あなたが担当しているオウンドメディア(ウェブサイト)にコンセプトはありますか?「コンセプト」として明確に定めていないとしても、きっと「こんなメディアにしたい」という漠然とした思いはあるのではないでしょうか。
コンセプトを決めなくてもオウンドメディアを作ることはできます。しかしコンテンツの方向性がちぐはぐになってしまったり、コンテンツ作りで悩んでしまったり、読み手側からは、特徴のないメディアとして見られてしまう可能性もあります。逆にコンセプトがあれば、読み手に想起してもらいやすいサイトになっていき、ファンも増えていくでしょう。特に「会員登録」をKPIとしているのであれば、ファンを増やすことは必須になります。
今回はオウンドメディアのコンセプトをどうやって作るか、慣れていない方向けに、細かいことは抜きにしてなるべくシンプルな考え方をまとめてみました。
「コンセプト」とは何か?
「コンセプト」の本来の意味は、「概念」「方針」「方向性」といったことです。しかし、特に明確に「コンセプト」という場合、この市場において「差別化できているか」「新しさがあるか」「価値があるか」などの意味を暗黙のうちに含んでいるケースが多いと思います。元・博報堂制作部長の高橋宣行氏は著書『「差別化するストーリー」の描き方』(PHP研究所 刊)において、「コンセプトとは『新しい価値観の提案』である」と述べています。
つまり、その「概念」「方針」「方向性」を決めるだけでなく、世の中(またはターゲットとしている市場や業界)に新しい価値を提示しているかのジャッジをしていくことが大事なのです。これはオウンドメディアに限らず、プロダクトにしろ、広告にしろ、さまざまなコンセプト作りに共通しています。逆に言えば「新しさ」を発見できれば、コンセプトはもう9割できていると言えるでしょう。
オウンドメディアのコンセプト例としては、以下のようなものがあります。
医肌研究所(資生堂薬品株式会社)
https://medical.shiseido.co.jp/ihada-lab/
コンセプト 「医師監修の肌ケア情報サイト」
MONEY PLUS(株式会社マネーフォワード)
https://media.moneyforward.com/
コンセプト 「日々のくらし、人生を豊かにする『くらしの経済メディア』」
※上記のコンセプトはウェブサイトに表示されている情報から抽出したものであり、これとは別にコンセプトを設定している場合もあります。
では、以下で具体的に作り方を見ていきましょう。
3ステップでコンセプトを作る
コンセプトを作るプロセスは、大きく分けて
①「発信側」(作り手)と「受信側」(読み手)を明確にする
②その交わるポイントを見つける
③言葉化する
の3ステップです。
① – 1 発信側(作り手)をイメージしてみよう
まず発信側、すなわち貴社または貴社のプロダクトがどのような特長や強みを持っているか、を考えてみてください。もしくは「何の情報を持っているか」「何を伝えていきたいか」でも構いません。例えば特定の疾患領域に強い、とか、特定の医師とのコネクションがあり、その方に原稿を書いてもらえる、といった内容です。1つではなく、大きなものから小さなものまでいくつか考えてみましょう。
『Medinew』は発信側の情報を「デジタルマーケティングに関すること」「データ情報に関すること」「医療用医薬品に関すること」「プロモーションに関すること」とざっくり決めました。これはサイトの一番上にあるグローバルナビゲーションのカテゴリー名にも表れています。
① – 2 受信側(読み手)をイメージしてみよう
次に、どんな人に読んでもらいたいかのイメージ(ターゲットのペルソナ)をできるだけ明確にしてください。「医師」といった範囲の広いものよりは「●●領域のベテランの先生」など細かく考えた方が良いでしょう。どのようなニーズを持っているか、どのような生活をしているか、イメージしてください。ターゲット像は曖昧なまま進めてしまいがちですが、これを具体化できてくるとコンセプト作りがとてもスムーズになります。
ターゲットのペルソナ作りは、日常的にやっている方は慣れていると思いますが、慣れないと最初は難しい作業です。ターゲットに近い人が知り合いにいるなら、インタビューしてみるのも良いですし、アンケートを取ってみても良いでしょう。様々な統計情報も活用できます。ご自身の想像力と客観的な情報を組み合わせて、リアルなペルソナを考えてください。
注意すべき点は、ターゲットを見誤ってしまう場合です。オウンドメディアの流入経路やKPIを考えてみてください。アクセス数を増やすことが目標なら、検索エンジンから流入してもらうことを想定し、幅広く設定する必要がありますし、会員登録や製品購入や資料のダウンロードが目標なら、見込み顧客レベルの人をターゲットとしておく必要があります。
『Medinew』では「製薬会社にお勤めの方」「ビジネスタイムに情報収集をサクッとされる方」「医療系の情報に興味がある方」「デジタルまわりを担当されている方」を読者としてイメージしています。
② 発信側と受信側をつなぐものは何だろう?
