランド戦略は今後ますます重要になってくると考えられます。ブランドストーリーを作ること自体は難しくないかもしれませんが、それを用いてブランドを構築していくとなると一朝一夕にはできません。ユーザーとの関係において積み上げていくものがブランドだからです。ブランド戦略は実行を続けていくことがとても重要です。

すでにブランド戦略の意識が高い先進的な製薬企業や部門は、活動を始めています。ブランド戦略に力を入れる企業が増えている背景をもう一度、製薬業界の未来を見据えて考えてみてはいかがでしょうか。まずは第一歩として、ブランドストーリーの整理から始めてみると良いでしょう。「今売ること」を考えるのではなく、「ずっと売れ続ける」マーケティングを実施することこそが、結果としてビジネス効率の向上に繋がってくるのです。


<参考>(2021年3月9日最終閲覧)
・時を越えて愛されるブランドを構築するために必要な考え方と実践方法/Visions
https://visions-prdx.jp/brandbuilding
・医薬品および製薬会社のマーケティング戦略と今後の動向を調査/キャククル
https://www.shopowner-support.net/increase_sales/pharmaceutical_company_marketing_strategy/
・AbbVieのJavier Boix氏が語る「製薬業界こそストーリーテリングが重要である」/ThinkContent
https://thinkcontent.jp/storytelling-pharma-content-marketing-javier-boix-abbvies-storylab
・超巨大産業“医薬品業界”で進む変革
水平分業化の進展でイノベーション創出が加速/ものづくり未来図
https://project.nikkeibp.co.jp/atclmono/business/061200015/?P=2