【プロマネTips.11】 プライマリケアとスペシャリティケアの医薬品マーケティングの違いとは?

スペシャリティケアの医薬品を担当するプロマネの皆さんの中には、実効性が高いマーケティングプランの立案に苦慮する方もいるのではないでしょうか。スペシャリティケアの医薬品マーケティングでは、患者さんの発掘と治療できる医師への患者さんのアクセスを最優先で考える必要があります。プライマリケアとスペシャリティケアの違いを再認識し、スペシャリティケアのマーケティングでプロマネがすべき大切なことは何かについて考えます。

近年、スペシャリティケアの新薬が増加

近年の製薬企業の中には、経営戦略としてがんやCNS、希少疾患等のスペシャリティケアを自社のビジネスドメインと定め、その新薬の開発と上市に力を入れている企業も多くあります。

振り返ってみると、2000年~2010年頃の製薬業界は、降圧薬や糖尿病治療薬などのプライマリケアのマーケティングが業界全体を席巻していました。プライマリケアでは、MRが臨床試験の結果が記述されたたくさんの種類のリーフレットを、毎日ターゲット医師に届けて処方を獲得する方法が一般的でした。そしてその方法で複数の医薬品がブロックバスター化しました。一方、一部の製薬企業が分子標的治療薬等の新たな治療薬を開発し、上市し始めたのもこの頃です。

プライマリケアとスペシャリティケアという医薬品の特性の違いは、製薬企業の営業部の領域制と専門MRという組織の区分なども生み出しました。それと併せて、現在ではマーケティングやプロモーションも、Share of Voice(SoV)を中心としたプライマリケアと、個々の症例ごとに治療について話し込むスペシャリティケアに分かれて、医師にアプローチしています。

プライマリケアとスペシャリティケアの医薬品マーケティングの違い

プライマリケアの治療薬とスペシャリティケアの治療薬では、いくつかのポイントが異なります。

比較項目プライマリケアの治療薬スペシャリティケアの治療薬
患者数数十万人以上数人~数万人程度(適応による)
分子量低分子量高分子量
薬価低薬価高薬価
作用機序比較的シンプル(ブロッカーなど)比較的複雑(シグナル伝達阻害、免疫への働きかけなど)
ターゲット医師の数数万人数百人~数千人
提供する情報の質比較的シンプル、MRも情報提供しやすい比較的高度、MRに高い知識が求められる
提供する情報の量比較的少ない、MRは提供できる情報が底をつきやすい、複数疾患を併発している症例では状況が変わる比較的多い、MRは高度な情報を扱い、個々の症例ごとに診療全般を医師と話せることが求められる
MRの人数多い少ない

これらの違いが、プロマネのマーケティングプランやプロモーションの実行の際に影響することがあります。

以前は、プライマリケアの治療薬におけるSoVの手法をスペシャリティケアの医薬品マーケティングに流用している製薬企業もありました。しかし、プライマリケアとスペシャリティケアでは、疾患の特性や医師や専門医の人数、診断の難しさ、患者数などが全く異なっているため、同じマーケティング手法で成果をあげることは難しいといえます。

例えば、プライマリケアの場合はターゲット医師が多いこともあり、第三者機関を用いたWEBディテーリング動画配信の視聴数も多く、動画配信による自社医薬品の処方獲得も期待できます。一方で、スペシャリティケアの場合は、その疾患を治療する医師の人数が少ないという特徴があります。そのため、WEBディテーリング動画の視聴医師数の伸びは期待できません。つまり、WEBディテーリング動画の配信では、薬価にもよりますが、スペシャリティケアは費用対効果が悪くなることがあります。

このように、プライマリケアとスペシャリティケアの治療薬では、それぞれの製品、市場、医師や患者さんの特性、MRの特性などを十分踏まえた、結果が出るマーケティングを行う必要があります。

スペシャリティ領域のマーケティングに求められること

スペシャリティケアの治療薬の場合、その医薬品の処方に一層の注意を要するものもあり、関連するさまざまな情報を分かりやすく、理解・納得できるように医師に届ける必要があります。

