【コラム】第3回 なぜ今プロマネに基本的なDX/UXの理解が求められるのか?

【コラム】第3回 なぜ今プロマネに基本的なDX/UXの理解が求められるのか?

DX(デジタルトランスフォーメーション)/UX(ユーザーエクスペリエンス)が社会全体に浸透しつつあり、私たちの生活も一層便利に変化しています。製薬業界のマーケティングやプロモーションのプランニングに関わるプロダクトマネージャーにも、徐々にDX/UXが身近に感じられていることでしょう。今後DX/UXはどのように自社製品のマーケティングやプロダクトマネージャーの業務と関わっていくのでしょうか。
(Prospection株式会社 カスタマーサクセス プリンシパル 高橋洋明)

製薬企業のプロダクトマネージャーにDX/UXの理解が必要な3つの理由

プロダクトマネージャーにとって、DX / UXの理解が必要な理由は、主に下記の3点です。順に見ていきましょう。

<理由1>医師に届ける情報を作りマネジメントする立場であるから

プロダクトマネージャーが担当する製品のマーケティングプランを実行する際には、どのようなチャネルでどのようなメッセージを医師に届けるかを検討します。現在の製薬業界のマーケティングでは、例えば以下のようなさまざまなチャネルを通じて製品に関するメッセージを医師に届けています。

  • MR
  • 学会
  • 自社サイト、製品サイト
  • 製品のアプリ
  • ウェブ講演会 など

一方で、プロタクトマネージャーが持っている予算には限りがあります。したがって、これらのチャネルごとにどれくらい予算を配分し投下すれば最大の効果が得られるのか、十分に検討しなければなりません。

この予算の最適配分と効果の最大化を図るには、オムニチャネル運用のPDCAが求められます。

  1. オムニチャネルの概念の理解
  2. オムニチャネルの運用
  3. オムニチャネルの運用結果を評価
  4. 次期に向けてのオムニチャネルの改善

このオムニチャネルの運用では、CRM(Customer Relationship Management:顧客関係管理)に格納されたMRの活動記録や医師のウェブサイトへのアクセスログ、ウェブ講演会へのアクセスログや質問の投稿ログ、アプリからの情報などを集め、マーケティングプランに対する医師の反応を評価します。この評価から、結果を出せる次善策を検討することができます。

この思考・業務プロセスは、まさにDXの取り組みそのものです。DXでプロモーションを最適化し、医師に最高のUXを提供することが、自社製品のライフタイムバリュー(生涯提供価値)の最大化に至ります。
この一連の思考・業務プロセスは、プロダクトマネージャーが手がけている日常業務であり、業務の目的そのものと言えます。

製薬企業の中でプロダクトマネージャーは、自社製品の売上にも大きな責任を持っています。そのため、早急にDX/UXを理解し、自らの業務に活用する必要があります。

<理由2>医師にとって利便性が低い情報提供は、ネガティブな影響をもたらすから

前述の通り、現在はプロダクトマネージャーが作った製品戦略に基づくあらゆるメッセージを、オムニチャネルを通じて医師に提供することが主流となっています。この時、見落としてはならないポイントが新たに存在しています。
それは、医師にとって便利に情報提供できる環境作りです。

例えば、次のような医師が不便を感じる事例が、まだまだ散見されています。

  • 製品の添付文書の改訂情報を得ようとオーガニック検索しても、見たいページに直接アクセスできない
  • 会員登録しないと、見たい製品情報が閲覧できない
  • 自分が見たい情報が、どこにあるのかが分かりにくい

実は、この不便さがその製薬企業や製品の評価を下げやすくしているのです。

私たち同様に、医師も日常生活の中でさまざまなアプリを使用するなど、便利になった世の中で生活していて、さまざまな経験をしています。私たちも医師も、便利な生活を送るほど、不便さは際立って悪い印象を持つようになります。

プロダクトマネージャーがせっかく優れた戦略と製品メッセージを作り出しても、それを届けるチャネルが貧弱で、医師にとって不便なら、製品メッセージが届かずに、医師の不満だけが募ります。これでは自社製品の第一選択薬のポジショニングの確立はおろか、自社製品の処方すら期待できません。

