依頼と説得を成功させるには?心理学から学ぶメッセージの作り方と伝え方

医薬品のマーケティング、プロモーションをする中で、なかなか上司や医師など、相手の行動変容を促すメッセージを送れずにもどかしい思いをしたことはありませんか?
心理学では「社会心理学」という分野で、個人の対人関係や、社会的な影響を与える手段について研究されてきました。今回は、自らのメッセージの説得力を上げて、相手に依頼に応じてもらうためのヒントを紹介します。

1.メッセージの内容に一工夫

多忙な医師に対してオウンドメディアの企画に出演してもらえるよう依頼をしたり、上司へ新しい企画を提案したりする際、うまくいかずに悔しい思いをしたマーケティング、プロモーション担当者も多いのではないでしょうか。
日常からビジネスシーンまで、私達の身の回りには、相手へ行動を起こしてもらったり、現状を変えるように働きかけたりする場面が多々あります。自分が願っているだけで相手が思い通りになればいいですが、現実はそう簡単ではありません。どうすればこちらのメッセージに納得し、行動を変えてもらえるのでしょう?

説得において最も重要で本質的な要因は、メッセージの内容です。論拠が強力であればもちろん相手は納得しますが、メッセージの内容に工夫をすることで、説得力が上がることもあれば下がってしまう場合もあります。

(1)相手の知識水準が高ければ「?」が効果的

相手の知識水準が高い場合、メッセージの中に修辞疑問文が多く含まれていると、相手が自発的に考えて納得するため、説得力が上がるとの研究報告があります。修辞疑問文とは断定を強めるために、わざと疑問文で表現するレトリックのことです。

BurnkrantとHowardが1984年に行った実験では、参加者に「卒業試験を実施すべきであるか」についての意見書を読んでもらい、その賛否を尋ねました。
意見書は様々なバージョンが用意され、論拠が弱いものと強いもの、陳述文が多いものと、修辞疑問文が多いものがありました。そして論拠の強弱と修辞疑問文が説得に及ぼす効果を検証しています。
その結果、「卒業試験の実施は大学教育の質を向上させるのではないだろうか?」などの修辞疑問文が多く、論拠が強い場合に、実験参加者の賛成割合が増えました。

知識水準の高い相手に伝える際、メッセージの論拠に自信がある場合には相手へ考えさせる「?」が入った文章を多く入れることで賛成してもらえる確率が上がります。しかし、メッセージの中身を吟味するだけの知識を持たない相手に対しては効果がないのでご注意ください。

(2)高圧的なメッセージは説得力が下がる

次に、自分のメッセージに自信がある場合の注意点です。
論拠の強さに自信があるあまり「私の考えに疑問の余地はない」など、メッセージ内に高圧的な文言が含まれると議論の中身に関係なく、説得効果が低くなるといわれています(Worchel & Brehm,1970)。

その理由は、高圧的なメッセージを聞いた人は自分の今後の行動を選択する自由が奪われたと感じ、心理的な反発が起こるためです。いくらメッセージの内容に自信があっても、高圧的と受け取られかねない表現は逆効果になります。誰が言うかに関係なく、権威のある人が発信する場合でも同じ現象が起こるので、説得の際に高圧的な文言を用いることは避けたほうがよいでしょう。

(3)繰り返し同じ内容を伝えると説得力が増す

メッセージの提示回数を増やすほど説得効果が高まる「メッセージの反復効果」とよばれる現象があります。説得効果が高まる理由は、繰り返し提示されることで単純に内容の理解が進み、内容が理解できることで好意的な印象が育まれ、肯定的な結果が得られるからといわれています。

2.メッセージの伝え方も重要

次に、メッセージを伝える際のヒントとなるテクニックを3つご紹介します。

(1)フット・イン・ザ・ドア法

有名なテクニックですが、応諾コストの低い依頼から大きい依頼へと段階的に変化させていく方法です。受け手が応諾しやすいような応諾コストの低い依頼をして、受け手がそれに応諾した後、依頼者が当初予定していたより応諾コストの大きい依頼を行うと、依頼の成功確率が上がるというものです。

フリードマンとフレイザー(1966)が見出したテクニックで、その後の多くの研究によってこの効果性が確認されています。
効果が生じる理由として、自己知覚理論が挙げられています。一度小さな依頼を応諾し相手から「あなたは親切な人ですね」と感謝されることで「自分は親切な人間だから次の依頼にも応じなければいけない」という気になりやすいというものです。

このように、当初予定している依頼よりもハードルの低い依頼を相手に受けてもらうことで、こちらの望む行動へ導くことができます。まずは相手に些細な依頼に応じてもらい、しっかり感謝を伝えた後に目的である依頼を行うと成功確率が上がるでしょう。

(2)ドア・イン・ザ・フェイス法

フット・イン・ザ・ドア法とともに多くの研究が行われているテクニックは、チャルディーニら(1975)の見出したドア・イン・ザ・フェイス法です。
これはフット・イン・ザ・ドア法とは逆に、受け手が拒否するであろう大きな依頼を行い、予想通り拒否されたあとに、小さな依頼を行うという方法です。

ドア・イン・ザ・フェイス法の効果が生じる理由として「譲歩の返報性」が挙げられています。最初の依頼でわざと大きい依頼をした側は、相手の拒否を受け受け、譲歩して小さな依頼をしたように見えます。受け手からは「相手が譲歩してくれたから自分も譲歩したほうが良い」という気持ちになり、次の依頼に対しては応諾しやすくなります。

フット・イン・ザ・ドア法の逆を行うテクニックですが、成功確率はフット・イン・ザ・ドア法の方が上だということです。

(3)ザッツ・ノット・オール法

特典付加法とも呼ばれます。値段がやや高めに設定されている商品を購入しようかどうか考えているところに、おまけや値引きなどの特典をつけて購入決定を促す方法です。

バーガー(1986)はこんな実験を行いました。
大学の学園祭期間中にカップケーキの模擬店を出し、2つの条件で販売しました。ひとつめの条件では、テーブルにカップケーキを置いておきますが、値札はわざと置きません。客が値段を尋ねると、実験者1が「1ドルです」と答えます。すると店員のふりをした実験者2が登場し実験者1と話し合った後、実験者1が「もうすぐ閉店なので1つ75セントで売ります」と伝えます。
もう一つの条件では、客が値段を尋ねてきたら最初から「1つ75セントです」と伝えます。
結果は、始めから75セントと伝えた場合の購入率は44%でしたが、ザッツ・ノット・オール法での購入率は73%でした。

このように、ザッツ・ノット・オール法を使って、相手が得だと感じるおまけ的要素を後出しすることにより、相手の決断を促すことができるでしょう

メッセージの作り方と伝え方を工夫し、相手の行動に変化を起こす

心理学ではさまざまな依頼テクニックが検証されています。
今回ご紹介した相手を説得させるメッセージ作りのヒントを、依頼と説得を成功させるメッセージ発信に役立ててください。


【参考文献】
『新・心理学の基礎知識』中島義明ほか、有斐閣ブックス、2005
『グラフィック 社会心理学 第2版』池上知子、遠藤由美、サイエンス社、1998
『依頼と説得の心理学』今井芳昭 、サイエンス社、2006