左側に発信側の情報を書いて、右側にターゲット像を書いてベン図を作ってください。この2つを繋ぐものは何でしょうか?それが「コンセプトのもと」になります。発信側が伝えたいものを、受信側が受け取るシチュエーションとは、どういうシチュエーションなのかイメージしてみましょう。
『Medinew』の場合は、「デジタルやデータの手法を通じてマーケティングを最適化させていくために、日々の情報収集の中で最新情報やノウハウを獲得したい製薬会社の方」というのをコンセプトのもととして考えています。
③ 伝わりやすい言葉にしてみよう
伝わりづらい分かりにくい言葉だとしても、「コンセプトのもと」は考えられたのではないでしょうか。しかし、「コンセプトのもと」はあくまで「もと」。コンセプト化するということは、それが一人歩きして作用する言葉になっている必要があります。
新しい価値を提示できていますか?
冒頭でお伝えしたコンセプトの意味を思い出してください。「新しい価値」が必要と述べました。「新しい」といっても難しく感じますが、「それって面白そう!」が一つの基準になります。コンセプトが「お医者さんが読むメディア」だとしたら、アクセスしたいと思うでしょうか?発信側と受信側をしっかりイメージできていないと、コンセプトは薄いものになってしまいます。
作ったコンセプトを「このオウンドメディアは●●です」と口に出して言ってみます。伝わりそうでしょうか?
ちなみに『Medinew』のコンセプトは「メディカルマーケティングマガジン」と定めました。(コンセプトをキャッチコピーとしても活用しています。)英語としては若干違和感のある言葉なのですが、「医療関係のマーケティングに関する情報を混ぜこぜに定期的に出しているメディア」と理解することができると思います。手前味噌ですが、「医療」と「マーケティング」に絞っていることによって、単純な言葉ながら一定の新しさを持ったコンセプトになっているのではないでしょうか。
ケーススタディ
ここからは架空のメディアを作る想定で、①〜③の流れとそこから考えられるコンテンツ企画の例を挙げてみます。
架空のオウンドメディア A(医師向けサイト)
① – 1 発信側
- オンコロジー領域に力を入れたい
- メディカルアフェアーズ部門との連携が取れていて専門的な情報に強い
- 監修依頼できる医師を自社で多く抱えていて、発信できる情報が豊富にある
- 更新作業を社内で行える
① – 2 受信側
- とにかく時間がない医師
- オンコロジー領域
- 通勤時などの合間にスマホで主に情報収集する
- 若手〜中堅医師
② コンセプトのもと
忙しい医師が休憩時間にオンコロジーの専門情報をスピーディに読めるメディア
③ 言葉化(コンセプト)
「30秒で読むプロフェッショナルのオンコロジー最前線」
このコンセプトから作られるオウンドメディア
コンテンツ企画例
- 「オンコロジー関連最新ヘッドライン斜め読み」
- 「部位別患者説明用 図説A4シート」
- 「更新通知メールマガジン」
デザインイメージ
- 迷いにくいナビゲーション設計
- ビジュアル表現が重視され、コンテンツ内容が一目で伝わる
- スマホ最適化
- 信頼性の高い格調
架空のオウンドメディア B (患者向けサイト)
① – 1 発信側
- 企業ブランディングのため、特定領域での患者や家族への第一想起を取りたい
- ネットの誤った情報を訴える患者が増えたと訴える医師を複数のMRが知っている
- 医薬品の安全性情報を分かりやすく伝えることで客観性を担保したい
- 患者向けサイトの制作経験が豊富な制作会社と取引がある
① – 2 受信側
- 特定の疾患を持つ家族がいる
- 日々の不安のため、あらゆるメディアから情報収集をしている
- 主に50代以上の患者の配偶者
② コンセプトのもと
患者家族の不安を取り除く、分かりやすく書かれた安全性情報サイト
③ 言葉化(コンセプト)
「不安に思ったらまず読む、病気とおくすりのABC」
このコンセプトから作られるオウンドメディア
コンテンツ企画例
- 「正しく知ってきちんと理解。おくすりのこと」
- 「こんな症状が出たら?」
- 「あなたの近くにある病院サーチ」
デザインイメージ
- 手触り感のある柔らかいトーン
- 文字サイズ変更ボタンの設置
- 写真とイラストの適切な使い分け
いかがでしょうか。コンセプトを決めること、またコンセプトを決める作業をしたことによって、コンテンツやデザインまで見えてくると思います。
コンセプトから外れる記事を掲載したいと思ったら?
