セミナーレポート/各製薬企業におけるオウンドメディア&マーケティングテクノロジーの活用状況「第1部」

セミナーレポート/各製薬企業におけるオウンドメディア&マーケティングテクノロジーの活用状況「第1部」

新型コロナウイルスにより、製薬企業のマーケティング活動も大きな影響を受けています。従来通りのMR活動や講演会の開催は厳しいものとなり、対面での情報提供が減少する一方で、デジタルメディアの活用は増加傾向に。製薬企業でのデジタルメディアの活用に注目が高まる中、2020年7月21日にオンラインセミナー「製薬企業におけるオウンドメディア&マーケティングテクノロジーの最新活用事例」が開催。第1部では「各製薬企業におけるオウンドメディア&マーケティングテクノロジーの活用状況」と題して、株式会社医薬情報ネット 代表取締役の金子剛章氏が講演しました。

戦略により、オウンドメディアの役割を考える必要性

アーンドメディア・ペイドメディア・オウンドメディアの3つに大別されるデジタルメディア。今回のセミナーでは患者向けではなく、医療従事者向けに各製薬企業が配信するオウンドメディアを取り上げました。

マルチチャネルからオムニチャネルに

新型コロナウイルス問題が発生する以前より、オウンドメディアなどのデジタルメディアは医薬品マーケティングにおいて重要な位置付けとなりつつありました。そこには、医薬品マーケティングの変化が関係しているそうです。

医薬品のマーケティングは、図で示したように変化しています。MRを中心に情報提供を行う「シングルチャネル」から、医師の情報収集チャネルに合わせ、さまざまなチャネルから情報提供を行う「マルチチャネル」へとシフト。これにより医師へのアプローチが多方面から可能となりましたが、この時点では、オウンドメディアやメール配信、WEB講演会といった各チャネルは独立したものでした。

その後、2017年後半から2018年初頭にかけて普及しはじめたのが、「オムニチャネル」です。各チャネルが連動することで、より最適な情報を個々の医師に提供する考え方です。具体的には、「閲覧履歴などから医師が興味のある情報を分析し、オウンドメディアのコンテンツを分別し出し分け、MRへも情報共有を行う」といったことです。

オムニチャネルマーケティングを実現するデータ連携例

オムニチャネルマーケティングを実現するデータ連携が実際にどのように行われているのか、下図を用いて金子氏は説明しました。

図の右側にあるように、リアルコミュニケーションとデジタルコミュニケーションの2つを通して、医師への情報提供は行われます。提供された情報のログはプライベートDMP(Data Management Platform)やパブリックDMPで管理され、これらを併せて各社オリジナルのDMPを構築。マーケティング部問にてDMP情報を分析し、分析結果はセールス部門や学術部門で医師の専門性や興味などの把握に活用します。

データ連携例を見るとオムニチャネルマーケティングの実現は簡単なように思えますが、金子氏によると「組織の規模が大きく、さまざまなシステムが絡んでいるため、オムニチャネルマーケティングを実現することは簡単ではない」とのこと。ここで示した内容以上に、オムニチャネルは多様化・複雑化しているものであることが理解できます。

オウンドメディアの目的は処方の最大化?

ではオムニチャネルマーケティングにおいて、オウンドメディアはどのような役割を担えるのでしょうか。
「オウンドメディアを活用する上での最終目標は、処方の最大化と考える」と金子氏。つまり、処方の最大化を実現するためには、オウンドメディアをどのように活用すべきかを考えなくてはなりません。オウンドメディアの役割(KGI)を考えることで、

・どのような指標(KPI)を見ていくべきか
・どのような施策を実施すれば良いか といったことが決まってくるそうです。

たとえば、「自社へのロイヤリティを高めるためにオウンドメディアを活用したい」と考える場合、定着率やリピーター数を見なければなりません。それらの指標を上げるためには、定期的コンテンツ制作やメールマガジン配信などの施策を打ち出していく必要があります。

もちろん、「各製品ごとに戦略は異なり、オウンドメディアの活用は各製品戦略に紐づくため、提示されているものが全てに当てはまるわけではない」と金子氏は話します。製品戦略を考慮した上で、オウンドメディアを的確に活用していかなければならないのです。

今後は、今回のオンラインセミナーのような、デジタルメディアを通した情報収集の機会がより増えてくるはずです。そのため「オウンドメディアの役割が今以上に大きくなってくるのではないか」と金子氏は指摘します。

新型コロナウイルスの影響で、デジタルやテクノロジーの重要性が高まる

新型コロナウイルス感染拡大により、多くの活動で自粛が求められています。各企業においても、テレワークの導入など変化が見られています。製薬企業のマーケティング活動でも、これまでのMR活動中心のマーケティングからの脱却を余儀なくされてきています。

新型コロナウイルスによる医薬品マーケティングの変化

新型コロナウイルスの影響により、医薬品マーケティングはどのように変化しているのでしょうか。

MR活動は、医療施設の訪問禁止などにより大きな影響を受けました。メールやWEB面談、電話が主となり、関係を構築できている医師中心の活動になってしまっているのが現状です。長期的に考えた場合も、面談機会が増えたとしても、必要なときのみの面談に限られるなど、対面面談の頻度は新型コロナウイルス以前に比べて減っていくことでしょう。