その医薬品の適格例と除外例、期待される効果の発現時期、予想される副作用の発現時期と重篤度およびその対処法、高額療養費制度の最新情報、医薬品の貯法にいたるまで、MRが医師に提供するべき情報は多岐に渡ります。こうした情報提供活動がしやすくなるようプロマネが適切なサポートを行うことで、MRは医師が必要とする情報を確実に届けることができるのです。 そのほか、各種販促資材はできる限り医師もMRも読みやすく分かりやすい資材にする工夫も必要です。医師への情報提供の利便性を高めるために、紙の資材の他にチャットボット等のAIを活用し、デジタルツール経由でも医師からの問い合わせに随時対応できる体制の検討も求められるかもしれません。薬機法の改正に伴い、2021年8月以降、医療機関に納品される医薬品は、一緒に同梱されていた紙の添付文書は原則として廃止され、電子的な方法で閲覧することが基本となりました。これに伴い医療従事者への自社医薬品の安全性情報の提供の仕方を見直し、スペシャリティケアの治療薬の情報提供をより利便性が高いものに変えていくということも、プロマネとしては念頭に置いておきたいポイントです。

スペシャリティケアの患者さんは複雑なジャーニーを経る

スペシャリティケアの中でも特に希少疾患の場合、患者さんの数が数人~数十人ということもあります。そのため、希少疾患治療薬の売上アップのためには、まず患者さんがどこにいるかを探すところから取り組まなければなりません。

例えば、生活習慣病と希少疾患で鑑別が難しい場合、適切な治療開始が遅れることがあります。このような希少疾患の場合、まず生活習慣病と診断がつき薬物治療が始まることが多いでしょう。しかし生活習慣病の治療薬では当然効果が出ず、医師が治療に難渋することがあります。その時医師は、まず生活習慣病治療薬の増量や切り替えを行い、それでも患者さんの容態はなかなか改善しなかった場合、ようやく主治医は希少疾患の可能性を考え始めます。このように、希少疾患の患者さんは、正しい診断名がつくまでにさまざまなジャーニーを経ることがあるのです。 そのような患者さんのジャーニーを知るためには、新薬上市の際に患者会へのヒアリングが欠かせません。この時、見落とされがちなことがあります。それは、スペシャリティケアや希少疾患の患者会には治療が上手くいったケースもあり、そのような方々へのヒアリングは治療の成功例をヒアリングしている可能性があるということです。この点に注意しながら、疾患実態や患者さんのインサイトを把握していくことが望まれるでしょう。

スペシャリティケア治療薬のプロマネが考えるべきことは?

プロマネから見て希少疾患治療薬は、患者さんや主治医がどこにいるのかが分からず、セグメントするだけの人数もいないため、マーケティングプランにおけるセグメンテーション、ターゲティング、ポジショニング、チャネルミックスなどが検討しにくいと考えられます。プライマリケアで上手くいったプラン(例えばMRのコール数や説明会回数などに基づくプラン)を真似てスペシャリティケアの治療薬のマーケティングプランを立案しても、結果が出るようには機能しにくいでしょう。

つまり、スペシャリティケアの場合、プロマネはマーケティング手法の優劣を検討するのではなく、患者さんの発掘と希少疾患を治療できる医師へのアクセスを最優先で考える必要があります。実際に、いくつかの希少疾患治療薬では、WEB動画を上手く活用して医師に啓蒙活動を行ったことで、患者さんの発掘につながり、適切な患者さんに適切な治療薬を届けることに成功した事例が増えています。どのようにして自社医薬品を処方していただくかを考えるのは、その後です。

スペシャリティケアではインサイトの探究が一層重要

これまで見てきたようにスペシャリティケアではプライマリケアよりも、疾患や患者さん、医師についてのより深いインサイトが欠かせません。適切なプランニングのために、これらのインサイトを注意深く探究し続けることが、プロマネにとって欠かせない重要な取り組みの一つです。

深いインサイトからアンメットメディカルニーズを探索し、それを満たすために自社の医薬品ならどのような価値を提供できるのか明確にすることが、プロマネに求められる時代になってきたといえるでしょう。


<参考>※最終閲覧2021年10月7日
・独立行政法人 医薬品医療機器総合機構「添付文書の電子化について」(https://www.pmda.go.jp/safety/info-services/0003.html