【コラム】マーケティングとメディカル・アフェアーズの役割の違いと協働の可能性

メディカル・アフェアーズは、現在では製薬会社にとって一般的な組織になりました。このコラムでは筆者の経験を踏まえ、これからのメディカル・アフェアーズに期待される機能について考察します。 
前回の「組織目標の共有とマインドセット」の話に続き、今回は筆者が経験した適応症拡大提案書などの話を元に、メディカル・アフェアーズとマーケティングの役割の違いがどこにあるのか考え、バリュー実現のための協働の意味を考察してみたいと思います。
(トランサージュ株式会社 代表取締役 瀧口 慎太郎)

マーケティングとメディカル・アフェアーズ(MA)の違いとは?

製薬協の「メディカルアフェアーズの活動に関する基本的考え方*1」には、その役割について以下のような記載があります。

医療現場における「アンメットメディカルニーズを把握」し、把握したニーズを充足することにより自社医薬品の患者や医療関係者にとっての医療上の価値を最適化するための「メディカルプラン」を作成することが挙げられる。その後作成したメディカルプランに基づいて「エビデンスを創出」すると共に、創出したエビデンスを含む医学・科学的情報を「適切に発信、提供」を行う役割を担う。

http://www.jpma.or.jp/about/basis/mamsl/pdf/ma-jp_20190401.pdf

また、私たちトランサージュは、「プロマネ塾」というマーケティング研修を通年で開催しています。実は私たちはこの「プロマネ塾」でマーケティングを学ぼうとする人たちに対して、このメディカル・アフェアーズ(以下、MA)の役割と似たような話をしています。

「マーケティングの第一歩は市場環境分析で、顧客の悩みやニーズが何かを確認することです。そして、自分たちの提供できるベネフィットによって顧客の悩みやニーズを解決することがマーケティングのゴールです」…と。

この二者、MAとマーケティングのコンセプトの重なりは、両者の違いを解釈しようとすると厄介かも知れません。ただ一方、この重なりは不思議でも偶然でもなく、前回の組織目標の共有でお話しした「組織の提供するバリュー」が同一であればこそ、起こりうる重なりだと私は考えます。

とはいえ、両者が全く同じであれば異なる部門は必要ありません。MRとMSLの役割の違いを考えると、そのひとつが「提供する情報の内容の違い」です。オンラベル(または添付文書上の情報)だけか、オフラベル(または添付文書上にない情報)も含むか、という点です。この視点を、それぞれの情報源であるマーケティングとMAの役割の違いに被せることもできます。ただ平板で何かしっくり来ないですし、MAの役割にあるMRの説明会スライドのチェックなどは逆に矛盾として見えます。

製品価値提供のための提案書「Statement of Interest」

ここで、私自身が新しい高血圧の製品マーケティングを担当していたときの話を、少しさせてください。

私たちのチームでは、その適応症の認可が取れる前から、適応症拡大の方向性を考えていました。当時二つの領域の追加適応の可能性があり、グローバル・チームからは心血管系に対する推奨が強かったのですが、私自身はもう一つの領域に強くひかれていました。チーム全員が新発売準備に忙しい合間に、時間を作ってセッセとその領域のKOLに意見を聞きに周り、ある書類をまとめていました。それは当時社内で“Statement of Interest – SoI(エスオーアイ)”と呼ばれ、マーケティングから開発部門に提出する新薬開発や適応症や剤型の追加、大規模臨床試験などの提案書でした。

そんな折も折、私のカナダ出向が決まり、志半ばでその仕事を同じチームの仲間に渡すことになりました。後に彼の功績により見事に適応追加になったのは、いまでも記憶に新しい非常に嬉しい吉報でした。 このように、担当する製品のライフサイクルを考慮しながら、製品価値提供の新しい方向性やエビデンス創出のための方法として、マーケティングがSoIや前回少し触れたポジショニングペーパーを作成していました。

