製品やサイトの支持者を増やす!「なぜ存在するのか」から始めるパーパス・ブランディング

ブランドが「何をするのか」ではなく「なぜ存在するのか」を発信するパーパス・ブランディングという手法が注目されています。本記事では、パーパスとは何か、ビジョンやミッションとの違い、成功事例、製薬会社を含めた各企業のパーパス、パーパス・ブランディングのポイントなどを紹介します。

パーパス・ブランディングとは

近年、経営戦略やブランディングのキーワードとして「パーパス・ブランディング」という言葉を目にする機会が増えています。パーパス(Purpose)は一般的には「目的」や「意図」と訳されますが、パーパス・ブランディングにおいては「存在意義」という意味が当てはまります。

企業・商品・サービスが「何をするのか」ではなく「なぜ存在するのか」という最も原点であり本質の部分を明確化し、すべての事業をそれに基づいて行い、支持者を増やしブランド価値を高めていく手法をパーパス・ブランディングと言います。

  • パーパス:「存在意義」⇒自分たちが何のために存在しているのか
  • ビジョン:「将来像」⇒自分たちが目指すべき方向、あるべき姿
  • ミッション:「使命」⇒自分たちが果たしたい、または果たすべきこと
  • バリュー:「価値」⇒自分たちが社会に対して提供していく価値

つまり、パーパスは、ビジョン・ミッション・バリューを形作る根幹となる言葉といえます。

パーパス・ブランディングとこれまでのブランディングの違い

ざっくりですが、これまでのブランディングは「自分たちが提供するメリットやベネフィット」を発信していくものでした。一方、パーパス・ブランディングは「社会にとっての自分たちの存在意義」を発信するものです。個人(消費者)にとっての価値ではなく社会にとっての存在意義を重視するため、企業の利益に直結しないブランディングという一面もあり、実際に、パーパスに基づくプロモーションを行ったことで一時的に利益を損なったケースもあります(後述)。しかし、パーパスに共感した方は、製品やブランドに高い価値を感じてくれて、結果として長期的なブランドの支持者になってくれることが大いに望めます。また、顧客だけはなく、従業員に対しても「会社で働く意義とやりがいを強く感じられるようになる」という帰属意識の向上が期待できます。

特にミレニアル世代(2000年以降に成人になった若者)は、企業に対して社会的意義(何のためにこの会社があって、何のために事業をするのか)を求め、購入や就職の際に自分の価値観と一致している企業を選ぶ傾向が強いと言われています。これからの時代、ミレニアル世代の関心や興味を得ることは多くの企業にとって重要であるため、こうした社会の変化もパーパスが注目される一因となっているといえます。

【パーパス・ブランディングの成功事例】NIKE

パーパス・ブランディングの成功事例として有名なものに、アメリカのNFL(プロフットボールリーグ)で活躍したコリン・キャパニック氏を起用したNIKEのキャンペーンがあります。同氏はトランプ政権下の2016年の公式戦で、人種差別に抗議するため国歌斉唱中に起立を拒否し、ひざまずく姿勢を示しました。その行為に対してトランプ大統領(当時)は「国家を侮辱した」「解雇しろ」などと批判し、大きな議論を巻き起こし、キャパニック氏はNFLを追放されることになりました。

そんな中、2019年にNIKEは自社のスローガンである「JUST DO IT」の30周年記念キャンペーンでキャパニック氏を起用し、「何かを信じたら、例えそれがすべてを犠牲にすることであっても、ただやるのみ(Believe in something. Even if it means sacrificing everything)」といったメッセージを発信しました。直後にはNIKEの靴を焼き払う映像がSNSで拡散されるなど不買運動に発展し株価が下落するなどキャンペーンの失敗が予想されましたが、その後、NIKEを支持する著名人やユーザーが次々とあらわれ、商品は驚異的な売り上げを記録。同キャンペーンは世界的な広告賞も受賞しました。

NIKEのパーパスは「スポーツの力で世の中を前進させる。全ての人が健康で平等に競える、公平でサステナブルな未来を信じて」です。NIKEはこのパーパスを貫き人種差別問題を訴えたキャパニック氏を支持したことで、一時的には利益を損ないましたが、それ以上の大きな支持と利益を得たのです。

