【コラム】製薬会社のバリューと組織内ステークホルダーの目標共有の重要性(前編)

メディカル・アフェアーズは、現在では製薬会社にとって一般的な組織になりました。このコラム「デジタル時代のメディカル・アフェアーズに寄せる期待」では、筆者が以前カナダでメディカル・アフェアーズにつながる部門(HSA)の活動を見聞した経験を踏まえ、これからのメディカル・アフェアーズに期待される機能について考察します。初回は、前編・後編と分け、製薬企業が提供すべきバリューと、メディカル・アフェアーズ、マーケティング、開発など社内ステークホルダーにおける目標共有の重要性について考えていきます。
(トランサージュ株式会社 代表取締役 瀧口 慎太郎)

HSAという組織を立ち上げようと考えたきっかけ

「メディカル・アフェアーズ」や「メディカル・サイエンス・リエゾン(MSL)」(以下、便宜的に「メディカル・アフェアーズ」と呼びます)は、国内では2000年以降に導入され始めました。多くの製薬会社でいまや一般的な組織になっていますが、ご存知の通り組織構成や機能は企業によって違いがあります。

わたしは製薬企業でマーケティングやセールスなどを長く経験した一方、メディカル・アフェアーズの経験はありません。ただマーケティングやセールスなどの部門と明確な組織区分が必要になる以前に、現在のメディカル・アフェアーズにつながる機能をKOLs(Thought Leaders)担当部署として、当時所属した製薬会社2社で連続して立ち上げた経験があります。一つはHealth Science Associates(HSA)、もう一つはMedical Associates(MA)という部門名称です。

これらを自分のいた組織に作ろうと考えたきっかけは、私が以前勤務していたカナダにおいて、現在のメディカル・アフェアーズにつながる部門(HSA)の活動を見聞したことにありました。もちろん、現在では2003年に米国で発表されたガイドライン(*1以降のコンプライアンス基準が厳格に存在することは認識しています。しかし、ハイレベルな学術知識や論文読解能力を有しており、最新知見の提供などを通してKOLをサポートし医学会の品質向上を目指すという機能は共通していました。

彼らは「製薬企業としてのバリューの具現化」という組織目標を他部門と共有しつつ、「KOLや医学会へのベネフィット提供」という自らの役割を必死に果たし、それを体験した顧客からの信頼も獲得していました。

HSAの活動とは

ここで、私がカナダで勤務したときのことを少しだけお話をしようと思います。

カナダ東部の歴史ある街、モントリオールの島を東西に貫くハイウェイを市街地から西に20分ほど向かった場所にその製薬会社のカナダ本社があり、ある年のクリスマスから約1年をそこで過ごしました。モントリオールのあるケベック州はフランス人によって開拓されたエリアで、日常用語はいまもフランス語です。社内の公用語は英語だったのですが、滞在中には何度も「この街に住んでいるなら英語じゃなくてフランス語を話さないとダメだ」と、レストランやショップの店員さんから忠告を受けました。あるいは運転してみて驚いたことが、街中のどこを探しても駐車場がないのです。その時、わたしは懸命にPのマークを探していたのですが、ここでは道路標識もフランス語で、Stationnementの「S」が駐車場を表していました。

当時のわたしは、発売を間近に控えた大型製品のカナダでのマーケティング準備支援と日本国内のチームとの情報共有のため、飛び回っていました。モントリオールを中心にバンクーバーやトロントなどのカナダ各地、アメリカ本社などで転々と開催される会議に参加しながら、さまざまな課題と解決策について討議する日々を過ごしました。このときマーケティング・チームがとても重要視していた部門がHSAで、上記の会議には彼らも参加していました。

印象的なHSAの姿勢

当時HSAへの同行も経験し、KOLに気後れを感じさせない積極的な討議ぶりや姿勢に触れたわたしは「なんて格好良いんだろう」と、その仕事に憧れを覚えたことを記憶しています。この時の彼らの毅然とした姿勢の秘密は「自分たちの活動が確実にKOLや医学会の利益になっている」という自信であることは後に彼らと話して分かりました。一方で、KOLである著名な医師らがHSAである彼や彼女らに対して明らかなリスペクトを持ち、対等な姿勢で接していたことも非常に印象的でした。

HSAが日常的に行っていた活動

HSAの日常の活動は、次のようなものです。

  • KOLなどの医師との自社品のバルク(研究用原末)を用いた非臨床研究や製品を用いての臨床研究などに関するディスカッション
  • 最新研究論文に関するディスカッション
  • 医師の研究発表に用いる情報のディスカッション

また、ひとたびオフィスに戻ると、以下のような多岐に渡る業務を行っていました。

  • 担当製品に関するあらゆるレベルの文献のサーチや分類評価
  • 製品ライフサイクル延長のための新たな価値創造
  • 適応拡大などのための試験テーマと活用意義の提案書の作成(「ポジショニング・ペーパー」と称していました)
  • 競合の学術活動リサーチ

したがって、例えばKOLが今どんなことに関心が高いのか、製剤の薬理的/臨床的意義を市場に伝えるためにどの論文の引用が最適なのか、競合はどのような活動をしているのか、といった疑問をプロマネが持ったとき、それらに的確なヒントをパスしてくれるのがHSAでした。

さらには、臨床試験中の新製品に関する初期的な製品戦略(ポジショニングやライフサイクル・プランなど)も、彼らによって草案されていました。

HSAの主な機能

当時のHSAの機能をまとめると、主にこのような内容です。

  1. KOLとのディスカッションによる最新情報提供および収集
  2.  製品ライフサイクル延長や適切な製品使用や治療改善のための臨床試験やデータ生成のデザイン
  3.  競合活動や行政環境(マネジドケア・チームと連携)を含む市場環境の俯瞰分析
  4.  初期的製品戦略の作成

さらに、学術部門との連携で研究や文献などを含む最新情報や知見の保管庫(ライブラリー)としても機能していました。

<参考>
*1 : 「Compliance Program Guidance for Pharmaceutical Manufacturers」、Office of Inspector General、
April 2003 (https://oig.hhs.gov/fraud/docs/complianceguidance/042803pharmacymfgnonfr.pdf)

※後編は6月25日(金)公開予定。製薬企業のバリューについて、バリュー実現のための組織やマインドについて紹介します。


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