JMDC group Data Marketing Day 2021開催レポート/医薬品マーケティングにおけるRWD活用の実際と課題

JMDC group Data Marketing Day 2021開催レポート/医薬品マーケティングにおけるRWD活用の実際と課題

「医薬品業界におけるデータドリブン・マーケティング」をテーマに開催したオンラインカンファレンス「JMDC group Data Marketing Day 2021」。2つ目のプログラムでは医薬品のマーケティングで必要不可欠であるRWD(リアルワールドデータ)の活用について、武田薬品工業株式会社の小川氏と渡辺氏 (当時)、グラクソ・スミスクラインの戸津氏がそれぞれ講演しました。本記事では、小川氏と渡辺氏の講演内容から製薬企業におけるRWD活用のヒントを紹介します。

マーケットの見える化のためのRWD活用

武田薬品工業で領域横断的にビジネスインテリジェンス業務に携わるInsight・planning&Development部 主席部員の小川雅宏氏は、定量的に市場や自社/他社の状況を把握するためのRWD活用について紹介しました。

マーケットの可視化の重要性

マーケティング戦略を成功に導くには、PDCAサイクルを効果的に回すことが大事です。特に戦略立案を客観的な情報を基に行うことで、目標が明確化されモニタリングの指標も明らかとなります。「測定できるものは改善できるが、測定できないものは改善できない」と小川氏が話すように、適切なモニタリング指標を設定することが、PDCAをうまく回すためには重要です。

戦略立案ではビジネス機会を探索していきますが、その際見る指標は「市場」と「製品」の2つです。「市場」では患者数・金額・数量、「製品」では症例数・治療期間・投与量・薬価といった数値が指標となります。さまざまな指標を定量化していくことで、ビジネスの全体像を可視化できる、つまり現状の売上がどのように構成されているかが見えてきます。 細かく可視化し、ビジネス機会がどこに・どれくらいあるのか把握した上で、戦略を立案していく。その際に使用するデータソースについて、市場カバー率やカバー対象、全国値の有無、疾患別情報の有無などの特徴を理解しておかなくてはなりません。さらに「分析結果をビジネス部門などに伝えるときには、データの可能性と限界も併せて伝え、誤った認識を防ぐことも重要」と小川氏は指摘します。

分析は複数データを組み合わせて行う

セミナーではRWDを活用した分析事例を、「市場分析」と「製品分析」の2点から紹介しました。

市場分析事例

患者数を知りたい場合、データで示された数値の背景を確認することも大切です。例えば同じ推計患者数12,000人であっても、実患者数180人(67倍)と実患者数600人(20倍)では、実患者数600人のデータの方が妥当だと考えられます。このように数値の背景を確認し、妥当性を判断した上でデータを活用。また、一つのデータだけでなく、「データを組み合わせて使うことで、各データの弱い部分・不足部分を補うことができる」と小川氏は話します。

さらに、データを組み合わせることで新たに見えることもあります。その例として、売上データに効能別の処方割合データを組み合わせ、売上データを効能別に分解する事例を紹介しました(下図)。データの妥当性を判断するために、患者当たりの売上金額を算出し確認することも重要です。

データの組み合わせ例

製品分析事例

製品シェアを把握できるデータソースはたくさんあります。しかし、「データソースの特徴は異なるため、どのデータソースがその製品シェア分析にベスト/ベターであるか確認し選択することが大事」と小川氏は指摘します。製品別の全体患者シェアはこれまでの推移を見ることができますが、今後どう推移するか予想するには不十分です。そこでダイナミックシェアを活用したり、処方継続率を確認したりすることが必要となります。

セミナーでは、増量アプローチを行った製品の分析事例を参考に、マクロレベルの分析で気が付かない事象も、ミクロレベルの分析で確認できることがある例も紹介されました。市場全体平均の分析では増量アプローチの効果がない結果に見えるものの、患者別データ分析では増量、減量症例の存在を確認されていました。これにより、売上へのインパクトが試算され、施策効果を推定することに繋がります。分析に適したデータを適した粒度で活用していくことの重要性が分かります。