各企業のパーパス

パーパスを掲げている企業は数多くあり、例として以下が挙げられます。

  • Google「世界中の情報を整理し、世界中の人がアクセスできて使えるようにすること」
  • ソニー「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」
  • ハイアット「私たちは思いやりの心で、相手の『最高』を導き出します」
  • ユニリーバ「サステナビリティを暮らしの“あたりまえ”に」
  • LIXIL「世界中の誰もが願う、豊かで快適な住まいの実現」
  • 日産「人々の生活を豊かに。イノベーションをドライブし続ける。」

最近の例では、富士通が2020年5月に「イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていくこと」というパーパスを策定しました。

製薬企業においては、以下のようなパーパスが掲げられています。

  • 武田薬品工業「タケダは、世界中の人々の健康と、輝かしい未来に貢献するために存在します。」
  • 第一三共「世界中の人々の健康で豊かな生活に貢献すること」
  • ノボ ノルディスク ファーマ「変革を推進し、糖尿病および肥満症、血液系希少疾患、内分泌系希少疾患などのその他の深刻な慢性疾患を克服すること」
  • 日本製薬「『この薬があって良かった』のために」

パーパスの重要性について、ソニーは2019年度の経営方針説明会の中で、社長の吉田憲一郎氏が1年を振り返り「最も重要だったのは、Purpose(存在意義)の定義。この会社を長期的に持続可能にする存在意義とは何かを明確に定義し、共有したいと思っている」とコメントしています。また、ユニリーバは同社のHP内で「パーパス(目的・存在意義)を持つブランドは成長する、パーパスを持つ企業は存続する、そしてパーパスを持つ人々は成功する」と表記しています。

パーパス・ブランディングでは浸透と実行が大切

企業の指針となるパーパスですが、当然のことながら定義されているだけでは意味がありません。パーパスが素晴らしくても、その手段である製品やプロモーション活動がパーパスに基づいたものになっていなければ、ブランディングの効果は期待できません。大切なのは、パーパスの浸透と実行です。

例えば、自社サイトのリニューアルや新規コンテンツの開発、講演会やセミナー、疾患啓発活動などにおいても、「どんなコンテンツが必要か」「どんなデザインにするか」「どんな内容なら先生や患者さんの役に立つか」からスタートするのではなく、自社のパーパス(パーパスが策定されていない場合は理念など)を念頭に置いて、「なぜこのサイトが必要なのか」「なぜリニューアルをするのか」「なぜ講演会や疾患啓発活動をするのか」といった根幹部分をチームで共有したうえで(全員が答えられるようにしておくのが理想)、プロジェクトを進めていくことが重要です。

大きなプロジェクトでも小さなプロジェクトでも企業として一貫性を持たせることがポイントです。ブレのない活動の積み重ねによってブランドが強くなり、社内外問わずに支持者が増えていくと考えられます。

イミ消費の時代は、パーパス・ブランディング

社会はモノ消費からコト消費、そして、イミ消費へと変化してきました。デザインや機能、メリットなどでの差別化以前に、存在意義での差別化が重要になっています。明確なパーパスがあれば、チームの一体感も生まれやすく、また、個人の働きにおいてもモチベーションが高まりより自律的になり、スピード感や新しいアイデアが生まれやすくなるはずです。

パーパス・ブランディングは、アウター・インナーどちらにも有効な、決して一過性の流行ではない本質的なブランディング手法といえるでしょう。

<参考>※URL最終閲覧はいずれも2021年8月6日
・『パーパス・ブランディング』 齊藤三希子、宣伝会議、2021
・『月刊ブレーン』宣伝会議、2019年2月号No.703
・2018年9月4日、BBC NEWS「Colin Kaepernick to be face of new Nike ad campaign」(https://www.bbc.com/news/world-us-canada-45403855
・2021年4月6日、日経ESG「富士通・時田隆仁社長「『パーパス』実現に向け、迅速に挑戦」」(https://project.nikkeibp.co.jp/ESG/atcl/column/00006/040100041/)
・2019年5月21日、CNET Japan「ソニー吉田社長、「2年連続最高益達成の原動力はゲーム」–次世代ゲームコンソール紹介も」(https://japan.cnet.com/article/35137257/)
・ユニリーバ「地球と社会」(https://japan.cnet.com/article/35137257/)