ところで、1つのコンセプト、1つのオウンドメディアでは、伝えたいものや掲載したいものが全て載せられないこともあると思います。かといって、コンセプトとは外れたコンテンツを無理やり掲載してしまった場合、読者は「一貫性がないな」とブレを感じ取り、そのメディアに対して不信感を抱きます。ユーザーの目は思っている以上にシビアですので、不信感は日毎に増大していきます。ファンになっていた既存ユーザーも徐々に離れていくことでしょう。
そういった場合は複数のメディアの運用も考えてみる必要があります。ブランディングを学んだことがある方は分かると思いますが、ブランドには一貫性が必要です。そのため、コンセプトから外れるものはブランドを分割する必要があります。オウンドメディアもブランドと同様に、コンセプトによって分けた方が良いのです。
例えばトヨタ自動車は、伝えたい情報やターゲットによって
- トヨタイムズ( https://toyotatimes.jp/ )
- GAZOO( https://gazoo.com/ )
など複数のオウンドメディアを展開しています。
コンセプト作りを綿密に行うことで、企画が見えてくる
「コンセプト」というと難しく感じますが、発信側が届けたいこと、読み手側の欲しい情報、それらを結びつけるものが面白いのか?を考えて定義したもの、それこそが「コンセプト」の肝です。自分たちが何をどんな風に伝えたいのか、顧客は何をどんな風に知りたいのか、この2つの輪郭を明確にしていくことで、コンセプトは見えてきます。ですから、「コンセプト」はあえて作るものではなく、結果とも言えます。その結果を対外的にも、対内的にも、共有していくことで「コンセプト」は強化されていくでしょう。コンテンツの企画も今まで雲を掴むような作業だったのが、道筋を立てて考えることができるようになるはずです。
しかし、実際には自分たちの強みや伝えたいこと、ターゲットやそのペルソナは当事者には見えづらい部分だと思います。そういった場合には、第三者の客観的な視点やプロの専門的な視点を入れて、考えてみることをお勧めします。
唯一無二のコンセプトが、価値あるメディアを作る
企業の立ち位置、オウンドメディアの立ち位置によって目的もユーザーも変わります。あなたのオウンドメディアのコンセプトは誰かの真似をしても作ることはできません。あなたのオウンドメディアのコンセプトは唯一無二のものです。時間やコストをかけたとしても、長期的な視点で考えれば、コンセプト作りはやっておいて損はない作業です。少し立ち止まって、コンセプトをきちんと作ってみてはいかがでしょうか。
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参考文献>
・「差別化するストーリー」の描き方 高橋宣行(PHP研究所)
・オウンドメディアにコンセプトは必要か?設計方法や成功事例を紹介(ZEROラボ)
https://zero-s.jp/labo/?p=9481
・オウンドメディアのつくり方(はてなビジネスブログ)
https://business.hatenastaff.com/entry/owndmedia_howto3
・オウンドメディアのコンセプト設計は企業とお客様とを結ぶ大切なマーケティング戦略(めぐみや)
https://megumiya.biz/content-marketing/ownedmedia-concept/