<理由3>患者さんも他業界の優れたUI(ユーザーインターフェイス)に慣れているから

医師だけでなく、患者さんが利用するアプリやウェブサイト等のサービスでも同様です。

  • ログイン時に、必ずIDとパスワードを入力しなければならない
  • 自分で情報を入力しなければならない
  • システムとの同期が自動で行われないので、患者さん自ら同期しなければならない
  • 情報を入力しても、患者さんにベネフィットがない

このような不便なアプリやサービスでは、患者さんは見向きもしません。これでは患者さんに何も価値を提供できませんし、データも集まらないでしょう。そうならないようにするために、プロダクトマネージャーとしては、患者さんにどのような価値を提供するのかを自らが考え、デザインできるようになる必要があります。

DX/UXの広まりとともに拡大していくプロダクトマネージャーの役割

プロダクトマネージャーの今後の業務は、「製品戦略の立案後、DXの概念を踏まえたコミュニケーション全体をデザインし、その評価と改善に至るまでを担う」ということです。そしてこの点に責任を持つことになっていくでしょう。その際、絶対に忘れてならないのは、 「医師も患者さんも、優れたUIに慣れていて、日頃から高いUXを体験している」 という点です。

その上で、医師や患者さんに最高のUXを提供するために、DXを学び、実践し、改善し続けることが、今後のプロダクトマネージャーの仕事になります。

製薬企業の中で、医師に最高のUXを提供できて、医師の顧客満足度を高められるのは、「医師と対面するMR」と「医師に届ける情報を作り、マネジメントするプロダクトマネージャー」です。そのため、プロダクトマネージャーにはDX/UXへの理解と実践が求められるのです。

プロダクトマネージャーがDXを学ぶには

私たちは現在、毎日さまざまなアプリやサービスに触れて、UXを体感しています。誰もがスマートフォンを持っている今、DXはあまりに身近になり、意識しなければ気付かないほどです。

では、どのようにしたらDXを学べるでしょうか。

まずは、新たなサービスやアプリを自ら体験してみることです。そして、その時自分はどのような体験をし、どう思ったのか、また使いたいと思ったか、などを客観的に評価しましょう。

その次に、その体験を提供したサービスやアプリが、どのような仕組みで自分に体験を提供してくれたのかを、フローチャートなどで明らかにしてみましょう。大まかで構いませんので、「ここをタップした → 次の画面に進んだ → こういう体験をした」というように、サービスやアプリの設計がどうなっているのかをユーザー目線で把握することが重要です。

それがわかるようになると、便利/不便に思うポイントがどこかを、突き止められます。
そうすると、医師や患者さんの利便性の向上につながるにはどうすれば良いか、便利だと思ってもらうにはどのような価値を提供すればよいか、なども考えられるようになってきます。

現在はそのような事例が日常生活の中にたくさんあるので、それらを参考にしやすいと思います。逆に言えば、注意していなければDXの価値を見落としがちです。UXの最大化という観点を常に意識して、それを実現しているDXのデザインを想像してみる、という思考を取り組み続けてみましょう。
この取り組みをずっと続けていると、自分が買い物をした時ですら、「自分は今、最高の買い物ができたのか?」を客観視できるようになり、世の中のサービスの欠点が見えてくるようにもなります。

ここまでくれば、自分の担当する製品の価値を、DXを通じてどのように医師や患者さんに提供すれば効果的かが、検討できるようになります。

DX/UXの理解を深め、マーケティングに活かそう

プロダクトマネージャーにとって、DX/UXは想像以上に身近で、ますます重要になってきています。特に、オムニチャネルを推進するには、DX/UXの理解が欠かせません。そしてDX / UXの理解を深めるために、人間そのものへの興味関心も必須です。

次回はDXの目的であるUXについて解説します。UXの理解を深めることは、メッセージ開発にも必ず役立ちます。UXの最大化をどのようにして実現するかを、一緒に見ていきましょう。

<参考>
藤井保文, 日経BP, 2020, 『アフターデジタル2 UXと自由』 
藤井保文/尾原和啓, 日経BP, 2019『アフターデジタル オフラインのない時代に生き残る』