データソースの可能性と限界を理解した上で、マーケットを適切に可視化することが、RWDの有効活用に重要です。また「一つのデータでは明らかにならないことも、複数のデータを組み合わせることで明らかになってくることもある」と小川氏は話します。

マーケティングにおけるデータを用いた仮説検証プロセス

次に、武田薬品工業 GIスペシャルティビジネスユニット マーケティング部 (当時)の渡辺太郎氏が、仮説検証プロセスの回し方やデータの活用事例を紹介しました。

仮説をもってデータを検証する

適切なデータ活用のためには、仮説をもとにデータを検証していくプロセスが欠かせません。「数値が思った通りに動くことは経験したことがなく、どこかで仮説とのギャップが生まれる」と渡辺氏は話します。

仮説検証プロセスとは

仮説をもとにデータを照らし合わせ、例えば下記のようなポイントをチェック・検証していきます。

  • 「ターゲット外から売上実績や活動が生じている」のは、「ターゲティングの精度が低い?」
  • 「活動量が低い」のは、「アクションプランが実行困難だった?」
  • 「活動したのに顧客マインドが変化しない」のは、「キーメッセージが間違っている?」
  • 「処方意向は高まっているのに採用や処方に進まない」のは、「製品以外の要因が問題?」

プライマリ領域とスペシャルティ領域両方のマーケティングに携わってきた渡辺氏。その経験から、「プライマリ領域とスペシャルティ領域にはデータの観点から大きな違いがある。スペシャルティ領域はデータのリミテーションが多く、工夫が必要」と指摘します。

セミナー内では、ターゲティング・プロモーション活動・顧客マインド・アウトカムの各プロセスでの事例を詳細に紹介しました。本記事では、ターゲティングと顧客マインドの事例を紹介します。

ターゲティング事例

ターゲティングに用いられるデータには、医薬品の売り上げデータ、MRによるCRMへの入力データ、該当疾患の市場分布・集中度・診療科データなどを分析するデータなどが挙げられ、それぞれに特徴があります。施設のターゲティングは基本的には売上データを基に行います。しかし売上データでは効能別や診療医までは分からないため、他のデータも用いてターゲット医師の選定を行います。

セミナーでは、バイオ製剤のターゲティングをする場合の事例も示されました。複数の効能を持つバイオ製剤は、施設別売上データだけではターゲット医師の選定は困難です。そこで売上データと疫学データを組み合わせてターゲティングを行います。まず各疾患の汎用薬の売上データと疫学データ(投与日数や投与量など)を用い、各疾患の患者数を予測。調べたい該当効能の患者比率を出し、バイオ製剤の患者数データと掛け合わせることで、該当効能の患者数を試算します。あくまでアプローチ方法の一つですが、ある程度の施設別の該当効能の市場規模が予測でき、これを基にターゲティング分布が行えます。そしてその予測が正しいかどうかを、営業活動を通して確認していくことも大事です。

顧客マインド事例

顧客マインドは製品評価・処方意向・ブランド想起の3つに分けて考えられ、特にブランド想起は重要視すべき指標だと渡辺氏は話します。ブランド想起では、「大きさ(医師がどの製品を最も思い出すか)」「チャネル影響度(どのチャネルで想起しているのか)」といった指標を調べます。

疾患により違いはありますが、SOV(シェアオブボイス)よりもブランド想起数シェアの方が、新規処方と高い相関があるケースもあります。そこでブランド想起数シェアから各チャネルの影響度を推算できます。例として、MRのディテール減少による新規処方への影響を説明しました。MRのディテール数が20%下がったからといって、売上も20%下がるとはいえません。しかし、ブランド想起のチャネル影響度でMRが50%だとしたら、10%新規処方に影響を与えると推算できます。コロナ禍でブランド想起のチャネル影響度にも変化が予想されるため、オウンドメディアやWEBセミナーなどの影響度の推算にも役立つことが期待できます。

セミナー内で紹介された事例に共通していた点は、データを有効活用するためには、複数のデータを組み合わせて仮説検証プロセスを進め、リミテーションをできるだけ小さくすることです。「“群盲象を評す”を避ける。一部だけで全体を分かった気になるのではなく、複数の観点から全体を把握することを心掛けることが大切である」と渡辺氏は話しました。

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