また、ホテルや会議室を使用した多くの医師を招く講演会は、軒並み中止となっています。またこの先、ワクチンや治療薬の開発により新型コロナウイルス問題が落ち着いたとしても、ソーシャルディスタンスの確保は変わらず要求されるでしょう。会場キャパに対して呼べる医師数が減れば、費用対効果の悪化は避けられそうにありません。

これまで医薬品マーケティングの中心であったMR活動やリアルの講演会が減少する一方で、デジタルメディアの活用は増大しています。ミクス社などが配信しているニュースによると、医師が受け取るメールは3倍以上に増えたそうです。溢れんばかりに提供される各社からの情報の中で、いかに自社の情報を見てもらうか。それには、医師個々に最適化した情報提供が鍵になるとのことです。

対面での面談が厳しい現状では、MR活動の比重を下げ、デジタルチャネルの比重を高めていかなければなりません。今後は集積したログデータをデジタル上で分析し、オウンドメディアなどに活用していく必要性が高まってくるはずです。

膨大なデータの処理はテクノロジーに任せる

医師ごとにデジタルメディアのカスタマイズ化をするといっても、どのように実施していけば良いのでしょうか。医薬情報ネット社で提供しているオウンドメディアにおけるフェーズ案の例をもとに金子氏が解説しました。

上図の通り、構築・立ち上げ→安定運用→積極運用→顧客データの獲得・分析・連携→パーソナライズ化までがオウンドメディア活用の一連の流です。「短期ではなく長期のスパンで考え、どのツールをどのタイミングで導入するか、どのツールの機能が重要となるかを提案していきたい」と金子氏。その中でも、テクノロジーにしかできない次のようなツールの活用が重要となってくるそうです。

・メール配信
・MA(Marketing Automation)
・WEB接客ツール
・レコメンドエンジン

人間では扱いきれない膨大なデータ量は、テクノロジーに任せることが、より充実したオウンドメディアの運営に欠かせないと言えます。新しいツールが時代とともに生まれてくるため、パーソナライズ化後のフェーズも今後さらに発展していくことも忘れてはなりません。

各製薬企業におけるオウンドメディアでのマーケティングテクノロジーの活用状況

これからさらに注目が高まるオウンドメディア。国内トップの製薬企業では、どのようなマーケティングテクノロジーを導入しているのでしょうか。

製品戦略において競合製品を知ることが重要であると同様に、オウンドメディアの活用においても他社の状況を把握しておくことが重要です。2019年度国内売り上げトップ19社の医療従事者向け会員サイトでのマーケティングテクノロジー導入状況を金子氏は以下のようにまとめています。

※各製薬企業のオウンドメディアのソースコードの埋め込まれているタグから導入ツールを推測。

効果測定ツールは、Google Analyticsを導入している企業が多く、マーケティングオートメーションツールについては、2017年頃からはMarketoを導入する企業が増加しています。しかし金子氏は、「マーケティングオートメーションにMarketoのような高機能ツールを活用する場合、ターゲットが1万ユーザー以上でなければ意味がない」と指摘。自社製品全てではなく、製品ごとにテクノロジーツールを活用することも多々あると思います。その場合には、ターゲット医師の人数や扱うデータ量の把握がポイントとなります。規模が小さいようであれば、Marketoのような高機能ツールではなく、最低限の機能を持ったツールの活用で足りるため、それらの情報は事前に把握しておきたいところです。

2018年からはPlaid社が提供するKARTEを導入する企業が現れ出しました。KARTEの1機能ですが、WEBサイトの右下にポップアップを表示することができます。一例をあげると、WEB講演会を見ようとしたが離脱してしまった医師に、WEBサイト上に「もう一度WEB講演会を見てはいかがですか」とメッセージを出し、再閲覧を促せるようになるそうです。金子氏は「このような接客関連のツールは簡単に導入できるツールのため、これから導入する企業が増えていくだろう」と話します。

その他にもさまざまなテクノロジーツールが出てきており、導入する際には取捨選択が迫られそうです。

株式会社医薬情報ネットのオウンドメディア支援

WEBサイトを立ち上げ運営していくことは、あくまでスタート地点です。他社との差別化や医師の閲覧数アップのためには、定期的な改善が必要となってきます。 医薬情報ネット社では競合調査から改善まで行い、より質の高いオウンドメディアの構築・運営をサポートしています。

さらにMedinew(メディニュー)内にて、製薬企業各社のオウンドメディアの状況を毎月配信。SimilarWEBを活用し、各社サイトの訪問者数やページ閲覧時間などを提供しています。自社メディアが他社と比較してどれくらいの位置づけなのか客観的に把握するためにも、参考にしてみてはいかがでしょうか。

参考:Medinewのオウンドメディアレポートは こちら (2020年7月版)

これからさらに需要が高まると予想される、オウンドメディアなどによるデジタルメディアを通した情報提供。他社の動向を把握し、製品戦略に合ったデジタルツールを導入していく必要がありそうです。

今回のセミナーの第2部は、株式会社ブレインパッドの柴田氏による「Rtoasterを活用したオウンドメディアの最新事例」についての講演です。その内容をまとめた記事もぜひご覧ください。