新薬上市や適応拡大など新規領域参入時には、客観性のある市場分析や製品戦略、ターゲット医師選定が重要です。2020年11月のオンラインセミナー「新薬上市/新規領域参入を成功に導く!製薬企業に必要なデータドリブン・マーケティングとは?~レセプト&オープンデータを活用した市場分析、KOL選定について~」では、データドリブン・マーケティングについて事例をまじえて、JMDCグループである株式会社JMDC、ミーカンパニー株式会社、株式会社医薬情報ネットの3社より解説。セミナー内容をまとめました。
レセプトデータを用いた売上予測の精緻化、製品価値最大化の手法
2002年創業のJMDCは、レセプトデータのパイオニア企業です。医療機関からレセプトデータを収集し、製薬企業に限らず、医療機関や自治体、社会生活者などの健康支援や経営改善を幅広く支援しています。セミナーではJMDC社製薬本部・営業部マネージャーの穴吹氏が、製薬企業のレセプトデータ活用について事例を含め紹介しました。
JMDCのレセプトデータの特徴
現在JMDCが保有するレセプトデータは、保険者データと医療機関データの2種類。それぞれ下記の特徴があります。
<保険者データ>
・複数の医療保険組合から寄せられたレセプト、健康診断、加入者台帳データ
・2005年1月からのデータを保有
・0~74歳の患者ベース、直近1年間で740万人、全期間で1,000万人分のデータ
<医療機関データ>
・複数のDPC病院、非DPC病院から寄せられたレセプト、DPC調査データ
・2014年4月からのデータを保有
・全年齢対象の施設ベース、全期間で1,000万人分のデータ
保険者データであれば患者が施設を移動しても追跡できますが、75歳以上の後期高齢者のデータを拾うことはできません。一方、医療機関データであれば、クリニックのデータは拾えませんが、75歳以上のデータを集めることができます。それぞれの特徴を理解した上で、データを活用する必要があります。また、要望に応じて2つのデータを組み合わせた利用も可能です。
製薬企業の営業・マーケティング向けに行う支援内容
下図に示すように、JMDCでは上市準備期間から転換期まで長期にわたり、市場把握や処方実態モニタリング、プロモーションの効果測定など幅広い支援を行っています。
例えば、上市前には市場の規模や経年変化、製品のポジショニングの市場実態を、発売後には新患取得率や各セグメントでの治療継続率、製品シェアなどを把握可能です。グループ会社も増えており、レセプトデータ以外に患者プログラムや論文情報などの提供も可能となりました。「コロナ禍のMR活動制限により、デジタルマーケティングを活用する企業が増えている。医師や施設の状況をレセプトデータと組み合わせることで、より質の高いプロモーションの効果測定やコンサルティングといったサービスを提供していきたい」と穴吹氏は話します。
レセプトデータの活用事例
実際にレセプトデータから何が分かるのか、事例がいくつか紹介されました。
1つは、市場規模の把握です。適用疾患の大枠の市場規模だけでなく、確定診断や薬剤治療、手術などの詳細な情報も含めた市場規模を知ることができます。事例として下図のリウマチ市場規模が挙げられます。リウマチの確定診断を受けた人は160万人ですが、さらに薬剤×手術を含めると40万人の市場であることが分かります。併病率も調査でき、リウマチ以外にどのような治療をしているか知ることも可能です。セミナー内では、その他にも、多数の市場把握の活用事例を紹介しました。
レセプトデータを用いることで、ペイシェントフローやトリートメントフローの実態を知ることもできます。ペイシェントフローやトリートメントフローを知ることで、仮説構築や新しい示唆を得るきっかけにしたり、製品ポジショニングの把握やターゲティング検討に役立てたりすることができるそうです。さらに新たなサービスの展開も行っており、ターゲット施設群や医師群でのシェアや継続率の把握、健康情報サイト「Pep Up」と掛け合わせた分析などのサービスを提供しています。
「レセプトデータを用いることで、今までよりも精緻な市場把握ができる。それにより、売上戦略の効果的かつ効率的なPDCAサイクルを回すことができ、製品価値の最大化を図る手助けとなる」と穴吹氏は話します。
地域における医療従事者間ネットワーク形成の貢献に向けて
データエンジンの会社として医療機関や介護施設のデータを提供しているのが、株式会社ミーカンパニーです。地域医療に関する「SCUEL(スクエル)データベース」を主軸に、企業向けや患者向けにサービスを展開。今回はSCUELデータベースについて特徴やコンテンツ例を、代表取締役の前田氏とアナリストの久松氏が紹介しました。
SCUELデータベースとは
SCUELデータベースとは、医療機関・薬局・介護施設を統合したデータベースであり、地域医療を横断的また統合的に分析できるサービスです。たとえば手術件数や検査件数、外来患者数などを把握できます。
そのほか、その他病院と診療所の繋がりや介護施設の繋がりを示すデータも提供しています。SCUELデータベースは下図に示すように、いくつかのサービスに分けられますが、今回はSCUELデータコンテンツを詳しく解説しています。