時間軸がマーケティングとメディカル・アフェアーズの境界線

いまでは、このSoIなどの多くは上述の「メディカルプラン」としてMAの役割に含まれているのかも知れません。こうした観点で見ると、マーケティングとMAの両者を分ける境界には「時間軸」があるように思えます。つまり、マーケティングは限りなく現在に照準があり、MAは限りなく未来に照準があるという違いです。

添付文書という「現存するモノ」を基準として考えてみても、これに則って戦略を考えるマーケティングと必ずしもこれに則らずとも製品の新しい価値の可能性を探索するMAという点で、時間軸という視点は外れていないように思えます。

ただ、マーケティングが現在を見つめることに集中していては、必ずしもその役割を全うできません。これから市場にどんなことが起きるのか、新たな競合が出現し市場がどうかき乱される可能性があるのか、アクションに対して顧客はどう考え反応するのか、などマーケターにとって将来へ向かっての洞察力はとても重要です。逆にMAも将来の新たな価値提供のためには、現在の顧客の医療に関する認識やニーズや患者のペインポイント(悩みごと)や競合企業の動向などの把握は非常に重要なことは言うまでもありません。

したがって、時間軸によってマーケティングは今だけに、そしてMAは将来だけに拘るべきといった、白か黒か、ゼロかイチかといったデジタルな境界をそこに設定するものではありません。

SoIの作成には得意領域を活かした協働が必要

図1. SoI提案書の内容
引用 : プロマネ塾アドバンストコース資料より

ここで先のSoIという提案書をもう一度取り上げると、その内容には製品概要、市場動向や競合品動向、製品ポジショニング、売上/市場予測、損益計算などの要素が並びます。(図1)

こうした要素は、開発部門に対して適応や剤型の追加、大規模試験などの大きなリソースを必要とする提言を出し検討を要請するためには、当然な裏付けとして必須です。

この要素の中で、例えば製品ポジショニングや売上/市場予測などはマーケティングの得意領域であり、仮にこれらも含めてすべてを考察するならば、MAも相当なレベルのマーケティングの知識とセンスの充足が必要ということになります。

あるいは、こうした提言書はマーケティング主導で描かれるもので、MAは助言を行う立場だという組織もあるでしょう。そこは、それぞれの組織の実情にあった方法を選択するべきだ、と考えます。事実、前回触れたカナダでのマーケティングとHSAの関係性は、それに近いものでした。

いわんとすることは、例えばメディカル・プランあるいはマーケティング・プランの策定をとっても、(曖昧かも知れないですが)時間軸で領域の境界線を設けながらもマーケティングとMAが互いに補完し合い、目標到達に向けて常に協働することこそ、組織にとって大きなアドバンテージとなるに違いない、ということです。

もちろん、ここに至っても「セールス&マーケティングとメディカル・アフェアーズは互いに関与し合えない」と考える向きもあると認識はしていますが、互いの協働というこの概念に熱い賛同を示していただけるMAの方々が存在することも事実です。正しい解はないのかも知れませんが、今後の時間が、どちらの思想が組織の持続的な成長に寄与したかを明らかにしてくれるはずです。

互いに補い合いながら、組織ゴールに向かっていく

図2. 陰陽太極図

ご記憶のある方も多いと思いますが、ここに道教で用いられている陰陽太極図(図2)というシンボルがあります。この太極図は、白い部分と黒い部分のそれぞれが陽と陰を表す、とされています。そして白い部分には黒い点が、黒い部分には白い点がそれぞれ配置され、これは「万物に完全な白黒はない」ということを意味しているそうです。

このシンボルを90度時計と逆回りに回して見てみると不思議な印象に囚われます。まるで「顧客や患者さんにとって最適で最大限のベネフィットを提供する」という組織ゴールを共有し、曖昧にも時間軸を境界に、白の中に黒を、黒の中に白を有しながら協働するマーケティングとメディカル・アフェアーズを象徴する図にも見えてくるのは、私だけでしょうか。

<参考>
*1 : 2019 年4月1日、日本製薬工業協会「メディカルアフェアーズの活動に関する基本的考え方」(http://www.jpma.or.jp/about/basis/mamsl/pdf/ma-jp_20190401.pdf


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