製薬企業が取り組むべきオウンドメディアを軸にした「シナジー戦略」とは?/MDMD2024Autumnレポート
顧客中心のマーケティングに取り組む上で、医師のニーズに応じた情報提供や複数のチャネルの最適化が製薬企業の課題となっています。「Medinew Digital Marketing Day(MDMD)2024 Autumn」では、株式会社メディクト代表取締役の下山直紀氏と株式会社医薬情報ネットの井村佳恵が、オウンドメディアを活用したシナジー戦略について講演を行いました。本記事では、その講演内容をもとに、製薬企業のデジタルマーケティングを成功に導くポイントを解説します。
オウンドメディアを軸としたシナジー戦略の役割
顧客は営業担当者に接触する前に、意思決定プロセスの半分以上を完了している――1)。BtoBビジネスでは、オンラインの情報収集が意思決定に強く影響することが知られています。製薬企業と医師の関係にも類似性が見られ、さらに医師の働き方改革による業務時間の縮小を契機に、医師が診療や業務に関する情報収集をオンラインで行う動きは一層強まっています。
こうした背景を踏まえ、医師が必要とする情報を効率的に提供できる環境を整えるためには、「オウンドメディアを軸としたシナジー戦略が成功の決め手になる」と井村は指摘します。
情報提供のチャネルにはそれぞれ異なる特性があります。例えば、MRは双方向性があり、個人のニーズを踏まえた情報提供が可能ですが、時間的・物理的に制約があります。サードパーティメディアは、医師が日常的に簡便にアクセスできますが、製品情報を網羅的に掲載するのには向きません。
最近の調査で、医師の15%が生成AIを用いて薬剤や疾患の情報を収集しているという報告があり、生成AIの利活用は今後さらに広がると予想されます。一方で、「医薬品などの医療関連の情報には正確性が求められるため、製薬企業による公式な情報提供は今後も重要」と井村は説明します。
また、製薬企業が運営するオウンドメディアは24時間365日アクセス可能な情報源であり、必要な最新の情報を効率的に収集できるメリットがあります。
プロセス全体で接点を増やし、シナジーを生み出す
そこでオウンドメディアを軸に連携を図ることが重要になると井村は続けます。具体的には、複数の情報発信源を用いて接点を増やし、顧客情報を連携してより効果的に活動することが重要です。
例えば、医師がサードパーティメディアやメルマガ、Web講演会などで製品を認知し、オウンドメディアを訪問します。このとき、オウンドメディアに製品基本情報のみならず関連情報も掲載しておけば、関心・興味に合った情報に辿り着きやすくなり、医師のニーズを満たせる可能性が高まり、機会損失を減らすことができます。また、コンテンツの掲載時には、メルマガやマーケティングオートメーション(MA)メールで接触機会を増やすこともできます。
さらに、医師のオウンドメディア上での情報収集の行動履歴をMRに情報連携し、医師個人の興味関心を理解し、よりニーズに合った情報提供ができます。
このようにシナジーを生み出すよう、チャネルを組み合わせて一連の医師のジャーニーを最適化するような全体プロセスを構築することが大切です。
会員獲得停滞とコスト効率の低下、製薬業界に訪れる試練
なぜ、オウンドメディアを軸としたシナジー戦略が焦点となるのか。下山氏は、製薬企業と医師を取り巻く情報環境の変化をその理由に挙げて、さらに掘り下げます。
かつて製薬企業と医師の関係は、MRが訪問し医師が情報を受け取るという、製薬企業に主導権がある形でした。しかし、デジタルの普及やコロナ禍、さらに働き方改革による影響で医師自身が能動的にデジタルチャネルにアクセスし、必要なタイミングで情報を取得するようになりました。主導権が医師に移行しているのです。
こうした中で製薬企業は一斉に、ペイドメディア、オウンドメディア、メールなどのデジタルチャネルの強化に乗り出したものの、医師に発信される情報は飽和状態に。
「ペイドメディアの出稿を増やしても、医師の反応率や会員獲得率が頭打ちとなり、費用対効果が下がる。あるいは、オウンドメディアの新規会員獲得や流入率、再訪率が減少に転じる。プッシュ型の情報発信に対し休眠ユーザーやオプトアウトが増加する。そうした問題に、多くの製薬企業が悩まされています」と下山氏は指摘します。
チャネルや情報が増加しても、医師の情報収集にかけられる時間は変わらないため、各社のオウンドメディアや施策の利用は減少せざるを得ないからです。
顧客体験の向上と満足度の向上が急務
そこで、優れた顧客体験を提供し、利用者の満足度を高めることがオウンドメディアやデジタルチャネルを継続的に利用してもらう鍵になります。
顧客体験の質と効果を高めるためには、デジタルマーケティングの質を高め、チャネルごとに情報を最適に出し分ける「チャネルプランニング」と、そのチャネルでどのようなコンテンツを提供するかを考える「コンテンツプランニング」が欠かせません。
さらに運用においては、各種のデータを駆使して「誰に対して」「どのような情報を届けるか」について、よりきめ細やかに施策を組み立てなければなりません。製薬企業のデジタルマーケティングは、日に日に高度化しています。
仕組み化と外部活用でデジタルマーケティングの成功確率を高める
医療業界においてデジタルマーケティングを成功させるには、2つのシナジーを効果的に活用することがポイントだと下山氏は強調します。
1つ目は、「仕組みのシナジー」です。例えば、オウンドメディアを軸としたデジタルマーケティングでは、自社で保有するデータと外部から調達したデータを最適に組み合わせるほか、多様なツール、サービスを統合して、顧客分析やチャネルの最適化を図ります。こうしたデータ連携の仕組みにより、マーケティングの精度を高める相乗効果を得ることができます。
2つ目は、「実現のためのシナジー」です。高度なマーケティングを展開するには、戦略構築や顧客理解、チャネルやツールの知識、さらにはサイト構築やデータ設計のノウハウといった専門的なスキルを持つ人材やケイパビリティが必要であり、その連携により相乗効果を得られます。このとき、専門知見を持つ社外のリソースを活用すれば、自社で新規に調達するよりもコストや時間の削減ができ、成功確率を高めることができます。
オウンドメディアの構築・運用においては、メディクトと医薬情報ネットが連携し、各種の外部ベンダーのデータやサービス、必要なケイパビリティをマネジメントして成功に導いたケースもあります。
<出典> ※最終閲覧日2024.10.2
1)The Corporate Executive Board Company, 2012, The Digital Evolution in B2B Marketing(https://www.thinkwithgoogle.com/_qs/documents/677/the-digital-evolution-in-b2b-marketing_research-studies.pdf)