SCUELデータベースから生成する資材作成・コンテンツ提供サービスまでを担うSCUELデータコンテンツ。このサービスの活用法はいくつかありますが、コロナ禍でデジタルマーケティングが注目される現在、オウンドメディアやWEB講演会での活用が例として挙げられます。地域別に医療資源の状況などをオウンドメディアに掲載することで、医師の会員登録やサイト内の回遊率アップに繋げられます。
SCUELデータコンテンツ活用例
WEB講演会やオウンドメディアでのデータコンテンツ活用例も解説されました。
1. オンライン診療が変えていく地域医療
例えばオンライン診療がテーマの講演会やオウンドメディアでの活用を想定してみましょう。SCUELデータコンテンツでは、オンライン診療の届出をしている医療機関や件数、診療科の内訳、在宅診療の有無などを提供しています。対象疾患が限られていたこともあり当初オンライン診療は増えていませんでしたが、新型コロナウイルスや医療のデジタル化による急速な増加をグラフで提示できます。標榜科の割合も調べられ、在宅有無といったより詳細な情報を提示可能です。
2. 医師の偏在と地域医療構想
医師の時間外労働規制など多くの要因により、医師の異動が激しくなっています。「医師がどこに集まっているのかといった情報は、提携する際や医師不足把握、遠隔治療の必要性などを把握する際などに重要となる」と久松氏。SCUELデータコンテンツでは、2次医療圏ごとの常勤非常勤や各医療機関の変化といった情報を提供しています。
その他にも、下記の観点でのSCUELデータコンテンツの活用例を紹介しました。
・地域の病床削減・ダウンサイジングの今
・地域医療支援病院からみる地域連携
・在宅医療の今
・糖尿病治療とかかりつけ医
SCUELデータコンテンツは、自社オリジナルコンテンツとしてカスタマイズすることも可能。オウンドメディアへの活用に大いに期待できそうです。
学会情報データベースを用いた医師ターゲティングの事例
最後は医薬情報ネットの笹木氏が、医師ターゲット選定でのデータ活用について解説しました。
医師ターゲティングでの悩み
医薬情報ネットに寄せられる製薬企業のマーケティング担当者が抱える悩みには、次のようなものがあります。
- ターゲット医師リストはあるが、属人的な視点を含み、客観性に欠ける
- 新規疾患領域参入の際に、人的リソースが足りず、KOLのリストアップが進まない
- 論文情報を基にリストアップしているが、網羅性に欠ける
- MRから上がってくる医師情報の信頼性に疑問がある
- 今後、実臨床で活躍する若手医師を早めに見つけたい
PubMedや医中誌などの論文情報を医師ターゲティングの参考にしている企業も多いでしょう。しかし、学会発表はしているが論文発表はしていない医師も多数おり、ターゲット医師リスト作成には、論文情報だけでは不十分といえます。また現場の経験や勘など自社独自のリサーチのみの判断だけでは客観性や信頼性に欠けます。そこで、医薬情報ネットでは、現場ノウハウとデータやデジタルをうまく組み合わせることを推奨しています。
学会情報データベースとは
日本国内では1年間で1,400の医学系学会が開催され、多い大会では1学会に3,000もの演題数、2万人もの登壇数になります。これほど膨大な学会情報を企業内で収集分析することはなかなか難しいものです。そこで、医薬情報ネットでは、抄録集やプログラムなど紙ベースで提供される学会情報をリスト化。学会開催情報データベースと学会演題情報データベースの2種類のサービスを提供しています。
学会情報データベースを活用したソリューションは、次の4つ。
- MR支援サービス
- ターゲット医師分析サービス
- 競合企業分析サービス
- 学会情報ビジュアライズサービス
この中から「ターゲット医師分析サービス」について、笹木氏が解説しました。
ターゲット医師分析サービス
学会情報データベースを活用したターゲット医師分析では、下記の視点で定量的に分析を行います。
・薬剤や治療方法、新薬標的などの重要医師
・地域別のターゲット医師
・医師同士の繋がり、研究テーマの関係性
・企業と医師の関係
例えば、薬剤名など特定のキーワードを入力すると、座長や演者の経験医師がランキング順に一覧で表示されます。全国だけでなく地域別での検索もでき、各地方レベルに落とし込んだ活用ができます。他にも医師名を入力し共同発表医師や発表内容を検索できる機能や、どの企業がどの先生と何回発表したか調べられる機能も用意されています。
これらの分析ダッシュボードのローデータは学会名・セッション名・役割・演題名・人物名・施設名・領域名・企業名などの項目で、エクセル形式で用意。ローデータの購入も可能で、実際に導入し、300人程度であった医師選定が1,000人にアップしたという企業もあります。
ローデータ分析では、演者や座長の登場回数などを指標にスコア付けし、KOLスコアを算出。ランキング付けにより、ターゲット医師を客観的に選定できます。また学会情報以外のデータとの統合分析にも対応しており、論文情報や科研費、学会役員、専門医といった情報も含めてスコア付けでき、下図に示す例のように、より詳細に分析可能です。
2020年11月現在、学会情報データベースは20製剤以上での実績があり、新薬上市や新規領域参入時のターゲット医師選定に期待できるサービスです。